日銀の黒田東彦(くろだはるひこ)総裁は、2022年9月22日の金融政策決定会合後の会見で、当面は政策金利の引き上げも、フォワードガイダンス(金融政策の先行き指針)の変更も考えていないと強調した。
さらに、変更は「2~3年はない」と踏み込んだため、その発言直後から円が急速に売られ、会見中に一時1ドル=146円に迫る円安となった。
この円安を受けて、政府と日銀は1998年6月以来の円買いドル売りの為替介入に踏み切り、円は一時1ドル=142円まで上昇したが、翌23日には円安に転じ、24日0時には143.31円に戻ってしまった。週明けも143~144円付近で推移している。
なお、黒田総裁は9月26日、政府・日銀による22日の介入は「適切であった」と評価し、「今でも(1ドル)142円から143円ぐらいで動いているので、介入の効果がなくなったということはない」と述べた。
その上で、フォワードガイダンスの変更はないとした22日の発言について、「現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」という政策金利のフォワードガイダンスは感染症にひもづいたものであり、「必ずしも2~3年という長期ではない」と一部を軌道修正した。
- 円買い介入は「適切だった」、金融緩和と矛盾せず=黒田日銀総裁(ロイター、2022年9月26日)
岩上安身は2022年9月26日、東京都内のIWJ事務所で、9月16日に行われたエコノミストの田代秀敏氏への緊急インタビューの続編として、緊急インタビュー第2弾を実施した。
田代氏は、22日の黒田総裁の発言に関して、「(指針は)当面の間、変更しない」とした際、記者から「当面とは、いつまでか」と聞かれ、官僚が作った想定問答集に答えが見つからなかったのだろうと推測し、こう続けた。
「適当にごまかせばいいものを『2~3年』って言っちゃったんです。それは、びっくりで。だって、来年(2023年に日銀総裁の)任期が切れるのに、それを超えた期間について言及したんだから、『もう1期、やるつもりかな』と考えますよね。そうしたら、『円は売りだ』となりますよ。あまりにも不用心だった」
岩上安身は、日銀の単独介入があった翌23日、米国の大手経済紙の『ブルームバーグ』が、「現在の為替市場の問題は1980年代を想起させるが、1985年のプラザ合意のように各国がドル高の是正に共同で取り組む兆しはない」と報じていることについて、「なぜ、今回はできないんでしょう?」と尋ねた。
- 日本含め各国は単独の為替介入余儀なくされる-協調行動の公算薄(ブルームバーグ、2022年9月23日)
田代氏は、「プラザ合意っていうのは、秘密協定だった。5ヵ国の財務大臣がニューヨークに密かに集まった。日本の竹下大蔵大臣も、ゴルフウェアを着て『ゴルフに出かけます』と車に乗って、その足でニューヨークに向かった。合意の発表は華々しくやったが、公式な記録は残っておらず、今も多くの部分が秘密だ」と説明した。
「だから、本当のところはよくわからない。とにかくアメリカが必死だった。80年代には、先にインフレーションが起きたんです。これを鎮めようと超高金利政策をとる。その結果、ドル高が起きたわけですね。(プラザ合意の)この時は、すでにインフレーションを抑えた後だから(是正が可能だった)。
今は目の前で、インフレーションが起きている。アメリカにとって、インフレーションを抑えるってことは最大のテーマ。それに役立ってるドル高を、是正するという発想は、どこにもない」
さらに、1985年を考える時には、その10年前、ベトナム戦争のサイゴン陥落(1975年)を視野に入れるべきだと田代氏は言う。
「アメリカがベトナムで敗北するわけですよね。あれほど未曾有の大戦争を仕掛けて、取るものがなかった。その結果、アメリカはものすごいインフレーションが発生する。今、ロシアがウクライナでやってることの、何倍もの規模の大戦争を行って。たくさんのアメリカ兵も投入して。すべて敗北しました」
岩上安身は、「戦争とインフレって、平時で忘れがちですけど、結びつくわけですね。日本も、そうであったように」と応じた。
1985年のプラザ合意によって、確かにドル高は是正された。その裏返しで急速な円高が起きたが、軌道変更は有効だった。しかし、今回の為替介入は規模が違うし、(財務省の)決意が違うと田代氏は言う。
そして、「当時の大蔵省の、実際にその為替介入を行なった人などの(回想)を読むと、もう駄目だと、市場に押し返されると思う瞬間は何度かあった、と。その時に、兆円単位のお金を投入して切り抜けていく場面が何度もあったと。それくらい、ものすごい不退転の覚悟でやった。今回は、そんな気はなかった。
そうなると『短期筋にとっての好機』となる。(今の)マーケットのトレンドは、とにかく円を売って、ドルを買う、でしょ。その時に、日本の財務省と日本銀行が手をあげて『円買います』と言ってるんだから、それはみんな、売り浴びせますよね。短期の投機筋にとっては、もう本当に、鴨がネギじゃなくて、黄金を背負ってやってきたという事態ですよね」と分析した。