本記事は、「IWJ検証レポート~米国の有識者が米中の国力逆転を認めたアリソン・レポートの衝撃!」の第10弾で、「アリソン・レポート」「Military(軍事)」篇の「ライバルの台頭(The Rise of a Peer)」の章の仮訳を掲載する。なお、第1弾~第9弾は本記事末尾でご案内する。
米ハーバード大学ケネディ行政大学院(ケネディスクール)のグレアム・アリソン氏が中心となって作成し、 2021年12月7日に発表されたレポート「The Great Rivalry: China vs. the U.S. in the 21st Century(偉大なるライバル 21世紀の中国vs.アメリカ)」(以後、『アリソン・レポート』)は、米国が、中国との対比で自らの技術と軍事を冷静に自己評価した重要なレポートである。
米国が中国の技術水準と軍事水準をどう見ているのか、また、今後、米中覇権競争が技術と軍事という中心的な領域でどう競いあうのかを見極めるための必読文献の一つである。
▲『アリソン・レポート』を作成したケネディ・スクール元学長のグレアム・アリソン氏(Wikipedia、Mass Communication Specialist 2nd Class Zach Allan, U.S. Navy)
この「ライバルの台頭(The Rise of a Peer)」の章では、1996年の第三次台湾海峡危機で、中国軍が米軍に味わわされた「屈辱」が、中国の軍事大国化の「原点」だと説き起こす。
意味するのは、台湾を失わないことこそ、中国の「核心的利益」で、軍事力強化の最大の目的ということだ。
さらに、中国は核心的利益を守るために、戦争をも辞さないことを、朝鮮戦争に参戦した歴史的事実によって証する。
そして現在、台湾海峡で圧倒的に不利になった米軍が、日本に押し付けようとしている役割とは何か?
詳しくは、記事本文を御覧いただきたい!
▲台湾海峡(Wikipedia、”The following maps were produced by the U.S. Central Intelligence Agency, unless otherwise indicated.”、Taiwan Strait)
第三次台湾海峡危機の「屈辱」が、中国軍事大国化の原点!
本記事では、全52ページの「Tech(技術)」と、全40ページの「Military(軍事)」の2部構成からなる『アリソン・レポート』の「Military(軍事)」篇の「ライバルの台頭(The Rise of a Peer)」の1章分を全篇仮訳してご紹介する。
なお、「Military(軍事)」篇は、英文全40ページで、
「Executive Summary(要旨)」
「The Rise of a Peer(ライバルの台頭)」
「China’s A2/AD Advantage(中国のA2/ADの優位性)」
「War Games: A Perfect Record(ウォーゲーム:完璧な記録)」
「Technologies of the Future(未来のテクノロジー)」
「The Curious Question of Defense Spending(防衛費という不思議な問題)」
「Conclusion: Where Do We Go from Here?(結論:我々はここからどこへ向かうのか)」
という7章から構成されている。
以下から「ライバルの台頭」の章の翻訳となる。注記(「原注」と表記したものを除く)と小見出しはIWJ編集部が便宜上付与した。
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「ライバルの台頭
1996年(※1)に米国が圧倒的な軍事力を示したことで、中国は自国の裏庭に身を引くしかなかった。しかし、中国の『屈辱の世紀』をまざまざと見せつけられた中国の指導者たちは、二度とこのようなことが起こらないように軍事力を増強しようと決意したのである」
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(※1)1996年:
1996年は第三次台湾海峡危機の年。
この危機は、1995年に、台湾の李登輝総統(当時)が母校コーネル大学から「台湾の民主化経験」に関する講演を行なうよう招待を受けたことに始まった。ビル・クリントン政権(当時)は、議会の意向を踏まえて、李登輝総統(当時)に訪米ビザを発給した。
▲ビル・クリントン第42代米大統領の政権が李登輝総統にビザを発給。(Wikipedia、Bob McNeely, The White House、Bill Clinton)
これに激怒した中国の江沢民指導部(当時)は、1995年7月と8月に台湾北部に向けて弾道ミサイル発射実験を実施。さらに11月には、広範囲な陸海演習を実施した。
翌1996年3月23日の台湾初の直接投票による総統選挙の直前、3月8日から3月15日にかけて、中国は第3波の発射実験を行った。このときの目標海域は基隆市と高雄市の港から25マイル(約40キロメートル)から35マイル(約56キロメートル)の地点(台湾の領海にわずかに入った位置)だった。
これに対して、米軍は、ベトナム戦争以来、アジアで最大規模の軍事力を展開した。まず、3月8日に既に西太平洋に駐留していたインディペンデンス空母戦闘群を、台湾近くの国際海域に展開すると発表。さらに、3月11日にニミッツを中心とした空母戦闘群をペルシャ湾から急行させた。
中国軍は対艦ミサイルなどの精密打撃能力が不十分だったため、台湾海峡への米軍の二つの空母艦隊の接近を阻止できなかった。この屈辱を機に、中国は海軍の増強や短距離ミサイルなどの開発に力を入れるようになった。現在の国防費は第三次台湾海峡危機当時の20倍以上に膨らんでいる。
第三次台湾海峡危機の背景には、1979年に米国が中国と国交正常化を果たし台湾とは断交したが、中国による台湾占領を警戒し、「台湾関係法」を制定して武器供与などの形で台湾支援を続けたことがある。
つまり、米国が、外交では中国をパートナーとし、安全保障では台湾をパートナーとした、ダブルスタンダードを取ったことが、台湾海峡危機が現在も続く大きな原因となっているのである。
参照:
・第三次台湾海峡危機(Wikipedia、2022年2月15日閲覧)
【URL】https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E4%B8%89%E6%AC%A1%E5%8F%B0%E6%B9%BE%E6%B5%B7%E5%B3%A1%E5%8D%B1%E6%A9%9F#cite_note-6
・米との戦力差、台湾で「逆転」か 統一へ攻勢かける中国(朝日新聞、2021年6月7日)
【URL】https://digital.asahi.com/articles/ASP644STLP5YUHBI01P.html
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https://note.com/iwjnote/n/nc847ac8da7a7