日本で持ち上げられている哲学者、ユヴァル・ノア・ハラリ、マルクス・ガブリエル、ユルゲン・ハーバーマスの共通点は、「そろいもそろって無意識の西洋中心主義者のグループ、植民地主義者、そしてレイシストだということ」! イスラエルの自衛権は認めても、ハマスやイランの自衛権は決して認めない!! 欧米諸国政府の対中東政策を批判的に論じる思想家ハミッド・ダバシの新著『イスラエル=アメリカの新植民地主義:ガザ〈10.7〉以後の世界』を読む! 岩上安身によるインタビュー第1202回ゲスト 東京経済大学教授 早尾貴紀氏 第1回(前編) 2025.8.1

記事公開日:2025.8.6取材地: テキスト動画独自
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(文・IWJ編集部)

特集 中東

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 2025年8月6日、「岩上安身によるインタビュー第1202回ゲスト 東京経済大学教授 早尾貴紀氏 第1回(前編)」を初配信した。

 パレスチナ/イスラエル問題の専門家である早尾教授は、今年、すでに4冊の新刊を上梓した。

・『イスラエルについて知っておきたい30のこと』(平凡社、2025年2月)

・『パレスチナ、イスラエル、そして日本の私たち』(皓星社、2025年4月)

・『いつの日かガザが私たちを打ち負かすだろう』(青土社、2025年6月)

・ハミッド・ダバシ著、早尾貴紀訳『イスラエル=アメリカの新植民地主義~ガザ〈10.7〉以後の世界』(地平社、2025年6月)

 このうち、『イスラエル=アメリカの新植民地主義~ガザ〈10.7〉以後の世界』は、イラン生まれのハミッド・ダバシ米コロンビア大学教授が、英国の中東専門メディア『ミドル・イースト・アイ』に掲載したコラムを、早尾教授が抜粋し、翻訳したもので、日本における独自出版である。

 岩上安身によるインタビューでは、「欧米諸国政府の対中東政策を批判的に論じる思想家ハミッド・ダバシの新著『イスラエル=アメリカの新植民地主義:ガザ〈10.7〉以後の世界』を読む!」と題し、著書の内容に沿って、早尾教授に連続シリーズで、話をうかがっていく。

 その第1回となる今回のインタビューでは、『イスラエル=アメリカの新植民地主義~ガザ〈10.7〉以後の世界』についての詳しい解説や、ハミッド・ダバシ(※)教授の人物像、インタビューでのエピソードなどについて、ダバシ教授と親交の深い早尾教授に語っていただいた。

(※)ハミッド・ダハシ:1951年、イラン南部アハバーズ生まれ。1976年に渡米。在米イラン人の中東研究者、米コロンビア大学教授。「故エドワード・サイードの同志で思想的継承者」とされる。
 『ポスト・オリエンタリズム――テロの時代における知と権力』(2017、作品社、原著は2009年)、『イラン、背反する民の歴史』(2008、作品社)、『闇からの光芒 マフマルバフ、半生を語る』(共著2004、作品社)などが邦訳されている。
”ポスト・オリエンタリズム”を理解するための30冊(作品社)
イスラエル=アメリカの新植民地主義――ガザ〈10.7〉以後の世界(地平社)

 ダバシ教授は、『イスラエル=アメリカの新植民地主義』のなかで、「イスラエルがガザで現在行なっていることは、フランス、イギリス、ポルトガル、ドイツ、スペイン、アメリカなどが歴史を通じて世界中でやってきたことの繰り返しである。ガザ地区のパレスチナ人は今や、欧米人らの手による世界的な災厄の集大成となっているのだ」(p.20)と述べている。

 岩上安身は、日本人が明治以来、近代化する時に、実学だけではなく、哲学も受け入れていったが、それらの哲学はレイシズムを含んでいた、と指摘した。

岩上「『聖人』のようにあがめられているエマニュエル・カントみたいな人間が、『ニグロには理性がないから、そもそも純粋理性批判の対象ではなくて、理性だとか悟性というものには当てはまらない』と論文に書いているんですよね。

 これは、ナチスが、ドイツ人以外の人間(特にユダヤ人)を、『亜人間(ウンターメンシュ)』と言っているのと同じなんですよね。(中略)

