2021年2月9日、岩上安身は元外務省情報局長の孫崎享氏にインタビューを行った。
インタビュー直前の打ち合わせでは、IWJスタッフがこの日のために準備した大量のパワーポイントを孫崎氏にお見せしたところ、「本一冊になるほど、大事な内容がいっぱいある」とおほめいただき、1回では終わらないことから、急遽連続インタビューになることが決まった。
このインタビューの大きなテーマは二つ。
誤ったコロナ対策や相次ぐ不祥事による菅政権の支持率急落を論じる「日本は政権交代へ?」と、バイデン米新政権の本質を探る「バイデン新政権で世界はどうなる?」である。
「バイデン政権は、今までのどの時代よりも、金融資本と軍産複合体に牛耳られた政権だと思います」
インタビューのオープン配信部分冒頭、孫崎氏はいきなり核心を突いたコメントを述べた。
孫崎氏は第二次対戦直後、一国で全世界のGDPの50%占めていた米国は、今や世界のGDPの7分の1でしかないことを指摘。「バイデンはもう一回、世界のリーダーになると言っているが、これはありえない」と強調した。
さらに孫崎氏は、バイデン政権について「今のチームは本当に海外で戦争をしたいと思っている人たちが作った政権」だと述べ、「唯一それ(戦争)を止める足枷となっているのは、米国内のコロナ禍だ」と語った。
孫崎氏は1985年から1986年にかけて、ハーバード大学国際問題研究所研究員として、米国に行ったときのエピソードを振り返り、次のように語った。
「その時ジョセフ・ナイの講義を聞いた。ナイは、『世界で戦争が起こるのは、ナンバー2がナンバー1を追い抜こうとするとき。その時に、戦争が起こる可能性が高い』と言った(これこそが『トゥキディデスの罠』である)。
中国の5Gを契機として、工業の技術革新で社会のありようが変わる。そのど真ん中にいて、キーを握っているのが今の中国。アメリカは全く追いついていない。世界の中心がアメリカから中国に移る蓋然性が高い。
ジョセフ・ナイは、『戦後、ソ連、日本を潰した(※戦後、経済大国となった日本に圧力をかけ、内部から解体した、という意味)。中国も同じように潰せる』と言っている。そして、かなりの米国内のインテリの中に、そのような考えがあって、今日の米中の対立の理念的な中心の一つになっている」
こうした孫崎氏の主張を裏付けるように、バイデン政権のジェン・サキ大統領報道官は1月25日、「ここ数年、中国は国内でより権威主義的になり、国外ではより自己主張を強めている。中国政府は安全保障、繁栄、価値観において大きな挑戦を挑んでおり、われわれも新たなアプローチが必要だ」とコメントした。
「他国の繁栄まで『挑戦』と受け止めるなんて」とサキ報道官の言葉に驚く岩上安身に、孫崎氏は「米国のトップは量と質で中国に負けることを認識し、これを止めるためには純粋な(ルールを守った)経済競争ではダメだという結論に至った。したがって軍事であるとか外交であるとか人権であるとか、さまざまなものを動員して、中国の経済の繁栄を潰したい、これが基本」と述べた。
その上で孫崎氏は、「バイデン民主党政権は、『トランプが言っていることは嘘と詭弁である』と言ったが、バイデン政権はそれに劣らず、もっと巧妙に事実を歪めていくと思います」と、語った。
会員限定配信に入ってからは、2月1日にミャンマーで起きた軍事クーデターを地政学的な観点や中国の一帯一路との関係から検証した。
南シナ海は狭いマラッカ海峡が「チョークポイント」で、ここをしめあげてしまえば、中国の船舶が行き来できなくなり、石油の輸入が途絶えて中国はギブアップに追い込まれる、というのが、米国の戦略や日本の米国追随者の主張であり、だからこそ、南シナ海を「戦場」とする必要があった。だが、中国とミャンマーの間で開発されている高速道路・鉄道・パイプライン・港湾は、マラッカ海峡という「チョークポイント」のはるか手前で中東からの石油をミャンマーの港湾に荷揚げし、上海へと高速で直送する仕組みとなっている。
バイデンが声高に「ミャンマー」を問題視する真の理由はそこにあることがわかる。
また、同日行われた茂木敏充外相会見でのIWJ記者の質問と茂木外相の答えについてもうかがった。
IWJ記者は、ハーバード大学のグレアム・アリソン教授による、米中激突の場合、米軍が中国軍に敗れる可能性がきわめて高いとの指摘をあげたうえで、米中対決を激化させず、日本が尖閣諸島の実効支配を続ける方途について聞いた。
これに対し茂木大臣は、アリソン教授の著書にある、戦争勃発のリスク『トゥキディデスの罠』に現在の米中関係はあてはまらないと答えた。
しかし孫崎氏はインタビューで、自らの米国留学時代、アリソン教授に講義を受けた経験にふれ、アリソン教授の弟子が、軍、安全保障、インテリジェンスにかかわる比率がきわめて高く、そうして、軍、情報機関などへのアリソン教授の影響力はずばぬけていることを指摘し、茂木大臣は、そうした米国内の実態についての認識が浅いことをずばり指摘した上で、茂木大臣は「何もわかってない」と断言したのである。
2月9日の茂木大臣会見は、下記で御覧いただくことができる。