「トランプは完全に信頼を失っている。ロシアは西側をいかなる形でも信頼できない。西側のロシアに対する信頼は最低限の状態で、1990年代以前よりもはるかに低い水準にある」!「欧州は米国に、『自分達を利用して、ロシアと戦ってほしい』とさえ思っている」! 「ロシア、中国、イラン、北朝鮮は、協力を望みつつも、実際には独立を維持したいと考えている」!! 岩上安身によるインタビュー第1200回ゲスト neutralitystudies.com主宰 京都大学大学院法学研究科・准教授パスカル・ロッタ博士(中編) 2025.7.16

記事公開日:2025.8.1取材地: テキスト動画独自
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(文・IWJ編集部)

特集 ロシア、ウクライナ侵攻!!
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 2025年8月1日、「岩上安身によるインタビュー第1200回ゲスト neutralitystudies.com主宰 京都大学大学院法学研究科・准教授パスカル・ロッタ博士(中編)」を初配信した。

 インタビューの前編は、以下のURLからご視聴いただきたい。

 岩上安身は、ウクライナの戦況について、「着地点は、いったいどのあたりで、どういう形になるのだろうか」「トランプ大統領による、ロシアへの制裁だけを一方的に強めた停戦圧力というのは、有効なのだろうか?」と、質問した。

 これに対して、パスカル・ロッタ氏は、以下のように答えた。

 「私が考えるに、考慮すべき点は2つあります。

 1つ目は、現在、ロシアは戦場で依然として勝ち続けているという点です。2022年から続くこの戦争は(これを紛争ではなく戦争と呼ぶことにしましょう)、様々な形態を帯びた戦争でしたね?

 ロシアはゼレンスキーを早期の停戦交渉に追い込み、彼らを本当に脅かすことを目的として、ウクライナに侵攻しました。

 ロシアの計画は、ほぼ成功寸前までいきました。4月には、ウクライナの中立化と非軍事化などに関する合意がほぼ成立寸前までいっていました。

 しかし、その合意は、ボリス・ジョンソン(英前首相)によって、沈没させられました。そして、米国は、『戦うべきだ』と主張しました。

 そして、ゼレンスキーは『わかった、戦う』と言いました。

 ロシアは(当初、戦いを継続するための)十分な兵力を投入せずに、ウクライナに侵攻しました。彼らは、再編成のため撤退を余儀なくされました。

 そして、約1年をかけて、軍を再編成し、過去3年間続いた消耗戦を展開できる態勢を整えました。

 ロシアの戦略の全体は、ウクライナ軍を大幅に削減することでした。そして、ウクライナ軍だけでなく、NATOの装備もですね。彼らは、NATOがウクライナに与えたすべての兵器を破壊しました。なぜなら、それがもうひとつの武装解除の方法だからです。

 可能であれば、合意によって武装解除することもできましたが、ロシアはウクライナを武装解除するために、兵士を殺害し、装備を破壊しました。

 約6~8ヶ月前、9ヶ月前から、ロシアは攻勢に転じ、少しずつ、少しずつ、領土を奪うという、戦争の新たな段階に入りました。ロシアは、過度に領土を拡大しないよう、とても慎重に進めています。

 彼らは現在、遅かれ早かれ、戦闘の終結を確立するために、領土を獲得しようとしています。ロシアも、他の国々と同じように、いずれは戦闘を停止する必要があることを知っているからですよね。

 問題は、どのようにして止めるかです。今や、米国側は、停戦を望んでいると言っていますが、勝っている側にとって、停戦はナンセンスです。

 ロシア側は、『安全地帯や緩衝地帯を確立しないまま、今ここで停戦すれば、ウクライナ側に再軍備する時間を与え、さらにNATOに武器を供給する時間を与える。彼らは、再び、我々を攻撃するだろう』と主張しています。

 ロシア側は、『我々はそういうことはしない』と述べています。ただし、重要な点は、ロシア側が『交渉しない』とは言っていない、ということです。

 彼らは、ウクライナ人と会い、米国人と交渉しました。ドナルド・トランプがうまくやったことの1つは、外交を再開したことです。ロシアが、ついに相手側と話しあいができるようになったことを、喜んでいる様子が伝わってきました。

