【岩上安身のニュースのトリセツ】「世界の戦場」ウクライナ情勢を読み解く マレーシア航空機”撃墜”事件を徹底検証―交錯する各国の主張(IWJウィークリー66号より) 2014.10.2

記事公開日:2014.10.2 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

特集 IWJが追う ウクライナ危機
★会員無料メルマガ「IWJウィークリー66号」より転載!毎週IWJの取材をダイジェストでまとめ、読み物を加えた大ボリュームでお届けしています。ぜひIWJ会員に登録し、ご覧ください。会員登録はこちら

 7月17日、内戦の続く東ウクライナ上空でのマレーシア航空機墜落事故から一月以上が経った。通常の事故であれば、調査が進み、事故原因が明らかになっているはずである。だが、「戦闘地帯」で起きたこの事故については、いまだに不明な点が多く、情報が錯綜しており、対立する主張がなされている。

 当初から不可解なことは多かった。事故の直後、まだ事故の事実経過や全体像も明らかでないうちから、早々に東ウクライナ内戦の一方の当事者、親露派と、その支援をしているとされるロシアに、地対空ミサイルで撃墜したとの嫌疑がかけられ、「テロリスト」との大合唱が始まったのだ。

 親露派とロシアが一緒くたにされ、テロと誤射の可能性もごちゃごちゃになり、その他の事故原因や、他の「容疑者の可能性」についての追及は、ウクライナと西側ではまともに行われようとしなかった。

ロシア将校と親ロシア派リーダーの電話の会話は撃墜の真の「証拠」なのか?

 事故翌日の7月18日、ウクライナ保安庁は、ロシア将校とコサック軍のリーダーとの間でなされた会話の録音を公開した。キエフ・ポスト紙は、「ウクライナ保安庁が、分離主義者が民間機の墜落を認める電話での会話を傍受」というタイトルで、これを「ロシアの軍諜報部将校」と「テロリスト・グループのメンバー」の会話だと報じた。この会話記録が、ロシアと親露派の「犯行」の動かぬ証拠だというわけである。

 キエフ・ポスト紙は親ロシア派勢力を「テロリスト」とのレッテルを張って非難したが、これはウクライナ政府と同じ見方である。と同時にこのラベリングは、2001年9月11日、あの「9.11」の同時多発テロ直後からの「テロリスト」非難の大合唱を彷彿とさせるものだった。

 Youtubeで字幕と発言者とされている人物の写真の入ったビデオを見ることができる。

 ウクライナ政府が手ぎわよく差し出した「証拠」をよく見てみよう。

 ビデオは二つの会話で成り立っている。前半は「Bes」という集団が「飛行機を撃墜した」ことをロシア軍将校に報告する会話である。後半は親ロシア派勢力と思われる二人の間の会話だ。後半では、以下のような会話がなされている。

 「飛行機が空中でばらばらになった」、「地上に民間機の破片が落ちている」。
 「武器は?」、「そういったものはない」。
 「死体の海だ。女性や子どもも。今、コサックたちが調べている」、「テレビではウクライナの輸送機AN26だと言っている。だが、マレーシア航空と書いている」、「この飛行機はウクライナ領土で何をしていたんだ?」、「スパイを運んでいたということだろう。分からないが。ここでは戦争が行われているんだ」。

 この録音が「親ロシア派がマレーシア機を撃墜した証拠」と言われているわけだが、よく検証してみると、ビデオの前半の、「親ロシア派勢力が飛行機を撃墜した」という会話と、後半の事故現場に関する会話は直接的なつながりを持っていない。

 前半の会話では「マレーシア機を撃墜した」とは言っていないため、他の航空機のことを話している可能性がある。

 一方で後半の会話は、英訳を見るかぎり、マレーシア航空機の撃墜を話題にしてはいるが、親ロシア派が撃墜したとは一言も言っていない。彼らは、単に、民間機が墜落したという事実、その現場をコサックたちが調べているという事実を述べているだけである。墜落の原因については一言も触れていないのだ。

