7月17日、ウクライナ東部でマレーシア航空機17便が撃墜された事件をめぐり、ウクライナとロシアの非難合戦が続いている。
ウクライナ政府は当初から、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力が、ロシアの支援を受けて地対空ミサイルによって撃墜したと断定。墜落から数時間後には、親ロシア派武装勢力とロシア軍将校の電話での会話の録音を、「ロシア関与」の証拠だとして全世界に公開した。
これに対しロシアの国営テレビは19日、親ロシア派とロシア軍将校の会話録音について、「捏造された」報じた。国営テレビによると、ロシアの専門家が分析したところ、この音声記録は「複数の会話の音源を組み合わせたもの」であることが判明したという。
さらにウクライナ政府が発表した、地対空ミサイルシステム「ブーク」がロシア領内へと移送されている様子を映し出したとされるビデオ映像についても、ロシア国営テレビは「映っている看板などから、実際はウクライナ政府軍の掌握するドネツク州西部で撮影されたもの」と断定した。
そして、20日にはロシアのアナトリー・アントノフ国防次官が、「これはロシア連邦とロシア軍に対して始められた情報戦争のひとつのようだ」と反論。ウクライナに対し「10の質問」に答えるよう要求した。
アントノフ露国防次官が発表した「10の質問」は以下。
ウクライナ当局に対する質問:
1.この悲劇のすぐ後に、ウクライナ当局は当然、自衛軍(※)のせいにした。どのような根拠にもとづいて非難したのか?
(※)親ロシア派武装勢力
2.紛争地帯でどのようにしてBuk(ブーク)ミサイル発射装置を使うかを、キエフ政府は、詳細に説明できるだろうか? そして、まず、自衛軍は飛行機を持っていないように見えるが、なぜそのシステムがそこに配備されていたのだろうか?
3.ウクライナ当局は、なぜ、国際的な調査委員会を設置するために何もしないのか? いつになったら委員会は開始するのか?
4.ウクライナ軍は、SAM発射装置を含め、空対空ミサイルと地対空ミサイルの装備を国際調査委員に見せようとするだろうか?
5.国際調査委員会は、この悲劇が起こった日のウクライナの軍用機の動きについて、信用できる情報源からのトラッキング・データを入手できるだろうか?
6.なぜ、ウクライナの航空管制官は、この飛行機が北への通常の航路から外れて、「反テロ作戦地帯」へと向かうことを許したのか?
7.なぜ、戦闘地帯の上空は民間機の飛行を封鎖していなかったのか? 特に、この地帯はレーダーのナビゲーション・システムによって完全にカバーされているのではなかった。
8.ウクライナで働いているスペイン人の航空管制官によると、ウクライナ領土の上をボーイング777に沿って二つのウクライナ軍用機が飛行していたという、ソーシャルメディア上で投稿している。これについてキエフ政府はどうコメントするのだろうか?
9.なぜ、ウクライナのセキュリティサービスは、国際調査員を待つことなしに、ウクライナ航空管制官とボーイング乗務員とのあいたの通信記録や、ウクライナのレーダーからのデータ・ストレージ・システムを調査し始めたのだろうか?
