【IWJブログ】「クーデター」か「高潔な革命」なのか~ウクライナ政変にロシアの軍事介入が及ぼす影響 2014.3.6

記事公開日:2014.3.6 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

(取材・文・翻訳:ゆさこうこ、文責:岩上安身)

 3月1日、ロシアのプーチン大統領は、クリミアのロシア系住民保護のためにウクライナにロシア軍を派兵するよう議会に求め、議会はこれを承認した。派兵期間は、「ウクライナの社会的・政治的状況が正常化するまで」としている。

ロシアの軍派遣

 3月2日、プーチン大統領は、アメリカのオバマ大統領、フランスのオランド大統領、潘基文国連事務総長、ドイツのメルケル首相と電話会談を行った。オバマ大統領は、国際法違反と批判し、ロシア軍の撤退を求めた。また、メルケル首相は、欧州安保協力機構によるウクライナ調査団の派遣を提案し、プーチン大統領はこれを受け入れたという。

 ロシア議会における派兵の承認の後、大統領のスポークスマンは、「プーチンは、ウクライナでロシア軍を使うかどうかまだ決断していない」と表明している。

 しかし、クリミアはもともとロシア黒海艦隊が基地を置いている場所でもあり、すでにロシア軍の展開は進んでいる。ロシア軍の装甲車がクリミアを走り、ロシアの介入を歓迎するクリミア市民の姿も報じられている。クリミアでは「正体不明」の武装勢力が占拠を続けているが、これもロシア軍とみなされている。

 クリミア自治共和国議会のコンスタンチノフ議長は、ウクライナの新政府には従わないと表明している。親ロシア派のクリミアのアクショノフ首相は、1日に、クリミア半島の全ての軍を指揮すると表明した。前号のブログ「【IWJブログ】ウクライナ政変~揺らぐ権力の正当性――西部の首都キエフを支配した反政権派には米国政府とネオナチの影、プーチンに支援を求める東部の親露派住民 2014.3.6」で記したとおり、新政権は独立広場において、集まった民衆の「喝采」によってのみ「承認」されたものであり、法に則った正規の選出手続きを経たものではない。その点では、コンスタンチノフ議長の主張は、筋の通ったものである。

 また、ウクライナ新政府がウクライナ語以外の言語を公用語として認める法律を、2月23日に撤廃したことも重大な緊張をまねいている。この措置によって、ウクライナではロシア語を公用語として使用することが許されなくなってしまったのである。この重大な決定についての報道は、西側ではほとんど行われていない。これはメディアの「偏向」というレベルを超えている。

 ウクライナ語を主として用いているのは、西ウクライナの住民であり、ロシア人住民も多い東南部は主にロシア語を用いる。わけてもクリミア自治共和国は、ロシア人が住民の6割を超え、ロシア語がほぼ公用語である。

 言うまでもなく、帝制ロシアの版図を引き継いだソ連では、連邦制度の崩壊まではウクライナも含め旧ソ連の15の共和国すべてで、公用語はロシア語だった。ロシア革命後、ウクライナ語を尊重する「ウクライナ化」が進められた時期もあったが、その後は「ウクライナ化」は抑圧された。それ自体、大いに問題であるのだが、であるからといって、その反対にロシア語を急に禁じる政策が正当化されるわけではない。

 ウクライナ語を公用語として強制し、ロシア語を締め出すというのは、かなり急進的で強引な施策である。言語上の民族差別政策であり、公共空間からロシア語をパージ、もっと厳しい表現を用いれば言語上の「民族浄化」であるとすら言わなくてはならない。

 当然、ロシア人の多いクリミア自治共和国ではこんな禁止命令はのめないということになる。ウクライナ新政府が公用語としてのロシア語の使用を禁じてから、クリミア自治政府はロシアに支援を要請している。

 ウクライナ新政府はクリミアに軍を派遣したが、ウクライナ新内閣によって海軍のトップに任命されたばかりのベレゾフスキー司令官を含め、合計5名の軍や防衛のトップがクリミア自治共和国への忠誠を誓った。約5000人のウクライナ軍人も、クリミア側についたと言われている。

 クリミアのアクショノフ首相は、「クリミア海軍」の創設を宣言し、ベレゾフスキー氏をトップに任命すると発表した。

 ロシア軍がウクライナ軍に対して、3月4日午前5時までに投降しないと攻撃を開始するという「最後通告」を出したという報道が一時なされたが、ロシア側はこれを完全に否定した。結果、最後通告とされた時間を過ぎても何も起こらず、「最後通告」報道はガセ情報であることが判明した。