 つまり、この二つの別々の会話をつなぎ合わせることで「親ロシア派が撃墜したのはマレーシア機」という話に仕立て上げているようにも見えるのである。

 さらに、このビデオが作成されたのは、マレーシア機の墜落よりも前なのではないかという指摘もなされている。ビデオのログでは、7月16日19時10分より前に作成されたとなっている。墜落した7月17日の前日である。これはどういうことなのだろうか。なぜウクライナ政府は、16日に作成したビデオを、17日の事故の翌日、18日に世界に示してロシアを「テロリスト」と名指しで非難しているのであろうか。

 ロシアの国営テレビは、この会話録音を「捏造された」と報じた。ロシアの専門家の分析によると、「複数の会話の音源を組み合わせたもの」だという。

安保理決議と国際調査団

 7月19日、ウクライナ政府は、今度は、親ロシア派勢力が墜落したマレーシア機の残骸や遺体を持ち出していると発表し、「証拠隠滅」「調査の妨害」であると非難した。矢継ぎ早の、親露派非難の連続である。前日発表したビデオの疑問に回答しているヒマはない、と言わんばかりだ。日本でも、このウクライナ政府の主張をほぼなぞる形で、犠牲者の所持品が盗まれているという報道が流されるなどした。(産経新聞 2014/7/19「親露派が証拠隠滅と非難、ウクライナ政府」、「墜落現場で窃盗行為か 親ロ派、犠牲者の所持品」)

 7月21日、国連安全保障理事会は、マレーシア機撃墜を非難する決議を全会一致で採択した。この決議では、非難や犠牲者家族への哀悼の意とともに、次のことも含まれている。

「事故に関する独立した徹底的な国際調査を実施する努力を支持する」。「事故現場への立ち入りが制限され不十分であるという報告を受けて深い懸念を表明する」。「国際調査を安全に行うために、事故現場付近における武装グループなどによるあらゆる軍事行動をただちに止めることを求める」。「全ての国々およびこの地域の関係者たちに、事故現場に即座に制限なく立ち入ることができるようにすることを含め 事故の国際調査に十分協力することを求める」。

 22日、オランダ政府が事故の調査を主導すると発表した。国際調査団には、オランダ人4人、アメリカ人、イギリス人、国際民間航空機関の代表者の合計24人が加わっている。親ロシア派勢力のリーダーであるアレクサンドル・ボロダイ氏(「自称」ドネツク人民共和国首相だったが、8月に辞任)は、国際調査団が事故現場に入ることを認めると述べた。

 だが、その後しばらくの間、事故調査団が現場に到着することはなかった。親露派が現場を荒らしている、という非難がほうぼうから投げかけられたが、他方、その親露派のリーダーが事故現場の調査を行ってくれ、と言っており、現にマレーシアのナジブ首相が墜落現場の遺体・遺留品の捜索に関して、ボロダイ氏と22日には合意しているのだが、この事実はほとんど報じられることがなかった。そして、肝心の国際調査団は、なぜか現地入りを躊躇したのである。

結局、親ロシア派勢力が回収したブラックボックスはマレーシア政府に引き渡され、23日にイギリスに到着した。イギリス政府の航空事故調査部門がデータの取り出しと解析を行っている。

 ブラックボックスの引き渡しに、マレーシア政府のナジブ首相が主導的な役割を果たしたこと、親露派のリーダー・ボロダイ氏が協力的であったことも、日本はもちろん、世界中のメディアが知らぬふりを決め込んで報じなかったことを、板垣雄三東大名誉教授は、私のインタビューの中で鋭く指摘している。

 ブラックボックスの回収が親ロシア派勢力によって行われていたことからデータが改ざんされたのではないかという懸念も出ていたが、7月23日、オランダの航空事故調査当局は、操縦士の会話などを記録したボイスレコーダーに改ざんの跡は見られなかったと発表した。(2014/7/24 時事通信「会話記録装置に改ざんなし=ブラックボックス解析へ-オランダ当局」)

ロシアの主張——墜落直前のマレーシア機の近辺にウクライナ戦闘機

 事故後、ロシアの防衛大臣アナトリー・アントノフ氏は、西洋諸国やキエフ政府が何の証拠もないのにロシアが事故に責任があると主張していることに反駁し、キエフ政府に対して10の問いを投げかけた。

