【IWJ号外】『ニューヨーク・タイムズ』の「ウクライナ戦争における米国関与の秘史」(第5回・最終回)バイデン政権は、政権交代目前のタイミングで、エイタクムス、ストームシャドウなどの長距離ミサイルによるロシア領への攻撃を許可!「第3次世界大戦になる」と反対していたにもかかわらず! 2025.10.13

記事公開日:2025.10.13 テキスト
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(文・IWJ編集部)

『ニューヨーク・タイムズ』の「ウクライナ戦争における米国関与の秘史」(第5回・最終回)バイデン政権は、政権交代目前のタイミングで、エイタクムス、ストームシャドウなどの長距離ミサイルによるロシア領への攻撃を許可!「第3次世界大戦になる」と反対していたにもかかわらず!

 バイデン政権下では、政権のプロパガンダが中心で、時折、正気に返る『ニューヨーク・タイムズ』が、2025年3月29日付で、ウクライナ紛争に関する長大な暴露記事を発表しました。

 これは、ウクライナ戦争における米国関与の秘史です。日本の主要メディアは、この重要な記事を無視、あるいは黙殺して、何も伝えようとしていません。

 この『ニューヨーク・タイムズ』の記事は、米軍が軍事情報の提供や作戦立案、そして戦争の指揮などの点で、ウクライナ軍の上位に立ち、紛争の始まりからずっと主導してきたことを証拠立てるものです。

 これは、米軍と自衛隊が一体化を進めてしまっており、武器の購入だけでなく、情報も米軍から提供され、作戦立案から、作戦の指揮権も、米軍の側に主導権がある、日米の軍事的な上下関係の実情を理解する上でも、貴重な事例であると思われます。

 しかし、これまでの『ニューヨーク・タイムズ』の記事と同様、反ロシア・親NATOに「偏向」している部分が見られますので、すべてを真にうけることはできません。

 そういうポイントは、逐一、指摘しながら紹介していきます。

 IWJは、A4で56頁にも及ぶこの長大なスクープ記事を、5回に分けて仮訳して紹介します。

 最終回である第5回は、射程が300kmと長射程で、ロシアの奥深く狙うことのできるミサイル、エイタクムスを、米国がウクライナに提供を始めるなどの変化も扱われます。

 これまで、「第三次世界大戦になる」とバイデン大統領自身が懸念して、長射程のミサイルの供与は拒んでいましたが、政権末期のタイミングで、供与に踏み切ったのです。

 米国とウクライナの軍事協力が拡大していったこと、クリミアのケルチ橋攻撃では、米軍とウクライナ軍の間で作戦上の不一致があったこと。

 2024年夏のロシア領内のクルスクへの侵攻は、米軍に事前通告なく、ウクライナ軍が独断で行い、これを米側は「裏切り」と受け止めたこと。

 しかし、米国側も、CIAなど米側の「特例承認」で、ロシア領内トロペツ兵器庫へのドローン攻撃が行われたことなどを報告しています。ロシアへの攻撃のエスカレーションに、米軍が大いに関与していたのです。

 こうしてみると、ロシアと戦っているのは、ウクライナ単独ではなく、米軍の将官が最上位に位置して、欧州軍を含めた連合軍として、ロシアと戦ってきたことがよくわかります。

 ウクライナの劣勢を、受けて、現在、ロシア軍と欧州各国の軍とが、直接、戦闘に陥る間際にある、と言われていますが、今までも、表には立たなくとも、ロシアと戦ってきたのは、ウクライナ単独の軍ではなく、連合軍だったのです。

 また、米・オースチン国防長官が、兵士が不足しているウクライナに対して、徴兵年齢を18歳まで引き下げるように要求した際、ゼレンスキー氏が抵抗して実現しなかったことも謎として残されます。

 若者を戦場に行かせたくないというと、人道的に聞こえますが、20代後半から、中高年、さらには60代の初老まで、兵役につくように強制しているのに、体力のある20代前半の若者を徴兵しないのかはなぜなのか、謎は解けません。

