2020年12月14日、西村康稔・新型コロナ対策担当大臣による記者会見が、中央合同庁舎8号館1階会見室で行われた。当初19時15分開始予定の記者会見は、約1時間と大きく遅れ、8時15分過ぎから開始となった。
西村大臣会見の直前に、先週11日に開催された第18回新型コロナウイルス感染症対策分科会の提言を受けて、首相官邸で対策本部が開かれており、その影響で西村大臣の会見が遅れたものと思われる。西村大臣の到着を待つ記者の間で、「GoToトラベルの全国一斉停止」の報が囁かれ、菅総理の会見のネット中継音声が何人かの記者のスマートフォンから流れ出た。
8時15分過ぎ、明らかに憔悴した表情の西村大臣が会見室に入室、慌ただしく会見が始まった。冒頭、西村大臣は当初予定されていた「第12回全世代型社会保障検討会議」のほか、首相官邸で開催された政府の対策本部の決定「GoToトラベルの全国一斉停止」について報告する旨を述べた。
まず、全世代型社会保障検討会議第12回会議方針の取りまとめについて、西村大臣は「少子高齢化が進む中、現役世代の負担を上昇を軽減することは待ったなしの課題」とし、75歳以上の後期高齢者のうち、単身者世帯では年収200万円以上の世帯の窓口負担を2割とすること、ただし、急激な負担増とならないように段階的な措置を取る方針が決まったと報告した。
現行の後期高齢者医療制度では、年収によって、現役並みの3割負担か、1割負担となっている。単身世帯の年収でいえば、383万円以上は現行制度下で3割負担、383万円未満の一般と低所得者世帯(住民税非課税世帯)に分かれている。今回の方針によって、200万円以上〜383万円未満の「一般」のグループに、2割負担を求める措置だ。
西村大臣は「年収200万円」がどのような生活状況かわかっているのだろうか?しかも、後期高齢者は新型コロナウイルス症で最もリスクの高い集団である。まずコロナ対策を成功させてから、議論すべき内容ではないだろうか。
もうひとつ「長年の課題である少子化対策に資金面から取り組む」として、第1に「安定的な財源を確保しつつ、幼稚園はじめ地域のあらゆる子育て資源を活用し、令和6年度末までの4年間で約14万人分の保育の受け皿を用意する」、第2に「不妊治療への保険適用を令和4年から実施する」、第3に男性が育休をとりやすくするための労働者側企業側の意識を高めることを検討すると述べた。
全世代型社会保障検討会議も疑問点満載だが、今日の会見の焦点は、急遽浮上した「GoToトラベルの全国一斉停止」である。普段は溌剌と流れるように話す西村大臣だが、今日は口が重く、何度か言葉を探して沈黙する場面があった。
「新型コロナウイルス感染症対策本部を開催いたしました。尾身会長にも出席いただき、11日の分科会の提言の内容をご説明ただいたところであります。これらを踏まえて、政府としては医療機関の負担を軽減し、国民の皆様が落ち着いた年末年始を迎えることができるよう、最大限の対策を講じることといたしました。
まず、GoToトラベルについて、札幌大阪に加え、東京名古屋についても一律に今月27日(12月27日)まで到着分は停止、出発分も利用を控えることを求めることといたしました」
これは、特に感染が拡大しており、分科会の3つのシナリオのうち、最悪のシナリオである「感染拡大」を辿りつつある札幌・大阪・東京・名古屋のGoToトラベルを、制限する方針を打ち出したものである。「勝負の3週間」がまだ終わっていないにもかかわらず、先行して方針が打ち出されたのは、事態が政府の予想を超えて悪化しつつあるではないかと懸念を抱かざるを得ない。
「さらに、年末年始においての対策として、今月28日(12月28日)から来月(1月)11日までGoToトラベルを全国一斉に一時停止することといたしました」
菅総理や政府関係者は言を左右にして、GoToトラベルとコロナ感染拡大の関係を「エビデンスがない」などとしてきたが、この決定は事実上、GoToトラベルがコロナ感染拡大に影響していると認めたことになり、政府としてはこれまでの方針をもはや顕示できなくなったという意味では大きな転換点だ。
西村大臣は「今回のGoToトラベルの見直しは、分科会の提言以上の対応であると認識をしております」と言葉を添えているが、2週間も感染拡大地域からの出発を「利用を控える」だけでは、新たなクラスター感染を各地に引き起こす可能性は否定できない。「落ち着いた年末年始を過ごすため」であれば、2週間前の今こそ、「GoToトラベルを全国一斉に停止」すべきタイミングだ。
「一部の都道府県におきまして、特に感染拡大している都道府県におきまして、実施しております営業時間短縮要請についてでありますが、きわめて重要な取り組みと位置付けております。
事業者の皆さまにとっては年末は繁忙期、いわゆる掻き入れ時だと思いますが、感染防止の観点からは人と人との接触機会が増えることが懸念をされています。
このため、先行して実施している都道府県に対して、営業時間短縮の要請を延長するよう、私から政府から働きかけを行ってきたところであります。また、感染拡大している都道府県の新たな要請の実施についても連携をしているところであります。各都道府県におきまして、それぞれの地域の感染状況や人の移動の状況を踏まえて、知事が判断されていくことになりますが、政府としても支援を強化していくこととしております」
西村大臣は、事業者の協力金額の単価を2万円から4万円、月額で60万円から120万円に倍増すること、感染が長引いているため30日間という期間の制限を撤廃するとも述べた。経済活動が重要だという命題に反対するものは誰もいない。しかし、政府がずるずると「アクセルとブレーキ」を同時に踏み込むような対応を続けてきた挙句、我慢の期間も長引いている。3月から数えれば9ヶ月以上もの間、真綿で首をしめるかのごとき政府の対応に、医療従事者や観光産業、飲食店で働く多くの人々が不安を抱え、疲弊している。
西村大臣は「なんとしてもこの12月、そして年末年始までの間に感染拡大を抑えていけるように全力を上げて取り組んでいきたいと考えております」と会見を結んだが、今の政府の対策では先が見えない。
中国は短期間集中の大量検査で感染拡大を抑制するどころか、終息させている。東京都民1400万人を1週間以内に検査するペースだ。こうした先行事例を謙虚に分析し、倣う必要があるのではないか。菅政権のやり方では、新型コロナウイルスを終息させる前に経済を殺してしまう。日本でも民間企業が運営するPCRセンターでは2000〜3000円ほどで検査を受けられる。国民全員が検査を受けても、たったの3600億円。58兆円の補正予算を計上するのであれば、その1%にも満たない費用で検査は可能である。
尾身茂分科会会長も「(保健所がもはや)クラスターを追えない」「2次感染の8割は無症状者」と述べている。クラスター対策という線的な対策から、短期集中型の一斉検査を伴う面的な対策へ切り替えるべきである。
西村大臣による具体的な経済政策、そして各社記者から殺到した質疑はぜひ、全編動画で御覧ください。
また、12月11日に開催された第18回分科会の西村大臣と尾身茂分科会会長の報告は以下の動画を御覧ください。