- 日時 2014年3月23日(日)
- 場所 大阪大学豊中キャンパス ドイツ文学研究室(大阪府豊中市)
ユダヤ系ロシア・オリガルヒ
ソ連崩壊後の1990年代のロシアでは、オリガルヒと呼ばれる新興財閥が誕生する。急速に資本主義化を押し進める過程で、多くの国有企業はかつての経営者層にそのまま受け継がれる形で民営化された。一躍大資本家となったこれらオリガルヒは、新聞やテレビなどのメディアも手中におさめ、エリツィン政権との癒着を強めていくこととなる。
90年代後半に全盛を誇った「ビッグ・セブン」と呼ばれた7人の代表的オリガルヒのうち、6人までがユダヤ系だったと言われている。ただし赤尾氏は、「こう聞くと陰謀論的な話になりがち」と話し、「この人たちがみんなユダヤ人として動いていたわけではないし、個人的利害もある。自身のユダヤ人性を否定するような人も中にはいた」と続けた。
プーチンとシュタドラン
プーチンのような権力者にとって、「ユダヤ人」という存在は、どのように映るのだろうか。赤尾氏は興味深い指摘を行った。「プーチンは少数民族や宗教マイノリティの代表者と会って、見せ場を作る。だから西側も、プーチンを『反ユダヤ主義者』とは言いづらい」と赤尾氏は見る。
また、常に外部からの攻撃にさらされやすい脆弱な立場にあるユダヤ人側にとっても、権力者とのつながりを持つことは、自分たちのアイデンティティを守りつつ、生存の条件を確保することを意味してきた。「オリガルヒのような有力者で、政治権力とつながりがあり、場合によってはユダヤ共同体の利害や安全を守る、そのような人物のことをヘブライ語でシュタドランといいます」。赤尾氏は続ける。
「シュタドランは『仲介者』という意味。シュタドランの伝統がユダヤ教のディアスポラでは、古代から現代に至るまである。政治権力とコネを作っておくのは危機に備えた生存の一つの知恵でもあります」。
経済拠点にオリガルヒ出身知事を登用
<ここから特別公開中>
ウクライナ暫定政権は発足直後に、ドネツクとドニプロペトロウシク2州の知事に、新興財閥オリガルヒ出身の人物を任命した。ドネツク、ドニプロペトロウシクともウクライナ工業の中心地であり、しかもロシア系住民の比率が比較的高い地域でもある。
「押さえておきたい場所に有力オリガルヒを送り込んでいる」と赤尾氏は話す。「ロシア語が話されロシア人も多い地域が、クリミアのように、ロシア寄りになりすぎるのは避けたいと考えている」。したがって、この知事任命人事からは、経済の舵取りに秀でているとされるオリガルヒ出身の人物に重要拠点の統治を任せることで、東部の安定化を図ろうとする意図が透けて見えると赤尾氏は説明を加えた。
「ユダヤ人」という名指し
かつて、2010年の大統領選挙戦の最中に有力候補の一人であるティモシェンコ元首相に対して、「ユダヤ系」だとネガティヴ・キャペーンが張られた。また、現在の暫定政権のトゥルチノフ大統領とヤツェニュク首相に対して、「ユダヤ人」だという根も葉もない噂がインターネット上で飛び交うエピソードを赤尾氏は紹介した。
目障りな存在は、とりあえず「○○人」として片付けようとする光景は、日本でもおなじみのものだ。「舛添さんが都知事選に出た時に、ネトウヨが『舛添は在日』とやるのと同じ現象です。政敵とか嫌な奴らはみんなユダヤ人にされてしまうという話」と赤尾氏は言う。
イスラエル大使と会う極右
極右政党「スヴォボダ」の指導者で反ユダヤ主義的な発言を繰り返してきたチャフニボク氏は、イスラエル大使に会い、イスラエルは「世界一のナショナリスト国家」だと褒めたたえたことがある。極右の一部には「国を取り仕切るユダヤ人は認める」一方、「自分の国で経済を回すユダヤ人は許せない」と感じる心性があるのだろうと赤尾氏は分析する。
むろん「極右」と一口に言っても、その中には、ネオナチに酷似するデモ団体から、スヴォボダのように曲がりなりにも政党の体裁を取るものまでさまざま存在する。裏を返せば、チャフニボフ氏がイスラエル大使に会うという行動からも分かるように、いかに排外主義的傾向の強い極右といえども、「政治」に参加することを望むのならば、戦略的に立ち回らなくてはならないということだ。
このことを踏まえ赤尾氏は、「レイシズムはレイシズムで非常に恐ろしいですが、政治の舞台に登ろうとしたら、そういうのと手を切る姿勢というか、そういうパフォーマンスをしないと立ち行かないところもある」と語り、その限りにおいて「極右の影響力を過大視しないに越したことはないとは思う」と述べた。