 「なぜ、キエフ政府は(事故調査のための)国際委員会を設置しようとしないのか?」、「なぜ、ウクライナの航空管制官は、この飛行機が通常の北への航路から外れて反テロ作戦が行われている地域へ向かうことを許したのか?」、「なぜキエフ政府は国際調査委員を待たずにウクライナ航空管制官とボーイング乗務員とのあいだの通信記録などを調査し始めたのか?」などといった問いである。これらの問いは、たしかにいずれも重要な問いである。事故の真相究明のためには欠かせない。ところが、9月9日現在に至るまで、キエフ政府はこの問いに答えていない。

 在日ウクライナ大使が、7月21日、緊急の記者会見を開き、ウクライナの正しさと、ロシアの不当性を訴えた。我々IWJもこの会見に参加し、ロシアからの「10の質問」についてたずねたが、大使は「私は、その質問自体知らない」という素っ気ない回答だった。

重大な疑惑―マレーシア機を追尾していたウクライナ軍用機の存在

 7月22日、ロシア空軍のマクシェフ中将は記者会見を行い、マレーシア機の墜落直前にその近辺にウクライナ戦闘機と思われる2機が飛行していたと語った。

 また、ロシアのカルトポロフ大尉は、ウクライナ軍用機Su-25がマレーシア機の3キロから5キロのところを飛行していたとし、「なぜ軍用機が民間機と同じ時間に同じ高度で、民間機の航路に沿って飛行していたのかについて説明を求める」と述べた。そして、その軍用機には対空ミサイルが搭載されていて、12キロ範囲内を標的とすることができると語った。

 また、BBCのレポーターが、マレーシア機墜落の目撃者にインタビューした際、目撃者たちは事故の前に軍用機を見たことを証言した。「もうひとつ飛行機がいた。軍用機で、それ(マレーシア機)のとなりに。皆それを見た」。もう一人の目撃者も「それ(マレーシア機)の下を飛んでいたのを、私たちは見た。民間機の真下を飛んでいたんだ」。

 この証言は、ロシアの主張を裏付けるものだ。しかし、このBBCの取材ビデオは、ウェブサイトにアップロードされた直後に削除された。この削除によって、BBCは視聴者から激しい非難を浴びることとなった。BBCは、いったいなぜ取材ビデオを削除したのか? どんな不都合がそこにあったのだろうか?

 そもそも、ウクライナ軍用機は、マレーシア航空機の至近距離を飛びながら、何をしていたのだろうか? 軍用機が並走して飛んでいたという事実だけでは、彼らがマレーシア航空機を撃墜した、ということの直接証拠にはならない。しかし、様々な可能性を考える手がかりにはなる。

 マレーシア機墜落の以前にウクライナ東部で似たような状況があったことを伝える証言がある。スリャビャンスクの兵士が語るビデオ映像である。彼女は次のように言う。

「たとえば、最近、旅客機が飛行しているときに起こった出来事があります。ウクライナ軍用機がその旅客機の背後に隠れていました。そして、その軍用機は少し高度を下げ、セメノフスカの住宅街に爆弾を落としたのです。それから、また高度を上げて、旅客機の背後に隠れました。彼らは、軍に旅客機を撃たせようとしたのです。そんなことになったら、大きな大事故になったでしょうし、一般市民が死ぬことになったでしょう」。

 ウクライナ軍用機が民間機への攻撃を誘発させようとしたという、この兵士の証言と似たようなことが7月17日にドネツクで起こっていたということも、ひとつのシナリオとして十分に考えられるのではないか。そうした、考えられる限りのシナリオを数え上げ、ひとつずつつぶしてゆく作業こそが今、求められるはずである。

アメリカの主張の変遷——「証拠」はあるのか?

