2024年6月20日、午前11時45分より、東京都千代田区の参議院議員会館にて、日本弁護士連合会の主催により、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律の問題点と今後の取組について考える院内学習会」が開催され、井原聰氏(東北大学名誉教授)、そして、坂本雅子氏(名古屋経済大学名誉教授)らが登壇し、それぞれの問題意識を参加者と共有した。
重要経済安保情報保護法は、防衛・外交などに関連する情報を保全することを目的としたもので、半導体やインフラなど、漏洩すれば国家安全保障上の脅威となるような重要情報を「重要経済安保情報」に指定し、その重要情報を扱う者に対して「セキュリティ・クリアランス(適性評価)」制度を導入することが主眼であり、当該情報の漏洩の場合には、5年以下の拘禁刑が科されるなど、罰則がある。
この重要経済安保情報保護法は5月10日に参院本会議で可決・成立され、公布から1年以内に施行されることとなる。
日本弁護士連合会は、この法律・制度が可決・成立した5月10日に、渕上玲子会長による声明(※)を発出し、「処罰の対象となる重要経済安保情報の範囲が法文上不明確であるため、罪刑法定主義とのからみで問題が生じるリスクがある」こと、また、「重要経済安保情報には、衆参両院の情報監視審査会による監督や国会への報告制度も適用されず、恣意的な秘密指定や知る権利などへ悪影響が懸念される」ことなど、4つの問題点を指摘した。
また、日本弁護士連合会は、今年1月18日には、政府の中間報告の内容に反対を表明する意見書を取りまとめ、2月27日に法案自体が提出された際には、3月13日に、基本的人権保障の観点からの問題点を指摘する会長声明を発出するなど、政府に対して、状況に即応した問題提起を行ってきた。
この学習会では、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律の問題点について」という視点から、井原聰・東北大学名誉教授、そして、坂本雅子氏・名古屋経済大学名誉教授という、二人の「経済安保」の専門家による報告が行われた。
IWJでは、2019年6月17日、代表の岩上安身による坂本雅子氏へのインタビューを実施している。以下の記事(会員限定)を、ぜひ、ご参照いただきたい。
井原氏は、重要経済安保情報保護法では、法律の運用基準や重要経済安保情報の指定基準・範囲・解除・解除後の文書等データ管理など、14項目にわたる権限が政府に「丸投げ」されていること、および、重要経済安保情報の定義の複雑さなど、根本的な問題提起を行った。
坂本氏は、「日本の経済安全保障政策と米国の対中国軍事・経済戦」というテーマで、法律の解説ではなく、なぜこのような法律が日本で制定されたのか、その背景について論じた。
坂本氏「この法律のわかり難さは、米国の戦略に追随し、それを隠したままで、日本の法律を制定したことに起因する。その米国の戦略とは、対中国戦を想定した世界戦略であり、それはトランプ政権で開始された」
学習会の終盤の討論の中で、日本弁護士連合会の秘密保護法・共謀罪法対策本部副本部長の海渡雄一氏が、坂本氏に対して次のように質問した。
海渡氏「この経済安保法、そして、経済秘密保護法。この2つの法律の施行によって、日本と中国との関係はどんどんどんどん悪化する可能性が高いと思うんですね。
外交関係としては何とか友好を維持しようとするような努力も、他方で行われてはいるようですけれども、こういう法律制度を作っておきながら、何とか仲良くしようとしても、何だか、すごくちぐはぐな感じがしますし、アメリカというアクターがいて、それが大きな影響を及ぼしているわけですけれども、こういう状況の中で、中国との『善隣友好』関係というんですか?
そういうものは果たして作れるものなのかどうか? どうしたらいいのでしょうか?」
坂本氏は次のように答えた。
坂本氏「世界が、長年続いた『グローバル化』の時代から『分断』の時代に入った。ちょうど1930年代に1920年代の自由主義経済の時代から分断と競争に入って戦争になったように、経済分断はいつまでも経済分断だけに留まるとは限らないと思っています。
こうした中で中国との友好、良好な外交関係の構築は可能かということですが、無理だと思います。
日本国民自身が、もう、年々どころか、月ごとに対中感情を悪化させる。そんな報道ばかりされている。それはもう中国国民の側もそうで、中国は米国との戦いは極めて慎重で最後まで避けようとしていますが、国民の怒りの矛先を日本に向ける。これは向けやすい。満州事変以来、長年の日中戦争で中国国民は散々な目にあった。
すぐ火がつくと思います。だから、日中戦争だけはいつでも勃発する可能性があると私は思っております」
学習会の詳細については、全編動画でご確認いただきたい。