岩上安身は、2024年3月14日、『ウクライナ・コロナワクチン報道にみるメディア危機』の著者で、新進気鋭の若手在野研究者である嶋崎史崇氏にインタビューを行った。
このインタビューは、2月28日に収録した2回分の連続インタビュー、3月5日に収録した3回目のインタビューに続く、第4回である。
このインタビューの第1回を、3月7日にYouTubeで配信したところ、YouTubeはこの動画を「悪意のある表現に関するポリシーに違反している」との理由で、一方的に削除し、「2回目の違反警告を受けると、アップロード、投稿、ライブ配信などの操作が2週間できなくなります」と警告を送ってきた。
YouTubeが指摘した「悪意ある表現」とは、岩上安身の以下の発言である。
岩上「ロシアの言い分で言えば、(中略)ロシア系住民が差別され、弾圧され、迫害され、殺戮され続けてきたわけです。
そういう事件をずーっと8年間、指をくわえてみていなければならなかったプーチンに対して、非常に国内からも突き上げがあり、そしてこれは話し合いでどうにかならないということで武力介入を行ったと…」
この不当な処分に、IWJが再審査請求を行なったところ、YouTubeは「再審査の結果、お客様のコンテンツはYouTubeのコミュニティガイドラインに違反していないと判断されました」として、違反警告は取り下げられ、削除された動画も復活した。
この一連のYouTubeの一方的な対応について、岩上安身が「不適切で過激な表現に対し、YouTube側は削除権があるが、こちら(利用者)には復活権がない。一方的、非対称的な権力。YouTubeは、ツーウェイで、ちゃんと話し合えるメディアに成熟していかなければいけないんじゃないか」と批判した。
これに対して嶋崎氏は、以下のようにコメントした。
「私の本(『ウクライナ・コロナワクチン報道にみるメディア危機』)の第4章でも、プラットフォーマーの問題について考えていまして、国家がリヴァイアサン(旧約聖書に出てくる怪物。神を除き、この地上において最強のものであり、国家の象徴)のような力を持っているとしたら、今日では、プラットフォーマーはもうひとつの怪物、ビヒモス(同じく旧約聖書に出てくる怪物。海の怪物リヴァイアサンと対の関係になっており、ビヒモスは陸の獣とされている。リヴァイアサンは雌、ビヒモスは雄ともされる)のような力を持ちつつある。
そういう自分たちの影響力をもっと意識して、社会的責任、公平である責任というものを意識してほしい」。
さらに嶋崎氏は、「ITに関しては、プラットフォーマー、中央の管理権限がものすごく大きくて、こういうふうに恣意的に、停止、削除ができてしまう」と指摘し、次のように語った。
「本当なら、(ITによる一方的な削除などされない)紙メディアとか、伝統メディアが、こういうプラットフォーマーの振る舞いを批判していくべきだと思うんです。
ところが、そういう方向性があまり見えてこないというのが、残念なところですね。今こそ、紙メディアの出番、という印象なのに」。
インタビューは、第3回のつづきとして、「半ポスト真実とは」と題して、ロシア・ウクライナ戦争に関するメディア報道を検証した。
嶋崎氏は、「一般メディアの報道は、相当一方的なものが多いということを、ここまでで確認しましたが、例外がないわけではない。数は少ないが、ベテラン記者による例外的なコラムも存在する」と述べ、『毎日新聞』の伊藤智永・専門編集委員の名をあげた。
嶋崎氏によると、伊藤氏は2022年6月4日付け『毎日新聞』朝刊で、「ゼレンスキー氏は英雄か」と題して、代理戦争論を唱え、ゼレンスキー大統領礼賛の傾向や、ロシア悪玉論に異議を唱え、以降もたびたび同様の主張を繰り返しているとのこと。
さらに、伊藤氏は「ウクライナが今日の侵略を招くまでには、20世紀末から10年ごとに繰り返された政変・革命による分断と、非人道的暴力を放置してきた長い荒廃の道のりがあった。その責任も、政治指導者たちの過誤に帰する」と、オレンジ革命や、ユーロマイダン・クーデター、その後のウクライナ政府によるドンバス地方のロシア系住民迫害(ドンバス内戦)が、ロシアの軍事介入を招いたことを指摘している。