 イスラエル人によるパレスチナ人の虐殺は、『欧米人らの手による世界的な災厄の集大成』だ。ただ単に、ユダヤ人達がだけやっているという話じゃないんです。ヨーロッパの思想、そして500年に渡ってやってきたこと、世界に対してやってきたことの、いわば最後の集大成みたいなものだと」

 岩上安身は、『永遠平和のために』を書き、今なお世界に大きな影響を与えているカントは、「ヨーロッパ人だけが理性をもっているから、永遠平和が可能なんだ」と言っているだけで、その思想には「根本的なレイシズム」が含まれていると指摘した。

岩上「結局、ユダヤ人とは、欧州から来ているユダヤ人なのであって、彼らが本当に典型的なユダヤ人かどうかというのは、全然別の話だし、ユダヤ教徒であるかどうかも怪しい」

 2023年10月7日に起きた、ハマスのイスラエルに対する奇襲攻撃から、もうすぐ2年になろうとしている。

 この間、イスラエルによるガザの徹底的な破壊と、ガザのパレスチナ人に対するジェノサイドが続いている。過半が女性と子供であるガザのパレスチナ人の犠牲者数は、すでに6万人を超えている。

 岩上安身は、2023年10月7日以後、イスラエルが「お前達が1人もいなくなるようなところまで更地にしてやる」と言わんばかりに行ってきた破壊行為が、この21世紀に許されているということ、米国はそれでもイスラエルを支持し続けているということについて、早尾教授の考えをうかがいたいと、インタビューの趣旨を説明した。

 早尾教授には、まず、冒頭でご紹介した、今年に入って次々と出版されている著書の内容を紹介した。それぞれ、シオニズム思想と運動、ヨーロッパの対中東政策、ヨーロッパの哲学者らとシオニズムの関係、欧米の植民地主義、日本による植民地問題を扱っている。

 早尾教授は「日本近現代史、欧米思想史、それから南アフリカ、東アジア、そのあたりの植民地、あるいはレイシズムの歴史の中に示される問題」をまとめたと説明した。

 岩上安身は、日本の近現代において、「一気に国家神道として盛り上がってきた」のは、キリスト教やユダヤ教を参照したのではないかという気がしてならない、との思いを述べた。

 岩上安身は、ウクライナ、イスラエル・中東とくれば、次は日本・東アジアで代理戦争が発動されるリスクがあるということについて、どのように考えているか、と質問した。

早尾教授「日本の近現代史を書きましたけれども、明治維新以降、明治期に次々と、また戦争、植民地。北海道と沖縄、アイヌモシリ、琉球王国、そしてそれからは朝鮮半島、そして中国大陸」

岩上「台湾もですよね」

早尾教授「そうですね。という中で、日英同盟等、欧米列強と常に緊張し、共犯関係になりながら日本を膨張し続けて。

 日本列島に関しては、あたかも古代から一貫してひとつの日本であったかのような神話をつくり、そこに近代天皇制が裏づけるイデオロギーとなっていくという。

 この時期に、シオニズム運動も展開していくわけですね。同じくやはり、19世紀の後半から、すでにシオニズム運動は政治運動に発展していく。

 そして、欧米の手先となって入植していくわけですから、そこにはっきりと平行関係がある。単に平行しているだけじゃなくて、やはり世界単位の植民地主義として、リンクしている。この観点はとても大事ですよね。

 そのことを、しかし露骨な植民地主義があって、自ら開き直るのではなくて、あたかも思想的な、あるいは歴史的な正当性があるかのように描き直し、歴史を捏造しようとする。これもシオニズムと、日本も、共通しているというのがありますね。

 そして、純粋な日本だとか、純粋なユダヤ人国家みたいなものを捏造してしまう。そのことで、だから排外主義が(起こり)、『いや、アメリカと仲良しないのは、やっぱりアメリカと共犯だから』と。かつ、排外主義の標的にするのは、中国・朝鮮。

 実は古代史までさかのぼれば、どれだけ深く中国・朝鮮と交わって、たくさんのものを取り入れて学んで、これはもうずっと長くそういう関係があったから、だからこそ逆にそれを断ち切るというか、なかったかのようにと。

 ですから、排外主義者が標的にするものが、とても選択的ですね」

 岩上安身は、「帰化人や帰化議員を暴いて、売国奴とレッテル貼り」することが一種の流行のようになっているが、帰化したということは日本国籍をとっているのであり、筋が通らないと述べた。岩上安身は、「一言で言わせていただければ、弥生人であろうと縄文人であろうと、全員日本人は渡来人」であると付け加えた。

