IWJ代表の岩上安身です。
欧州外交問題評議会(ECFR、European Council on Foreign Relations)は2月21日、2024年1月に欧州12ヶ国(オーストリア、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スペイン、スウェーデン)で実施された、成人人口(18歳以上)を対象とした、「ウクライナ戦争に関する欧州世論の現状を把握する」世論調査の結果を公表しました。
・「ウクライナが戦場でロシアに勝利すると考えているEU市民はわずか10%」、「ロシアが勝利する」との回答者はその2倍。
・欧州人の2人に1人は、EUと米国の政治システムは「崩壊している」と考えている。
・ECFR「ウクライナ戦争は、親EU派と反EU派が対抗する、欧州の『文化戦争』の一部になっている」。
ECFRは言及していませんが、ロシア産天然ガスをめぐる自国の利益を死守したい、中欧・東欧南部・南欧諸国の意向も背後にあるようです。
「ウクライナの勝利を確信している欧州人は、10%しかいない」という事実は、さすがに、日本のテレビ各局のニュースや新聞でも報じられました。ただし、どれも上っ面を撫でたようなもので、どうして、このように欧州の市民達が考えるに至ったのか、という理由やプロセスが全然、報じられていません。
実は、この調査内容は、こと細かく質問しており、初めて行われたものでもありません。詳しくご紹介してゆくと、何が欧州で起きてきたか、今、何が起きているか、よくわかるレポートとなっています。
IWJでは、以下、このレポートの内容を詳しくお伝えします。
ECFRは、「概要」で、「欧州の人々は戦争の結果について悲観的である。ウクライナが勝利すると考えている欧州人は、12ヶ国平均でわずか10%にすぎない。その2倍がロシアの勝利を予想している」と述べています。
この調査は、ウクライナ東部における「天王山」となったアウディーイウカにおけるウクライナ軍の壊滅的な敗走(17日にロシア国防省が発表)の前に行われました。つまり、アウディーイウカでのウクライナ群の敗北が決定的となる前の時点ですでに、多くの欧州市民がウクライナ紛争の行方について、ウクライナが敗北することを見通していたことになります。
ECFRの世論調査は、オーストリア(調査期間1月4-11日、対象者1110人)、フランス(1月2-19日、2008人)、ドイツ(1月2-12日、2001人)、ギリシャ(1月8-15日、1022人)、ハンガリー(1月4-15日、1024人)各国に依頼され、実施されました。
その他の国々では「データプラクシス」と「ユーゴブ」の共同によるオンライン調査が行われました。イタリア(調査期間1月5-15日、対象者2010人)、オランダ(1月5-11日、1125人)、ポーランド(1月2-16日、1528人)、ポルトガル(1月3-15日、1037人)、ルーマニア(1月4-12日、1030人)、スペイン(1月2-12日、2040人)、スウェーデン(1月2-15日、1087人)となっています。
ECFRは、欧州市民のウクライナ紛争に対する見方の変遷を簡潔にまとめています。これは、特に米国、ウクライナ、EU、NATOによる、足並みをそろえて行われてきたプロパガンダとの関連で見てゆくと、重要で、非常に興味深いことがわかります。
2022年6月調査では、「ウクライナが領土を失う犠牲を払ってでも、多くの欧州人が早期解決を望んでいた」。
2023年調査(月日の表記なし)では、「ウクライナ軍の成功と米国のリーダーシップの発揮が欧州市民の認識を変え、欧州市民の過半数は、キエフがすべての領土を取り戻すまでウクライナを支援したいと考えていた」。
2024年1月調査では、「ウクライナの期待外れの反攻の余波を受け、西側諸国の支持率が低迷している現在、楽観的な見方は後退している」。
ECFRによると、2024年1月実施時点の調査では、「ウクライナの勝利の可能性に対する疑問は、欧州全土に見られる」状況となっています。
ECFRのこれまでの調査結果の変遷をみていくと、当初はウクライナが領土を一部犠牲にしても、早期解決してほしい」と望んでいた欧州各国の市民達が、ウクライナ軍による昨年夏の「反転攻勢」で、「これならいけるぞ」と一度は思い直したものの、実は劣勢だったことが発覚して、急に支援する気がなくなった、というプロセスが浮かび上がってきます。この経緯は、興味深いことに、日本でのプロパガンダ事情とほぼ同じです。
日本の大手メディアは、「どうして、このように欧州の市民達が考えるに至ったのか」について、ECFRの調査結果に沿って詳しく説明してしまえば、ウクライナ軍の「反転攻勢」にあわせて自分達も鳴物入りで大騒ぎしてきた、自分達自身の「ウクライナ軍優勢」報道も、実はプロパガンダに過ぎなかったことが発覚してしまいます。それを恐れて、調査結果の中身に深く立ちいらないのでしょう。
日本の岸田政権は、英国やドイツ並みに、強引にウクライナへ金を注ぎ込み、実態が国民にバレても瀕死のウクライナを無理やり立たせて、まだファイトさせようとしています。本来ならば、セコンドとして、タオルを投入すべきタイミングなのですが。
IWJは、ウクライナ軍の「反転攻勢」がうまくいっていないことを、昨年の1月、バフムートをめぐる攻防と陥落から以降、一貫してお伝えしてきました。「春の大攻勢」と言っていた「反転攻勢」は、十分な準備が整わず、6月まで延期された挙句、ロシアの防衛線(スロビキン・ライン)を一度も破ることができませんでした。
逆に、今や、ロシア側が、スロビキン・ラインを超えて、アウディーイウカを陥落させてしまいました。
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