2022年2月16日午前3時――。米国政府と米メディアが、ロシアの軍事行動を世界に向けて大々的に「予告」した日時だ。しかし、実際には何も起きなかった。
「ロシアがウクライナに攻め込むのは、この日、この時!」と煽り立てたバイデン大統領は、その「虚報」について何の説明も訂正もせずに、すぐに次の「予告」を、まるでツアー日程のように打ち出した。今度は北京五輪とミュンヘン安全保障会議が終わる2月20日以降が危険で、侵攻は数日以内だという。
- Remarks by President Biden Providing an Update on Russia and Ukraine(2022年2月18日、The White House)
常々、「ロシアの侵攻はない」と明言していたウクライナのゼレンスキー大統領は、国民向けのビデオ演説の中で、「他国(欧米)が戦争リスクを誇張している」と暗に米国を対象に非難を口にしていたのだが、アメリカはまったく気にかける様子もない。
2022年2月18日、岩上安身は元外務省元国際情報局長の孫崎享氏に、NATO、ウクライナとロシアの間で高まっている緊張関係について、同年1月から3回目のインタビューを行った。
ウクライナ東部のドンバス地域では、2月17日午前0時から19時(現地時間)までに30回から50回の砲撃があり、ミンスク合意違反の重火器やミサイル弾が使用されて、幼稚園も被害を受けたと報じられた。
そして、同時期に米国の報道官、英国のジョンソン首相、NATOのストルテンベルグ事務総長らが口を揃えて、「ロシアは偽旗作戦をやるかも」「ウクライナ侵攻の口実作り」という根拠のない発言をしている。ウクライナ側からの砲撃やミサイル攻撃をロシア側のせいにして、さらにロシアはこれを口実にして侵攻するだろう、というムチャクチャな言い分である。
偽旗作戦は、古くは海賊船が相手を欺くために偽の白旗を掲げて油断させる戦術だ。相手から先に攻撃を受けたように自作自演し、攻撃の大義名分にしたり、世論操作に利用することもある。
岩上安身は、「偽旗作戦はアメリカが散々やってきたことだ」と指摘し、ベトナム戦争のトンキン湾事件、大量破壊兵器がなかったイラク戦争、新聞が好戦的な世論を煽り立てた米西戦争のメイン号事件などに言及。今、「世界戦争だ!」と舞い上がるバイデン大統領をたしなめるのが、第三国の政府やメディアの役割ではないかと語った。
孫崎氏は、バイデン大統領が過剰に危機を煽るのは、中間選挙を今年11月に控えて自身の支持率が下がってきており、米国民の目を海外に向けることによって支持率を回復したいこと、米国の力が衰えてきて、独自でロシアに制裁を課しても意味をなさないことなどを指摘した。
また、着任したばかりのエマニュエル駐日米国大使が、2月7日の「北方領土の日」にツイッターに投稿した動画メッセージで、「米国は北方領土問題で日本を支持しており、北方四島に対する日本の主権を1950年代から認めています」と述べたことに反論した。
「自分たちがヤルタ協定で、千島列島(北方領土)をソ連にあげると約束したことを、どう考えているのか。今のウクライナ問題でも、かつて米国はNATOの東方拡大はしないと約束した。これを、どう評価するのか。(そういう点に触れずに)ツイッターを日本人の洗脳の場所にするのはやめてほしい」と語気を強めた。