「これは軍事クーデターではなく、正義の行進だ。抵抗する者は破壊する」。
2023年6月24日(ロシア時間の6月23日)、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創始者であるエフゲニー・プリゴジン氏が、自身の部隊を率いて、ロストフ・ナ・ドヌーにあるロシア南部軍管区司令部を含む重要な治安拠点を占拠。部隊の一部が首都モスクワに向かって北上するという軍事クーデターが起こり、世界中の耳目を集めた。
ワグネル部隊は5月20日、ウクライナ東部ドネツク州のバフムートを激戦の末に制圧し、プーチン大統領から賞賛を受けてその名を上げた。
だが、ワグネル部隊を、同軍の一部として統合し、統率したいと考えるロシア国防軍と、プリゴジン氏との関係は悪化し、プリゴジン氏はセルゲイ・ショイグ国防大臣やロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長の名前をあげ、名指しで痛烈に批判してきた。
クーデター情報は錯綜し、一時は「プーチン大統領が所在不明」というニュースも流れて、ロシアは分裂し、内戦状態に陥るのではないかといった西側マスメディアの報道・情報が「期待」や「願望」を込めて、しきりに流された。
しかし、ワグネル部隊はモスクワの手前200キロで進軍を中止。ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介により、誰の血も流れずに約2日で「反乱」は終結。プリゴジン氏はベラルーシに向かった、とされた。
この不思議な騒動の直後、2023年6月28日に、東京都内のIWJ事務所にて、岩上安身は元外務省国際情報局長・孫崎享氏にインタビューを行なった。
岩上安身は、ウクライナ紛争に米国が深入りしすぎ、西側諸国が「プリゴジンの乱」に過剰に期待をかけ、ことによれば関与していた可能性も出てきたとして、「ロシアを弱体化させて、自分たちの覇権を強化するはずだったのが泥沼化している。(「ロシアの分裂」をことさらに騒いでいるが)これは米国の覇権の『終わりの始まり』ではないか」と問いかけた。
孫崎氏は同意し、米国がウクライナに集中している間に、中国は発展途上国にどんどん投資と外交をやっていると述べ、「典型的なものは電気自動車。蓄電器がものすごく重要で、希少金属が必要。中国は(自国内部にレアメタルの鉱山があるだけでなく)海外の鉱山を全部押さえた」と語った。
その上で、バイデン政権のひとつの特徴は、「これをやろう」という時、戦争を含めて、汚いことをやる実行役はアメリカではないことだ、と指摘した。
プリゴジン氏が、(事実かどうかは確認されていないが)ウクライナと内通していたとの情報も西側メディアで出回っており、仮に、ロシア正規軍の兵士たちがクーデターの呼びかけに応じていたら、ロシアで内戦が始まる可能性もあった、と、西側の期待含みながらも、しきりに取り沙汰された。米国と日本を含む西側諸国は、ロシアの内部崩壊を期待しながら、「プリゴジンの乱」を眺めていたのではないだろうか。
プリゴジン氏は、10代の頃から犯罪に手を染め、20代の9年間を刑務所で過ごしている。出所するとソ連の崩壊が始まっており、混乱の中で飲食業から身を起こし、新興財閥として成り上がり、ヘリポート付きの豪邸に住む実業家になった人物だ。
89年から94年にかけての6年間、ソ連崩壊の様子や連邦構成共和国の独立、民主ロシア誕生の裏面を何度も現地取材した岩上安身は、プリゴジン氏について、普通の軍人やビジネスマンではなく、日本でいえば、戦後直後の広島を舞台にした、ヤクザ映画『仁義なき戦い』の登場人物のような荒廃した社会の中で生き抜いてきた、半分ヤクザともいえる、親分肌の人物であり、ロシア社会のディープな面をわかっていないと、その行動を理解できないだろうと話した。
その後、インタビューは「プリゴジンの乱」の顛末、西側諸国の関与、NATOの大演習との関連などに踏み込んでいく。
ソ連解体後の「無法地帯」となった旧ソ連諸国まで含めてレポートした、岩上安身の『あらかじめ裏切られた革命』は、現在絶版になっていますが、日刊IWJガイドで少しずつ復刻連載をしています。ぜひ、そちらもお読みください。チェチェンの現地ルポも、所収されています。復刻連載の初回は以下になります。
- <岩上安身『あらかじめ裏切られた革命』復刻連載(その1)>序文「ゴーリキーパークの世界精神」
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