「停戦交渉をいつも、常に、潰したいのはイスラエル。停戦のキーマンになるような人を、狙い撃ちで殺す」!「『ストップジェノサイド』と言うイスラエル市民が増えても、基本的にはシオニストであることは変わりはない」!「今のパレスチナ国家承認は、ハマスも自衛権も国境管理権も抜き。独立主権も民族自決もない。しかし日本は、米国の圧力に屈し、その名目的なパレスチナ国家承認さえもできなかった。情けない」! 岩上安身によるインタビュー第1207回ゲスト 東京経済大学教授 早尾貴紀氏 第2回(前編) 2025.9.19

記事公開日:2025.9.21取材地: テキスト動画独自
このエントリーをはてなブックマークに追加

(文・IWJ編集部)

特集 中東

※25/9/26 テキスト追加
※全編映像は会員登録すると御覧いただけます。 サポート会員の方は無期限で、一般会員の方は25/11/21までの2ヶ月間に限り、全編コンテンツを御覧いただけます。
ご登録はこちらから

 2025年9月22日、「岩上安身によるインタビュー第1207回ゲスト 東京経済大学教授 早尾貴紀氏 第2回(前編)」を初配信した。

 このインタビューは、2025年8月6日と7日に初配信した、岩上安身による早尾教授へのインタビューの続編である。

 イラン生まれで米国在住の米コロンビア大学教授、ハミッド・ダバシ氏は、2023年10月7日のガザ戦争以降、英国の中東専門メディア『ミドル・イースト・アイ』に、シオニズムや米大統領選挙などを通して、ヨーロッパ中心主義的な「理性」を徹底的に批判したコラムを連載している。

 早尾教授は、ダバシ教授の連載コラムから抜粋し、翻訳して、『イスラエル=アメリカの新植民地主義~ガザ〈10.7〉以後の世界』(地平社、2025年6月)として、日本で出版した。

 岩上安身による早尾貴紀氏インタビューでは、「欧米諸国政府の対中東政策を批判的に論じる思想家ハミッド・ダバシの新著『イスラエル=アメリカの新植民地主義~ガザ〈10.7〉以後の世界』を読む!」と題し、著書の内容について、早尾教授に連続シリーズでうかがっていく。

 9月22日に初配信した第2回インタビューの前編では、本編に入る前の時事的な話題として、直近に起きたイスラエルをめぐる4つの出来事について、早尾教授の意見をうかがった。

 ひとつめは、9月9日に起きた、イスラエルによるカタールの首都ドーハへの空爆である。イスラエルは、停戦協議の交渉相手であるハマスの交渉団を狙い撃ちにし、その結果、交渉団トップを務めるハリル・アル=ハイヤ氏は無事だったが、ハイヤ氏の息子らメンバー5人が死亡した。

 早尾氏は、「一般のメディアでは、常に、『ハマスが停戦に応じるか、応じないか』のように報じられていますけれど、本当は、いつも、常に、停戦交渉を潰したいのは、イスラエルなわけです」と述べ、次のように語った。

 「停戦のキーマンになるような人を、狙い撃ちで殺しますし、典型的なのは、イランのテヘランを訪れてたイスマイル・ハニヤ、ハマスの政治局のトップを殺害した(※2024年7月31日)。

 あの人が一番、柔軟に、そして合理的に、交渉ができる。本当に交渉をしようと思ったら、ああいう人と交渉をしなきゃいけない。それができる人だったにもかかわらず、というか、だからこそ、殺した。

 それから、何度もですけども、人質を解放するとかといった交渉に関して、ハマスが『それでOK』と言ったところで、それを潰す。ゴールを変えるとか、妥協ライン変える。

 交渉がまとまりかけたら潰す、まとまりかけたら潰す。そして、ガザを攻撃し続けるための材料を維持する。

 ですので、今回のこれ(カタール空爆)も、今までの中でも一番露骨な、交渉潰しですね」。

 早尾教授は、ハニヤ氏の時は、イスラエルにとって敵対するイランで殺害したが、今回のカタールは、停戦の仲介国だったことを指摘し、「アラブ国家としてのプライドを潰された。仲介国としては、裏切られたという思いがある」と述べて、「今後の交渉は、成り立たなくなる。逆に、そこが(イスラエルの)狙いだろうというふうにも思う」と、見解を示した。

 二つ目は、イスラエルの国内で起きている「ストップ・ジェノサイド」デモについてである。イスラエル国内では、これまで「とにかく人質を早く解放して、停戦しろ」という意見が多数だったが、「パレスチナ人への虐殺、ジェノサイドをやめろ」というデモが起きている。

