2015年から2022年まで、ウクライナのドンバス地域で、欧州安全保障協力機構(OSCE)(※1)の監視員を務めていたブノワ・パレ氏は、2025年5月、初めての著書『What I Saw in Ukraine 2015-2022 Diary of an International Observer(私がウクライナで見たこと2015~2022年 国際監視員の日記)』を上梓した。

▲パレ氏の著書『What I Saw in Ukraine: 2015-2022 – Diary of an International Observer』
https://bit.ly/3O5K3Kd
同書は、パレ氏が取材したウクライナの人々の証言や、自身の見聞にもとづいて、ウクライナ戦争での嘘や隠蔽を告発しており、貴重な歴史的記録となっている。
OSCEは、ミンスク合意(ドンバス戦争(※2)の停戦合意の文書)の履行を監視する唯一の国際機関として、ウクライナ特別監視団(OSCE SMM)を現地に派遣し、停戦・重火器撤収・人道状況などを監視して日報を出していた。
パレ氏はそのOSCE SMMの一員として、2014年のユーロ・マイダン・クーデターの翌年からウクライナ東部のドネツク州に入り、2022年2月24日にロシアが侵攻するまで、中立な立場で情報収集や監視活動を行っていたのである。
2025年12月12日と13日、東京都内のIWJ事務所にパレ氏をお迎えして、岩上安身によるインタビューを行った。重要で、興味深いさまざまなエピソードを語っていただき、その様子は現時点で4回に分けて動画配信している。今回のIWJ特報は、そのインタビューの1回目と2回目をテキストにまとめてお届けする。
ロシアが侵攻するまでのウクライナ東部の状況を、長期にわたって記録していたパレ氏の話は、ウクライナ内部の分断や、構造的な問題を浮き彫りにする。それは、西側諸国が描くウクライナの物語(ナラティブ)を突き崩すものであり、そのため、パレ氏が大手メディアに登場することは、ほとんどない。著書も、今のところは英語版とフランス語版だけなので、日本の多くの人には知られていない。
岩上安身のインタビューは、まず、パレ氏の経歴を紹介していくことから始まった。
OSCEの監視員になる前は、フランス陸軍予備役将校(大尉)であり、フランス国防省でアナリストを務めたこともあるパレ氏は、フランスの徴兵制を経験した最後の世代だ。「1995年に兵役についてから30年間、国際関係や安全保障の分野に携わってきた」と自己紹介をした。
陸軍時代は、外人部隊、海兵隊、空挺部隊の精鋭からなる即応行動部隊(ラピッド・アクション・フォース)として、ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦に派遣された。泥沼の戦闘と悲惨な民族浄化が繰り広げられ、混迷を極めたボスニア・ヘルツェゴビナでの体験は、心に深く突き刺さったという。
「あの場所で、私は人間の本質について多くを学び、ある意味で、人類に対する幻想を失った。同時に、そこで学んだのは、自らを『正しく、善良で、他国よりも優れている』と言い切れる国など、どこにも存在しないということでした」
ボスニアで5年間働いたパレ氏は、2001年に起きたアメリカ同時多発テロ(9.11)をきっかけに、フランス国防省でアナリスト(分析官)として勤務する。
国防省にいた時期に、西側の政府の視点から物事を見ることを学んだパレ氏は、立場上、ジャーナリスト以上に多くの情報に触れることができたが、「同時に、口にはできない情報にも接した」と明らかにした。
その後、陸軍の予備役将校として復帰し、コソボ、アフガニスタン、レバノンなど数多くの海外任務に参加。中でもアフガニスタンでの任務は、非常に危険なものだったという。
2007年から再び国防省に戻り、外交電報にアクセスできる立場だったパレ氏は、在ロシア・フランス大使館からの情報で、アメリカのジョージ・W・ブッシュ政権が、ウクライナとジョージアをNATOに加盟させるように、ヨーロッパに圧力をかけていることを知る。
当時のフランス大使は、「ロシアにとって、ウクライナのNATO加盟は『レッドライン』。到底、受け入れられない」と回答しており、その最大の理由は、ロシアがクリミアの不凍港、セヴァストポリ海軍基地を手放すことはあり得ないからであった。
このような経緯から、2014年にウクライナで事態が動き始めた時、パレ氏はロシアのクリミア併合などを完全に理解できたという。そして、ウクライナでの任務を志願して、2015年の夏から現地に派遣され、OSCEの活動に従事した。
ユーロ・マイダン・クーデター以降、緊張が高まっていくロシアとウクライナの状況を、つぶさに観察することができたパレ氏は、2022年のロシア侵攻の翌日に現地を離れ、同年5月に契約終了となる。そこから2年間は、ウクライナで得た知見を活かしてジャーナリストとして活動し、やがて、自分の経験を本という形で語りたいと考えるようになる。
「ウクライナについて、私が知っていたようなことを、知っている人は、わずかしかいない。しかし、政府の立場では、こんな本を書くことは許されない。私は、以前の人生に戻れないことを受け入れる覚悟をしました。自分が知っていることを、語ることの方が、あまりにも重要だと思ったからです」
こう自らの決意を語ったパレ氏は、「私が知っていることは、世界の人々が、ウクライナ戦争をどう受け止めているかを、根本から変えうると気づいた。だからこそ、話さなければ、公にしなければならない」と訴えた。
※「ウクライナ政府がドンバス地方でロシア系住民に対するジェノサイドを行った」! ロシアの反訴を、国際司法裁判所(ICJ)が正式に受理!! ロシアによるウクライナへの軍事介入は「いわれなき侵略」ではなかったのではないか!? IWJ記者の質問に、「ロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙である」と、従来の政府の立場を繰り返す茂木大臣!! ~1.20 茂木敏充 外務大臣 定例会見 2026.1.20
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/530203
※グレン・ディーセン教授の番組に、元欧州安全保障協力機構(OSCE)職員のフランス人で、ドンバス地域で監視員を務めたブノワ・パレ氏が登壇! ウクライナ紛争の始まりについての現場の見聞を初めて証言!! 「この戦争は偶発的ではなく、明確に準備され、意図的に挑発されたものであり、ウクライナ側はあらゆる手段でロシアを挑発し、ロシアに先に攻撃させることに成功した」! 2025.11.8
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/529612
※東西ドイツを統合するために、ゴルバチョフソ連大統領(当時)に「NATOを1インチも東方拡大しない」と表明したベイカー米国務長官(当時)の約束を、「条約ではないから無効」だと主張する米国に、ロッタ博士が重要な指摘!「ハーグ国際司法裁判所(ICJ)の1974年の判決で、条約がなくても、口頭での約束にも法的に拘束力があると明言されている」! 岩上安身によるインタビュー第1200回ゲスト neutralitystudies.com主宰 京都大学大学院法学研究科・准教授パスカル・ロッタ博士(前編) 2025.7.16
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/528365



































