安倍晋三総理は9月5日に行われた日米首脳会談で、米国が要求していた「TPPの年内妥結」に同意した。元農水大臣で、8月30日に閉幕した第19回ブルネイ交渉会合にステークホルダー(利害関係者)として参加し、情報収集にあたった山田正彦氏(TPP阻止国民会議 副代表世話人)は、「マレーシアやチリなど他の参加国、また米国内からもTPPへの反対意見が強まり、米国も焦っている」と明かす。
9月9日、岩上安身のインタビューに応えた山田氏は、ブルネイで鶴岡首席交渉官や、マレーシアの首席交渉官と意見交換した内容を詳細に語った。
鶴岡公二首席交渉官は、山田氏に対し「すべての交渉はまだこれからだ」と堂々話したという。しかしマレーシアの首席交渉官は、「TPP全29章中14章はすでに文言も固まった。あとは閣僚会合で確認してもらえれば確定する」と断言しているが、これに対し鶴岡氏は「そうした情報、新聞の言っていることはすべて誤報だ」と言い放ったという。山田氏は「鶴岡氏は明らかに嘘をついている」と批判する。
また、自民党が「ISD条項(※)が含まれるなら交渉撤退」と公約で掲げているのに、ブルネイで鶴岡氏が先陣を切ってISD条項を支持したことについて、鶴岡氏は「発展途上国に進出する輸出企業にとって武器になる。日本の利益になる」と答えたという。山田氏が「カナダや韓国は米国にISDでやられているではないか」と問うと、鶴岡氏は「日本は強い国だから米国には負けない」と自信満々といった様子で断言したという。
山田氏は、韓国が米韓FTAの際に「韓国は強い国だから米国に負けない」と言っていたことを挙げ、「鶴岡氏もそれと同じ発想。彼も本当は分かっているのではないか」と語った。
(※)ISD条項
海外の企業や投資家が、投資先の国の法律や規制によって「不利益を被った」として、その国の政府を訴えることができる条項。裁判はその国の裁判所ではなく、米国ワシントンにある世界銀行内の仲裁機関において、非公開のなか、一審制で行われる。数千億円という高額の損害賠償請求が発生するため、訴えられる前に自国内で法律や規制を変えてしまおうという「萎縮効果」が問題視されている。