 7月17日、事故の直後にアメリカのオバマ大統領は「できる限り早急に、妨害のない状態で、信頼できる徹底的な国際調査が行われることが重要である」という声明を発表した。さらに、次のように述べている。

「我々は全ての事実をまだ確認できているわけではないが、事故はウクライナの危機の中で起きた。この危機は、ロシアの分離主義者に対する、武器や物質や訓練の供給で支援によって激化していたものである。今回の事故によって、我々がロシアに対して即座にウクライナの状況を沈静化するための具体的な行動を取るよう要求することが急務であることが強調された」。

 つまり、事故直後に、アメリカは、こんなことになったのはロシアのせいだと断言したのだ。さらに18日には、オバマ大統領はマレーシア機を撃墜したミサイルが親ロシア派勢力のいる地域から発射されたと述べた。撃墜したのが地対空ミサイルと断定し、その発射エリアが親ロシア派の支配地域だ、と断定する。親ロシア派が撃って撃墜したという直接的な断定は、ぎりぎり避けたのだろうが、ほぼ断定したも同然である。

 この18日のオバマ発言で、米国の姿勢は決定的になったかに見えた。

 20日にはケリー国務長官が、ロシアが親ロシア派勢力に武器を提供していたと非難した。マレーシア機はSA11地対空ミサイルによって撃墜されたと言われているが、そのミサイルを提供したのがロシアだというのだ。つまり、親ロシア派が「主犯」であり、ロシアが「共犯」であると、におわせたのである。ケリー長官は「膨大な証拠がある」とまで発言した。

 アメリカの情報機関の分析によると、ロシアがウクライナの分離主義者(親ロシア派勢力)に武器や訓練を提供し、そのなかに防空システムの訓練も含まれていたという。さらに、ウクライナもSA11地対空ミサイルを保有しているが、マレーシア機の撃墜地域では地対空ミサイルを使用していないとされている。

 だが、ウクライナ政府とアメリカ政府の主張には、大きな難点があった。マレーシア航空機を撃墜することで親ロシア派とロシアが得られるメリットがまったくないことだった。東ウクライナの内戦の戦況が有利になることもないし、むしろ全世界の怒りを買って孤立し、不利になるだけだろう。何よりも、それが事実なら、自国民の怒りを買い、指導部は政権が崩壊する。ロシアは、誰彼かまわず、人を殺せば気がすむ狂人的な「テロリスト」なのではない。

 22日になって、アメリカは主張を変え始めた。アメリカ諜報機関の高官が、ロシアはマレーシア機撃墜を引き起こした「状況をつくった」ことに責任があるが、事故に対するロシア政府の直接的な関与を示す証拠は何もないと述べたのだ。

 この高官は、民間機を撃ち落としたミサイルがロシアからもたらされたものであることを示す証拠はないし、親ロシア派勢力がミサイルを使うための訓練をロシアで受けたのかも分からないと言った。2日前にケリー長官が主張した「膨大な証拠」の存在を否定したわけだ。(2014/7/22 ハフィントンポスト「U.S. Officials: No Evidence Of Direct Russian Link To Malaysia Plane Crash」)

 アメリカは証拠をやはり持っていなかった。イラクに大量破壊兵器保有疑惑をなすりつけた時と同じ手口だ、そういう疑心暗鬼が広がり始めた。

 しかし、その後も、アメリカはロシアに対して情報戦を仕掛けている。

 27日、アメリカ国務省は、ロシアが国境を越えてウクライナ軍にロケット弾を発射していることを示す「証拠」として、衛星写真を公開した。写真は、7月21日と25日と26日に撮影されたものだ。マレーシア航空機が撃墜された7月17日当日の写真ではない。直接の証拠にはもちろんならない。

 写真だけが公開され、公式声明は出されていない。アメリカのジェフリー・パイアット駐ウクライナ大使が自身のTwitterでこの写真を拡散している。一方で、ロシア防衛省は、ウクライナ国境付近に駐在しているモスクワ軍に関して調査を行った国際調査員は何の違反も報告していないと述べた。

 また、真偽の程は定かではないが、ドイツの諜報機関が7月22日のウクライナのポロシェンコ大統領とオバマ大統領との電話会談を盗聴したとされている。その電話会談では、ポロシェンコ大統領が、アメリカがロシアは事故に関与した証拠はないと言い始めたことに「失望した」と述べている。一方でオバマ大統領はポロシェンコ大統領を「あなたは大きな間違いを犯した。戦闘機を派遣したのは間違いだ。・・・この戦闘機がマレーシア機の後を追っていたことを皆に説明するのは非常に難しいだろう」と責めている。

