中露首脳会談声明全文をIWJが仮訳! 米国中心の民主主義の乱用による内政干渉とイデオロギーによる分断を中露は徹底批判! 国連中心の公平な多国間主義による安全保障と貿易での協力を表明!! 2022.2.8

記事公開日:2022.2.8 テキスト
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(文・IWJ編集部)

 ウクライナ情勢が緊迫する中、2月4日から2022年北京冬季五輪が始まった。

 中国の人権問題をめぐり、米国、オーストラリア、英国、カナダ、ニュージーランドなどが外交的ボイコットを表明し、開会式への政府関係者派遣を見送った(日本は、「外交的ボイコット」という表現は使わずに、政府関係者の派遣を見送るとした)。

 その一方で、中国の習近平国家主席は、開会式が行われた2月4日、北京を訪問中のロシアのプーチン大統領と首脳会談を行った。

▲ウラジミール・プーチン ロシア大統領と習近平 中国国家主席(クレムリンHPより kremlin

 習近平国家主席は、5日にはカザフスタンのトカエフ大統領、セルビアのブチッチ大統領、エジプトのシシ大統領と個別に会談。5日付けロイターは「中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」に関連したインフラ投資や新型コロナ対策での協力について協議した」と報じている。

 「人権問題」を理由に、米英を筆頭としたアングロサクソン系の「ファイブ・アイズ」と呼ばれる諸国が外交的ボイコットを行う中、首脳会談が行われたのは「権威主義」的な指導者ばかりとの批判もある。

 特にロシアは、ウクライナ情勢をめぐって米国との対立が深刻化しており、ロシアとウクライナ国境では、紛争が今すぐにでも起きそうな緊迫した状況が伝えられている。台湾問題で米国と対立する中国との間でも、米中の武力衝突の可能性が憂慮されている。

 米国はロシアがウクライナに侵攻した場合、「大規模な制裁を科す」と明言しているものの、その内容については不明のままだ。

 1月31日付けブルームバーグは、対露制裁について、「対応の仕方について米国と同盟国は合意に至っていない」と報じている。

 一方で同記事は、米上院が準備しているロシア制裁法案については、「同法案にはプーチン大統領がウクライナ侵攻に踏み切らない場合でも発動する制裁が含まれる可能性がある」とし、「ロシアの金融業界と政府のトップを標的にした制裁が法案に含まれていることを示唆する」などと報じている。

 2014年のロシアによるクリミア半島併合(クリミア住民による投票でロシアへの帰属が選ばれた)以来、欧米諸国がロシアに経済制裁を科す一方、プーチン大統領による2007年以来の東方シフトで、中露貿易額は着実に成長している。

 4日の首脳会談後の発表で、習近平国家主席は「昨年の中露の貿易額は過去最高の1400億ドル(約16兆円)に達した」と述べたが、経済産業省の「通商白書2020」によると、ロシアの最大貿易国は2017年に中国になった。プーチン大統領は、ロシアと中国のエネルギー分野の戦略的協力を引上げ、2国間貿易額を2024年までに2000億ドルまで拡大させる目標を掲げている。

 米国は自国の安全保障を理由に、ファーウェイやハイシリコンなど、世界の先端技術をリードする中国企業を「エンティティリスト」に載せ、貿易取引の厳しい制限をかけているが、こうした中露への制裁が、両国を強く結びつけている。

 東欧諸国と旧ソ連諸国が次々とNATOに入り、もしウクライナまでNATOに入るとなると、首都モスクワの目と鼻の先の国境線近くに、米欧の部隊や前線基地が布陣することになり、かえって軍事的緊張を高めてしまう。

 米国は核保有国であるロシアをどこまで追い詰めるつもりなのか、落とし所を見つけようとしているのだろうか? 落とし所もなく、ロシアを追い詰め過ぎるのは非常に危険である。冷静になって米国やNATOに自省を求める声が日本を含めた西側から出てこないのが気がかりである。

 ロシアは、中国のバックアップがなければ、経済的にいきづまっていたことだろう。皮肉なことに、一極単独覇権を貫徹しようとする米国の圧力は、中露を結束させる方向へ作用していった。

 しかし、米国は中国がロシアへの制裁を無効にするような、ロシアに対する援助を行なった場合、中国に対して制裁を加えると表明した。中露に対してABCD包囲網を敷くような追い詰め方である。まるで中露との戦争は不可避であると、米国自身が腹を括っているかのようだ。なぜ、米国はここまで中国を叩こうとしているのだろうか?