 ロシア側は、交渉に応じる用意がありました。しかし、この交渉戦略は、ロシアを停止させることを目的としています。ロシアは『いや、我々は(戦闘を)続ける。軍事的手段と外交的手段を同時に進める』と言いました。

 それは、米国人が受け入れたくない点です。彼らは、『まず停止すべきだ。その後で合意を締結しよう』と言いました。しかし、ロシアは、『合意を締結してから、停止する』と主張しました。

 ロシアにとって、『合意』とは、紛争を根本から解決するための合意であり、そのための構造を指すのです。これによって、1年や2年で再び問題が再発するのを防ぐことができます。そのため、彼らは包括的な和平合意を求めています。

 米国は、停戦を求めています。『即時停止し、後で再開するにしろ、現在は、一時停止する』。

 しかし、ロシアは『いいえ、和平合意で終結するか、軍事的に終結するか、どちらかを選択し、両方を同時に実行する』と主張しています。

 これが現在の状況です」。

 続いて岩上安身は、現在、ロシア軍側は東部のルガンスク州全体と支配下に収め、そして要衝都市ポクロフスクなどで戦闘の続くドネツク州で前進し、あとは黒海沿岸の港湾都市オデッサがひとつの焦点になるのではないか、と問いかけた。

 オデッサは、ロシア語話者の多く住む都市である。

 2014年のユーロ・マイダン・クーデターの直後は、ウクライナ各地でロシア語話者が、「単にロシア語を話す」というだけで暴力の対象となったが、このオデッサでは、象徴的な事件が起きた。

 ネオナチの暴力から逃げたロシア語話者の市民が、労働会館という建物に逃げ込み、その建物ごと放火され、ひと晩中燃やされて数十人が惨殺されたむごたらしい事件が起きたのである。

 ウクライナ政府は、こうしたポグロム(レイシズムにもとづく無差別殺人)に際して、暴力の停止や、犯人の捜査を行なっていない。放置するがままであった。

 ロッタ氏は、岩上安身の質問に「私にはわかりません」と述べ、以下のように答えた。

 「つまり、2014年に戦争が始まったとみるならば、ロシアの8年間にわたる戦略は、ドンバスをウクライナ内に留めることだったことがわかります。

 クリミアは、そうではありませんでした。クリミアは、常に別格でした。

 そのため、ロシアはクリミアを非常に迅速に占領し、『これは戦略的要衝であり、いかなる形であれ、クリミアへのアクセスを断つことは容認できない』と主張しました。そうやって、彼らはクリミアを占領しました。

 ロシア人にとって、常に、クリミアは、(ロシアと)ともにあるべきだということは、明白でした。

 しかし、ドンバスについては、それをウクライナ国内に留める戦略でした。なぜなら、そうすれば、次期政府の選挙など、公の投票結果をコントロールできるからです。ロシア語話者達が、ヤヌコビッチ型の中立派政府などに、再び投票するといった機会が得られるからです。

 それが(ロシアの)戦略でした。その戦略は、2022年に変更を余儀なくされました。なぜなら、ロシアがNATOの統合が進む脅威に対応して、ドンバスへの爆撃を強化したからです。

 私達は今日、これが単なるロシアの妄想のようなものではなかったことを知っています。

 『ニューヨーク・タイムズ』は、2014年からCIAが(ウクライナ領内に)基地を構築し、CIAがこの地域に浸透していたと報じています(※)。

  • CIAがウクライナに「12の秘密スパイ基地」を建設し、過去10年にわたり影の戦争をしていたことが、『ニューヨーク・タイムズ』の調査報道で明らかに!! 他方、スコット・リッター氏は、「ナワルヌイは、プーチンを打倒するために、CIAと英国MI6の資金で『反体制派』に育てられた」と暴露!! IWJは近日中にこのスコット・リッター氏の重要論文を仮訳・粗訳し、IWJ号外として出します! 必読です!(日刊IWJガイド、2024年2月28日)
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 CIAは、ウクライナに浸透していました。彼ら自身が認めたことは、事実です。そのため、ロシアは、正当か否かに関わらず、侵攻しましたが、その戦略は適切でした。

