2022年2月24日、ロシア軍のウクライナへの侵攻を起点とする紛争は、間もなくまる3年になろうとしている。
米国のバイデン前政権がウクライナを強力にバックアップし、今日まで戦いを継続してきたが、ドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲いて、風向きが変わった。
2025年1月20日に就任したトランプ大統領は、大統領選挙の時から「自分が大統領になれば24時間で停戦を実現させる」と豪語し、有権者の支持を得て当選した。
そして1月22日、自身のSNSでロシアのプーチン大統領に向けて、「今すぐ和解し、このばかげた戦争をやめろ!」と即時停戦を要求。「自分が大統領だったら始まらなかったはずの、この戦争を終わらせよう!(中略)今こそ『取引をまとめる』時だ」と呼びかけている。
この第2次トランプ政権の動向をめぐり、トランプ大統領就任目前の2024年12月、岩上安身は、『ウクライナ動乱~ソ連解体から露ウ戦争まで』(ちくま新書)の著者である、東京大学法学部の松里公孝(まつざと きみたか)教授にインタビューを行った。
松里教授は、ロシア帝国史、ウクライナ史など、旧ソ連圏の現代政治の専門家である。2023年7月に上梓した著書『ウクライナ動乱~ソ連解体から露ウ戦争まで』(ちくま新書)は、ドンバスでの命がけの現地調査と、100人を超える政治家・活動家へのインタビューにもとづき、ウクライナ、クリミア、ドンバスの現代史の深層を分析したものだ。
ユーロマイダン革命(クーデター)、クリミア併合、ウクライナ政府によるロシア語話者の差別政策、そしてロシア語話者の多いドンバスでは、8年間にわたって「民族浄化」がウクライナ軍によって行われた。
軍は「国民」に対して、無差別空爆や砲撃によって、ロシア語を話すウクライナ国民を虐殺し、1万4000人もの死者を出した。
ロシアを一方的に「悪」とみなす西側諸国は、こうしたドンバス紛争の実態を、すっかりトボけて忘れたふりをしているが、松里教授は、そうした事実をもしっかりと記している。
2022年2月のロシア侵攻以前に、ウクライナでどのような暴力が、ロシア語話者に対してふるわれていたのかは、西側の意図的なプロパガンダによって、一般的にはまったく見えなくなっている。
2014年のユーロマイダン・クーデター以降、ロシア系住民は民族浄化の対象となり、自治を求める東部ドンバス地方は、ウクライナ軍によってジェノサイドの対象となってきた。松里教授は、そのドンバス紛争について、現地調査を含めて詳しく記述している。
インタビューは、松里教授の著書に沿って、連続シリーズで進めていくことになった。ここでは、ウクライナ紛争の現状の確認となる第1部をお届けする。
2024年8月からウクライナ軍がロシア領クルスクを占領している軍事作戦について、松里教授は「そもそも、ウクライナ国内でも非常に批判が強い」とし、以下のように語った。
「ゼレンスキー大統領の記者会見でも、(今では)『これが良い作戦なのか?』とウクライナの記者から厳しく質問されている。そして、軍人自身が(作戦に)非常に不満であると。ドンバスでこれだけ劣勢なのに、そこから兵力を割いてクルスクに投入するのが、正しいやり方なのかと」
松里教授はドンバスの戦線についても、ウクライナ軍の考え方がわからないという。戦争を準備する時には、最前線と同じくらい第2戦線を重要視するものだが、ウクライナは最前線にすべての資源を投入するという特殊なやり方を採っている。そこを突破されたら、総崩れの危険があるのに、だ。
松里教授は、ウクライナ側に「ドンバスに兵力を集中する、何らかのイデオロギー」があるのではないかとし、さらには、ウクライナ社会にはびこる汚職構造によって、防衛線を作るための資金や資材が横流しされている可能性にも言及した。
岩上安身は、「ウクライナは、昨日今日、汚職で有名なところじゃなくて、(ソ連時代の)昔から酷い。パイプラインから天然ガスを盗むのが平気だったり」と話し、ポーランドで元労働副大臣だったピョートル・クルパ氏がウクライナ支援に関して、「半分はゼレンスキー及び周りの人間の私腹を肥やして、あとは闇に消えていく。半分しか前線に行かない」とウクライナのメディアに語ったことを紹介した。
