【IWJブログ】戦略なき戦争へと突き進む軍事国家・日本の真実~岩上安身による軍事評論家・前田哲男氏インタビュー 2013.10.5

記事公開日:2013.10.5 テキスト動画
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 特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、日本版NSCの創設、敵基地先制攻撃論、防衛大綱の改正。安倍政権が強い意欲を持って推進するこれら外交・安全保障政策の数々は、日本を米軍と一体化させ、米軍とともに戦争を遂行できる「軍事国家」にしようとするものではないか。

 ジャーナリスト、軍事評論家で、旧日本社会党に政策提言を行っていたことでも知られる前田哲男氏は、「破局に進んでいる」と安倍政権の外交・安全保障政策に警鐘を鳴らす。

▲岩上安身のインタビューに応える前田哲男氏

▲岩上安身のインタビューに応える前田哲男氏

 10月3日、米国のケリー国務長官とヘーゲル国防長官が来日し、2プラス2(日米外務・防衛閣僚による安全保障協議会)が行われ、「日米防衛協力のための指針」いわゆるガイドラインの再改定が決定した。宇宙やサイバー空間での協力体制を促進するとともに、日本の集団的自衛権行使容認を「歓迎」するといった内容が含まれている。

 このように日米の軍事的一体化が進む一方、米国は安倍政権の復古主義的なイデオロギーに対して明確に「ノー」というメッセージを送り続けている。ケリー国務長官とヘーゲル国防長官が、千鳥ケ淵戦没者墓苑に献花したことは、そのことをはっきりとあらわしている(「米国務長官らが千鳥ヶ淵墓苑で献花」AFP、10月3日【URL】http://www.afpbb.com/articles/-/3000736)。

 こうしたダブルスタンダードにも見える米国の姿勢をどう読み解けばよいのか。そして、日本はどのような安全保障戦略を描けばよいのか。少なくとも、現在の安倍政権のように、原発という致命的な核自爆の爆弾を体に巻きつけたまま、軍事国家化に突き進むという愚策だけは、避けなくてはならない(※1)。

(※1)安倍政権の外交が国際的孤立状態に陥っていることは、メルマガ「IWJ特報」第95・96号で詳細に解説したので、そちらを参照されたい

 インタビューでは、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認といった今日的な話題から、核戦略と原発を推進する米国軍産複合体の思惑、隠されてきた日本の核兵器保有の欲望、さらには旧日本軍による重慶無差別爆撃、古代から連綿と続く「戦争の思想」に至るまで、幅広くお話をうかがった。

以下、インタビューの実況ツイートをリライトして掲載します

忘れられた殺戮 重慶無差別爆撃について

岩上安身(以下、岩上)「今日はお聞きしたいことが山ほどあります。特別秘密保護法、日本版NSC、集団的自衛権の行使容認、敵基地先制攻撃論…。私には、現在の日本は戦争に突き進んでいるようにしか思えません。今日は、安全保障や軍事の問題についてお話をうかがいたいと思います。

 まず、戦争の思想についておうかがいしたいと思います。前田先生は日本軍による重慶爆撃について研究されていますね。現在の軍事国家化は旧日本軍の延長線にあります」

前田哲男氏(以下、前田・敬称略)「戦争の歴史は、人類の歴史と重なり合います。

 古くは、古代ギリシャや古代ローマの密集戦、すなわち白兵戦・肉弾戦から始まります。その後、弓矢と銃の登場が戦略を一変させ、散兵戦が展開されるようになります。さらに産業革命で大砲が作られるようになり、長距離での攻撃が可能になりました。ナポレオンの戦争などを見れば分かると思います。

 戦争が劇的に変わったのは20世紀になってからです。航空機の開発により、垂直戦が始まりました。なかでも爆撃機は、『空飛ぶ砲兵』と言われます。爆撃機の登場により、20世紀の戦争は立体化されました。その代表として、ドイツ軍によるゲルニカ爆撃、そして日本軍による重慶爆撃があげられます」

