「この判決は、不当判決です。私たちの訴えを認めない、極めて不当な判断でした」
種子法廃止違憲確認訴訟で、東京地裁が原告の請求を棄却。判決後の報告集会で、弁護団の田井勝弁護士は、こう述べた。
この訴訟は、平成30年(2018年)に主要農作物種子法(種子法)が廃止されたことが違憲・無効であること、さらに有機農家の舘野廣幸さん、採種農家の菊地富夫さん、消費者である野々山理恵子さんが種子法にもとづいて一定の地位を持っていることの確認を訴え、その上で約1500人の原告それぞれが1万円の慰謝料を国に請求していた。
しかし、東京地裁の品田幸男裁判長は、2023年3月24日、いずれの請求も棄却・却下ないし否定した。
24日の判決後、衆議院第一議員会館で行われた報告集会で、田井弁護士は「一言で言うと、私たちの訴えについて、具体的な事実の実態に入ろうとせず、種子法にもとづいた権利性がないんだと言うことに尽きる判断」だと批判し、次のように述べて憤りを示した。
「一番納得がいかないのは、私たちはこの裁判において、種子法廃止によって様々な被害が出ていることを訴えた。種子法が廃止されたことで、いかなる被害が生じているのかは、ひとつの争点だった。
しかしながら、そこについてはまったくと言っていいほど(判決に)書いていない。種子法が平成30年に廃止されて、その後どうなったかについて、この裁判所は判断していないに等しい」
しかし、田井弁護士によると、判決文の中には原告が訴えてきた「食糧の権利」について、「憲法25条1項に言う、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の実現にむけては、一定程度の衣食住の保証が必要となることは否定できない」と、わずかながら言及があったとのこと。
これについて、山田正彦元農水大臣は「今日の判決で、私たちの食糧の権利が否定できるものではないと言及された。食糧の権利を認めた上で、具体的な判断(却下、棄却)になった。私は、一歩前進だと思っている」と述べた。
また、岩月浩二弁護士は、「皆さんにとっては当たり前なんですけど、憲法25条をめぐる長い憲法裁判の歴史の中で、食糧への権利というのが正面から争われた例はなかった。だから、この程度の当たり前の記載も、ひょっとしたらこれが初めてかもしれません」と、その意義を説明した。
質疑では、集会に参加した一般の女性が、「種子法によって、この70年間継続してそれぞれの気候、風土にあった良質な品種を開発してくるには、どれだけの費用がかかっているか。それを積算していくと、国が簡単に国民の財産を企業に売り渡すなどということは、あってはならないと思うし、こうした権利関係はどうなっているのか?」と疑問を呈し、「私たちは親の代からずっと税金を払ってこの国が成り立っているのに」と訴えた。
これに対して、田井弁護士は「その質問こそ、まさに我々がこの裁判で訴えているもの」と述べ、次のように語った。
「種子法というものがあることで、戦後の食糧難を防ぎ、国家の食糧増産、私たち国民に安定した食料が供給されてきた。この基盤があってこそ、安定的な食料が保障された。これは権利であると、ずっと訴えてきました。種子法は、この食糧への権利の具体化であると。
判決で、種子法は、食糧増産等を目的としているけれど、国民の権利が付与されたものとまでは言えないと判断されました。判決の概要には、『原告らの主張する食糧への権利に係る明文の規定はなく、また、国民を権利の享有主体として位置付けるなどの、同権利が具体化されたと解する根拠となり得るような規定も見当たらない』と書かれています。
要は、『種子法の中には、私たちの食への権利を保障することまでは書いていない』と逃げた」
その一方で田井弁護士は、「種子法が、私たち国民の権利を否定しているとはいえないのかどうか。地裁判決は負けたけども、ここは、一つ大きな争点として浮き上がってきた」と述べ、控訴審への決意を表明した。