 バイデン政権が、最後にエイタクムス、ストームシャドウなどの長射程ミサイルによるロシア領攻撃を許可した経緯なども報告しています。

 こうした攻撃の結果、ロシア側は当然、激しく反撃することを決意するわけですが、そのバトンは次のトランプ政権に引き渡されます。

 米国は、オースティン国防長官までが、ウクライナに対して、徴兵年齢を国際法上許容される18歳(国際法は18歳未満の少年兵を許していない)まで引き下げるように求め続けました。しかし、ゼレンスキー氏は、これを頑なに拒みました。

 その理由は、将来のウクライナの再建のため、としか説明されていません。しかし、「勝利」あってこその「再建」のはずです。

 足腰も衰えた、ロートルの老兵部隊で、ロシア軍に勝てると考えたとしたら、いくらなんでも、見通しが甘過ぎます。ゼレンスキー氏の意図は、結局、この記事では、謎のままです。

 『ニューヨーク・タイムズ』は、米軍側からの真っ当な作戦指示を、戦場の最前線に立つウクライナ軍が、しばしば裏切り、その結果、軍事的な失敗がもたされたことを強調しています。

 戦場での失敗や敗走の責任は、米軍にはなく、米軍に従わなかったウクライナ軍にある、という責任転嫁の匂いが、そこかしこから漂ってきます。

 その点は、ハリウッド映画のような、潤色がなされていると、疑ってかかっていいでしょう。

 『ニューヨーク・タイムズ』は、いくつかのロシア軍の失敗や敗走については言及します。

 ウクライナと米国が作戦をエスカレートしていった背景には、戦場におけるロシア軍の粘り、戦略や戦術的優越などがあったと思われますが、そうしたロシアの「勝因」については、まったくといっていいほど、言及されていません。

 これでは、ロシアと対峙する「西側」は、ここまでの苦い「敗戦」から、教訓を学び取ることができません。

 ただ、「連合軍」を指揮し、運用してゆくというのは、難しいということだけは、確実に伝わってきます。その点は、米軍と自衛隊の関係でも、言えることでしょう。

 第1回から第4回までは、以下より御覧ください。

 以下から、第5回の仮訳となります。


 レッドラインは、動き続けた。

 ウクライナが、クリミアを飛び越えて攻撃できるようになると、ロシア軍に悟られないよう、エイタクムス(陸軍戦術ミサイルシステム、Army Tactical Missile System、射程最大300km)は、早春、秘密裏に到着した。

