岩上安身は2024年7月8日、評論家で元日経新聞・朝日新聞記者の塩原俊彦氏にインタビューを行った。
ウクライナ問題の第一人者である塩原氏は、2024年7月19日と20日の2日間、明治大学神田校舎グローバルフロント国際会議場で行われるシンポジウム「ユーラシア協調安全保障体制をどう構築するか」の1日目「『二つの戦争』をどう超克するか―ウクライナ戦争とガザ戦争の虚構と現実」に、登壇予定である。
- 7月19日20日開催 アジア連合大学院(GAIA)機構主催 国際会議「ユーラシア協調安全保障体制をどう構築するか」のご案内(一般社団法人アジア連合大学院機構、2024年6月9日)
塩原氏は、2024年6月17日に、最新刊『帝国主義アメリカの野望~リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』(社会評論社)を上梓した。
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インタビューは、「神に祝福されたかのようにふるまうヘゲモニー国家・アメリカの『超大国神話』と『悪』を真正面から暴く!」と題し、この著書の内容に沿って行われた。この日のインタビューは、その第1回である。
塩原氏は、この著書で米国を「帝国主義」と指摘していることについて、「帝国」という言葉を次のように定義している。
「自国および自国に属する企業などの影響力をより強めることで、国家とそれに属する企業の利益拡大をはかっている。こうした動きを意図的に推進する国を『帝国』と呼ぶ」。
塩原氏によると、この定義に従うと、米国もEUも中国もロシアも日本も、「帝国」となるとのこと。
その上で塩原氏は、「帝国主義」について、「ヘゲモニー国家が没落し、新しいヘゲモニー国家がまだ確立していない群雄割拠の状態を意味している」と述べている。
さらに塩原氏は、「ヘゲモニー」について、以下のように解説している。
「武力で天下をとる者を『はたがしら』(覇)といい、覇者という言葉も生まれた。その覇者を世界全体にあてはめると、武力で世界を統治する者ということになる。
半面、『ヘゲモニー』(hegemony)という言葉は『覇権』と翻訳されることも多い。
イタリアのマルクス主義者、アントニオ・グラムシは、支配が強制と合意によるとした上で、後者による支配にヘゲモニーをあてた。つまり、武力という強制ではなく、合意にもとづく統治がヘゲモニーということになる。そうであるならば、ヘゲモニーを覇権と訳すことは憚られる」。
これに対して岩上安身は、戦後の日米関係における、日本の米国依存・属国化が、まさにこの「ヘゲモニー」にあてはまるのではないか、との見方を示した。
塩原氏は「米国の帝国主義を支える信念」は、「リベラルデモクラシーを世界に広める」ことだと指摘し、「リベラルデモクラシー」を「リベラリズム(自由主義)」と「デモクラシー(民主主義)」に分けて、次のように解説した。
「『リベラリズム』は、非常に簡単に言えば、他人に迷惑をかけずに、自分の好きなように行動できることを尊重するのが、『自由主義』なので、『個人主義』とほとんど意味合いはよく似ている。
ただし、そうした個人の自由気ままさを可能にするためには、政府による規制や保護が必要で、そうしたものを積極的に認めるという考えと、政府はもっと寛容で、人々の自由を緩やかに見守る方がいいという考えの2つが、『リベラリズム』にはあります。
しかし、政府の寛容を理想とする『生活様式リベラリズム』(リバタリアニズム)ではなく、政府の積極的な関与を認める『進歩主義的リベラリズム』の方が、今の米国を象徴する『リベラリズム』だと理解されています」。
「『リベラリズム』と『デモクラシー』は両立しない。『リベラルデモクラシー』という理念は、根本的に間違っている」と主張する塩原氏は、「リベラリズムの核心」について、以下のように述べた。
「自由の大切さは、不自由であることに気づかないと、理解できない。西側に生きている多くの人は、自分が自由であると誤解していて、法律の範囲内で好き勝手をしても許されるという『無知蒙昧』な人が、ほとんどではないか。
そうした『無知蒙昧』な人を作り出しているのが、まさにマスメディア。人々は、情報操作されて騙されている。
自分達が不自由で、マスメディアがくだらない番組ばかり流しているという『不自由さ』に気づくことができないと、自由の大切さに気づけないと、私は思っています。
多くの場合、マスメディアは、国家と結託して、国家に不都合な情報を一切流さない。『無知蒙昧』な人が増えると、自由民主党にとって、これほどいいことはない。選挙に行かないような人が増えれば、自分達のやっていることに批判的な勢力が減少するので、好都合だという仕組みに、世の中はなっている」。
続いて塩原氏は、「デモクラシー」について、次のように語った。
「民主主義は良いことだという教育がされていますが、民主主義なんてたいしたものではない。
『リベラルデモクラシー』を擁護する連中、今で言えばバイデン大統領に代表されるような人達が、声を大にして民主主義を擁護し、『だから、ウクライナの民主主義を守らなければいけない。ウクライナが負ければ、他のNATO諸国にも(ロシアの侵略が)波及しかねない』と言う。
しかし、大切なことは、エスタブリッシュメントと呼ばれるような、既存の支配階級が、そう言わしめている。
つまり、後ろで糸を引いているのは、米国で言えば、ユダヤ系富裕層に代表される人達だということがずっと続いていて、彼らは、民主主義を擁護することで、自分達の利益を守ろうとしているという構図に、まず気づいて欲しい。
エスタブリッシュメントが民主主義を擁護するのは、マスメディアの情報操作や、無関心や無知蒙昧によって支えられている、自分達個人の利益追求を守るため、ということなんです」。
塩原氏は、著書『官僚の世界史~腐敗の構造』(社会評論社、2016年)を参照して、民主主義の本質的問題点を指摘した上で、米国の基本的な構造を、次のように結論づけた。
「個人においても、個々の主権国家においても、民主主義には問題がありながら、米国は民主主義的な国家が増えれば、米国の安全保障上、役にたつと考え、外交政策を通じて、民主主義の輸出にこだわり続けていているが、その多くは失敗している。
エスタブリッシュメントは、民主主義なる制度を使って国家を牛耳り、『法の上に人を置く』という『法の支配』と、『テクノロジーの上に人を置く』という『テクノロジーの支配』の、『人』の部分を決めてきた、これまでの制度を守りたいのだ」。
詳しくは、ぜひ全編動画をご視聴いただきたい。