※はじめに~ウクライナの隣国で関係の深いポーランドの元労働副大臣が見るに見かねて告発! ウクライナ支援金を横領していたのは、ウクライナの官僚だけでない! 米国民主党が支配する「闇のシステム」が50%も横領!「すべての欧州や米国の納税者への侮辱でもあります。このシステムは初めから終わりまで犯罪的です」!(日刊IWJガイド、2024年11月27日)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20241127#idx-1
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/54158#idx-1
このクルパ氏の指摘について、IWJの記者は、2024年12月3日の岩屋毅外務大臣の記者会見で質問した。岩屋大臣は「まったく承知しておりません」とした上で、ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序を破壊する行為、北朝鮮兵士が(ロシア支援で)ウクライナに行くのも大問題、これを認めるわけにはいかないので、我が国は今後も着実にウクライナ支援を継続する、と論点をずらした回答をしている。
※「ウクライナの役人らが西側からの支援金を横領しており、米民主党へも還流しているといわれる現状について」IWJ記者が質問! しかし、岩屋大臣は「横領の話はまったく承知をしていない。これからも、ウクライナ政府を始め、国際社会と連携し支援を継続していきたい」と1兆8000億円ものウクライナへのたれ流しを見直す気はなし! ~12.3 岩屋毅 外務大臣 定例記者会見 2024.12.3
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/525912
※G7各国にも、法務省など国内の各省庁にも共有されているウクライナの厳しい汚職の現状認識を質すIWJ記者に対し「確かに、かつて、ウクライナには、汚職というものがはびこっていることが言われた時があったが、これからも、対ウクライナ支援を行っていく」と岩屋大臣!! ~12.17 岩屋毅 外務大臣 定例記者会見 2024.12.17
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/525985
松里教授は、「一番大事なことは戦争をやめることだ」と何度も強調し、「これ以上、ウクライナ人が死ぬのを止めること。そのためには、とにかく停戦しなきゃいけない」と力を込めて、こう続けた。
「停戦というのは、領土を認めるということじゃないんです。ところが、停戦すれば、そのまま領土問題を認める(固定化する)ことになると、ゼレンスキーもプーチンも言う。逆に言えば、だから停戦ができない。停戦協定と和平条約の混同(※1)があると思うんです」。
その後、ドンバス地方がウクライナから分離独立するための国際法上の条件や、ロシアへの帰属意識に関するクリミアとドンバスの違いなどについて、ソ連邦の解体までさかのぼって、松里教授は歴史を紐解きながら解説を進めた。
また、インタビュー後半では、現在報じられている「トランプ和平案」の実現可能性について、松里教授の見解を語っていただいた。
※「ウクライナ軍が第2戦線(防衛戦)を作れないのは、資材や資金を横流ししているから!」「今、大事なことは、領土の問題は棚上げにして、とにかく現時点の境界線で、戦闘をやめること。これ以上人が死ぬのを止めること!!」~岩上安身によるインタビュー第1173回ゲスト 東京大学法学部・松里公孝教授 第1部・第1回
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/525951
※激戦の地ドンバスまで足を運び、自分の目と耳で調査した「学者魂」の研究者に聞く! 第2次トランプ政権でウクライナ政策が見直される今だからこそ、日本も、2014年のユーロマイダン革命にまで立ち返って現在に至る経緯を検証する必要がある! 岩上安身によるインタビュー第1181回 ゲスト 東京大学法学部・松里公孝教授 第1部・第2回
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/526195