 そして、SME(Subject Matter Experts、専門分野の軍事専門家)の姿もあった。

 数ヶ月前、米国軍のウクライナ領内駐留禁止が(ひそかに)緩和され、アグト中将は、12人ほどの将校からなる小規模な部隊を、キエフに派遣することを許可されていた。

 本格的な戦争へと向かうこととなった、南ベトナムに派遣された米軍事顧問団の記憶を呼び起こさないよう、彼らは「分野別専門家」と呼ばれることになった。

 その後、ウクライナ指導部の刷新後、信頼関係と連携を強化するため、バイデン政権はキエフ駐在の将校の数を3倍以上の約30人に増員した。

 依然としてキエフ地域に限定されはていたが、彼らは今や明らかに(軍事)顧問と呼べるようになっていた。

 しかし、おそらく最も厳しいレッドラインは、ロシア国境だった。間もなく、この境界線も、再設定されることになる。

 4月、資金調達の行き詰まりはついに解消された。

 追加の180基のエイタクムス、数十台の装甲車両、そして8万5000発の155ミリ砲弾が、ポーランドから流入し始めた。

 しかし、連合軍の情報部は別の動きを察知していた。

 それは、ロシア軍の新編隊の一部である第44軍団が、ウクライナ国境のすぐ北にあるベルゴロドに向かって移動している姿だった。

 ロシア軍は、ウクライナ軍が米国の援助を待つ間、わずかな猶予期間があると見て、ウクライナ北部で、新たな戦線を開く準備を整えていた。

 ロシア軍は、ハリコフを取り囲む主要道路に到達し、このウクライナ国内2番目の都市を砲撃し、100万人以上の命を脅かそうとしているとウクライナ軍は考えていた。

 ロシア軍の攻勢は、根本的な非対称性を露呈させた。

 ロシア軍は、国境のすぐ向こうから砲撃して部隊を支援できたが、ウクライナ軍は、米国の装備や情報を用いて反撃することができなかったのだ。

 しかし、危険は機会をも生んだ。

 ロシア軍は安全に無頓着で、ウクライナ軍のロシア攻撃を、(米国の表向きの表明を信用して)米国が決して許さないだろうと考えており、部隊とその装備全体を、野原にそのまま、ほとんど無防備に配備していた。

 ウクライナ軍は、米国が供給した兵器を、国境を越えて使用する許可を求めた。

 さらに、カヴォリ将軍とアグト中将は、ヴィースバーデンが、ウクライナ全土やクリミア半島で行ったように、攻撃の誘導に協力し、重要地点と正確な座標を提供することを提案した。

 ホワイトハウスが、これらの問題をまだ議論していた5月10日、ロシア軍が攻撃を開始した。

 この瞬間、バイデン政権は、ゲームのルールを変えた。

 カヴォリ将軍とアグト中将は、「作戦ボックス」の構築を任務としていた。これによって、ロシア領土内の地域指定で、その地域に対しては、ウクライナ軍は、米国から供給された兵器を発射し、(連合軍の作戦本部のある)ヴィースバーデンは、攻撃を支援できた。

 当初、彼らは、より広範な「作戦ボックス」を提唱した。

 ハリコフに恐怖の雨を降らせていた滑空爆弾(ソ連時代の粗雑な爆弾に、翼とフィンを備えた「精密誘導兵器」に改造したもの)という、付属的脅威を包囲するためだった。

 約190マイル(300キロメートル)に及ぶ「作戦ボックス」であれば、ウクライナ軍は新たなエイタクムスを用いて、ロシア奥地の滑空爆弾発射場やその他の標的を攻撃することができる。

 しかし、オースティン氏は、これを任務の拡大と見なした。エイタクムスをルナー・ヘイル作戦から転用したくなかったのだ。

 代わりに、将官達は、2つの選択肢を策定するよう、指示された。

 1つは「作戦ボックス」をHIMARSの標準的な射程距離である約50マイル(80キロメートル)まで、ロシア国内に拡張する案、もう1つは、そのほぼ2倍まで拡張する案だった。

 最終的に、将官達の勧告に反して、バイデン氏と顧問達は、最も限定的な選択肢を選択した。

 スムイ市とハリコフを守るため、その作戦は、ニュージャージー州とほぼ同じ広さに相当する、ウクライナ北部国境ほぼ全域を網羅した。

 またCIAも、ハリコフ地域に工作員を派遣し、「作戦ボックス」内で、ウクライナ軍の作戦を支援する権限を与えられた。

 「作戦ボックス」は、5月末に発動した。ロシア軍は不意を突かれた。

 ヴィースバーデンの重要地点と座標、そしてウクライナ軍自身の情報、HIMARSによる「作戦ボックス」への攻撃は、ハリコフ防衛に役立った。ロシア軍は戦争中、最も甚大な被害を被った。

 想像を絶する事態が、現実のものとなった。

 今や米国は、ロシア主権領土内で、ロシア兵殺害に加担することになったのだ。

 2024年夏。ウクライナ軍は、北部と東部で危険なほど手薄に広がっていた。

 それでも(ウクライナの)シルスキー上級大将は、米国に対し、「私には勝利が必要だ」と繰り返し訴えていた。

 これ以前の3月、HUR(ウクライナ軍情報機関)が、ロシア南西部への地上作戦を、密かに計画していることを、米軍が突き止めた。その時、事態の予兆は現れていた。

 キエフのCIA支局長は、HUR司令官(ウクライナ国防省情報総局長)のキリロ・ブダノフ中将に、面と向かってこう言った。

 「もしロシアに越境するのなら、米国の兵器も使わず、情報支援も受けずに、そうすることになるだろう」。

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