岩上「今の若い日本人は、重慶爆撃についてほとんど知りません。歴史の授業で教わることもまずありません。重慶爆撃は戦争の歴史においてどのような意味を持つのか、解説していただけますでしょうか」

前田「1937年7月7日の盧溝橋事件をきっかけに、日本と中国は全面戦争に突入します。

 日中戦争が始まると、それまで対立していた国民党の蒋介石と共産党の毛沢東が統一戦線を作ります。これが国共合作です。蒋介石は当時の首都・南京が日本軍に制圧された後、拠点を内陸部の漢口、さらにはより奥地の四川省重慶に移します。ここに臨時首都を作り、日本軍に対する徹底抗戦を宣言しました。

 重慶は奥地なので、日本陸軍の歩兵部隊が到達することができませんでした。そこで大本営は、武漢に基地を作り、1トン程度の爆弾を積める爆撃機で重慶を爆撃することにしました。日米が開戦するまでの3年近く、計218回にわたり爆撃しました。ナチスがスペインのゲルニカへ爆撃を行ったのは一夜限りでしたが、重慶爆撃は長く続いたのです。

 しかし、中国では文化大革命が終わるまで、この重慶爆撃は研究されませんでした。なぜなら、戦後の中国共産党政権からすれば、国民党の蒋介石が重慶で頑張ったという事実が都合の悪いものだったからです。

 日本が重慶で行ったような無差別爆撃の戦略的な意味は、国民のモラルや戦闘継続の意欲を削ぐ効果があります。東京大空襲と同じように、日本の爆撃機は焼夷弾で重慶の民家を焼き払いました。

 しかし、日本軍が重慶で行った無差別爆撃の戦略は、その後、皮肉なことに東京大空襲・原爆投下ということで日本にブーメランのように跳ね返ってくることになります」

岩上「中国には上海のような沿岸部の都市もありますが、そこが陥落しても、重慶のような奥地に退却して耐えることができます。しかし、日本は島国であり、主要都市は海岸にあって、退却する場所はありません。非常に守りに弱い」

前田「縦深が浅い、日本の地理的特質です。他方、日本は大陸から切り離された島国です。だから、鎖国という世界に例のない政策を取ることができました。日本が島国であるということは、安全保障上重要な意味を持っています。しかし、明治維新後の日本は、それを自ら破って、朝鮮半島と大陸に出ていくことを選んでしまいました」

大陸進出の欲望と重なるTPP

岩上「菅直人政権が『第3の開国』ということでTPPを言い始めました。『第1の開国』は明治維新、『第2の開国』は敗戦です。TPPが『第3の開国』だと言うならば、『第1の開国』である明治維新後すぐさま、日本が朝鮮半島、大陸に進出していったことを思い出さざるをえません」

前田「TPP交渉に参加するということは、単に経済の問題ではありません。私たちが極東にいるということ、そして鎖国という政策を300年近くも維持できたということ、このようなことを考えなおすきっかけにするべきだと思います」

岩上「韓国は、日本よりも一歩先に米韓FTAを締結しています。米国のUSTRは、世界中に米国のグローバル企業に有利な状況を作り出そうとしています。米韓FTAは、韓国にとってはとんでもない不平等条約です。しかし、韓国の李明博前大統領は、安全保障上の政策としてFTAを締結したと言われています。TPPも同じではないでしょうか(※2)」

(※2)米韓FTAがTPPの先行モデルであるという指摘は、米USTRのウェンディ・カトラー代表補と面会した山田正彦元農水相が繰り返し指摘している。

前田「冷戦以降の流れを押さえておく必要があると思います。90年代、マレーシアのマハティール首相が、東アジア経済グループ構想(EAEG構想)を提唱し、米国から距離を取った東南アジア経済圏を呼びかけました。すると、米国はマハティール政権を潰しました」

