2021年12月7日、米ハーバード大学ケネディ行政大学院(ケネディスクール)が発表した、「The Great Rivalry: China vs. the U.S. in the 21st Century(偉大なるライバル 21世紀の中国vs.アメリカ)」というレポートは、中国と米国のライバル関係の現状を鋭く腑分けした、重要な論考である。
同レポートは、元外務省情報局長・孫崎享氏が、岩上安身のインタビュー中で、「(米国の安全保障政策の)中枢の中枢」と呼んだ、ケネディスクール元学長のグレアム・アリソン氏を中心に、グーグル前CEOや、ホワイトハウス科学技術政策室前所長、元米陸軍次官等、ビッグテック企業のトップと軍産学共同体のトップが執筆陣に名を連ねている。
「Tech(技術)」と「Military(軍事)」の2部で構成され、本記事ではまず、「Tech(技術)」編をご紹介する。
「Tech(技術)」編の「Executive Summary(要旨)」では、米国のアカデミーやメディアが、「中国では巨大な産業は成長できない」「中国は模倣しかできない」などと、中国の技術力や産業力を最近まで軽視してきた経緯を紹介している。
しかし現在は、中国が既にいくつかの技術分野で世界No.1の座を確保し、他分野でも10年以内に米国を追い抜くとの予測を伝えている。製造業大国を超えた中国が、基礎的な技術で米国の本格的な競争相手になってきたというのだ。
グーグル元CEOのエリック・シュミット氏は、「多くの米国人は中国に対して時代遅れの見方をしている」と批判している。
「Executive Summary(要旨)」は、中国はたとえば5G、量子通信、CAR-T細胞療法(免疫療法の一種)、グリーンエネルギー等の各種技術分野で米国をすでに凌駕していると、次々に具体的分野を列挙する。
そして、国家安全保障会議でテクノロジーと国家安全保障担当のシニアディレクターとして、米国の安全保障と新技術の最高責任者であるタルン・チャブラの「米国はもはや世界の科学技術(S&T)の覇権を握っていない」という認識を伝えているのである。
このレポートは、もともと2020年11月の米大統領選挙後の、新政権への移行メモとして作成され、バイデン政権とトランプ政権の主導者たちに提供された。レポートの紹介文は「中国が我々を追い越すというニュースは、不安なもの」としながら、第二次世界大戦後の米国主導の世界秩序を揺るがすように見える、中国の挑戦の大きさの認識こそ、効果的な中国政策構築の出発点だと指摘するのだ。
翻って日本は、中国の台頭へのこうしたまっとうな認識を正面から受け入れ、自らがすべきことを思考できるのだろうか?
グレアム・アリソン氏は、ハーバード大学・ケネディ行政大学院初代学長である。レーガン政権からオバマ政権の歴代国防長官の顧問を務めた。
アリソン氏の著書「戦争前夜」では、アテネ対スパルタ、第一次大戦のドイツ対イギリス、第二次大戦の日本対アメリカのように、新興国の台頭がその当時の覇権国を脅かし、戦争に突入していったこれまでの事例を鮮明に解析をしている。それと同時に、中国の台頭により、これまでの覇権国であった米国が、数十年以内に中国との戦争に突入する可能性も指摘している。
▲グレアム・アリソン氏の著書「戦争前夜」(IWJ)
元外務省情報局長・孫崎享氏が「(米国の安全保障政策の)中枢の中枢」と呼ぶ、ケネディスクール元学長グレアム・アリソン氏中心に、グーグル前CEOやホワイトハウス科学技術政策室前所長等が執筆!
2021年12月7日、米ハーバード大学ケネディ行政大学院(ケネディスクール)から、「The Great Rivalry: China vs. the U.S. in the 21st Century(偉大なるライバル 21世紀の中国 vs.アメリカ)」というレポートが発表された。
執筆者の中心は、クリントン政権時の政策担当国防次官補で、同校の学長も務めたグレアム・アリソン氏である。アリソン氏の著書の中で『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』は代表作となっている。
レポートは、全52ページの「Tech(技術)」と、全40ページの「Military(軍事)」の2部から成り立っている。
※The Great Rivalry: China vs. the U.S. in the 21st Century(HARVARD Kennedy School、2021年12月7日)
※The Great Tech Rivalry: China vs the U.S.(HARVARD Kennedy School、2021年12月7日)
https://www.belfercenter.org/sites/default/files/GreatTechRivalry_ChinavsUS_211207.pdf
※The Great Military Rivalry:China vs the U.S.(HARVARD Kennedy School、2021年12月7日)
https://www.belfercenter.org/sites/default/files/GreatMilitaryRivalry_ChinavsUS_211215.pdf
本日はこのうち、「Tech(技術)」についてご紹介する。「Military (軍事)」については、また別の機会に。
グレアム・アリソン氏については、2021年2月9日に行われた「岩上安身によるインタビュー 第1028回 ゲスト 元外務省情報局長・孫崎享氏 連続インタビュー第1回」の中で、孫崎氏が外務省官僚として米国駐在時(ハーバード大学国際問題研究所研究員)、「アリソン氏の授業を取ろうと思った」と述べている。
孫崎氏は、「(アリソン氏は)一番、安全保障とかそういうところを作る人間を育てた人間」「彼が言っているセリフは、学者が単にこういうことだと言ったんではなくて、彼の教え子が、国防総省であるとか国務省であるとか、そういう人間としょっちゅう話をして、今の現在の一番の、行政府が行う、ものの考え方というものを示したのが、アリソンの考え方」「彼は(米国の安全保障政策の)中枢の中枢にいる人間」などと評している。
さらにこの「Tech(技術)」の論文には、監修者として、ドン・ローゼンバーグ(クアルコム)、エリック・シュミット(シュミットフューチャーズ)、ジョン・ホルドレン(ハーバード大学)、ノーマン・オーガスティン(ロッキード・マーティン元CEO)、リチャード・ダンツィグ(第71代米海軍長官)、ヴェンキー・ナラヤナムルティ(ハーバード大学)と、6人の名前が連ねられている。
調べてみると、エリック・シュミットは、グーグルの前CEO、ジョン・ホルドレンはホワイトハウス科学技術政策室前所長、ノーマン・オーガスティンは第17代米陸軍次官、などの肩書きが出てくる。GAFAのようなビッグテック企業のトップと軍産学共同体のトップがレポートの共著者として名を連ねている。
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https://note.com/iwjnote/n/nd78bcf884550