 岩上安身は、「21世紀の知の巨人」と持ち上げられている、イスラエル在住の歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ(※)氏が、10.7(ハマスの奇襲攻撃)に怒り狂っていることを述べ、ハラリ氏が日頃、初期仏教の瞑想法のヴィパッサナーを実践していると言いながら、そこには仏教の不殺生(ふせっしょう、殺さない)、不偸盗(ふちゅうとう、盗まない)という、仏教の基本の五戒、あるいは十善戒の思想がまったくない、「殺して盗んでいるのが、シオニズムの本質」なのではないか、と質問した。

(※)ユヴァル・ノア・ハラリ:1976年イスラエル生まれ。イスラエル在住、ヘブライ大学教授。2011年に出版した『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』が世界的なベストセラーとなり、「知の巨人」と呼ばれるようになった。
 2016年の『ガーディアン』のインタビューでは、食肉産業や乳製品産業における動物の扱い方を知り「あまりにも恐ろしくて、もう関わりたくなかった」のでビーガンとなったこと、学生時代に親友に仏教由来のヴィパッサナー瞑想を勧められたことによって人生が変わったなどと述べている。にもかかわらず、ガザで、イスラエルによって子供達が餓死させられていることには動揺を覚えないらしい。ヴィパッサナーの都合のよい利用方法である。
 ハラリは、2023年10月20日、『ANN』のインタビューで、10月7日のハマスによる攻撃について、「テロリストは意図的に民間人を襲っただけでなく、考えうる最も残虐な方法で拷問・殺害し、それを公開しました。その目的は、イスラエルと地域全体の数百万人の心に、『憎しみの種』を植え付けることでした。主な問題は、過去の傷を癒す代わりに、人々が過去の傷を利用して、さらなる傷を与えることを正当化していることです」と述べた。
AIを民主主義の味方に「知の巨人」歴史学者ハラリ氏(日本経済新聞、2025年4月5日)
Yuval Noah Harari: ‘We are quickly acquiring powers that were always thought to be divine’(The Guardian、2016年8月27日)
「絶対的な悪も正義もない」歴史学者として…ハラリ氏に聞くイスラエル情勢(ANNnewsCH、2023年10月20日)

 この10月7日の、奇襲攻撃よりも、はるかに前から、シオニストは残酷な侵略を行なっており、また、7日以降報復として、残酷さの質的にも、量的にも、比較にならない殺傷とパレスチナ人の住居や建物や彼らのすべてを破壊し尽くしている。ハラリの言葉は、学者としての知的公正性や誠実性を著しく疑わせるものである。

 ユヴァル・ノア・ハラリの著書、『ホモ・デウス』(河出書房新社、2018年)、『サピエンス全史』(河出書房新社、2023年)は、どちらも世界で何千万部も売れている。

早尾教授「ユヴァル・ノア・ハラリ氏という人は、一見すると平和主義者で、『イスラエルの過度な暴力を占領地で使うことには、自分は批判的である』というようなことも、言っていたりします。

 リベラルっぽく振る舞わうわけですが、しかし、人類史のような本当に巨視的な目を持っているはずなのに、今の、1948年以降のイスラエル国家が、ユダヤ人国家であるということに関しては、何も、微塵も疑いを抱いていない。

 西岸ガザの占領地で、過度な暴力を使うことに関して、ちょっと自分は批判的だということをスタンスとして示していながら、イスラエルという国家そのものが(中略)、こういう暴力と覚醒のもとで、これまで植民地主義によってつくられたなんていうこと(批判)が、まったくないわけですよ。