アメリカ国内からの反論

 アメリカ大統領候補にもなったことのある元連邦議員のロン・ポール氏は、マレーシア機の事故についてアメリカ政府が隠し事をしていると述べる。「ウクライナで起こっていること全てを監視することができるスパイ衛星を持つアメリカが、誰がどこで何をしたのかの正確な証拠を持っていないとは考えにくい」。

 そして、アメリカの主張とは反対に、ポール氏は、ウクライナで今起きていることに責任があるのはアメリカだと述べる。「アメリカが支援する”レジーム・チェンジ”(キエフにおけるユーロマイダンによる政権転覆のこと)がなかったとしたら、その後に続いた動揺で何百人もが殺されるという事態は起きなかっただろう。マレーシア航空の墜落だって起きなかっただろう」。

 さらに、親ロシア派勢力がロシアで作られた地対空ミサイル「ブーク」によってマレーシア機を撃墜したとする西洋メディアの報道に対し、ポール氏はこう述べる。「彼らは、ウクライナ政府も全く同じロシア製の兵器を使っていることは報じない」。

 だが、こうしたロン・ポール氏のまっとうな主張は、ポール氏に対する激しい人身攻撃によってたちまちかき消される。アメリカのナショナル・ジャーナル誌は、「ロン・ポールはプーチンの新しい親友」というタイトルの記事を出し、オバマ大統領を非難するポール氏を「狂っている」とみなした。

 こうした状況はポール氏のみに起こったことではなく、オバマ政権を批判する人々全てが同じ目にあわされている。欧米の主流メディアは、政府のプロパガンダ装置であるたけではなく、異議を唱える声に対して「精神的恐怖」を与えていると、 RIAノボスチ紙は書いている。

 また、「オフショア・バランシング」というリアリズムの国際戦略を説く政治学者ジョン・ミアシャイマーでさえも、ウクライナ危機を引き起こしたのはロシアではなくアメリカやヨーロッパだと述べている。ミアシャイマーは、フォーリン・アフェアー誌に「なぜウクライナの危機が西洋のせいなのか」という論文を発表し、「アメリカのヨーロッパの同盟国が、この危機に対して大きな責任がある。問題の主要な原因は、NATOの拡大にあり、ウクライナをロシアの勢力範囲から抜け出させ西洋に組み込もうという大きな戦略にある」と論じた。

ウクライナ軍用機が墜落

 7月23日、マレーシア機墜落現場の近くで、ウクライナ軍用機2機が撃墜された。撃墜されたのは、Su-25機で、17日にマレーシア機の側を飛行していたとロシアが主張していたのと同じ型のものだ。ウクライナ国防省のリシェンコ報道官は、対空ミサイルによる撃墜だと発表した。

 この撃墜については、ビデオが公開されている(現在、非公開)。

 ブルームバーグの記事は次のように伝えている。

「ドイツ連邦安全保障政策アカデミーのディレクター、カールハインツ・カンプ氏は電話インタビューで戦闘機2機の撃墜について、『反政府勢力がかなり高度な対空能力を備えていることを示す』と指摘。『バズーカ砲では戦闘機は撃墜できない。マレーシア航空17便の撃墜に関する新たな証拠だ』と述べた」。

 だが、23日のウクライナ戦闘機が飛行していた高度は5,200メートル(17,060フィート)、17日のマレーシア機が飛行していた高度は10,000メートル(33,000フィート)である。当然、対空ミサイルは高度10,000メートルも射程範囲だが、高度5,200メートルの軍用機を撃墜したからといって、マレーシア機を撃墜した「証拠」にはならないだろう。また、ウクライナ政府は7月14日に、32,000フィートまでは民間機が飛行しないよう制限していた。それ以下の飛行は、戦闘に巻き込まれる可能性があると認識していたということだ。

不可解な墜落現場

 結局7月31日になるまで、オランダ主導の国際調査団は事故現場に入ることができなかった。オランダの非武装の警察官などが現場に入ることを試みたが、安全が確保されていないという理由によって断念されたのである。(2014/7/28 東京新聞「オランダ治安要員 墜落現場入り断念 ウクライナ東部、戦闘激化」)

