岩上安身は、2024年3月5日、『ウクライナ・コロナワクチン報道にみるメディア危機』の著者で、新進気鋭の若手在野研究者である嶋崎史崇氏に、2月28日に収録した2回の連続インタビュー続き、3回目のインタビューを行った。
2月28日収録の2回連続インタビューは、ぜひ以下のURLから御覧いただきたい。
第3回目のインタビューでは、嶋崎氏が提唱する「半ポスト真実」という概念について、ウクライナ戦争をめぐる日本の大手メディアの報道を検証した。
「ポスト真実」とは、オクスフォード英語辞典の定義によると、「真実・客観的事実はどうでもよい」「感情や信念に訴えて世論形成をしようとする態度」とのことである。
嶋崎氏は、著書『ウクライナ・コロナワクチン報道にみるメディア危機』の中で、「半ポスト真実」とは、「一つの出来事について、重要な異論があるのに、一方の見方のみがしきりに強調、異論は軽視・無視・排除される。半面からしか物事を見ない」ことだと定義している。
嶋崎氏は「ウクライナ戦争が始まった頃が、特に顕著だった」と述べ、「日本の一般メディアが、欧米の政府・主要メディアの見方にもとづきまたは賛同し、ウクライナ侵攻はロシアの『帝国主義』や、反リベラル民主的後進性により起きた、といった見方を拡散した」と指摘した。
その具体例として、『日本経済新聞』が、2022年4月22日付け朝刊で、「ウクライナ危機が試す民主主義」というタイトルで、「民主主義対専制」という、バイデン大統領の見方に賛同する、呉軍華・日本総研上席理事の記事を掲載したことをあげた。
さらに、『東京新聞』も、2022年2月25日付けで「なぜプーチン氏は破滅的な決断を下したのか ウクライナ侵攻の背景にある『帝国』の歴史観」と題した記事を掲載し、「合理的な判断を超えて破滅的ともみえる決断を下したプーチン大統領は、『帝国復活』の執念にとらわれているようだ」と報じた。
この『東京新聞』の記事は、ロシアによる軍事介入以前に、ウクライナのネオナチが、ドンバス地方のロシア系住民を迫害し、多くの民間人が殺害されたことは一切報じないまま、プーチン大統領が「『自国民保護』や、捏造された情報を口実に他国を侵略する行動様式は、ナチス・ドイツのヒトラーに酷似」していると批判している。
こうなると、歴史的な無知ではなく、知っていた上で、その「民族浄化」を最小に矮小化しようとするもので、害悪の方が大きく、多くのリベラル的心情をもつ市民をミスリードしてきた罪は、非常に大きい。
『東京新聞』の読者から同紙を突き上げるような人々が現れない限り、令和的「大本営発表」報道は、今後変わることなく続いていくだろう。
これに対して嶋崎氏は、「正しい側面もあるかもしれないが、両方の見方を知る人から見れば、実態とはかけ離れた言論状況が出現している」と指摘し、「一種の世論誘導ではないか?」と、疑問を呈した。
嶋崎氏は、ウクライナ戦争に至る以前の、ユーロマイダン・クーデターや、ドンバス内戦での米国側の組織的介入を、日本の一般メディアは「十分に考慮していない」と指摘し、「ウクライナ戦争は『ロシア問題』であるという見方のみが強調され、本質は主として『アメリカ問題』だと理解する見方を、軽視・排除している」と述べた。
さらに嶋崎氏は、米国がドンバス内戦で、ウクライナ軍によるドンバス地方への攻撃を通して、「徹底的な挑発の末に」ロシアの軍事介入を誘発し、「ロシアが戦争を始めざるを得なくなる状況を自らつくりだした」にもかかわらず、ロシアが実際に開戦したら「挑発されざる/言われなき戦争(unprovoked war)」だと主張していることを指摘し、「戦争が起こった真の原因を知ることなくして、それを終わらせることはできないのではないか」と語った。
その上で、「ウクライナの一般の人々が戦争の被害者として支援を受けるべきことは正しい」とした上で、ドンバス内戦やウクライナ戦争で、ドンバス地方のロシア系住民にも「戦争の犠牲者はいる」と指摘し、ドンバス内戦を「悪しき親ロシア派分離主義者への対テロ戦争」だと決めつけるのは、「ウクライナ政府支持者から見た半面の真実」にすぎないと指摘した。
また、嶋崎氏は、ロシアによるウクライナ侵攻が「国際法違反」であり、「侵略戦争」だという批判についても、「半面の真実」だとの見方を示した。
※インタビューの内容は、全て嶋崎氏個人見解であり、いかなる組織の意見も代表しません。なお嶋崎氏の話の根拠となるURLなどの資料は、以下のサイトの「資料公開」欄からダウンロードできます。ご質問もこのサイトを通じて受け付けます。
https://researchmap.jp/fshimazaki/