2021年7月6日、岩上安身は、東アジア共同体研究所の須川清司上級研究員にインタビューを行った。岩上安身は、日米両政府が「台湾有事」を煽って中国との対立を深める現状において、東アジアで高まる開戦リスクと日本に迫る具体的な危機について、須川氏に詳しくお話しをうかがった。
(文・IWJ編集部 文責・岩上安身)
特集 台湾問題で米中衝突か?!
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2021年7月6日、岩上安身は、東アジア共同体研究所の須川清司上級研究員にインタビューを行った。岩上安身は、日米両政府が「台湾有事」を煽って中国との対立を深める現状において、東アジアで高まる開戦リスクと日本に迫る具体的な危機について、須川氏に詳しくお話しをうかがった。
記事目次
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■ハイライト
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■全編動画【後半】
米軍のデヴィッドソン・インド太平洋司令官は2021年3月9日、米上院で「台湾有事は6年以内に起こり得る」と証言し、同盟国を含めて、米中対決を前提に軍備増強を訴えた。
さらに4月16日の首脳会談において、菅総理とバイデン大統領は、「台湾海峡の平和と安定の重要性」という文言を明記した共同声明を発表した。
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朝日新聞の取材に応えた元外務事務次官の竹内行夫氏は、共同声明について、「菅義偉首相に覚悟があったかは不明だが、今回の中国への意思表明は『ルビコン川を渡った』とも言える。今後、中国の『報復措置』も考えられる。だが、腰砕けになってはいけない。確固とした覚悟としたたかな対応が必要だ」と述べている。
これについて、岩上安身は「数々の国を巻き込んで世界大戦規模の戦争になるのではないかと予感させる」と懸念し、「(ルビコン川を)渡るんじゃないよ、勝手にと」と批判した。
他方、習近平・中国国家主席は7月1日の共産党100周年記念式典で、「『一つの中国』の原則は決して譲らない」と、台湾統一を目標に掲げた。
中国に対して強硬な姿勢で臨んだトランプ前政権が1月に終わり、バイデン政権が発足したが、米国と中国の間の緊張が緩和されることはなく、よりいっそう増している。そして米国は、日本を含む同盟国を巻き込んで戦争準備を進め、東アジアやインド洋の危機を高めている。
5月11日から5月17日、クアッドの日米豪に加えてフランス軍も参加して共同軍事演習「ARC21」を東シナ海・日本で実施。また、英、蘭、独も年内に空母やフリゲート艦を東シナ海・日本海に派遣予定と報じられている。
しかし、各国の中国に対する姿勢は必ずしも一致しない。
G7サミットの直前、6月10日の記者会見でフランスのマクロン大統領は、「我々は誰とも提携しない。米国と提携せず、中国のしもべにもならない」と発言した。
また、6月14日に行われたNATO首脳会議で、ドイツのメルケル首相は「中国に対してドアを閉めないように」と、述べている。これら欧州強国の発言は極めて重要なものだが、日本の大手マスメディアではほとんど報じられなかった。
日本の外交安全保障は確実に悪化して緊張を深めており、今後よりいっそうの注視が必要だ。
ところが須川氏は、岩上安身のインタビューに答えて、菅総理の姿勢について、次のように語った。
須川氏「菅さんはおそらく、米中対立における日本がどう生きるべきかということについて考える時間もエネルギーもないんじゃないですかね。もうオリンピックとコロナだけじゃないですか」
岩上「じゃ人任せで、スケジュールがどんどん進んでいるということですか」
須川氏「それに近いと思いますよ」
須川氏「あと、本当に突き詰めて考えてないと思いますけどね。彼は、逆にそういう人に率いられてるんですよ」
米国は、地上・艦船・航空機など多様な発射台に長射程化されたミサイルを第一列島線に分散配備して中国海軍を攻撃できるようにする、という軍備増強の青写真を描く。