 だが、この説明には合点がいかないところがある。国際調査団が危険すぎて入れないという、その一方では、民間人はより早い段階で現場に入っていたのだ。

 AFP通信は、26日に犠牲者の一人の両親が「安全上の警告を無視し、付き添いなしで墜落現場を訪れ」、「飛行機の残骸や焼け焦げた土の間を歩き、残骸の1つに大きな花束を置いた」と報じている。AFPの記事には、現場を歩くこの両親の姿の写真が何枚も掲載されている。

 また、当然、複数のメディアも事故現場に入って取材を行っている。「証拠隠滅」が危惧されていて、その一方で安全上の理由から調査団は現地入りできない状況であるにもかかわらず、である。

 例えば、イギリスのスカイニューズ・テレビは、現場を生中継し、レポーターが犠牲者のスーツケースから遺品を持ち上げるという場面を映し出した。レポーターが事故現場の保存には気を使っていない様子がうかがえるのだが、それと同時に、民間人が事故現場に容易に入れるということも示している。(2014/7/21 産経ニュース「英TV、批判殺到に謝罪 スーツケースから遺品持ち上げ中継」)

 調査団が立ち入りできないほど危険であるというのは、事実なのだろうか? 現場は危険がゼロであるとは言えないとしても、そのリスク評価と立ち入り調査を行わないという判断は適切なのだろうか?

 さらに、疑問がつのるのは、墜落から24時間後に現場を撮影したFNNの映像である。大破した機体とともに、乗客のものと思われるスーツケースや荷物が映し出されている。子どもの持ち物と思われるぬいぐるみや絵本が、かなりきれいな状態で見つかっている。ミサイルが撃ち落とした飛行機から降ってきた荷物にしては、汚れや破損がないように見える。これを不思議に思わない人は、いないとは言わないが、少ないだろう。(2014/7/19 FNN「マレーシア航空機墜落 現場は犠牲者たちの持ち物などが散乱」)

 7月31日にやっと現地に入った調査団は、8月6日には調査を「一時中断」した。戦闘が続いており、治安が悪化していることが理由だという。

 ロシアのチュルキン国連大使は、キエフ政権がマレーシア機墜落の証拠を隠滅させるのではないかという危惧を示した。ウクライナのポロシェンコ大統領は事故があった地域での停戦を約束していたが、その約束はすぐに破られたという。そうした状況のなかで、事故現場の調査がますます難しくなっているのだ。

 さらに、国際調査団は事故現場の調査が十分にできないだけではなく、当日の重要な記録を入手することもできないままだ。管制室とマレーシア機の操縦室との通信記録は、調査団に渡されていない。また、マレーシア機は「予定の航路を反れて」紛争地域の上空を飛行したと言われている。そうであるとすれば、誰がなぜその航路を指示したのかが重要だ。だが、現在に至るまで、その疑問の解明も果たされていない。

「ブーク」は存在するのか?

 マレーシア機は、親ロシア派勢力によって地対空ミサイル「ブーク」によって撃ち落とされ、その「ブーク」はロシアが提供したものだ、というのがケリー国務長官などが描いたストーリーだった。

 そして、西側各国のありとあらゆるメディアは、事件勃発当初から、今に至るまで、親ロシア派勢力が地対空ミサイル「ブーク」を使ってマレーシア機を撃墜した、しかも「ブーク」はロシアによって親ロシア派勢力に提供されたものだと報じてきた。米国のトップが描くラインに沿って報じ続けてきたわけである。

 特に証拠が示されなくても、これだけ反論されれば、親ロシア派が「主犯」で、ロシアが「共犯」で、ブークが「凶器」であると、誰しもが思い込んでしまう。「クロ」と断定はできなくても、限りなく「クロ」に近い「グレー」と見なしてしまうだろう。

 しかし、「ロシアの声」が伝えるところによると、ロシア陸軍対空防衛部隊のミハイル・クルシ隊長は、マレーシア機に残された痕跡が地対空ミサイル「ブーク」によるものではないと考えられると発表した。

