自民党総裁選に出馬の高市早苗氏、テレビ番組で、中国との戦争では「電磁パルスで敵基地を無力化する」と爆弾発言!! 高高度上空における核爆発によって電磁パルスを起こす? 「対支一撃論」と同じ愚劣な思考!(後編) 2021.9.20

記事公開日:2021.9.20 テキスト
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(文・IWJ編集部、文責・岩上安身)

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 前稿「自民党総裁選に出馬の高市早苗氏、テレビ番組で、中国との戦争では「電磁パルスで敵基地を無力化する」と爆弾発言!! 高高度上空における核爆発によって電磁パルスを起こす? 「対支一撃論」の再来!(前編)」に続き、自民党総裁候補の高市早苗氏の「電磁パルスで敵基地を無力化」発言の危険性について検証する。

▲高市早苗氏(内閣官房内閣広報室)

 前稿では、高市氏が9月10日のテレビ朝日系のお昼の情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』に生出演し、中国との戦争を念頭に、「高高度における核爆発による電磁パルスで敵基地を無力化する」といった途方もない軍事的攻撃の可能性を口にしてしまったことをお伝えし、高市発言の3つの問題点について検証した。

 前稿で検証したように、「相手の基地を無力化させる」ほどの強力な電磁パルスを発生させる手段は、核爆弾を高空で爆発させることで発生させるしかない。

 したがって、第1に日本が核保有していることが必要条件になる。第2に、「中国から先制攻撃の兆候があったと判断した場合」には、第3に「いち早く」中国のミサイル基地の上空にまで日本のミサイルを高高度で飛ばしたあと、核爆発させ、電磁パルスを発生させて、中国の基地機能を麻痺させる。それだけの能力を備えている、という条件が必要になる。

 この3つとも、現在の日本が所有していない能力であり、所持しようとすれば、中国からだけではなく米国からも強い圧力がかかる能力であることはいうまでもない。

 電磁パルスによる攻撃とは、いかなるダメージを相手にもたらすものなのか。

▲『電磁パルス(EMP)攻撃による米国への脅威を評価する委員会の報告書』(EMP対米攻撃の脅威評価委員会)

 米議会は2018年に「EMP対米攻撃の脅威評価委員会」(2001年設立)による報告書『電磁パルス(EMP)攻撃による米国への脅威を評価する委員会の報告書』を公開した。この報告書は、北朝鮮が核を持ち、米国本土まで届く巡航ミサイルを持ったと思われる事態を受け、緊張が極度に高まった2017年の「北朝鮮危機」を受けて作成された。

 この報告書の中で、評価委員会は「わが国の通信、交通、公衆衛生、食糧供給、給水といった電力グリッドに依存した緊要なインフラ体制は、EMP攻撃によるブラックアウト(大停電)によって1年あるいはそれ以上の長期にわたり機能停止となる」と、その破壊的な影響の大きさについて述べている。

 「電磁パルスで敵基地を無力化」によって、民生にも破壊的な影響が及ぶことは明らかである。巨大なインフラや軍事や産業だけではない。官公庁はもちろん、民間企業や個人が所有する携帯電話、スマホ、PCはもちろん、IoTの進んだ社会では風呂トイレ、エアコン、電子レンジ、車など、あらゆる生活分野に影響が及ぶ。

 これほどの破壊的攻撃を、高市氏は、中国に対して日本が先制攻撃にもなりかねない手段で与えよう、と、この平時の時期に、にこやかに口にしてしまったのである。

 逆に、日本上空でこの電磁パルス攻撃を使用された場合は、大停電に陥るだけでなく、全原発の全電源喪失からのメルトダウンという破滅的事態に至るであろう。

 こんな破壊的な攻撃を、相手の先制攻撃を感知したからなどという言い分で、日本が中国に対して仕掛けたら、どうなることか。当然、中国側から見れば日本からの奇襲攻撃であり、同等以上の報復を行うことにためらう理由はない。高市氏は、「第一撃」のあとのことを、何も考えていない。「真珠湾攻撃」をしたら、その後、どんな目にあったのか、まるで歴史に学んでいないかのような浅はかさだ。