また、嶋崎氏は、ドイツのアンゲラ・メルケル前首相が、2022年12月に、ドイツの週刊誌『ツァイト』に「ウクライナ政府とドンバス地方の勢力が、欧州安全保障協力機構 (OSCE)の仲介で結んだ停戦協定・ミンスク合意(2014年)は、ウクライナの軍備増強のための時間稼ぎだった」と告白したことを指摘し、次のように語った。
「メルケル氏の告白から、ウクライナを一貫して支援していた西側諸国が、話し合い・妥協による和平を、そもそも希求しておらず、実は戦闘による内戦の解決(日本や西側諸国がロシアを非難する際に使う決まり文句『力による現状変更』)を目指していたのではないか、という、逆説的な疑問がある。少なくとも、そういった可能性が読み取れるのではないでしょうか。
2014年のミンスク合意の挫折を受けて成立した、2015年の第2次ミンスク合意は、ドンバス地方への自治権付与等を含んでいて、国連安保理決議(第2202号)にもなったので、より権威があるわけです。
でも、2014年の和平協定(ミンスク合意)が時間稼ぎだったのなら、こちらの2015年の、より大きな権威を持っていた、第2次ミンスク合意についても、時間稼ぎだったのではないか。
実際、そんなに守られなかったから、破綻して、戦争に傾れ込んだ。
こういうことを、我々みんな、知る必要があるんじゃないでしょうか」。
さらに嶋崎氏は、ロシア・ウクライナ戦争が、2022年2月24日ではなく、2月16日に始まった、という見方があることを、以下のように示した。
「『2月16日開戦説』というのがあります。
どうしてロシアとウクライナの戦争(が始まったの)は、2022年2月24日だったのか、ということについては、一般メディアの報道を見ても、よくわからないように思われます。
それを説明しうるひとつの考え方、仮説が、『2月16日開戦説』というものです。
実は、停戦を監視しているOSCEの監視団の日報によると、2月16日から停戦違反の攻撃が増えていた。
これは、スイスの軍事専門家で、元軍人のジャック・ボー氏が、とりわけ唱えている考え方、説です。
そのOSCE資料を(グラフに)再現すると、実際、16日からどんどん(ドンバスで記録された爆発回数が)増える傾向にあったということです。これは僕も、このOSCEの資料自体を見て、確認したこともあります。
このグラフだけでは、ウクライナ側とドンバス側、どちらが先に攻撃したのかはわからない。けれども、ロシア専門家の大崎巌先生は、資料を読み解いて、『ウクライナ側が先制攻撃したのでは』と、推測しています。
大崎先生は、バイデン大統領が、『ロシア軍が2月16日に侵攻する』と『予言』していたことを重視しています。
大崎先生の論拠としては、16日時点では、ドンバスのふたつの共和国を、ロシアが独立承認するかどうか、不明だった。しかも、ウクライナ側が、兵力的に、何倍も優勢であった。
だから、なかなかドンバス側から仕掛けるということは、考えにくいんじゃないか、という議論をされています」。
IWJは、ジャック・ボー氏が「ウクライナの軍事情勢」と題した論文で、「西側諸国は、ロシアの介入を国民の目から見て完全に違法と思わせるために、実際に戦争が始まったのが2月16日であるという事実を意図的に隠蔽していた」と指摘していることを、2022年4月17日付けで報じた。
このあと、インタビューは「半ポスト真実論のロシア・ウクライナ戦争への応用」と題し、ウクライナのアゾフ連隊について、欧米や日本の大手メディアが「ヒーロー」として報じ、ネオナチであることを否定したことや、2022年4月のブチャ虐殺事件を、根拠なくロシア軍の仕業と報じてきたこと、ザポリージャ原発への砲撃や、ノルドストリーム・パイプライン爆破、カホフカダム破壊事件なども、ロシア側の犯行であると報じてきたことなどについて、検証を重ねた。
※インタビューの内容は、全て嶋崎氏個人見解であり、いかなる組織の意見も代表しません。なお嶋崎氏の話の根拠となるURLなどの資料は、以下のサイトの「資料公開」欄からダウンロードできます。ご質問もこのサイトを通じて受け付けます。
https://researchmap.jp/fshimazaki/