ずるずると進む安保再定義

岩上「日米安保についてお聞きします。60年代、70年代には、国民の間に大きな反安保闘争がありました。しかし、その後も日米安保は再定義されてきましたが、反対闘争どころか、議論すらもろくに行われていません」

前田「細川護熙政権の時、従来の日米安保体制を相対化し、多角的安全保障と国連による集団安全保障をうたった『樋口レポート』が出ました。しかし、米国はそれへのカウンターとして、『ナイ・レポート』を出します。

 細川、羽田、村山という非自民政権に対し、米国からは『同盟漂流』という主張がなされ、圧力がかかりました。その後、橋本龍太郎政権が発足した際、クリントン大統領が来日して安保再定義が正式に確認されました。

 さらに、小渕恵三政権で周辺事態法、小泉純一郎政権で有事立法ができます。このように日米安保の内実はどんどん変わり、国内法に反映されていったのです。

 そして、アンダーグラウンドで行われている密約の世界というものがあります。民主党政権の時、岡田克也外相の調査委員会が一部明らかにしましたが、それはほんの一部でしょう。そこには大変な深い闇があると思います」

核は使えない兵器になった

岩上「日本の安保の歴史は、沖縄の歴史であり、核兵器の歴史です」

前田「戦後の核戦略には二つの段階があります。まず、核による大量報復という、『ダレス=アイゼンハワー戦略』というものがありました。朝鮮戦争でも、核兵器の使用が検討されました。

 その後、冷戦期にソ連の核保有が明らかになると、相互破壊戦略いわゆる『ケネディ=マクナマラ戦略』というものが登場します。仮にソ連から核の一撃を受けても、その攻撃に耐えて、相手に対して確実に損害を与える戦力を持つことで、核攻撃を抑止しようというものです。

 さらにその後、核の相互抑止戦略へと転換します。たとえ先制攻撃に成功したとしても、報復攻撃を受けるため、お互いが耐え難い損害をこうむるということを相互に理解し、核の使用を抑止しよう、というものです。

 ただ、この相互抑止戦略は、お互いの指導者が理性的な思考を行い、合理的な判断をくだすということが前提とされています。しかし冷戦後、ビン・ラディンのようなテロリストに対しては、理性的な思考や合理的な判断という前提は共有されません。したがって、核は抑止効果がなくなります。

 こうして核抑止の時代は終わり、核は使えない兵器になりました。そこで、2009年4月5日の、『核兵器のない世界の平和と安全』をうたった、オバマ大統領のプラハ演説ということになりました(※3)。しかし、核開発利権、原発利権を持っている米国の軍産複合体は、それを簡単には許しません」

(※3)米ソ冷戦期の核開発に関しては、長崎大学核兵器廃絶センターの梅林宏道氏に詳しい話をうかがった

戦争の「ロボット化」と「形而上化」

岩上「先日、オリバー・ストーン監督とピーターカズニック教授が来日しました。その際、『核が万能だった時代はすでに終わり、今はサイバー、スペース(宇宙)、ドローン(無人爆撃機)といった新たな通常兵器の時代なのだ』と発言しました。核は使えない。ならば、米国は使える兵器で戦争をやろうとしている、というのです。『核なき世界』を口にしたのが、キッシンジャーやシュルツのような保守派のような大物であることに留意すべきだと警告を発していました(※4)」

(※4)来日したオリバー・ストーン監督とピーターカズニック教授の記者会見で質問をするとともに、カズニック教授への単独インタビューを行った

前田「米国の戦争の歴史には、最先端技術があります。核兵器やB29など、軍産複合体が一体となり、常に新しい兵器を生み出してきました。

 B29は、初めて成層圏を飛ぶ爆撃機でした。B29のコンセプトは昼間高高度精密爆撃機というものです。ハーバード大学に務めていた若き日のマクナマラが品質管理に関わったと言われています。B29の部品は全米の工場で製造され、莫大な軍事費が投入されました。