 北京冬季五輪の閉幕とともにロシアとウクライナの間で紛争が勃発するのではないかとの憶測も流れる中、習近平国家主席とプーチン大統領との首脳会談では何が話し合われたのか。

 中国国営メディアの『人民網』は4日、国営通信『新華社』の出典として、4日に発表された中国とロシアとの共同声明「新時代の国際関係と持続可能なグローバル開発に関する中華人民共和国とロシア連邦の共同声明(全文)」を掲載した。

 ロシアによるウクライナ国境への軍事力の集結や、中国による新疆ウイグル、香港、台湾問題に対する国際的な非難に対し、両国はともに「内政干渉」だと反発している。

 共同声明では、こうした両国への批判に対し「少数の国際勢力」が「パワーポリティクスに頼り、他国の内政に干渉し、他国の正当な権利と利益を損ない、矛盾、相違、対立を生み出し、人類社会の発展と進歩を阻害し続けている」と批判し、「国連と国連安保理の原則を実践すること」こそが「真の多国間主義において中心的な調整役を果たし、国際関係の民主化を推進し、世界の平和、安定、持続可能な開発を実現する」と訴えている。

 IWJはこの中露共同声明を、独自に全文仮訳した。各章の見出しと注記はIWJ編集部が便宜上付した。

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 「『新時代の国際関係と世界の持続可能な開発に関する中華人民共和国とロシア連邦の共同声明(全文)』

 中華人民共和国の習近平国家主席の招きで、ロシア連邦のプーチン大統領が2022年2月4日、中国を訪問した。両首脳は北京で会談を行い、第24回冬季オリンピックの開会式に出席した。

 中華人民共和国及びロシア連邦(以下『双方』という)は、次のとおり宣言する。

 現在、世界は大きく変化しており、人類社会は大きな発展と変革の新時代を迎えている。世界の多極化、経済のグローバル化、社会の情報化、文化の多様化が進展し、グローバルガバナンス体制と国際秩序の変化が進み、各国の相互接続と相互依存が大きく深まり、国際権力の分布が再編される傾向にあり、国際社会の平和と持続的発展への要請が強くなっている。一方、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行が続き、国際的・地域的な安全保障情勢はますます複雑化し、世界的な脅威や課題も増加している。少数の国際勢力は、頑なに単独主義を追求し、パワーポリティクスに頼り、他国の内政に干渉し、他国の正当な権利と利益を損ない、矛盾、相違、対立を生み出し、人類社会の発展と進歩を阻害し続けている。国際社会は決してこれを受け入れないだろう。

 双方は、すべての国に対し、対話を強化し、相互信頼を高め、全人類の共通の福祉における合意を形成し、全人類の平和、発展、公平、正義、民主及び自由という共通の価値を守り、人民が自らの発展の道を選択する権利及びすべての国の主権的安全並びに発展の利益を尊重し、国連を中心とする国際制度及び国際法にもとづく国際秩序を守り、国連と国連安保理の原則を実践することを呼びかける。国連と国連安全保障理事会は、真の多国間主義において中心的な調整役を果たし、国際関係の民主化を推進し、世界の平和、安定、持続可能な開発を実現する」

記事目次

  • 1 「双方は、民主主義と人権を守るという口実で主権国家の内政に干渉し、世界に分裂的な対立を引き起こすために、いかなる国も民主主義の価値を乱用することに反対する」
  • 2 「一帯一路」を中心としたユーラシア経済圏構想の推進を表明。持続可能な開発目標(SDGs)実現のため、北極圏開発と途上国支援を表明。新型コロナウイルス発生源調査では「ロシアは中国とWHOが行った共同トレーサビリティ調査の報告書を支持する」
  • 3 安全保障で「互いの核心的利益、国家主権および領土保全に対する強い相互支持」NATO拡大に反対、AUKUSに懸念を表明。日本に対しては福島原発汚染水海洋放出を批判。米国と同盟国による生物兵器禁止条約違反も指摘
  • 4 公平かつ公正な世界の構築〜パワーポリティクス、単独制裁、「ロングアーム管轄」に反対し、WTO(世界貿易機関)ルールに則った貿易を支持

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