 ドンバスは、ロシアの一部となり、ウクライナの残る地域は、武装解除されるはずでした。そして、ウクライナを中立化し、武装解除し、ナチズムを排除する合意が成立するはずでしたね。

 しかし、それは、実際にはうまくいきませんでした。そのため、ロシアはさらに踏み込まざるを得なくなり、現在、ロシアの主張に対する道義的な非難が、私達の方からも向けられるようになりました。

 そして、オデッサ。ロシア国内には、オデッサが必要だと主張する政治家達がいます。その人物は、プーチン氏の前任である、元大統領のメドベージェフ氏です。メドベージェフ氏は、非常に強力で極端なタカ派、ですよね?

 彼は、『オデッサは、私達のものになるべきだ』などと言います。

 しかし、ロシア国内では、これはまだ、規定事項ではありません。交渉の行方と、軍事的にどのような判断が下されるかにかかっています。

 もちろん、ロシアが政治的な目的を達成できず、(戦闘を)継続せざるを得ないか、続ける場合、オデッサの占領は、次の論理的なステップとなるでしょう。ただし、オデッサを奪う戦いは、極めて困難で、過酷な戦いとなることを、過小評価してはなりません。

 ロシアは、繰り返し、交渉を通じて合意に達することができるのであれば、戦闘による解決よりもそのほうがいい、と表明してきました。したがって、状況の展開次第でかわってくるでしょう。

 しかし、ヨーロッパ諸国と米国が、ウクライナへの武器供与を継続するならば、その場合、ロシアは『わかった、では戦場で決着をつけよう』と言うだろうと、私は確信しています。

 それは、おそらく可能でしょう。しかし、繰り返しますが、ロシア側でも多くの命が失われることになります。ウクライナ側だけでなく、ロシア側も、です」。

 岩上安身は「ロシアは、どこかで妥協できるという思いが、もうないんだなというふうに感じ取れる」と指摘し、「プーチンは、腹を決めてしまっているんじゃないかと、とても悲観的な感じがする」と述べた。

 これに対して、ロッタ氏は、次のように応じた。

■全編動画

  • 日時 2025年7月16日(水)16:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

 「私達は、いくつもの問題を抱えています。

 1つ目は、当然ながら彼(トランプ)は、完全に信頼を失っています。

 ロシアは、西側をいかなる形でも信頼できません。できることは、エスカレーションを防ぐための、検証可能なメカニズムを構築することだけです。

 検証可能なメカニズムとは、例えば、スコット・リッター氏が支持するような仕組み、弾道ミサイル防衛条約(ABM条約※)のようなものになるでしょう。

※弾道弾迎撃ミサイル制限条約。1972年に米ソ間で締結された。米国は、2002年、ジョージ・W・ブッシュ政権の時に、ABM条約から離脱した。

 現地に監視要員を派遣し、実際に何が起こっているかを監視するのです。そのような仕組みは、依然として可能ですが、信頼は徹底的に失われています。

 問題は、西側についてもあります。ロシアに対する信頼は、最低限の状態にあります。ドイツ人やフランス人、イギリス人の言い分を聞けば、彼らは皆、『ロシアは常に嘘をつき、約束を破る』と言います。

 つまり、両者が、互いに相手方が常に約束を破っていると主張しています。個人的には、ロシアの方がそう主張する理由は、はるかに多いと思いますが、その点は置いておきましょう。重要なのは、彼らが何を信じているか、です。

 ロシアの政策決定者は、何を信じているのか。そして西側の政策決定者は、何を信じているのか?

 現在、彼らは互いに、相手を信頼できないと信じています。つまり、その帰結は、論理的に正しい行動は、自分が所有すべきだと信じるものを得るためには、軍事的手段を行使することだ、ということになります。

 ヨーロッパ人と米国人は、武器の供給を続けていますが、その(既存の)在庫は尽きつつあります。

 ロシアも、武器を生産しています。しかし、ミアシャイマーが指摘するように、私達は現在、安全保障のジレンマに直面しており、ロシアは、より多くの武器を生産している、という状況にあります。