 米国は、技術の進歩により、無人機と戦略爆撃機で、自国から世界中のどこにでも攻撃が仕掛けられるようにしようとしています。米国は、もはや海外基地を必要としないような戦略を想定していると言われています」

 現在、演習に投入されているB2ステルス爆撃機には、まだ人が乗っています。その2世代後ぐらいの後継機としてドローン(無人爆撃機)の開発を目指しているようです。将来的には、自国の兵士が一切死ぬことのない、戦場をロボット化した状態を目指しているとされます。

 さらに、米国はサイバー戦争にも備えています。これは、『戦争の形而上化』が起こる、ということです。サイバー攻撃を受ける側は、誰が、どこから攻撃を仕掛けているのか、まったく分かりません。どこからどこまでが戦争なのかも分かりません。これまでの戦争の概念が、完全に変わってしまいます。

 冷戦期は『戦争のバロック化』と言われました。使えない核兵器をこれみよがしに誇示するため、装飾をごてごて飾り立てていた、ということです。しかし冷戦後は、米国は『戦争の形而上化』を目指しているのだろうと思います」

「靖国はノー」という米国のメッセージ

岩上「米国がそのような構想を持っているならば、沖縄に在日米軍が駐留する理由もなくなりますが、一方で、日本から金を巻き上げ、政治的支配を強めるためにも、在日米軍を撤退させないのではないか、と思われます」

前田「米軍の長期的な構想で見れば、沖縄の米軍基地は必要なくなります。しかし、米国側が沖縄の基地を放棄することはないでしょう。なぜなら、制服の軍人の職場を確保する必要があるからです。

 また、沖縄の基地は、米国が日本をおさえこんでいる、いわゆる『ビンのフタ』の役目を果たしているというメッセージを東アジア諸国に与えることができます。米国が日本の軍事的復活日本を押さえているのだ、ということです」

岩上「そうなると、タカ派的な主張を繰り返す安倍総理の存在は、米国にとって煙たいのでしょうか」

前田「米国はよく分からないでいるのではないかと思います。安倍総理は、米国追従の姿勢を見せつつ、復古主義的な側面を見せています。これは完全に分裂状態です。安倍総理の政治生命は長くないのではないでしょうか。

 新しい駐日大使として、キャロライン・ケネディ氏というリベラル派が選ばれました。さらに、昨日の『2プラス2』(米国側から国務長官と国防長官、日本側から外務大臣と防衛大臣の4者で外交と安全保障に関して協議する会議)のために来日したケリー国務長官とヘーゲル国防長官は、千鳥ヶ淵戦没者墓苑に献花しました。これは、『靖国はノーだ』という、米国のはっきりとしたメッセージだと思います。日本政府は、相当ショックを受けているのではないでしょうか」

安倍総理に至る侵略イデオロギーの系譜

岩上「一昨日(10月2日)、消費税増税を発表する総理会見で、安倍総理は吉田松陰の名前をわざわざ持ちだして、高い評価を与えました。幕末維新期の最大のイデオローグである吉田松陰を評価するということは、尊皇攘夷のイデオロギー、戦前の明治国家、大日本帝国という国のあり方を評価するということです。

 吉田松陰は、侵略イデオロギーを維新の志士たちに鼓吹した人物でもあります。会沢正志斎のような水戸学派が広めていた国体思想を学び、長州藩の志士達に吹き込んでいきました。安倍総理が吉田松陰を持ち出すことは、韓国にしてみれば非常に好戦的姿勢に見えるのではないでしょうか」

前田「幕末以降、日本には2つの対外進出の考え方がありました。北進論(大陸国防策)と南進論(海洋発展策)です。前者が、吉田松陰から桂太郎、田中義一に至る、長州閥の旧陸軍に引き継がれていきます。後者が、海援隊の坂本龍馬にはじまり、薩摩閥の山本権兵衛など、旧海軍の系譜ということになります」

