2024年5月21日、午後5時40分より、東京都千代田区の外務省にて、上川陽子 外務大臣の定例会見が開催された。
会見冒頭、上川大臣より、「千玄室(せん・げんしつ)氏への外務省参与辞令の交付(※)」についての報告があった。
- 千玄室氏への外務省参与辞令の交付(外務省報道発表2024.5.21)
千玄室氏は、茶道裏千家第15代家元であり、2017年に初めて参与となって以降、これまで毎年任期の更新を重ね、今年で7回目となる。
上川大臣からの報告に続いて、大臣と各社記者との質疑応答となった。
IWJ記者は、ウクライナ情勢について、以下の通り、質問した。
IWJ記者「ウクライナ情勢について質問します。
『ウクライナは世界の自由と民主主義を守るために戦う』などと主張してきたゼレンスキー大統領の任期が、昨日終了しました。
ゼレンスキー氏は、非常事態を理由に選挙を行わず、敵対する政治家らを次々と排除してもきました。
もはや自由でも民主的でもなく『法の支配』もないウクライナに、日本が支援する理由はないのではないでしょうか。
また、自民党がこだわる『緊急事態条項』についてですが、これが憲法に導入されれば、ウクライナと同様の状況になり得ます。ナチスのヒトラー政権誕生につながった危険な『国家緊急権』を、憲法に導入すべきであると大臣はお考えでしょうか。
よろしくお願いします」。
ゼレンスキー大統領のウクライナ憲法上の権限は、5月20日に期限切れとなった。
ゼレンスキー大統領は2023年12月、戒厳令下にある限り大統領選挙や議会選挙は実施しないと発表している。
ウクライナ大統領選挙は、当初、3月に予定されていたが、5月初旬、ウクライナ議会は、戒厳令をさらに3ヶ月延長している。このままの体制が続けば、ウクライナ議会の議員も、ゼレンスキー大統領も、戒厳令を出し続け、その座に居座り続け、停戦を拒否し続けることが可能になる。これが「自由と民主主義のために戦う」ウクライナの現実だ。
この質問に対し、上川大臣は次のように答弁した。
上川大臣「この戒厳令に関しますウクライナ国内の関連法令は、まず、戒厳令中にウクライナ大統領の任期が満了した場合、その任期が戒厳令解除後に選出される大統領就任まで延長される旨、及び戒厳令下における大統領選挙の実施は禁止される旨をそれぞれ規定しているものと、承知しております。
また同戒厳令につきましては、定期的にウクライナ議会において承認を受けているものと承知しております。
その上で申し上げれば、現在の状況にウクライナが陥っているのは、ロシアによるウクライナ侵略が原因であることを忘れてはなりません。
我が国として、一日も早く公正かつ永続的な平和をウクライナに実現するべく、また、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分との観点も踏まえ、G7やグローバル・サウス諸国を含みます各国と連携をしつつ、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続するという姿勢に変わりはございません」。
上川大臣は、ウクライナ大統領の正統性について、戒厳令下であれば、民主的な手続きである選挙なしでの、ゼレンスキー氏の任期延長を容認した。
ゼレンスキー氏の「任期延長」の根拠は、「戒厳令で選挙は不可」とする、ウクライナ憲法にある。しかし、ウクライナ憲法で規定されている「選挙」とは、大統領選挙ではなく、最高会議選挙である、と19日付『毎日新聞』でも指摘されている。
大統領選挙についてウクライナ憲法は言及していないため、ゼレンスキー氏の「留任」について、憲法違反だとする批判勢力がウクライナ国内にもある。
法務大臣を99代、100代、104代と務めてきた上川大臣が、それを知らないはずはない。
もし知らなかったのであれば、上川大臣は、あまりに不勉強であり、大臣としての能力や知力に疑問符がつく。
また、そうした知識を「学習」させなかった外務官僚も、勉強不足であり、話にもならない。
また、いまだにロシアの武力侵攻がすべての出発点であるとする、事実と異なる答弁を繰り返すのもいいかげんにすべきだ。
2014年のユーロマイダン・クーデター以降、反ロシア勢力の政治家と右派セクターなどのネオナチが、ロシア語の使用を禁じるなどの差別政策とともに、ロシア系住民に対して、無差別の暴力、迫害、殺戮を働き、官憲もこれを取り締まるどころか、半グレ集団と変わるところのなかったネオナチのアゾフを軍の中に正式に組み込んで、ロシア系住民に対し、砲撃や爆撃などの無法な武力攻撃を繰り返してきた。
これがロシアの介入を呼び込むための挑発だったことは、まぎれもない事実だ。
- ゼレンスキー氏、大統領任期が満了 選挙先送りで「正統性」論争も(毎日新聞、2024年5月19日)
もう1点、上川大臣は自民党が固執する「緊急事態条項の憲法への導入」には言及しなかった。言い換えれば、「緊急事態条項の憲法への導入」によって、日本が「ウクライナと同様の状況」になりうる、というIWJの指摘を否定しなかった、ということになる。
この事実は、日本国民にとって軽いものではない。