 前稿では、この高市氏の「電磁パルスで敵基地無力化」という発言が、いかに大きな問題であるかをお伝えした。

 本稿は、さらに詳しく具体的に、高市氏の軍事的知識の浅薄さについて言及しつつ、中国との核戦争のリアルな一端をお示ししたい。

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記事目次

「彼らは、我々より『先に、すでに』持っている」 中国の2000発のミサイルが日本列島を射程に収めている

▲ピーター・ナヴァロ(2015)『米中もし戦わば』

 

 高市氏の場合は、まず現実の認知に相当な問題がある。トランプ前大統領の補佐官であったピーター・ナヴァロ氏は、「地下の万里の長城」と言われる中国の地下のミサイル基地に格納されている核弾頭の数は、30なのか、300なのか、3000なのか分からないが、「今後数十年の間には断トツで世界一になるだろう」と述べている。

※ピーター・ナヴァロ(2015)『米中もし戦わば』文藝春秋

 今、中国はまだ米国ほど核弾頭は多くない、と言って、中国の核戦力を低く見積もる人がいる。しかし、実際問題として、何十発か何百発かある程度以上、核弾頭が増えたら、それから先は人類を何十回も殺せる、その回数が増えるだけで、もはや意味をもない。現状で十分だ。

 さてその上で、中国は日本列島全域を射程に収め、核弾頭を搭載可能なミサイル群をすでに2000発近く所有していると言われている。

 核攻撃は、本来核弾頭とその運搬手段の2つがそなわっていなければできない。

 大事なことは、中国はその2つを、「すでに」十分に持っている、という歴史的事実である。

 なぜ彼らだけが持っていて、我々が持っていないのだ、おかしい、アンフェアだ、と抗議しても(したければご自由にどうぞ)、何も現実に影響を与えることはできない。

 彼らは、我々より「先に、すでに」持っている。それが現実なのです。

 それは、何よりも第二次大戦の敗戦の帰結である。いや、それ以前からの日本による中国侵略戦争がもたらした歴史的な帰結なのである。その歴史的な事実を直視しなければ話は現実的なものにならない。

戦勝国・中国はNPT(核兵器不拡散条約)の中核的な核保有国の5大国メンバー

 明治維新以降、近代日本は、アジア諸国に対し、侵略戦争を仕掛け、途中でやめる機会があったのに、やめずに版図を拡大し続け、ついには連合国を相手に戦争し、連合国側は核兵器を開発し、日本に落とし、日本はその核被害を含めた上で無条件降伏した。

 その結果、最初の核保有国である米国は、戦中に核保有したが、その後、主要な戦勝国である、ソ連、英国、フランス、そして中国の4ヶ国は戦後直後に次々と核保有した。

 連合国の重要な一角であった中華民国は、内戦の果てに中国共産党に敗れ、中国の本土は中国共産党が支配し、中華人民共和国が1949年に樹立された。

 その中国は、1964年に核実験を行い、核保有国となった。中国は戦勝国であり、NPT(核兵器不拡散条約)の中核的な核保有国の5大国メンバーでもある。そのことに誰も文句をつけることはできない。敗戦国である日本は言わずもがなだ。

 もちろん、理想主義的な「べき」論として、全核保有国に対して、核を捨てよ、全世界から核を廃絶せよ、と主張することはできる。しかし5大保有国は耳を貸すそぶりも見せない。

中国のミサイル基地は5000kmに及ぶ「地下の万里の長城」、日本のミサイル射程では太刀打ちできない

 さて、ナヴァロ氏の話に戻す。

▲中国のミサイル射程(DF-15B、DF-26などは、中国軍が保有するミサイルの名称、柳澤協二氏ご提供資料からIWJ作成)

 

 ナヴァロ氏によれば、「地下の万里の長城」は、大型トラックが入れるだけの高さと幅を持った、縦横に伸びる迷路のような地下トンネルで構成されている。その建設は1960年代に始まり、現在は「全長5000kmに及ぶトラック・鉄道路線になっており、移動式ミサイルや発射装置を最高時速100キロで輸送する能力を有している」という。

※ピーター・ナヴァロ(2016)『米中もし戦わば』文藝春秋

▲移動式発射台に載った中国軍のDF-21Aミサイル。その射程は約1500km(wikipediaより)

 

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