しかし米軍は西太平洋・東アジアの第1列島線上に領土を持たず、第1列島線上の主たるミサイルの配備先は日本列島以外に考えられない。そして米軍のミサイルを日本列島すべてに分散配備するということは、日本列島が中国を攻撃する最前線のミサイル基地になるとともに、日本列島全土が中国のミサイルの標的になる、ということを示している。
陸上自衛隊と米陸軍は6月18日から7月11日までの期間、国内において陸上自衛隊と米陸軍が実施する実動訓練として最大規模の訓練となる「オリエント・シールド21」を実施した。
6月29日には、岸防衛大臣は航空自衛隊千歳基地を視察し、「ロシアはわが国周辺の空域において訓練や情報収集活動を活発化させている」、「南西の防衛に注目が集まる昨今だが、北の空の守りもわが国の平和に直結している。スクランブルや弾道ミサイル対処など、多様な任務を効果的かつ持続的に実施することが死活的に重要だ」と述べた。
すると7月3日、ロシア外務省HPに「オリエント・シールド21」に対するザハロワ報道官のコメントが掲載された。このコメントでザハロワ報道官は「(極東の国境の安全確保という観点から)日本の領土を網羅した前代未聞の作戦規模に注目せざるを得ない。特に岸防衛大臣は、今年6月29日に北海道を視察した際、日本にとって北方領土が非常に重要であることを公言し、この目標に向かって邁進している。北海道の隣国はロシアだけである」と述べている。
岩上安身は、「中国を毎日毎日刷り込んで脅威を煽っていく中で、ロシアが抜けている」「アメリカが敵視していることでは中国と一体」と、日本が中国だけでなくロシアを刺激していることを指摘。
須川氏は「演習を全否定するつもりはまったくないが、ヨーロッパはこぶしだけじゃなく握手もしてる」「日本は中国ともロシアとも建設的対話や信頼醸成がないと」と述べ、「日本はそこのバランスが非常に悪くなってる」と懸念を示した。
須川氏は、東アジア、西太平洋の安全保障問題について、「1250対0」というキーワードをあげる。
1987年の冷戦末期に米国とソ連が結んだ中距離核戦力全廃条約(INF)の締結過程を説明した上で、須川氏は、「この条約というのは、ロシアとアメリカしか縛らないんです。21世紀になって、この条約に入ってなかった中国が、『俺は関係ない』と言ってですね、どんどん500(km)から5500(km)の地上発射式の中距離ミサイルをどんどん開発配備をしてきた」と経緯を語った。
そして、「『1250対0』というのは、国防総省が議会に提出をした報告書の中に、『1250』発中国が持っている。一方で、アメリカは地上発射式は持っていないので『0』」と、地上発射式ミサイルの保有数で中国軍が米軍を圧倒していたことを明らかにした。
さらに須川氏は、「その後、中国は増やしていると思いますから、実際は『1250プラスα対0』ということですね」と、現在の状況を重ねて指摘した。
地上発射式ミサイルのメリットについて問われると、須川氏は「『残存性』です」と答え、「先制攻撃を受けると、撃とうにも撃てない。今は精密誘導で狙えるようになったので、生き残れるかというのがポイントになっている」と説明。さらに「安いので数が稼げると。船や飛行機だと軽くなくてはならないとか制約があるが地上発射式だと制約が弱く、開発も容易」と利点をあげた。
このほか、須川氏には、自衛隊のスタンドオフミサイル配備問題、中国が保有する中距離弾道ミサイル、アメリカ、ロシアのミサイルの問題についても、お話しをうかがった。
話題は、大量の原発を抱えたままの日本で戦争が起きた場合の危険性にも及んだ。
岩上安身は「原発再稼働ガンガンしていて、一方で米中対立で集団的自衛権で自動参戦することになったとき、標的になったりメルトダウンしたらどうするのかと」と懸念を示す。
須川氏は「日本人は戦前からそうなんですよ。困ったことが起きると考えるのやめようって。あるいはそれは起きないことにしよう。原発の避難計画もずっとそうでしたよね」と答える。そして、「原発事故は絶対に起きないと説明してたから想定自体をしてはいけないとなってた。普通の国なら住民には仮にそう言っても政府の内部では検討しておく。しかし日本は本当にしてなかった。恐ろしい国ですよ」と日本政府の異常性を語った。
さらにインタビュー終盤、須川氏は「オリンピックすら止められなかったこの国に、米中対立の間、どう生きるかやる資格はないと絶望してるが、絶望してるだけじゃいけない」と述べた。