政治の世界で「ハネムーン期間」と言えば、新政権がスタートして最初の100日間のことを指す。政権の発足直後は、期待値から支持率が高くなる傾向があり、マスメディアは厳しい批判的報道を控え、国民との間でしばし蜜月が続くという意味だ。
2025年1月20日、ドナルド・トランプ氏がアメリカの大統領に就任し、第2次トランプ政権が発足した。通常ならば、野党やメディアも新政権への批判を控える期間(4月28日までの100日間)のはずが、世界を揺るがす「トランプ関税」の衝撃によって多方面に混乱と不安が巻き起こり、トランプ政権の支持率は低下。「地獄のハネムーン」の様相を呈している。
2025年5月2日、岩上安身はエコノミストの田代秀敏氏にインタビューを行った。

▲田代秀敏氏(2025年5月、IWJ撮影)https://bit.ly/429LBaj
田代氏は、予測不能の「トランプ・ショック」の中を生き抜くには、トランプ氏の世界観を深く知ることが重要になるとして、若きトランプの姿を忠実に再現した映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』を紹介。ヒントになるエピソードから彼の人物像を分析した。
※『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』
https://www.trump-movie.jp/
若き日のトランプ氏は、勝つためにはどんな手段でも使う、有名なユダヤ系悪徳弁護士、ロイ・コーンと出会い、3つのルールを叩き込まれる。それは「攻撃! 攻撃! 攻撃!」「何も承諾せず、すべて否定する」「常に勝利を宣言し、決して負けを認めない」というものだ。
田代氏は、「トランプ氏は人間を『殺す側(キラー Killer)』と『負ける側(ルーザー Looser)』の2つに分けていて、相手を罵倒する時には必ず『ルーザー』と言うんです。パウエルFRB議長に対しても、『こいつはビッグ・ルーザーだ』って言いましたよね。彼が『ルーザー』って言葉を使う時は、『俺は、こいつをキルする(殺す、打倒する)』と言っているわけです」と説明した。
これらがドナルド・トランプという人物の、人生を貫いてきた哲学であり、現在のトランプ政権の哲学でもある、という。
続いて田代氏は、今年4月2日にトランプ大統領が「相互関税」を課すことを発表した際、ホワイトハウスが公表したファクトシートから、次の一文を引用して示した。
「今日の行動は、我が国が他国を扱うように、我が国を扱うよう、他国に対して求めるだけである。これが黄金時代(ゴールデン・エイジ Golden Age)のための、私達の黄金律(ゴールデン・ルール Golden Rule)だ」。
このトランプ大統領の言葉について、田代氏は、「他の国々、日本とか中国などに対して、『俺達がお前達を扱うように、お前達も俺達の国を扱え』という。仰天しました。ゴールデン・ルールというのは、『自分がその人からしてもらいたいと思うことを、あなたがその人にしなさい』というイエス・キリストの教え(倫理的な行動指針)です。これは、キリスト気取りですよ」と呆れた表情を浮かべた。呆れるのは当然で、イエスの言葉とは、似てはいるが、中身が逆さまである。これではまるで「反キリスト的」黄金律ではないか。
田代氏は、さらにこのように続けた。
「世界中にはいろんな国があって、貧しい国もあるわけです。そこに対しても、『俺達アメリカがやるように』、同じようにしろと言っている。できるわけないじゃないですか。もはやアメリカは、世界のどの国に対しても、保護者でもなければ指導者でもない。対等のライバル。同盟国も関係ない、と言っているわけです」。
米国のミシガン大学が長年行っている統計データの分析では、消費者の経済状態に対する信頼感を示す「消費者信頼感指数」が、トランプ大統領の就任から100日で、1970年代の2回の石油危機や、2008年の世界金融危機(いわゆるリーマン・ショック)、2010年から2012年の欧州債務危機、2020年から2023年の新型コロナ・パンデミックなどに匹敵する、急激な落ち込みを示している。
加えて1年後の物価上昇率の予想値(インフレ予想)は、トランプ就任後の100日間で、やはり世界金融危機や欧州債務危機、新型コロナのパンデミックの時と同程度まで上昇した。
トランプ関税の主な目的は、アメリカ経済の保護であり、関税の引き上げによって輸入の抑制と輸出の増加を実現し、国内の産業活性化につなげる狙いがあるとされる。
実は、他国も同じようにしろ、というトランプ流黄金律に従って関税を高めれば、米国からの輸出は減る、という矛盾が存在しているのだが、そんなことはお構いなしである。他国が米国のように関税を同等に高めれば(そんなことができるのは中国くらいだが)、即、関税戦争、あるいは本物の戦争や、レジーム・チェンジの工作が行われるだろう。世界中の国々も知っているから、誰も、米国と同様に対米関税を上げたりしない。
この背景に「自国第一主義(アメリカ・ファースト)」というエゴイスティックな理念があることは明らかで、世界第一の経済大国アメリカの関税強化は、世界経済の混乱や株価の乱高下をすでに招いており、中・長期的には自由貿易体制をつぶし、世界中の国々を大不況の沼に沈ませかねない。
「これまでの歴史的クライシスは、不幸にして起きてしまった。政治は、こういう危機をいかにして回避するか、そのショックをいかに和らげるか、腐心するものだけど、トランプ大統領は、経済危機を積極的に起こしている」
田代氏はこのように述べて、ホワイトハウスが人為的に、米国に「不況+物価上昇=スタグフレーション」を起こしていると指摘した。
※40年間続いた米国債の価格上昇が、下落へ! 世界一米国債を保有する日本には、巨大な含み損が発生! 米国債務は対GDP比100%を超え、利払い費だけで、米防衛費を超過!「アメリカの、世界に対する覇権を支えている財政システムが、大変動を起こしている」! 岩上安身によるインタビュー第1195回ゲスト エコノミスト・田代秀敏氏 第2弾 前編 2025.6.8
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/527763
※「世界を牛耳っていた米国が、世界を牛耳ることができなくなってきた。米国の国内の経済等が崩壊し始めてきている。ここにトランプ大統領が出てきた意義がある」~2.19 戦争をさせない1000人委員会・立憲フォーラム2.19院内集会「トランプ政権とわたしたち――日本の進むべき道」―講演:孫崎享氏(元外務省国際情報局長) 2025.2.19
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/526541




























