2025年9月23日、「岩上安身によるインタビュー第1207回ゲスト 東京経済大学教授 早尾貴紀氏 第2回(後編)」を初配信した。
イラン生まれで米国在住の米コロンビア大学教授、ハミッド・ダバシ氏は、2023年10月7日のガザ戦争以降、英国の中東専門メディア『ミドル・イースト・アイ』に、シオニズムや米大統領選挙などを通して、ヨーロッパ中心主義的な「理性」を徹底的に批判したコラムを連載している。
早尾教授は、ダバシ教授の連載コラムから抜粋し、翻訳して、『イスラエル=アメリカの新植民地主義~ガザ〈10.7〉以後の世界』(地平社、2025年6月)として、日本で出版した。
岩上安身による早尾貴紀教授インタビューでは、「欧米諸国政府の対中東政策を批判的に論じる思想家ハミッド・ダバシの新著『イスラエル=アメリカの新植民地主義~ガザ〈10.7〉以後の世界』を読む!」と題し、著書の内容に沿って、早尾教授に連続シリーズで、お話をうかがっていく。
第2回後編では、2023年10月28日に、ダバシ教授が掲載したコラム「欧米はいかにイスラエルを『再発明』しているのか」より、イスラエルの建国とは、欧米が世界中で繰り広げてきた、入植者植民地主義(セトラー・コロニアリズム)と帝国主義による「でっちあげ」だという指摘について、早尾教授に解説していただいた。
ダバシ教授によると、コラム掲載当時米国大統領だったバイデン氏は、まだ上院議員であった若い頃、次のような有名な言葉を残している。
「これは我々が行なう30億ドル規模の投資の中で最も価値のあるものだ。
もしイスラエルのようなものが存在しなかったならば、アメリカ合衆国は中東地域における自国の利益を守るために別のイスラエルをでっち上げ(invent)なければならないだろう」。
このバイデン氏の発言について、早尾教授は、ダバシ教授の考えを、次のように解説した。
「実際に、(第2次世界大)戦後の、ユダヤ人国家としてのイスラエル建国の段階では、もう既にイギリスを受け継ぎながら、アメリカが線引きをした。
また、戦後はニューヨークを国連の本部として、連合国の中心はアメリカだということで、その国連を使って、アメリカは、そのユダヤ人国家イスラエルを(各国に)承認させたわけですから、実際にアメリカが、インベント(でっち上げ)したんだと。
今のイスラエルは、アメリカがインベントしたというのは、実際そうだと思います。
イギリスは確かに、パレスチナを植民地化し、委任統治領にしながら、ヨーロッパのシオニストの入植をサポートし、(ユダヤ人国家を)作ろうとしました。
しかし、シオニストロビーは、1940年代にその軸足を、イギリスからアメリカに移していく中で、自分達の後ろ盾となるロビー活動の対象も、アメリカに変えていくわけです。
1942年には、アメリカでシオニスト会議を開いて、『我々は、パレスチナ全土を目指すぞ』と言ってた。
そして実際に、戦後の世界の再編は、アメリカが中心になるわけです。
イランに対しても、そうですよね。モサッデク政権をひっくり返した(※1953年に起きたイランの軍事クーデター。英国の石油会社が独占していたイランの石油産業を国有化しようとしたモサッデク政権が、CIAやMI6と協力したパフラヴィー2世派のクーデターによって倒された)。
つまり、アラブ世界の中に、イラン(ペルシャ)とイスラエル(ユダヤ)という、非アラブの拠点を、親米国家として打ち立てる。それを通して中東世界をコントロールするために、イスラエルを実際に、インベントした。
そして、これが『もし存在しなかったら、また別のイスラエルをでっち上げる』と。
アメリカにしてみると、イスラエルの存在というのは、そういうものなんだということを、ものすごく露骨に、包み隠さず、バイデンは語っているということです」。
これに対して岩上安身は、イスラエルに戦後の日本を重ね、「もし、東アジアに日本のようなものが存在しなければ、この地域にもう一回、日本をでっち上げるぞと。そういう腹が、あいつら(米国)にあるんだということを、日本人は知るべきですよね」と指摘した。
ダバシ教授は、バイデン大統領が、その後もこうした発言を繰り返しているとした上で、「実際のところ、バイデンや米国全体にとって、イスラエルは高額な不動産物件である。軍事基地であり、不沈空母であるのだが、それはつまり、中東地域と世界を支配しようというワシントンの米国政権による妄想的な計画における主要な『投資』なのだ」と断じている。