岩上「長州出身の伊藤博文は、韓国併合に深く関わっています。山県有朋しかり、です。現在の日本の歴史認識において、満州事変以降の日本史については、あれは行き過ぎだったと反省するものの、それ以降の日清・日露戦争に勝利をおさめた時代については、『栄光の明治』などと胸を張り、批判的に省みられることはほとんどありません。肯定されます。しかし、実際には朝鮮半島が戦場となり、韓国を併合しました。それを忘れている限り、日本と韓国・北朝鮮との歴史認識の溝は埋まりません」

敵基地先制攻撃論の粗雑さ

岩上「今、北朝鮮の核弾頭ミサイルへの抑止として、敵基地先制攻撃論などということが言われています」

前田「敵基地先制攻撃論を初めに言ったのは、当時防衛庁長官だった石破茂氏です。日本の個別的自衛権を拡張することで、北朝鮮のミサイル基地を先制攻撃できるのではないか、と考えました。

 北朝鮮によるミサイル発射が予測される場合、座して死を待つのではなく、たとえ国外であっても、ミサイル基地を叩くことは憲法9条でも認められているはずだ、という議論です。

 しかし、ミサイルが日本に向かうだろうということを、どうやって認定するのでしょうか。さらに、ミサイル弾頭に核が搭載されていることを、どうやって認定するのでしょうか。大変乱暴な議論です(※5)」

(※5)自民党の石破茂幹事長は4月14日のフジテレビの番組内で、北朝鮮によるミサイル発射の可能性を踏まえ、自衛隊による敵基地攻撃能力の保有を検討すべきだとの認識を示した(「敵基地攻撃能力検討を 自民・石破幹事長」msn産経、2013年4月14日【URL】http://on-msn.com/130RzEP)。また、小野寺五典防衛相は7月16日、ウォールストリート・ジャーナルのインタビューに応え、年末に予定されている防衛大綱の見直しにあわせ、自衛隊への敵基地攻撃能力の付与を検討していると語った(「新防衛大綱で敵基地攻撃能力の付与検討=小野寺防衛相」ウォールストリート・ジャーナル、2013年7月17日【URL】http://on.wsj.com/12UaEHu)。

日本は「Nマイナス1」

岩上「私は、日本は軍事国家を目指しているのではないかと考えています。しかし、国中に原発を抱えたまま、戦争に突入することなど、狂気の沙汰ではないでしょうか。『原発×戦争』リスクということを考えなければならないと思います。日米合同軍事演習シミュレーション『ヤマサクラ』によれば、『原発銀座』の若狭湾が戦場に想定されています(※6)」

(※6)日米合同軍事演習「ヤマサクラ」に関しては、以下のインタビューに詳しい

▲日米合同軍事演習「ヤマサクラ」

▲日米合同軍事演習「ヤマサクラ」

前田「技術が発達してピンポイント爆撃が可能になりつつあります。これは、敵基地への先制攻撃を許す、という口実として利用されるかもしれません。周囲に被害をもたらさないからいいのだ、ということです」

岩上「ことによれば、自ら原発を抱えていることで、原発が狙われたら危険だ、だから先制攻撃を行うのだ、という口実に使うことを考えている者もいるのではないでしょうか。日本は、北朝鮮との間で、過去の戦争や植民地支配の清算をしないままに戦争の準備をしているかにみえます。もう一回戦争をしてしまえば、過去を上書きできると考えているようにすら見えます」

前田「戦後、自民党をはじめとする保守の側は米国の御用聞きになっていましたし、左翼・リベラルの側も、憲法9条を守りさえすればよいと考えていました。思考停止状態に陥り、独立した安全保障構想を作ろうとしてきませんでした」

