「日本での戦略核配備は、反発が大きいと予想できるので、アメリカは考えていない。それよりも、沖縄など日本の米軍基地を拡大利用する方向なのではないか」とピーター・カズニック教授は語った──。
2013年8月11日(日)12時30分より、東京都内のホテルで、岩上安身によるピーター・カズニック教授へのインタビューが行われた。アメリカン大学で歴史学を教えるカズニック教授は、オリバー・ストーン監督の『もうひとつのアメリカ史』の共著者である。岩上は「アメリカは、日本に核を持たせようとしているのか。ヨーロッパのようなニュークリア・シェアリングを考えているのか」などと質問。また、安倍政権の評価についても意見を求めた。
岩上は「今、日本は曲がり角にいる。2回の原爆投下、そして震災による福島の原発事故もあったのに、いまだに核にしがみついている。この状況を、どう思うか。そして、核兵器を保有させようとする、アーミテージなどのジャパンハンドラーたちの意図は、どこにあるのか」と質問した。
カズニック教授は「まず、原発の再稼働は大きな間違いだ。アイゼンハワーは、1945年当時、原爆の使用には反対の立場だったにもかかわらず、1953年に大統領になるとスタンスを変え、ニュールック戦略という、通常兵器を削減して核兵器に依存する方向に走る。原発などの原子力平和利用は、核兵器の正当化に使われた。ちなみに、広島に最初の原発を作る計画まであった。そして、読売新聞などによるプロパガンダを背景に、日本に原発が作られていく」と振り返った。
続けて、「私が1995年に初めて来日した時、広島の電力の35%が原子力で賄われていることに驚いた。今、日本はプルトニウムをたくさん持っていて、核兵器保有国の一歩手前だ。原発に関しては、日本は、地震や津波、またテロ攻撃にも脆弱なため、とても危険だ。アメリカの一部には、朝鮮戦争以来、日本に平和憲法9条を捨てさせようという動きがあり、それは安倍政権の現在にも引き継がれている」などと話した。
岩上は、「アーミテージらは、日本に憲法9条を捨てさせて、軍事国家にしたいようだが、核保有、つまりヨーロッパのようにアメリカの管理のもと、核兵器共有(ニュークリア・シェアリング)をさせようとしているのか」と、さらに訊いた。
カズニック教授は「アメリカでは、ほとんどの人々は、冷戦時代を引き継いでいるヨーロッパのニュークリア・シェアリングについては否定的だ。ロシアがヨーロッパを侵略するとは、思っていない。しかし、ジョン・マケインのような上院議員たちの中に、グルジアをNATO(北大西洋条約機構)に引き入れ、ロシアを挑発する勢力があることも確かだ」とした。
その上で、「日本での戦略核配備は、反発が大きいと予想できるので、考えてはいない。すでにアメリカ国内では、核兵器は時代遅れという認識になっている。キッシンジャーやシュルツなどの元国務長官たちですら、不要論を唱えているくらいだ。それよりも、沖縄などの、日本の米軍基地を拡大利用する方向を考えているのではないか」と答えた。
岩上は「一方で、オバマ大統領やアメリカ国務省は、安倍政権を冷遇している。アメリカに忠実な日本を、歴史問題を反省しない危険な国、と扱う。このダブル・メッセージは、どう理解すべきか」と質問を重ねた。
それに対してカズニック教授は、「アメリカは、アジアン・ピボット(アジア回帰戦略)で、オーストラリアやフィリピンなどに軍を増強している。一方では、台湾に兵器を売ったり、日本にミサイル防衛システムなどを売っている。冷戦時代のソ連を中国に置き換え、エアシーバトルなどの合同訓練も行なっている」と説明。「このような状況で、日本に隣国を刺激してほしくないのだ。アジア諸国の、日本に対する不信感は払拭できていないからだ。オバマ政権は、戦争は望んでいないが、両方をうまくハンドリングしているのではないだろうか。もちろん、安倍、橋下、石原などの唱える右傾化は、危惧している」と持論を述べた。
岩上が「今、日本は核を持つ寸前で、憲法改正の動きもある。報道管制も強くなり、ファシズムに近くなりつつある。日本は、これから独自に核を持つと思うか。また、アメリカは、日本に核を持たせるのだろうか。カズニック教授の考えは」と質問した。
カズニック教授は「アメリカは、日本に『太平洋エリアで大きな役割を担ってほしい』とは思っているが、核武装に関しては、それほど重要視していないだろう。アメリカには、陸海空に宇宙やサイバー空間などを視野に入れた、総合的な戦略があるからだ。日本には、アメリカの弟分的な立場であり続けることを望んでいる。つまり、『日本に核武装できる能力は維持させたいが、本当に核武装させたいわけではない』のだと思う」と見解を述べた。
続けて、「そのためアメリカは、沖縄などの米軍基地の維持を望んでいる。核兵器は、ロシア、インド、パキスタン、北朝鮮など、経済力の弱い国にとっては挑発的な意味で価値はあるのだが、日本のような、世界でも有数の経済力と技術力のある国には、あまり意味はない」と語った。
それを受けた岩上が、「では、現在の日本の右傾化と、その先の核保有について、懸念はないのか。日本が、アメリカの意思を離れて、核武装独立するという可能性についてだが」と問いかけると、カズニック教授は「日本の右翼たちも、実際は、核武装に対する国民の大きな反発を予想しているのではないか。かつてのアメリカのように、毎日、戦場から若者の死体が返ってくるような状況を、日本の人々が受け入れられるとは思えない。いい意味で、(日本政府に)そこまでの度胸はない」とした。
また、カズニック教授は「東電が、今でも汚染水問題などの情報隠蔽をしているにもかかわらず、エジプトやトルコとは違って、多くの日本人はまったく静かだ」とした上で、「国民の安倍政権への支持は、主に経済政策に対してだ。安倍政権は、他の目論みにも、その勢いを利用しようとしているが、国民が同じように支持するとは思えない。経済政策で溜め込んだ大きな資産を、軍備に多大に使おうとした時点で、大きな反発が起こると思う。大衆は、それは許さないのではないか」と指摘した。
なぜにグルジア。