 クルシ隊長がそのように述べる根拠は、「ブーク」による攻撃の場合は特徴的な煙の痕跡が残るが、そうした煙の目撃者がいないこと、「ブーク」は上から攻撃するのにマレーシア機には上からの攻撃による跡はみられないことである。

 ロシアのウラジーミル・クリュチニコフ大佐は、親ロシア派勢力が「ブーク」を保有していたかに懐疑的だ。「もしも戦闘に使用できる地対空ミサイル・システムがあったなら、すでに戦闘機スホーイ25に対して使用していたはずです」。

 たしかに、マレーシア機墜落事故があるまで、ウクライナ軍の戦闘機が撃ち落とされたことがあっても、「ブーク」が使われたと言われたことはなかった。

マレーシア機のコックピットに

 ドイツ人パイロットのペーター・ハイセンコ氏は、マレーシア機の残骸の写真から、興味深い指摘をした。インターネット上では、ひとつの写真を除いては、解像度の低い写真だけしか見つからない。だが、このひとつの写真は、驚くべきことを示しているとハイセンコ氏は述べる。この写真である。

 ハイセンコ氏は次のように述べる。

「これは明確な事実を大声で語っており、推論などではない。コックピットには銃撃の跡がある!貫通する穴があるのが分かるだろう。穴のいくつかは内側に向かっている。それらは小さい方の穴で、丸くはっきりしているが、おそらく直径30ミリの弾丸で穴があいたことを示している」。

「コックピットの後ろ側の残骸の多くは、ほとんど損傷を受けていない。コックピットだけが、これらの奇妙な破壊の跡を示している。これは調査員にとって重要な手掛かりだ。この飛行機は、中央部をミサイルによって撃たれたのではない。損傷はコックピットの周辺にだけに限られている。この部分は、特に頑丈な素材で作られているにもかかわらず、である」。

誰も注目していない事実~マレーシアはウクライナ政府を非難

 7月23日、オランダのヒルフェルスム市の市長が、オランダ在住のプーチン大統領の娘はオランダから追放されるべきだと発言した。市長は後で謝罪したが、「多くの人が感じている抑えようのない感情から発言してしまった」と述べた。この言葉は、オランダでは一般的に事故がロシアのせいだと考えられていることを示唆している。マレーシア航空機は、当然のことながら、多数のオランダ人乗客を載せていた。痛ましい犠牲がやり場のない怒りと悲しみを引き起こす。

 事故後、すべての航空会社がウクライナ上空の飛行を取りやめ、航路を変更した。だが、驚くべきことに、マレーシア航空は今度はシリア上空を飛び始めた。シリア上空の飛行は、禁止されてはいないが、極めて危険であると国際民間航空機関が警告を発している。

 国際航空運送協会のトニー・タイラー会長は、ウクライナ政府が虚偽の情報を伝えていたとして非難している。ウクライナ政府は、航空会社に対して、「高度32,000フィート以上の飛行は完全に安全」と伝えていたのだ。7月17日当日、マレーシア機が飛行していたのは高度33,000フィート(10,000メートル)だった。その高度は「完全に安全」などではなかったのだ。

 今年2度の大事故に巻き込まれたマレーシア航空は、上場廃止に追い込まれている。2014年末までにマレーシア取引所への上場を廃止すること、また、従業員を30パーセント削減することが発表された。

 こうした状況のなかで、マレーシアの主要英語紙ニュー・ストレイツ・タイムズが、「アメリカの諜報機関の分析ではマレーシア機は対空ミサイルによって撃ち落とされたと結論」が下され、「ウクライナ政府が事故に関わっている」と報じたことは、もっと注目されて然るべきだろう。マレーシアのメディアは、政府からの強い規制を受けている。従って、こうした報道が出るということは、マレーシア政府がこの見解を支持していることを表していると見られている。

マレーシア機墜落の第一報告書

 9月9日にオランダ安全委員会が発表した第一報告書は、「多数の高エネルギー物体」が飛行機の崩壊を引き起こしたと述べている。だが、その「物体」が何だったのかは特定されていない。なぜか。オランダ安全委員会は、「ウクライナ政府と親ロシア派勢力分離主義者勢力のあいだの紛争のなか、安全が保証されていないため、調査員が墜落現場に行くことができなかった」と述べ、報告書は「その物体の性質やどこから来たものなのか調査しなかった」としている。

