『ニュートラリティ・スタディーズ(Neutrality Studies)』というYouTubeチャンネルが注目を集めている。運営するのはスイス出身の京都大学准教授、パスカル・ロッタ氏だ。
ニュートラリティ(Neutrality)とは、日常会話ではあまり馴染みのない言葉だが、「ニュートラルな状態で」と言われるとイメージしやすい。プロパガンダやフェイクニュースが飛び交う現状だからこそ、予断を持たず、ひとつの方向や考え方に偏らず、中立性を保つこと。また、国家間の対立がある時、一方の陣営に組み込まれて、物理的な戦争や情報の戦争に加担するのではなく、「中立」を保ち、平和を保ち、冷静に現実をニュートラルにみ続けること。そうした「中立」的なスタンスを保つことに、いつも自覚的であることを意味するものだろうと思われる。

▲パスカル・ロッタ氏(2025年7月16日、IWJ撮影)https://iwj.co.jp/wj/open/wp-content/uploads/2025/10/IMG_1230.jpg
ロッタ氏は、「国際関係における中立性」の研究者で、世界政治における概念としての「中立性」を多面的に研究している。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻する直前、急激に緊張が高まっていくのを感じ、その理由を知りたいとの思いから、自分のYouTubeチャンネルを本格的に開始したという。
2025年7月25日、岩上安身によるパスカル・ロッタ氏インタビュー(前編)を初配信した。インタビューは、岩上安身が質問を日本語で行い、ロッタ氏には英語で答えていただいた。
ロッタ氏は、日本語の会話は十分できるため、日本語の質問は理解できるが、日本語で回答するよりも、英語で回答する方がスムーズである、という理由からである。
今回の前編では、主にウクライナ紛争について、中立性や独立性の視点を踏まえながら語っていただいた。
「2021年12月頃には、すでにロシアとの緊張が高まっていましたよね? その理由を教えてくれる最適な人を探して、ソビエト連邦最後の米国大使、ジャック・マトロック氏にたどりつき、私のチャンネルで話してくれるかメールしてみたんです」とロッタ氏は振り返る。
当時、92歳のマトロック氏は、出演を快諾してくれたという。このように有識者との直接的な対話を続けるうちに、視聴者が数百人だったロッタ氏のYouTubeチャンネルは成長していき、現在のチャンネル登録者数は、22万7000人である。
岩上安身は、「現場を知っている人、知見がある人の発言を、YouTubeでリアルタイムで紹介し、既存メディアのプロパガンダに穴を開けていくことができる」と期待を寄せた。
ロッタ氏は、「幸いなことに、私達にはソーシャルメディアがあり、小規模なジャーナルがあり、あなたのような独立系ジャーナリストが、領域外で起こっていることにも光を当ててくれる。学者達やほかの人達も同じことができます」と応じて、次のように続けた。
「プロパガンダというものは、誰かが暗い部屋で操作できるようなものではない。それは、同じ物語を信じたいと望む人々の集団に現れる、社会的現象です。
独立系ジャーナリストや学者達がすべきことは、その物語を突き崩すこと。このバブル(閉じた空間)の外で起こっていることがたくさんある、と反論する。それが私達の役割です」。
岩上安身がIWJ(インディペンデント・ウェブ・ジャーナル)を立ち上げた時、対米従属の日本に危機感を抱いて命名したと話すと、ロッタ氏は、それはとても大事なポイントだと指摘し、「中立性と独立性は密接に関連しています。中立であるためには、一定程度の独立性が不可欠であり、逆もまた然りだからです」と述べた。
その上で、日本は米国の同盟国だが、米国と中国の間で、大国間バランスを調整できれば、平和を維持する素晴らしい中立の場になり得るとした。
その後、ウクライナ紛争について、その起点は決して2022年ではないこと、領土的野心を抱いたロシアによる「いわれなき侵攻」というプロパガンダの蔓延、長い時間をかけて蓄積されてきた米国の挑発などについて確認していった。