岩上「米国は日本に対して、集団的自衛権行使容認を要求しつつ、同時に原発も維持させようとしています。この矛盾をどのように理解すればよいのでしょうか」

前田「米国の原発産業は、すでに黄昏を迎えています。しかし、軍産複合体は、いまだにすさまじい影響力を持っています。

 軍産複合体の中心には核産業があります。例えば、ゼネラル・エレクトリックなどはマンハッタン計画にも参加し、日本の原発産業にも関わっています。

 日本とドイツが自前で核を持たないようにするため、基礎技術は米国のものを提供して原発を作らせる。その代わりにパテント代を徴収しつつ、IAEAの査察を入れる。これが、原子力協定の枠組みです。日本は、米国の軍産複合体にとって格好のマーケットなのです」

岩上「日本の保守の一部は、原発を維持することでプルトニウムを保有することができ、潜在的な核武装、核抑止ができるんだということを主張しています」

前田「1968年にNPT(核不拡散条約)が調印されますが、日本はこれに8年間も加盟しませんでした。これには、外務省内の一部のグループが、日本の核武装を考えていたからだと言われています。そして現在、石破茂氏などが、潜在的核保有を、露骨に言うようになりました。
 先日、イプシロンの発射が成功しましたが、あれは1トン級の核弾頭を搭載することができるのです。つまり、日本が核弾頭ミサイルを持ったということと同じです。日本は『Nマイナス1』という状態にあると言われます。Nuclear(核)マイナス1、核保有までに1年あれば足りる状態にある、ということです」

岩上「参院選の直前、生活の党の小沢一郎氏にインタビューしました。小沢氏は、石原慎太郎さんをたきつけて尖閣購入発言のお膳立てをしたヘリテージ財団や米国のタカ派たちは、日本のタカ派をよく分かっていない、彼らは核武装の実現により、米国から自立しようとしているのだ、と断言しました(※7)」

(※7)参院選の直前、生活の党の小沢一郎代表にインタビューを行った

前田「それは最悪のシナリオです。NPT体制から離脱して、世界の孤児になることを意味します。満州事変を起こした後、国際連盟から脱退した大日本帝国のようなものです」

 秘密保護法にしても、日本版NSC構想にしても、集団的自衛権行使容認にしても、まだ国会で成立したわけではありません。秘密保護法は、これまで廃案にされてきた経緯があります。まだ阻止するチャンスはあります。しっかりとした国民的議論を喚起する必要があるのではないでしょうか」

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「【IWJブログ】戦略なき戦争へと突き進む軍事国家・日本の真実~岩上安身による軍事評論家・前田哲男氏インタビュー」への3件のフィードバック

  1. 百式改 より:

    <戦略なき戦争へと突き進む軍事国家
     全ての問題の根本は米国の属国だからです。(だから日本が軍事国家という表現はおかしいと思いますが・・・・・。)戦略なきと言いますが、米国が日本独自の戦略を持つ事すら許そうとせずあれこれ介入してきます。

     では一体どうすれば属国を抜け出せるのでしょうか?皆そこまで切り込んで欲しいと思っています。そこまで具体的に語らなければ無意味だと思います。

  2. 百式改 より:

     もう一点。中国で日本脅威論などが叫ばれますが、世界中の一般国民で日本が米国の属国だというのは別に語るまでも無い常識です。
     米国が強力な力を発揮できるのは世界第三位の経済大国の日本を意のままにしているからです。特に中国にとっては、日本から吸い上げられる金が米国の力の源の一つになっているという点が脅威なのでしょうね。
     特に日本政府や企業が血税から米国債購入を「売らないことを前提」に、実質的「貢納」を半ば強制されているのはその象徴で、米国は日本が離れると国力がかなり落ちます。

     貴サイトでこの実質的「貢納」にもっと斬り込んで欲しいと思います。

  3. @maccrosskeさん(ツイッターのご意見より) より:

    米国は安倍政権に対して二面性を抱えながら微妙な接し方、このダブルスタンダードにも見える米国の姿勢をどう読み解くか

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