これについて、早尾教授は、「別の思想家も、批判的に言っていること」だとして、次のように紹介した。
「ユーラシア大陸というのは、2つの不条理が、その両端にある。一つはイスラエルであり、一つは日本だというんですね。
ユーラシア大陸の西のはずれ、パレスチナの場所に作られたイスラエルがあり、それはアメリカがでっち上げたもの。
東の端には日本があって、それもアメリカが作った、ある種の不条理な存在ですね。まったく、その地域の歴史だとか、文化だとかというものから切り離して、アメリカの都合で作られた。
ですから、岩上さんが先程、『イスラエルは日本に置き換えられる』と言いましたが、まったくその通りで、軍事基地であって、不沈空母である。それはもう日本が、まさに東アジアで背負わされている役割だということ。
アメリカからすると、自分達に都合よく使える。在日米軍基地があるというよりは、日本全体が、そういう存在だということ」。
インタビューではさらに、トランプ米大統領が今年(2025年)2月に、イスラエルのネタニヤフ首相との共同記者会見で、ガザを接収して、パレスチナ人を追放し、経済開発する構想を発表したことを取りあげた。
これについて早尾教授は、以下のようにダバシ教授の論考を紹介した。
「『イスラエルの対ガザ戦争には、ヨーロッパ植民地主義の歴史全体が含まれている』というコラムがあり、そこに、『大きく、3つのイデオロギーがある』と。
一つは、セトラー・コロニアリズム(入植者植民地主義)。アメリカ自体が、入植者によって建国されたセトラー・コロニアル国家であるが、イスラエルもそうだ。シオニスト入植者による、シオニストの国家だと。
そのセトラー・コロニアリズムに加えて、ダバシさんがこの論文で言ってるのが、マニフェスト・デスティニー、明白なる天命。これは、先住民を追放してでも、この土地を取るのは、神の意志に沿っているんだという発想。
イスラエルがやっていることは、アメリカのマニフェスト・デスティニーのイスラエル版、中東版をやっている。先住民であるパレスチナ人の土地を、奪うというより、神によってそれが与えられたと。
そしてもう一つ、最後が、『野蛮人の根絶やし』ですね。
野蛮人を根絶やしにすることは、ヨーロッパ人にとっては、自分達は優生思想で、彼らは野蛮人だから、野蛮人は殺しても良い。所有権もないし、人権もない、というような発想。
アメリカもそうだけれども、イスラエルもまた、この3つに貫かれていると。
なので、土地を奪うもよし、追放するもよし。追放するためには、最悪の環境を作り出して、そこで暮らしていけないようにする。見せしめにジェノサイドをするもよし。
こうしたことが、21世紀に、目の前で展開されているのも、戦争だからではなくて、セトラー・コロニアリズムを実践するために、それを正当化するマニフェスト・デスティニーと、野蛮人の根絶やし、これに、一貫して貫かれている」。
トランプ大統領とネタニヤフ首相との共同会見での発表に先立ち、ネタニヤフ首相は、2024年5月に、戦後ガザ地区に関する構想『ガザ2035』を発表していた。
そこにはすでに、「ガザを徹底的に破壊し、その後に新しい都市をゼロから設計し、立て直す」という目標が、書かれていた。
早尾教授は、「つまりイスラエルが、そういうものすごい暴力を実行する主体として、アメリカによって打ち立てられている以上、アメリカとイスラエルは、もう最初から、パレスチナにおいて、あるいは中東の真ん中において、共犯関係にあるわけです」と述べ、次のように続けた。
「最初からそういう暴力を、アメリカが実行するための手駒として、(イスラエルを)作っているのですから、そういう意味では、(ガザからのパレスチナ人追放を言い出したのが)トランプが先なのか、ネタニヤフが先なのかというのは、本質的な問題ではない。そこは、共犯であるということになると思います。
この『でっち上げ』というのは、ダバシさんが、アメリカとイスラエルの関係性を表すキーワードとして使っているのです」。





