 つまり、この報告書はあらたな事実は何も述べていない。「MH17機の墜落は技術的な問題や乗務員の行為によって起こったものではない」と、誰も疑いさえ持っていない事実を述べる。

 報告によると、事故直前のマレーシア機の動きは次のようなものだった。

 墜落の約30分前、ドニプロペトロウシクの管制官はマレーシア機に高度を35,000フィートに上げるよう要請した。だが、マレーシア機は「要請に応じることはできない」として、33,000フィートを飛び続けた。要請に応じられなかった理由は明らかにはなっていないが、当時この地域で雷雨があったためではないかと考えられている。13時ちょうど、マレーシア機は「天候のため」わずかに航路を左に向けた。その後、乗務員が34,000フィートに高度を上げることを求めたが、管制官は同じ高度を飛行するよう伝えた。20分後、航空機は墜落することになる。

ひとつにつながる世界

 2013年末からウクライナ政変が始まり、引き続き2014年にウクライナ情勢をめぐって欧米ロシアが動いた。そして、7月以降、あらたな問題が世界情勢を悪化させている。7月にはイスラエルによるガザの大虐殺が平然と行われ、8月にはアメリカがイラクのイスラム過激派「イラクとレバントのイスラム国」に対する空爆を開始した。

 こうした動きは一見関連性を持たないように見えるが、つながっているのではないか。板垣雄三氏は、鍵となる存在がマレーシアであると指摘する。

 板垣氏によると、イスラエルによるガザ侵攻のきっかけとなったのは、2013年1月にマレーシアのナジーブ首相がガザを訪問し、イスラム共同体の統一を呼びかけたことだった。この呼びかけはじわじわと広がり、イスラムは統一に向けて動き出していた。だが、イスラエルはこの動きを封じ込めようとし、それがガザ侵攻へとつながったという。

 今年2回もマレーシア航空は訳の分からない事故に巻き込まれている。3月、マレーシア航空機370便が行方不明となったが、これはクリミア危機の絶頂期に起きたことだった。マレーシアのマハティール元首相は、5月、自身のブログで、飛行機は「消えたりはしない」として、CIAやボーイング社が「情報を隠している」と書き込んだ。これ以降、マレーシア機370便に関する報道は急に途絶えた。(2014/5/21 産経ニュース「「CIAは真実を隠している」マハティール元首相のブログ書き込みで物議」)

 そして、7月に起きたマレーシア機撃墜事件は、イスラエルによるガザ侵攻の最中で起きた。

 マレーシアは、アメリカやイスラエルの「戦争犯罪」を訴えてきた国である。2007年から2011年に掛けて、マハティール元首相が主導してイラク戦争の戦犯を問う裁判がクアラルンプールで行われた。この裁判で、ジョージ・W・ブッシュ元アメリカ大統領と、トニー・ブレア元イギリス首相に対して、イラク戦争でジェノサイドを引き起こし人類に対する犯罪を犯したとして、 有罪判決が下された。真っ当な判決のように見えるが、誰もこの判決を重く受け止めなかった。(2011/11/28 アル・ジャジーラ「Kuala Lumpur tribunal: Bush and Blair guilty」)

 一方、ウクライナとイスラエルも関わりがある。今年2月にキエフで起きたヤヌコビッチ政権打倒の暴力的なデモを率いていたメンバーのなかに、イスラエル国防軍の元兵士がいたという。彼らはウクライナの極右政党スヴォボダの命令を受けて動いていた。イスラエルと反ユダヤ主義政党との奇妙な結びつきがあったのだ。

 一方で、ウクライナ東部・南部でウクライナ軍とともに親ロシア派勢力と戦っているのは、ネオ・ナチの右派セクターや欧米の民間軍事会社(PMC)の「傭兵」たちであり、さらには、イスラム過激派テロリスト集団も存在しているとも言われている。

 さまざまな登場人物がウクライナで闘っている。ウクライナで起きていることは内戦でも地域紛争でもなく、そこはまさに世界の戦場なのである。

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です