本記事は、「IWJ検証レポート~米国の有識者が米中の国力逆転を認めたアリソン・レポートの衝撃!」の第8弾で、「アリソン・レポート」「Tech(技術)」篇の「半導体」の章の仮訳を掲載する。なお、第1弾~第7弾は本記事末尾でご案内する。
米ハーバード大学ケネディ行政大学院(ケネディスクール)のグレアム・アリソン氏が中心となって作成し、2021年12月7日に発表されたレポート「The Great Rivalry: China vs. the U.S. in the 21st Century(偉大なるライバル 21世紀の中国vs.アメリカ)」(以後、『アリソン・レポート』)は、米国が、中国との対比で自らの技術と軍事を冷静に自己評価した重要なレポートである。
米国が中国の技術水準と軍事水準をどう見ているのか、また、今後、米中覇権競争が技術と軍事という中心的な領域でどう競いあうのかを見極めるための必読文献の一つである。
この「半導体」の章では、「AIやコンピューター、自動車など、日常的に使われる多くの技術の中核」であり、「米中技術競争の不可欠な汎用的原動力」とされる半導体産業を取り上げ、そこでの中国の猛烈な追い上げを紹介している。
半世紀にわたり半導体産業をリードしてきた米国を、製造シェアではすでに中国が凌駕している。しかも2030年には、中国は世界最大の半導体生産国になり、米国は台湾、韓国、日本に続く第5位に転落すると予測されているのだ。しかもそれは米国半導体工業会自身の予測である。また、チップ設計の分野でも中国企業の進出は著しい。
さらに米国の中国企業への制裁措置が、米国の市場を奪うとともに、中国の独自開発を招く自滅的政策だと指摘している。
ただし現在のところ、半導体製造装置などを含む半導体産業全体では、米国が「世界的なリーダーであることは間違いない」という。にもかかわらず、「中国が半導体産業のリーダーになる可能性は、もはや否定できない」と近未来の厳しい展望を率直に認めるのだ。
詳しくは記事本文を御覧いただきたい!
米国の半導体の製造シェアは37%から12%にまで低下!
本記事では、全52ページの「Tech(技術)」と、全40ページの「Military(軍事)」の2部構成からなる『アリソン・レポート』の「Tech(技術)」篇の「半導体」の1章分を全篇仮訳してご紹介する。
なお、「Tech(技術)」編は、英文全52ページで、「Executive Summary(要旨)」「AI(人工知能)」「5G」「Quantum Information Science(量子情報科学)」「Semiconductors(半導体)」「Biotechnology(バイオテクノロジー)」「Green Energy(グリーンエネルギー)」「Macro Drivers of the Tech Competition(技術競争のマクロ環境因子)」という8章から構成されている。
以下から「半導体」の章の翻訳となる。注記(「原注」と表記したものを除く)と小見出しはIWJ編集部が便宜上付与した。
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「半導体(※1)
AIやコンピューター、自動車など、日常的に使われる多くの技術の中核をなす半導体は、米中技術競争の不可欠な汎用的原動力である。米国は約半世紀にわたって半導体産業の優位性を維持してきたが、国内の投資不足や海外での競争激化により、その地位は徐々に低下している。
米国は、チップ設計や半導体製造機器では依然としてリードしているが、半導体の製造シェアは、1990年の37%から現在(2021年時点)は12%にまで低下している。一方、中国は数十年にわたって半導体大国を目指してきたが、近年、重要な成果を上げている。
台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)の創業者であるモリス・チャン(Morris Chang)は、『中国本土はまだ競争相手ではない』と述べているが、中国は半導体の生産や設計で、トップ・プレーヤーたちとの差をわずか1、2世代にまで縮めている。
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(※1)半導体:
電気を通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」の 両方の性質を持つ物質のこと。
例えば、Si(ケイ素=シリコン)やGe(ゲルマニウム)などが半導体である。
不純物の導入や熱、光、磁場、電圧、電流、放射線などの影響で、その導電性が変わる。半導体部品では、不純物を加えて導電性を制御している。
このような半導体の性質を利用して、一つの基板の上に多様な機能を持つ半導体を集めた電子部品のことを「半導体部品」あるいは「半導体集積回路(Integrated Circuit)」と言う。
現在では、このような様々な半導体集積回路のことを「半導体」と総称している。
参照:
▲シリコン(ケイ素)単結晶のインゴット(鋳塊)。これを薄くスライスして、円盤型のシリコンウエハーをつくる。(Wikipedia)
▲シリコンウエハーの基盤上に、回路が実装された状態。同一の回路が碁盤目状に並び、これを切り分けてICチップにし、パッケージに封入する。(Wikipedia、Peellden)