 しかし、これについて早尾教授は、次のように別の見方を示した。

 「僕は、『ストップ・ジェノサイド』と言うイスラエル市民が増えても、基本的にはシオニストであることは変わりはないと思っています。

 一番穏健なシオニストは、今のイスラエル、国際的には認められているイスラエル領を、ユダヤ人国家として安全に保つためには、むしろヨルダン川西岸地区、ガザ地区からは手を引こうと。昔は、『ランド・フォー・ピース』と言いました。

 でも、やっぱりそこで確実なのは、ユダヤ人国家がパレスチナにある、ということに関しては、絶対的に揺るぎがない。むしろ、自分達にとって安全である、その安全確保の方法が、西岸・ガザから手を引くことだということを言ったのが、平和運動をやってる人達。

 いわゆる『シオニストの和平派』も、全部シオニストなんですよ。

 今回のことも、ネタニヤフのやり方が、むしろイスラエルの国益に反するだろういうことです。

 世界的にはもう、非難轟々で、評判がものすごく悪くなって、そしてかえってこういうことが反ユダヤ主義を煽ることにもなりかねない。自分達が海外に出た時に、攻撃を受けるとか、そういうことにもなりかねない。

 イスラエルに対して恨みがどんどん高まってくれば、国家の安全ということに関しても、むしろマイナスであると。

 別に、反シオニズムではないわけですね」。

 早尾教授は、「この6月、7月の『ハアレツ』の世論調査でも、ガザの住民を全員一掃して、追い出すことに関して、8割のユダヤ系の市民が賛成している」と述べ、「よりスマートな方法で、反発を招かない方法で、ガザを制圧するというところに、マジョリティーの意見があるということだ」と強調した。

 続いて、9月10日に米国で起きたチャーリー・カーク氏暗殺事件について、検証した。

 米国の、MAGA運動の若手の中心人物、チャーリー・カーク氏が、9月10日、ユタ州のユタバレー大学で講演中に、銃で狙撃され死亡した。

 カーク氏は、2024年のトランプ大統領再選に若者票の集票に大きな力を発揮した「保守派」インフルエンサーで、「保守派」の若者・学生を対象とした非営利組織「ターニング・ポイントUSA」の創設者であり、MAGA運動の、特に若年層に大きな影響力をもっていた。

 カーク氏は、キリスト教福音派だった。福音派に代表される、米国のキリスト教原理主義者は、ディスペンセーショナリズム(終末論を踏まえて、聖書全体が、ディスペンセーション=経綸と呼ばれる時代区分に沿って書かれていると解釈する、19世紀からの神学上の立場)に立ち、今は、イスラエルが再び建国され、パレスチナの土地を取り戻し、神殿を再建し、ダビデ王朝による地上世界の統治が実現する時代とされる考えを強く支持している。

 福音派らは、このような考えに立っているからこそ、パレスチナにおけるイスラエルの残酷なジェノサイドや暴力的な土地収奪にも心を痛めず、民族浄化を止めようともせず、むしろ、それを神の計画の実現と考え、加速させるべく、イスラエルによるホロコーストを支援して、世界最終戦争(ハルマゲドン)に至っても、自分達は「空中携挙」されると信じ、「世の終わり」に備えているのである。

 「空中携挙」とは、終末時代のある時点で、突如として、敬虔な信者のみが、地上から肉体を伴って「引き上げられ」、地上の艱難からまぬがれ、空中で再臨したイエス・キリストと出会うとされる出来事である。それが、いつ起こるかは、誰にもわからないとされているが、SNSやYouTubeでは、プロテスタントのクリスチャンの間で、9月23日頃から25日にかけて起こると言われていた。それも、オカルト好きの与太話としてではなく、気真面目そうなプロテスタントの牧師らが、ブログ、YouTube、SNSなどで、「空中携挙」が神の手によって行われると、大真面目に説いていたのである。

 IWJは、事前に、そうしたことをお伝えしていた。

  • トランプ政権を思想面で支えてきたイデオローグで、暗殺されたチャーリー・カーク氏の驚くべき信仰告白! キリスト教原理主義にもとづくキリスト教シオニズムこそは、トランプ政権を支える根本思想! 彼の死を「歓迎」したリベラル派への非難も高まり、米国内の思想・信仰の分断はまるで宗教戦争前夜! ピューリッツァー賞受賞記者、クリス・ヘッジス氏は「カーク殺害は全面的な社会崩壊の前触れ」と警告! これはフランス革命以降の右翼・左翼の概念の通用しない、前近代への逆戻り! さらにキリスト教原理主義者は、今年9月23日に、敬虔な信者は地上の艱難を逃れて、空中携挙され、再臨するイエスと出会うと信じている!
    (日刊IWJガイド、2025.9.18)
    会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20250918#idx-4
    非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/55092#idx-4

 9月25日は過ぎたが、この3日間、秋晴れの昼間であれ、月夜の夜であれ、人々が、肉体を伴ったまま、空に吊り上げられてゆくのを誰か目撃しただろうか!?