 そして10.7が起こるや、『イスラエル国家には自衛権がある』と。

 そして、『ハマスが行っていることは、イスラエルの存在を脅かすことだから、これはハマスは許しがたいテロ組織である。だからハマス攻撃は正しい』と。

 (ハラリ氏は)もろにシオニズムも、むき出しなわけですね」。

岩上「これを(逆に)言わせれば、先に(パレスチナに住んで)いた先住民であるパレスチナ人が、(入植してきたユダヤ人に対して)自衛権を持つのは当たり前じゃないか。

 これは、G7でも認めませんでしたね。パレスチナ人(やイラン人)の自衛権を認めないで、ユダヤ人の自衛権だけは認める。

 で、(G7の共同声明に)ハンコ押しちゃったわけですよね。石破総理は、残念ながら。

 (G7の)前は、(イランに対するイスラエルの先制攻撃について)国会で、『こういうような暴力というのは許されない』というようなこと(を言っていたのに)。

 (イスラエルは)イランに対して先制攻撃を行ったじゃないですか。それに対しては『決してそういうことは起こしてはならない』と。――また、『パールハーバー』と言われるから、日本人として嫌な気持ちになるんですけれども――、そう言っておきながら、あのイラン(への攻撃)に対しても、それからパレスチナに対する攻撃に対しても、全部、『イスラエルは自衛権をもつ』。

 だけれども、イラン側にもパレスチナ側にも自衛権は認めないと政府は言うわけです。そのG7の中に、日本も加わっていて、ハンコ押してしまうんですよね。

 許されないでしょう、それって。というふうに思うのです」

早尾教授「ハラリの話というのは、つまり、イスラエルの存在、イスラエルのユダヤ人国家である。(中略)

 それを無条件に認めて、そしてその自衛権を一方的に認める。

 この発想というのが、多分そろそろ本題に入った方がいいのでしょうけれど、ハラリの議論というのは、まさにこの中で、ダバシが批判をしている、ハーバーマス(※)ですね。ユルゲン・ハーバーマスもまた、同じように、『ハマスは、ユダヤ人国家のイスラエルを攻撃している。これは許しがたいこと』だと。

 ハーバーマスは、ドイツでこれを発表した、声明を出したわけですけれども、『我々はイスラエルと連帯するべきで、イスラエルが行っているガザへの攻撃戦闘を批判するべきではない。これは自衛だ』と。

 ハーバーマスについては、また後で。

 日本の政治倫理にも触れ、ハラリに触れました。ついでに言うと、マルクス・ガブリエル(※)ですね。これも、日本で人気のドイツの哲学者ですが、マルクス・ガブリエルもまったく同じことを言っているんですね」

(※)ユルゲン・ハーバマス:1929年ドイツ生まれ。フランクフルト学派の伝統を継承するドイツの哲学者。フランクフルト大学教授、マックス・プランク研究所所長などを歴任。
 『公共性の構造転換――市民社会の一カテゴリーについての探究』(1973、未來社、原著は1962年)は、「市民的公共性の自由主義的モデルの成立と社会福祉国家におけるその変貌をカント、ヘーゲル、マルクスにおける公共性論を援用しながら論じる」ものであり、広く読まれている。
 その他、『コミュニケーション的行為の理論』(未来社、)『道徳意識とコミュニケーション行為』岩波書店、(1991、岩波書店、原著は1983年)など、著書多数。
公共性の構造転換 市民社会の一カテゴリーについての探究(未来社)
コミュニケイション的行為の理論(上)(未来社)
道徳意識とコミュニケーション行為(岩波書店)

(※)マルクス・ガブリエル:1980年ドイツ生まれの哲学者。ボン大学哲学科教授。
 著書『なぜ世界は存在しないのか』(2018、講談社選書メチエ、原著は2013年)は、「新しい実在論」を提唱し、世界で哲学書としては異例のベストセラーとなった。
 日本に向けて書き下ろした『倫理資本主義の時代』(2024、早川書房)が話題になり、「哲学界のロックスター」と呼ばれている。
なぜ世界は存在しないのか(講談社)
倫理資本主義の時代(2024、ハヤカワ新書)(早川書房)
倫理資本主義の下でビジネスは成り立つのか?(東洋経済、2024年10月23日)

岩上「彼もユダヤ系ですか?」

早尾教授「ではないですね。ただ、ここで触れたのはハーバーマスの流れで呼ばれる、新たな流れというか、日本で人気の哲学者あるいは思想家。

 マルクス・ガブリエルも、いわゆる新カント派の流れを汲む哲学者です。日本では、NHK出版が、ばんばん本出して、インタビューもテレビで流して、新聞にもあちこちコメントが出るような人気の哲学者で、天才哲学者だと。天才などと名前がつくのは、ろくな先生ではなくて、怪しい」