 ヨーロッパ人は『(防衛費をGDP)5%にする必要がある』と言いますが、ロシア人は『平和を望むなら、それは何だ? わかった、我々は能力を強化する』と言うでしょう。

 ただし、ロシアは事実、より多くの能力を有していますが、これは他の国にも影響を及ぼします。

 今、フィンランドは、対人地雷禁止条約から脱退することを決定しました(※)。対人地雷を禁止する条約がありますよね? 地面に設置され、人が踏むと爆発する地雷です。

 その地雷を禁止する条約があります。なぜなら、これらの恐ろしい兵器は、地面に残ったままになり、いつか民間人を傷つけるからです。

 フィンランドは、その条約の当事国の一つでしたが、バルト3国やポーランドと共に、その条約から脱退する意向を表明しました。

 彼らは、ロシアからの脅威を感じているため、自国の国境地帯に地雷を埋めたいのです。

 そこで再び、ロシアはそれを察知して、『あなた達は私達との戦争を準備しているのだろう』と指摘するでしょう。

 このように、今、私達は、古典的な安全保障のジレンマの中にあるのです。

 この状況から脱却する唯一の方法は、信頼を構築する措置によるものです。

 しかし、そのようなことが起こる可能性は、1990年代以前よりもはるかに低い水準にあります。つまり、1980年代よりも低いのです。なぜなら、1980年代には、条約や、信頼を構築する措置が存在していたからです」。

 続けて岩上安身は、「欧州は、景気が後退し、米国は、財政赤字がひどくなってきている」と指摘し、「戦争の力、ウォーパワーというのは、背景に国力、国の経済力があってこそのパワーであった」と、経済的な側面からも、西側諸国のウクライナ支援=ウクライナの戦争継続能力に、懐疑的な見方を示した。

 これに対してロッタ博士は、「産業能力、つまり物を生産する能力は、過去30年間で、米国が失った(産業が、中国やベトナムに移転した)もの」だと指摘し、「米国や欧州は、武器製造能力も失い」「その工業力を取り戻すことは、非常に困難」だと、以下のように論じた。

 「米国は、武器製造においても、問題を抱えています。米国は、大規模な軍産複合体を保有し、大規模な武器製造企業を保有しています。これらの企業は、特に核心的な技術である弾薬やミサイルにおける製造において、もはや優れているとは言えません。

 技術は優れています。しかし、彼らは、大量に製造する能力に問題を抱えています。

 ロシアは、より多くの数のミサイル、(極超音速ミサイルの)オレシュニクのようなミサイルを製造することができます。米国は、製造能力を失いました。ヨーロッパ諸国は、さらに取り戻すこともできないでいます。

 この能力を再建するには、数十年の年月を要します。そして、それは非常に大きな戦略的脆弱性です。

 当然ながら、米国人は、その点に取り組んでいます。しかし、ひとたび工業力を金融力に置き換えてしまった後では、その工業力を取り戻すことは、非常に困難なことです」。

 岩上安身は、「(武器製造で)重要なのは半導体」だと述べ、「その製造のために必要なレアアースは、中国が持っている」と指摘した上で、「米国には武器を作る技術があっても、素材がないということを報じたニュースは見たことがない」と強調した。

 ロッタ博士は、「ヨーロッパ諸国はとてつもない過ちを犯していると思います。それは、今後20年から30年にわたって、彼らを苦しめることになるでしょう」と、特にエネルギー問題の面から、次のように語った。

 「エネルギーを米国に完全に依存するという決定、つまり、非常に高価な米国のLNG(液化天然ガス)を選び、ロシアから直接得られる、もっと安価なガスや石油を避けたという判断、それ自体が、重大な誤りだったのです。

 さらに、『インドから石油を輸入すればいい』という発想もそうです。彼らは、それがロシア産の石油である(インドがロシアから原油を輸入して、精製した上で欧州へ売っている)ことを承知の上で、インドから輸入しているのです。それは、完全に明白です。にもかかわらず、今のヨーロッパ諸国は、自分達が掲げる基準に従って行動しているふりをしているだけなのです。

 私にはなかなか理解しがたいのですが、これを理解するには、今のヨーロッパの政治指導層が、ある特定のナラティブ(物語)に完全に取り込まれている、という事実を認識することが、ひとつの道です。

