批判を受けて高市氏は「電磁パルスで敵基地無力化」を「衛星の妨害で敵基地を無力化」にこっそり修正!〜自民総裁選候補・高市早苗氏の「電磁パルスで敵基地無力化」論・防衛論を検証する(その1) 2021.9.30

記事公開日:2021.9.30 テキスト
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※重要なテーマなので、本記事は、2021/9/30より10/31までの1か月間、全文を特別公開いたします。

 9月19日朝のフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に、総裁選に立候補していた河野太郎規制改革・ワクチン担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行が生出演した。

 4人の候補者に加え、番組キャスターの松山俊行フジテレビ政治部長、レギュラーコメンテーターの橋下徹元大阪市長と、安全保障政策についての議論が行われた。

 9月10日に、高市氏がテレビ番組でにこやかに主張した「電磁パルスで敵基地無力化」には、識者や他候補からの批判が続々集まっている。

 こうした批判を受けてか、9月19日のこのテレビ出演で、高市氏は「電磁パルスで敵基地無力化」を「衛星の妨害で敵基地を無力化」にこっそり修正した。

▲自民党総裁選への出馬を表明する高市早苗氏(映像提供:日仏共同テレビ局フランス10、2021年9月8日)

北朝鮮ミサイル対策で、河野氏・野田氏は「情報収集能力が重要」、岸田氏は敵基地攻撃能力の保有に言及

 2021年9月29日に投開票が行われた自民党総裁選で、候補者4人の外交・安全保障に関する考えの違いが明確に見える一幕があった。

 9月19日朝のフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に、総裁選に立候補している河野太郎規制改革・ワクチン担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行が生出演し、番組キャスターの松山俊行フジテレビ政治部長、レギュラーコメンテーターの橋下徹元大阪市長と、安全保障政策についての議論が行われた。

 番組ではまず、9月15日の北朝鮮によるミサイル発射を取り上げ、4人に「北朝鮮のミサイルをどう防御するか、どう打たせないか。必要な抑止力とは?」と問いかけた。

▲河野太郎氏(2021年9月10日出馬表明会見、IWJ撮影)

 これに対して河野氏は以下のように回答、情報収集能力が重要だと指摘した。

 「今日本に必要なのは、北朝鮮で何が起きているかということを、常時監視できる情報収集能力を強化していくこと。それから、北朝鮮に対する抑止を日米同盟できちんと整備して、それを相手側にしっかり伝えること」。

▲岸田文雄氏(2021年9月13日政策発表会、IWJ撮影)

 岸田氏は「情報収集能力の向上は当然のこと、我が国のミサイル迎撃体制、イージス体制を絶えずブラッシュアップするのも重要なこと」と述べた上で、「敵基地攻撃能力」の保有に言及した。

 「さらに日本に届くミサイルだけで500発から600発以上と言われている北朝鮮に対し、第1撃のみならず、第2撃に対する備え、いわゆる「敵基地攻撃能力」も含めて、これを抑止力として用意をしておくことも考えられるのではないか」。

 岸田氏は「敵基地攻撃能力」の保有が第2撃に対する備えだと論じている。どういう意味なのかは、これだけではわからない。

 通常、「第2撃」とは、先制攻撃された側が残存戦力によって報復攻撃を行うことを指す。そのことによって、先制攻撃の誘惑にかられる側も、報復攻撃を恐れ、自重する。これが「抑止力」である。

 もし、「第2撃」の能力を確保し、それによって日本が「抑止力」をもとうとするならば、敵の最初の「一撃」の目標になりやすい。敵基地攻撃能力をもつ中距離ミサイルの配備ではないはずだ。「第1撃」で大破しているかもしれないからである。

 論理的に考えて、日本が「第2撃」をもつことで「抑止力」をもつならば、海中に原潜を沈めてミサイルをもつことである。

 岸田氏の話は、何かちぐはぐである。

▲野田聖子氏(野田聖子オフィシャルサイトより)

 野田氏は、ミサイル発射当日、党本部の緊急役員会があったが、その日は北朝鮮発表の情報しかなく、詳細は米韓からの情報をもらうまでわからないという状況だったと明らかにし、情報収集能力が重要だと答えた。

 「日本には、情報収集能力がないっていうことが一番の問題で、抑止力以前の問題だということが明らかになりました。そこはしっかり取り組んでいきます」。

高市氏の主張は「精密誘導ミサイルの配備は絶対」、「衛星への妨害による敵基地の無力化」、「無人機の導入」、「電磁波による防衛」「防衛の研究を大学で認める」の5点

▲自民党総裁選への出馬を表明する高市早苗氏(映像提供:日仏共同テレビ局フランス10、2021年9月8日)

 高市氏はまず「やられてもやり返さないということ。これはどうしようもないことですから」と述べた。非戦・平和論者に転向したのだろうか。

 しかしその後、次のように続けた。

 「精密誘導ミサイルの配備、これは絶対だと思っています。

 それからやはり、敵基地の無力化をいかに早くするか。これも情報が早くあってという前提なんですけど、その場合、衛星への妨害ということが、技術的にはできます。ただ、これを自衛隊の任務としてきっちりと認めるかどうか。

 それからまた、無人機も必要であると思います。特に偵察などに必要な無人機の導入。

 それから、電磁波による、あの、かなり近づいてきてからなんですが、電磁波も防衛に使えるんですけど、なかなかこれを、防衛の研究として認めない、こういう風潮がございます、大学によって。だからこのあたりを変えていくということも非常に重要だと思います」