10.ウクライナは、2001年のロシア機Tu154の黒海への墜落という類似の事故から何を学んだのだろうか?当時、ウクライナ当局はウクライナ軍が関与したことを否定していたが、キエフ政府に責任があるという反駁できない証拠が出てきた。
明けて21日、イーホル・ハルチェンコ 駐日大使が、こうしたロシア側の反論をけん制するように、東京都の駐日大使館で緊急会見を行った。
- 日時 2014年7月21日(月) 16:00~
- 場所 在日ウクライナ大使館(東京都港区)
ハルチェンコ大使は、マレーシア航空機は、ロシアから持ち込まれ、ロシア人が操作する地対空ミサイルによって撃墜された、という従来からの主張を繰り返した。
IWJは、ロシアのアントノフ国防次官が出した「10の質問」にウクライナ政府が答える用意があるかを質問した。これに対しハルチェンコ大使は、「私はそれらの質問に関して知らない」と回答。「我々はロシアに対して一つの質問がある」と前置きした上で、「 いつ、ウクライナに対するテロ戦争を仕掛けるのを止めるのか? 我々は国防次官からその答えを聞きたいのではなく、ロシア大統領から聞きたいのだ。もし、それがなされないのなら、彼がテロリスト国家の大統領であるのは明らかだからだ」と語った。
ハルチェンコ大使は会見で、ウクライナ政府が発表している、親ロシア派とロシア軍将校の会話の録音をあらためて上映。質疑では、「ウクライナは、犯人がロシアとつながっているという直接的な証拠を握っている。ウクライナはその証拠を、どんな法廷にでも提出する用意がある。最も適切な法廷は、ハーグの国際刑事裁判所である」と強調した。
会見にあたって、駐日ウクライナ大使館は、「ロシアがMH17便撃墜について言い逃れができない7つの理由」と題するペーパーを配布した。(取材:松井信篤、記事構成:藤澤要、芹沢あんず、佐々木隼也)
以下、全文掲載する。
【情報レジスト】 ロシアがMH17便撃墜について言い逃れができない7つの理由
ロシア国務省がした、ウクライナのミサイル管理記録書類提供の要求について
ロシア・A.アントノフ副国防省は、ウクライナ政府が国際専門家に対し、保有しているミサイルシステムの空対空・地対空ミサイルの管理記録書類を提供しなければならないと主張した。
順番を正そう。マレーシア航空機MH17の撃墜に関しては下記の事実が挙がっている。
(1)
武装集団は撃墜したと自白した。その言葉の裏付けとして、彼らは動画を提供した。撃墜の時間と場所は[動画と]一致している。
[この記事の最初の段落と、巻末「おまけ」をご参照。]
(2)
以前武装集団は同地域において、肩打ち敷きミサイルロケットランチャーの攻撃可能範囲を遥かに超える高度(6000メートル)にあった空中目標を、少なくとも一度は撃墜している。武装集団は、その撃墜の責任が自分らにあるとした。
[※7月14日、ルガンスク州で撃墜された輸送機An-26のことである。たとえばこの記事の「悪かったこと」(1)をご参照。]
(3)
傍受された通話では、武装勢力が航空機を撃墜した旨報告している(後にボーイング777だったことが発覚する)。また保安庁は、武装集団を後援するためにロシアの領土から侵入したロシア軍の専門員がこの事件に関わっている証拠を公表している。
(4)
墜落の3時間前にスニジネ町近郊からMH17が撃墜された場所へ向かう自走地対空ミサイルシステム「ブーク」を捉えた画像、また同ミサイルシステムMH17の撃墜後ロシア国境に向かう様子を捉えた動画がある。
(5)
武装集団は積極的に墜落現場における救助隊の活動に干渉し、国際専門家が現場に入るのを妨げ、客観的な操作を妨害しようと堂々と証拠品を盗んでいる。
(6)
ロシア領土から重兵器や兵器車両、またこれらを操作するためのロシア専門員がウクライナ領土内に侵入しており、侵入後継続してウクライナ軍、また一般市民や民用物に対して用いられている(証明済み)。
(7)
以前、ロシア軍がウクライナ領空における空中目標を攻撃している。具体的には7月16日、ウクライナの攻撃機Su-25がロシアの戦闘機MiG-29により攻撃された事実である(証明済み)。
これらに対してロシアは、「嘘だ」といった口先のみの反論と、ウクライナ側の関わりを示唆するような納得しがたい要求しか見せていない。ウクライナ軍がMH17便に向かってミサイルを発した可能性を証明するような証拠は、間接的なものでさえ一つも提供されていないのである。
これを受けて我々「情報レジスト」グループは、ロシア保有の空対空・地対空ミサイルおよび地対空ミサイルシステムの管理記録、ついでに[ウクライナに搬入した事実がないと主張されている]戦車や多連装ロケットランチャー「グラード」、またその弾薬の管理記録書類の提供をロシア国務省に求めるよう、ウクライナ国家組織に呼び掛けている。なおこれは、ロシア軍隊が全体として所有しているものの記録のみならず、ロシア国防省管轄下にある保管基地の管理記録を含む。
【以下、緊急会見での質疑の主なやり取り】