 彼らは、『1.ロシア抜きで進む』、『1.中国に対抗する形で進む』、そして『1.大西洋を挟んだトランスアトランティック(米欧の)ネットワークの中で進む』という、この3つの道しかないと感じているのです。

 だから、彼らにとっては、実際、これが理にかなっているのです。

 しかし、私には、これは、米国がヨーロッパへの政治的将来に対する直接的な支配力を強めるための手段のようにしか見えません。それは、各国や欧州連合がある程度の独立性を維持すべきだ、という観点から見ると、ほとんどまったく、理にかなっていないのです。

 たとえ、アゼルバイジャンの石油に直接アクセスできたとしても、その石油を何らかの形で輸送する必要があります。パイプラインを建設しなければなりません。そして、アゼルバイジャンとトルコの間には、(犬猿の仲である)アルメニアも存在していますよね?

 さらに、アルメニアも現在、政治的に困難な状況にあります。欧州連合(EU)は、与党によるすべての野党への強権的な弾圧を支持しており、まさにそれが行われているのです。これは、EUが掲げている価値観や理念とまったく矛盾する、完全な偽善と言わざるを得ません」。

  • 今度は、ロシアとアゼルバイジャンが一触即発!? アゼルバイジャンは、ウクライナ・欧州・イスラエルのエネルギーハブであると同時に、ロシアとイランを結ぶ南北輸送回廊の経由地! ロシアを苛立たせたいウクライナ、アゼルバイジャンをけしかけてロシアを挑発し、イランを困らせたいイスラエル、アゼルバイジャンに疑念を募らせるイラン! マクレガー大佐は「新しい長期戦」は「イスラエルと、アゼルバイジャン・トルコ同盟が、イラン北部を攻撃し、併合するかもしれない」と予測! イラン北部には、たしかにアゼルバイジャン人と同じアゼリー人が住むが、イラン最高指導者ハメネイ師もアゼリー人!
    (日刊IWJガイド、2025年7月11日)
    会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20250711#idx-5
    非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/54825#idx-5

 さらにロッタ博士は、「なぜ、ヨーロッパ諸国は、『ヨーロッパ自身のゲーム』をしないのか?」と、次のように、対米従属姿勢を批判した。

 「実のところ、ヨーロッパは、『米国のゲーム』をプレイしていて、時には米国以上に積極的に動いていることさえあります。彼らは、米国に、『自分達を利用して、ロシアと戦ってほしい』とさえ思っているくらいです。

 それは、イデオロギーを考慮に入れない限り、なかなか理解できないことです。

 ヨーロッパにおける支配的なイデオロギーとは、『1.唯一の良い関係とは、トランスアトランティック(米欧)関係であり、それ以外のものはすべて敵対されるか、嘲笑されるか、無視されるべきものだ』という考え方ですよね。

 つまり、ヨーロッパは『アフリカ、特に北アフリカと協力する』という発想を、まったく持っていないのです。ヨーロッパは、アフリカを自分達の裏庭のように考えており、完全に見下しています。

 それは、非常に大きな戦略的ミスだと思います」。

 続いて岩上安身は、ロシアやイランが、ドローンと、オレシュニクやキンジャールといった極超音速ミサイルを併用して、米国製やイスラエル製の迎撃ミサイルシステムを実質的に無力化したことを指摘した。

 これに対してロッタ博士は、「論理的に考える人達は、米国製の迎撃ミサイルシステムが、思っていたほど役に立たないと気づき始めている」「特に、東京のような、非常に脆弱な都市にとっては大問題」だと認めた。

 その一方で、ロッタ博士は、「ウクライナも、ロシアの心臓部に、直接攻撃を仕掛けることができる」「イスラエルは、イランの科学者やジャーナリスト、政治指導者達を含む約900人を攻撃し、殺害することができた」と指摘した。

 さらにロッタ博士は、「『核兵器を持っていれば、攻撃されないだろう』という考えが、ウクライナによるロシアへの攻撃や、イスラエルによるイランへの攻撃で、否定された。それは、攻撃する側のイスラエルや、ウクライナの背後にいる米国が、核兵器保有国だから」であり、「核兵器による抑止力」という考えが、「真実ではなかった」と論じた。