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 高市氏は、自らの発言に軍事用語を散りばめることで、軍事問題に詳しいふりをしているのだろうが、その実、軍事も安全保障も理解していないのではないだろうか。

 あるいは、くわしく一般市民に説明してきちんと理解させるようなことはせず、ぼんやりと「敵基地のミサイル攻撃能力を電磁波で無力化できる便利な方法があるらしい」と思わせぶりなことを言い続けることで集票や人気の獲得につなげようとしているのかもしれない。まるでマンガやアニメやゲームで敵を一時的に止めてしまう便利な魔法をかけているように。

 そうだとしたら、さらに悪質である。

(その2)では、高市氏が「絶対」とまで切望する「精密誘導ミサイルの配備」の問題について検証する。

<関連リンク>

※これは日刊IWJガイド2021.9.21号~No.3295号に掲載された記事を加筆・修正したものです。

<ここから特別公開中>

 高市氏の主張は「精密誘導ミサイルの配備は絶対」、「衛星への妨害を自衛隊の任務として認める」、「偵察などに必要な無人機の導入」、「かなり近づいてきてからの電磁波による防衛」「防衛の研究を大学で認める」の5点である。

 衛星への妨害と聞くと、ちょっとした目潰し程度のことのように受けとられかねないが、これは現代戦において、最も重要な敵の目や耳をつぶす先制攻撃である。まぎれもなく軍事行動の一つだ。接近戦での電磁波攻撃もしかり。高市氏は「やられてもやり返さない」などと言っているが、先制攻撃や接近戦での新兵器について喜々として語っている。戦争することを前提に語っているのではないか。電磁パルス攻撃も間違いなく兵器である。

 「精密誘導ミサイルの配備」は現在最もクリティカルな問題なので、後に述べる。

高市氏の「電磁パルスで敵基地無力化」発言を、安全保障・防衛問題の識者、総裁選他候補が続々批判!

 高市氏は「電磁パルスで敵基地を無力化」と、9月10日にTBS系統のテレビ番組で朗らかに述べた。そのあまりにも大きな問題点をIWJはずっと指摘してきた。

 さらに高市氏の「電磁パルスで敵基地無力化」発言について、IWJは、識者や他候補への取材を繰り返した。

▲石破茂氏(2021年9月15日記者会見、IWJ撮影)

 自民党きっての防衛問題の専門家であり元防衛大臣でもある石破茂氏は、会見において、IWJの質問に対し、「EMP攻撃(電磁パルス攻撃)は核爆発を伴うものであり、NPT(核廃絶する)体制と不整合」だと指摘している。

 総裁選候補者の一人であり、このたび新総裁に決まった岸田文雄氏はIWJの質問に対し、「絶対に我が国は核兵器をもつべきではない」と反発した。

 防衛省元幹部で、元内閣官房長官補の澤協二氏は「もっと現実の政策にもとづく議論をすべき」と批判した。

 まさに、高市氏の「電磁パルスで敵基地無力化」発言は、まったく現実を見ていないお花畑の絵空物語なのである。

 各氏の見解の詳細は、以下で御覧いただきたい。

高市氏は「電磁パルスで敵基地無力化」論を、「衛星の妨害で敵基地を無力化」にこっそり修正

▲自民党総裁選への出馬を表明する高市早苗氏(映像提供:日仏共同テレビ局フランス10、2021年9月8日)

 前述した識者やIWJの批判を、どこかで耳にしたのだろうか。

 高市氏は「電磁パルスで敵基地を無力化」と、9月10日にTBS系述べたが、ここ(9月19日)での主張は微妙に変わってきている。

 まず、「敵基地の無力化」は「衛星への妨害」によって行うことになった。核爆発を伴うことになる「電磁パルス」という言葉が消えた。

 さらに、「かなり近づいてきてからの電磁波による防衛」と、用法が限定的になった。確かに、洋上で周辺に民生施設がなく、数十キロ圏内に侵入してきた敵艦隊に対する攻撃であれば、核爆発以外の手法で可能だ。これは防衛省でも研究が行われ、現在は中止となっている。

 しかし、こうしたことは詭弁に過ぎない。対中距離対艦レベルのごく小規模の標的への電磁パルスと、敵基地ミサイル基地をことごとく無力化するほどの巨大な電磁パルスの発生は、まったく別の次元の話である。大砲の砲弾と、核弾頭ほどの違いがある。後者は、核爆発によって広い範囲にわたり、電子機器や通信コンピューター、等々に大規模に無差別に、大量破壊を引き起こすものである。9月10日の発言とまるで違ったことを言い始めている。姑息ではないか

 核爆発を伴う「電磁パルスで敵基地無力化」は、「日本が核保有」し、中国のミサイル発射を察知してなぜか、その発射の直前に猛スピードで核ミサイルを中国領土の上空へ飛ばし、高高空で核爆発を行い、広範囲に、無差別に電磁パルスを発生させるという非現実的な手法であり、民生への無差別大量破壊攻撃となり、通信・交通・インフラなどに壊滅的なダメージを与え、民生の巨大な被害を伴うものである。しかも、高市氏は衛星へ攻撃するとか、電磁パルスで無力化する、といいながら、その後相手の反撃はないことになっている。少なくとも何も言及していないのだ。こんな無責任な政治家がいるだろうか。

 高市氏はここにきて、ようやくそのあまりにも大きな問題に気がついたのか、目立たないように主張をこそこそ修正しているのだ。

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