 岩上安身は、ハラリも日本で「21世紀最大の知性」などと呼ばれて、何千万部も本が売れているとコメントした。

 ハラリの言説が、危ういと特に感じられるのは、ホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人のような同類の交合可能な仲間と地球で共存していたはずだったが、ホモ・サピエンスだけが残った。

 実は、ホモ・サピエンスが他の人類種をジェノサイドしてしまった可能性がある、とさらりと述べている。まるで我々、ホモ・サピエンスは、実はホモ・ジェノサイドであるかのように。そして、決して自ら言及しないが、パレスチナ人に対するジェノサイドは、ホモ・ジェノサイドの本質からみて、致し方ない、とでも言いたげなように。

早尾教授「マルクス・ガブリエルも(ハラリと)似たようなポジションにあって。日本で同じように消費されていて。

 この人達が口をそろえて、『ハマスが行っていることはテロである、イスラエルはそれに対する自衛権がある。ですから、イスラエルに対して連帯すべきだ』ということを言っている。

 ハラリ、マルクス・ガブリエル、ハーバーマスですね。

 みんな共通しているのは、そろいもそろって無意識の西洋中心主義者のグループ、植民地主義者、そしてレイシストだということが言えると思うんですね」

岩上「これが広く、抜き差しがたく西欧というものに根ざしていて、いくら立派なことを言っていても、一皮めくれば、そういうものが出てくる。

 ハイデガーであれ、あるいはヘーゲルであれ、そうしたものが次々出てくるということですよね。(後略)」

 早尾教授は、岩波の『世界』の9月号(岩波書店、8月8日発売)に執筆した記事を紹介した。今年6月のイスラエルと米国によるイラン爆撃を受けて、早尾教授がダバシ氏に行った緊急インタビューである。

 6月に『イスラエル=アメリカの新植民地主義~ガザ〈10.7〉以後の世界』を出した後に、イスラエル・イラン戦争が勃発し、『世界』から「イラン出身の在米のダバシ氏にインタビューを」と依頼があり、急遽インタビュー・翻訳したものだということである。

 ダバシ氏は、故・エドワード・サイード氏の後継者とみられている知識人である。

 早尾教授によると、サイード氏は在米パレスチナ人で、コロンビア大学の教授を務め、英国国教会のキリスト教徒だった。一方、ダバシ氏はイラン出身で、シーア派のイスラム教徒だ。

早尾教授「ダバシ氏は、イラン出身で、イランで大学まで行ったわけですから、この中には、本人がアメリカに到着してまだ慣れていない頃、まだ英語も苦手で、みたいな話をしている章もあります。

 つまり、イラン出身でイスラム教徒で、英語ネイティブではもちろんない。そういう他者性を非常に強く帯びていて、そして、しかもイラン革命以降は、アメリカからすると、もうその存在自体が許しがたい敵だと認定されるような。イラン出身で、アメリカの中からやはり本物を見ている。

 しかも、単にイランを語るだけではなくて。

 ダバシさんの面白いところでいうと、ハミッドと、英語的に呼んでますけど、『ハミード』というのは、アラビア語由来の名前で。

 彼の生まれ育ちは、イランのアフガン・イラク国境に近いところで、生まれた頃からもう、アラビア文化はずっと自分の中に入っていた」。

岩上「これはアラビア語なんですか」

早尾教授「はい、アラビア語由来の名前をつけています」

岩上「ペルシャ語というよりは」

早尾教授「そうです。

 『ダバシ』というのは、サンスクリット語由来の名字で、サンスクリット語圏とアラビア語圏の間に挟まれているのがペルシャで。

 それこそ、『純粋なるペルシャなんてものはないんだ』と。『常にこの辺というのは、インド亜大陸から中東地域にかけて、常に文化的な交流、人の交流があって、自分の名前の中にそういう多文化性というか、歴史の多層性が反映しているんだ』、というようなこと言っていますね。

 これは、『ポスト・オリエンタリズム』(作品社、2017年)の中で語っています」

 岩上安身は『ポスト・オリエンタリズム』は重厚な研究書だったのに対して、今回の著書は、時事的な問題を扱っており、ヒラリー・クリントン、バイデンとリベラル保守、ニューヨークタイムズの報道などが扱われており、いろんな人に興味を持って読んでもらえる本ではないかと述べた。

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■ハイライト

■全編動画 前編

  • 日時 2025年8月1日(水)15:00~
  • 場所 IWJ事務所

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