(※2)技術ノード:
集積回路の集積度を表す指標、すなわち、半導体の微細化の指標のこと。
この指標は、米国半導体工業会(Semiconductor Industry Association: SIA) や日本の電子情報技術産業協会(JEITA)半導体部会など、各国の半導体業界団体が世界規模で協業して定義したもの。
この定義では、最小配線ピッチの2分の1(ハーフ・ピッチ)を微細化の指標としている。
集積回路上に周期的に並んだ、一つの配線の幅と配線間隔を合計したものをピッチと呼び、それを2分の1にした間隔(ハーフ・ピッチ)を技術ノード(技術の節目という意味)と定義している。
たとえば、コンピューターのメモリーとして使用されるDRAM(Dynamic Random Access Memory)では、配線の最下層に相当する金属配線層の配線ピッチの2分の1を技術ノードとしている。
この技術ノードは、たとえば、「28nm(ナノメートル)プロセス」と表記する。この「28nmプロセス」という表記は、集積回路の製造技術の世代も同時に表す。
ナノは10億分の1を意味する。1ナノメートルは1ミリの100万分の1。
日本政府が国策として建設費の約半分の4000億円を出資して、熊本県菊陽町に誘致する台湾のTSMCの半導体工場は、10年前以上の技術である「28nm~22nmプロセス」の半導体を製造することになっている。
現在、半導体の微細化競争の最先端は、「7nm以下のプロセス」になっている。「7nm以下のプロセス」の半導体シェアは、TSMCと韓国のサムスンでおよそ6対4となっている。
2020年に、TSMCは世界初の「5nmプロセス」のチップの製造を開始した。
サムスンは、2022年上半期に「3nmプロセス」世代の半導体を世界で初めて量産し、2025年には「2nmプロセス」世代の半導体生産に乗り出す計画となっている。
▲TSMC本社工場があるFab5ビル(中華民国<台湾>新竹市)(Wikipedia、Peellden)
参照:
・半導体テクノロジーの今(TELESCOPE Magazine、2015年2月27日)
【URL】https://www.tel.co.jp/museum/magazine/material/150227_report04_01/
・Samsungが次世代半導体でTSMCやIntelに先行、GAA量産1番乗り(日経XTECH、2021年11月30日)
【URL】https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/06296/
・Samsungが3~2nmに向けたGAAロードマップを発表、17nm FinFETもデビュー(マイナビニュース、2021年1月11日)
【URL】https://news.mynavi.jp/techplus/article/20211011-2099347/
・台湾TSMC、サムスンを尻目に440億ドル投資(朝鮮日報、2022年1月27日)
【URL】http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2022/01/17/2022011780001.html
・TSCトレンド グローバルな半導体競争(23頁、NEDO、2021年4月)
【URL】https://www.nedo.go.jp/content/100931733.pdf
(原注1)成熟技術ノード:
成熟技術ノードとは、28nm以上のノードを指す。これらは、スマートテレビ、ワイヤレス接続チップ、ナビゲーションシステム、エッジコンピューティング(訳注:利用者や端末と物理的に近い場所に処理装置を分散配置してネットワークの端点でデータ処理を行う)など、日常的な電子機器に広く使用されている。2019年に生産された全半導体のうち、成熟技術ノードは61%を占めていた。
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中国の製造シェアはすでに米国を凌駕! 10年で世界最大の半導体生産国になると米国半導体工業会が予測!
今後10年間で、中国は成熟技術ノード(※2)(原注1)では世界最大の半導体生産国になるだろう。と同時に、『15年後には自分たちだけですべてできるようになるだろう(半導体の技術的主権を獲得する)』と、ASML社のピーター・ウェニンク(Peter Wennink)(※3)CEOは予想している。
世界の半導体消費量に占める中国のシェアは3倍に拡大し(2000年の20%未満から2019年には 60%へ)、中国の内需拡大は、市場および国家安全保障の両面の動機によって半導体産業への進出を拡張し、2つの顕著な成功に至った。
第一に、世界の半導体製造能力において、中国の半導体製造シェアが、1990年には1%未満であったものが、15%と米国を上回った。一方、米国のシェアは37%から12%に減少した。米国半導体工業会は、今後10年間で、中国が世界の新規生産能力の40%を担い、24%の市場シェアを持つ世界最大の半導体生産国になると予測している(※4)。
※本記事は「note」でも御覧いただけます。単品購入も可能です。
https://note.com/iwjnote/n/n59ee573a20a1