 そもそも、「終わりの日」は近いから「悔い改めよ」と説教し、敬虔な信者は、肉体ごと、「空中携挙」されるなどと言っていた人間自身、空中に吊り上げられたのだろうか!?

 地上に残されていたのなら(レフト・ビハインド)、その人は信心が足りないのか、自分自身も騙されていたのか、どちらかであろう。

 米国に、キリスト教福音派は、約8000万人以上もいるといわれている。

 これについて早尾教授は、「(政治的・経済的な)影響力を持っていることが、やっぱり怖いですよね。それが、今のイスラエルを支える原動力になっている」と述べた。

 早尾教授は、「私も絶対に(空中携挙は)起こらないだろうと思ってます」とした上で、「ただ、やっぱりそういう言説が、イスラエル政策に影響を持つということが怖い。話が通じないというか、信仰の世界で、ガザの問題だとか、ジェノサイドのことだとか、政治、経済的、軍事的な話を、今、いくらしたところで、聞く耳を持たないので」と語った。

 4つ目は、米国の圧力に屈した日本政府が、「パレスチナ国家承認」を見送ったという問題である。

 これについて、早尾教授は、「これについては、一言だけ、ちょっと加えておきたい」と前置きし、以下のように語った。

 「今、国連総会を前に、『2国家共存』の方針のもとに、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリアと、いわゆる西側諸国に、国家承認の動きがあって、それに断固として反対しているのが、アメリカとイスラエルです。

 そして『日本も反対に回ってくれ』と(米国から圧力をかけられ)、イスラエルから歓迎されるような、要するにイスラエルの『共犯』になってしまったわけです。

 その中で一言加えたいのは、国家承認についてです。

 今、イギリスとかフランスとかが動いている(※上記の4ヶ国は、9月21日に国家承認したことを発表した)国家承認というのは、オスロ体制の『国家』で、ハマスは抜き。そして、パレスチナの自衛権も抜き。国境管理権も抜きの、ただのバラバラの、占領下の自治区を『国家と呼びましょう』ということに過ぎない。

 そういう、本当に名目的な国家を、しかし象徴的に意味があるととらえるのか。

 本当のところでは、国家承認と言ったら、それは独立国家のことであり、主権国家のことであり、そしてそれは民族自決のことですから、無条件に国家として認めるということでなきゃいけないのですが、今、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリア等が動いている国家承認というのは、骨抜きになった名目的な国家です。

 あまりにも今、アメリカやイスラエルによるジェノサイドがひどいところで、ヨーロッパや西側の国々にとってはガス抜きにもなりますし、『自分達は平和を求めたのだ』という、ある種のアリバイにもなる。

 それに対して、イスラエル、アメリカは、『名目的な国家であれ反対である。とにかく、パレスチナが国家になることはないんだ』というところに、もう舵を完全に切っているんですね。

 オスロ合意の時には、『馬人参(馬の目の前に人参をぶら下げる)』のように、『今後のことは、話しましょう』で、国家のことは約束していないんですね。オスロ合意には、そんなことは書いてない。

 そして、オスロ合意後も、(イスラエルは)入植をガンガン進めていっいたわけです。

 それでも『話し合う』というスタンスが、オスロ合意だったわけですが、今度は、『その話し合いも、もうしません。パレスチナには、国家は認めません』というところに舵を切ってしまっています。

 日本はと言えば、名目的な、象徴的な国家を認めよう、それを(パレスチナ主権国家樹立の)足がかりにしようということに、つまり西側の動きに乗っかる、ある種のチャンスだったわけです。イギリスも、フランスもそう言っているし、カナダ、オーストラリアも言っているし、自分達が突出しないでパレスチナ国家承認をする(チャンスだった)。

 ところが、アメリカからそれを『するな』と要請・圧力を受けて、アメリカ、イスラエルの前に思い切り傾いてしまった。

 国家承認はダメだと言ってるわけではないんです。そうじゃなくて、本当の国家承認というものを、無条件に認めなきゃいけないということを言おうとしてるわけですが、今の2択というのは、『名目的な国家承認』と、『まったく認めない』という、その偽の選択になっている。

 それはもう偽りの選択なので、そこに乗っからないっていうのは、ちょっと無い物ねだりというか、そこまではできないとしても、最低限のそれ(国家承認)さえできない。しかも、イギリス、フランスに便乗してできるタイミングだったのに、それさえもできない。あまりにも情けない」。

■ハイライト【前編】

  • 日時 2025年9月19日(金)18:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入より御覧になれます。

サポート会員 新規会員登録単品購入 550円 (会員以外)単品購入 55円 (一般会員) (一般会員の方は、ページ内「単品購入 55円」をもう一度クリック)

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です