イランの核開発を制限するかわりに米国による経済制裁を解除する「イラン核合意」への復帰を、米バイデン政権が表明したことを受け、2021年4月から関係国間の協議が始められた。
しかし、米国が「核開発制限」と「経済制裁解除」の同時達成を主張するのに対し、イランは米国が先に制裁解除すべきとの立場を崩していない。イランの強気の背景には、ロシアと中国がイランに対する軍事、経済両面の支援を強め、関係深化を図っていることがあると見られている。
実際、中露、特に中国とイランとの関係強化は、両者の需要と供給が一致する。イランには石油の輸出の代価と中国からの融資、インフラ整備からありとあらゆる民生品の輸入・購入が、可能となるため、米国の経済制裁はもはや何の意味も効果ももたなくなる。
また、中国とロシアにとっても、中国包囲網を敷かれても、イランという、確実に石油を輸出してくれる供給国を確保できたたことはメリットが大きい。その上、イラン国内に中国軍基地の駐留までもが認められた。これは特筆すべき重要事である。中国は中東にも地政学的な橋頭保を築いた、ということになる。東アジアの地域覇権国にとどまらない、ユーラシアの覇権国への第1歩である。
米国からの圧力に脅える必要が事実上なくなったイランは、中東圏内でも、新たな動きを見せた。
シーア派のイランが、長年、敵対してきたスンニ派のサウジアラビアと5年ぶりに代表者間の会談を4月9日に行ったのである。両国共通の狙いは「米国とイスラエルへの牽制」だと、元国連紛争調停官の島田久仁彦氏は分析している。トランプ政権の「イラン・トルコ包囲網」強化にかわって、バイデン政権がイランとの対話姿勢を取り、「親米国」サウジの立場が不安定になったことから、サウジも中露との接近を図っているというのである。中東における米国の影響力が急速に低下してゆくのを感じる。
米国のイランに対する曖昧な姿勢が、イラン・トルコに対する包囲網の「結束の緩み」を招き、そこをトルコと中露が突いていると島田氏は強調する。中国と米国の覇権闘争のホットエリアでもある中東情勢に要注目である。