 岩上安身は、「確かにイスラエルは、暗殺に成功したが、ロシアやイランは、戦略兵器(ミサイル)で勝利した」と述べ、ロシア、中国、イラン、北朝鮮が軍事的な協力関係にあることを指摘して、「これは致命的なことではないか」と言及すると、ロッタ博士は、次のように、懐疑的な見方を示した。

 「私達にとって、理解しにくいであろう一つの点は、ロシア、中国、イラン、北朝鮮といった国々が、同じ陣営にいるように見えるものの、実際にはそうではないということです。

 彼らは、過度な統合には非常に大きなリスクがあることを、強く認識していると思います。特にイランは、その意識が強いでしょう。

 イランは、ロシアと友好的な関係にあり、ロシアとの間で協定も結んでいます。しかし、イランは、慎重な姿勢です。数十年前には、良好な関係ではなかったことを覚えているのです。第2次世界大戦中に、イランが、イギリスとソ連によって侵攻されたことも、記憶しているのです。

 英国とソ連は、共同でイランに侵攻しました。これらの出来事は、今でも人々の記憶に強く残っており、特に軍部や、独立を守りたい民族主義者達の間で、強く意識されています。

 なぜなら、一度でも統合すれば、パートナーである相手に対して、自らが脆弱になるような構造を作り出してしまうからです。

 現在も、北朝鮮を含む彼らすべてが、協力を望みつつも、独立を維持したいと考えていることが見て取れます。

 しかし、その独立には、戦略的なコストが伴います。イランに起きた出来事が、その計算を変えるかどうかという疑問があります。

 問題なのは、例えばイランも、ロシアと同様に、統一された存在ではなく、さまざまな派閥が存在しているということです。

 イランには、複数の省庁があり、さらに2つの異なる軍隊を持っていますよね。

 イランには、革命防衛隊と正規軍があり、両者ともに、陸・海・空の三軍を保持しています。そして、それぞれが、一定の意思決定権を持っています。

 イランとしての最終決定権は、アヤトラ・ハメネイにありますが、彼はしばしば、異なる派閥間の調停者のように振る舞っています。

 なぜなら、イランが核兵器を製造すべきかどうかさえ、まだ決定されていない問題だからです。国内には、さまざまな意見があります。

 ロシアも同様に、今後の方針について、異なる意見が存在しています。

 ロシアは、ウラジーミル・プーチンだけの国ではありません。ウラジーミル・プーチンは、多くの権力中枢の一つに過ぎず、他の権力主体と互いに交渉しあっています。

 このため、民族主義的要素は別として、軍の垂直的な統合は進みにくい状況にあります。

 一方で、ヨーロッパと米国は、はるかに一致した立場にあります。ヨーロッパ諸国は、米国に取り込まれること、より深い統合を望んでおり、実際に、すでに高度な統合が進んでいます。

 これは、BRICS諸国には当てはまりません。BRICSの国々は、垂直統合にはあまり乗り気ではなく、むしろ『独立性を保ちながら、部分的に協力する』ことを望んでいます。

 つまり、連携はするけれども、それぞれの主権や戦略的自由は維持したいと考えているのです。(中略)

 協力という形は、戦略的な自由を維持する一方で、その代償として『能力の弱さ』や、『統一的な行動力の欠如』といった課題が伴います。

 というのも、それぞれ異なる制度や意思決定プロセスを持っており、それらを調整するのは、非常に難しいからです。

 たとえば、極超音速ミサイルのような高度な兵器システムを、簡単に他国に共有するわけにはいきません。単に兵器を『渡す』だけではなく、訓練を施し、信頼関係を築き、軍と軍の間に継続的な関係を構築する必要があります。

 これには、当然ながら時間がかかります。ですから、中国が航空機を提供するにしても、あるいはロシアが軍事技術を供与するにしても、それは数年がかりのプロセスになるのです。(中略)

 イラン、ロシア、中国、北朝鮮といった国々の協力関係は、NATOのような『垂直的な統合』とは異なり、水平的に協力しています」。

 このあと、岩上安身とロッタ博士は、有事の際の米韓の統合指揮系統と、自衛隊の米軍との指揮命令系統の法的な違いや、日本政府のイランや中国、G7との戦略的な関係構築などについて、議論を深めた。

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