 結局のところ、ロシア軍は、一発の銃弾も砲弾も撃つことなく、戦略的要衝の地であるクリミア自治共和国を掌中におさめることに成功したわけだ。

ロシアの主張

 3日にジュネーブで行われた国連人権委員会で、ロシアのラブロフ外相は、ウクライナで「暴力的かつ不法に支配権を握った過激派と関係を断つことが重要」と述べ、「2月21日の合意書を尊重するべき」と話した。

 2月21日の合意書とは、フランス・ドイツ・ポーランド外相およびロシア代表の参加のもとで行われた、ヤヌコビッチ・ウクライナ大統領と野党との合意書のことである。そこでは、大統領選挙の前倒しや、挙国一致政府の発足が約束されていた。

 さらに、ラブロフ外相は次のように述べた。

 「2014年は第二次世界大戦が始まってから75周年であり、来年はナチスに勝ちニュルンベルグ裁判が始まってから70周年である。これらの出来事は、排他主義によって人権や倫理をおろそかにしたときに何が起こるのかを思い起こさせる。ナチスを正当化したりもてはやしたりする行い、そして、ヨーロッパの解放者の記念碑を冒涜する行いに立ち向かわなければならない」。

▲ロシア外務省はTwitterで、ラブロフ外相の国連人権委員会における発言を発表した(3月3日)

▲ロシア外務省はTwitterで、ラブロフ外相の国連人権委員会における発言を発表した(3月3日)

「高潔な革命」か「クーデーター」なのか——国連安全保障理事会での攻防

 3日、ニューヨークで、国連安全保障理事会の緊急会合が開かれた。ロシアのチュルキン国連大使は、クリミアへのロシアの介入について、「ヤヌコビッチ大統領の要請にしたがったもの」として正当性を主張した。プーチン大統領に宛てたヤヌコビッチ氏の手紙にはこう書かれていた。

 「西欧諸国の影響のもとで、公然と恐ろしい暴力行為が行われている。言語の違いや政治的理由から迫害されている人々がいる。したがって、正当性、平和、法、秩序、安定を維持しウクライナの人々を守るため、ロシアのプーチン大統領に、ロシア軍を派兵するよう依頼する」。

▲国連安全保障理事会でヤヌコビッチ氏からの手紙を見せるチュルキン国連大使

▲国連安全保障理事会でヤヌコビッチ氏からの手紙を見せるチュルキン国連大使

 チュルキン国連大使は、ヤヌコビッチ氏が今もなお合法的なウクライナ大統領だとし、彼の進退はウクライナの人々に委ねられるべきだと主張した。また、ウクライナの過激派を制御することも必要だと述べた。

 アメリカのパワー国連大使は、「ロシアの軍事行動は国際法違反だ。ロシアはウクライナ政府と直接話し合う必要がある」と主張した。

 ウクライナのセルゲイエフ国連大使は、「(新政府樹立を)ロシアは『クーデター』と呼ぶが、われわれは『高潔な革命』と呼ぶ」と述べ、「ウクライナは人権についてロシアとは異なる考えだ」と言った。さらに、ロシア軍がクリミアに1万6千人の兵力を投入していると主張した。

 しかし、ロシア軍のクリミア駐留は、1991年のソ連崩壊以降、現在に至るまで、23年間も継続してきたことだ。1997年にウクライナ政府とロシア政府との間で協定が結ばれ、ロシア軍はクリミアに2万5千人までの兵力を配備することが可能になっている。この協定は2017年を期限としているが、その後25年間の延長が可能だ。現在、ロシア軍は、クリミア半島のセヴァストポリの港に5隻の軍艦が配備しているほか、クリミアに二つの空軍基地がある。

ロシアに対する制裁

 アメリカは、ロシア軍のクリミア侵攻に対して、経済制裁を検討している。経済制裁には、ロシアのG8からの締め出し、貿易や投資の抑制、政府高官の資産の凍結などが含まれているという。

 G8からロシアを除くG7は、ロシアが「ウクライナの主権と領土保全を侵害している」と非難し、今年6月に冬季五輪が開かれたソチでの開催予定のG8サミットについて準備を中断すると発表した。

 すでにロシア経済には影響が及んでいる。ロシアのクリミアへの軍事介入が報道されると、ロシアのルーブルが急落した。

 また、EUはロシアに対する限定的な制裁の検討を始めた。6日に臨時のEU首脳会議を開き対応を協議する予定である。ロシアへの制裁についてEU内で一致団結しているわけではなく、ロシアに対する武器輸出を禁止しようとする声がある一方で、ロシアと揚陸艦の売却契約を締結しているフランスは慎重な姿勢を取っている。

 アメリカのケリー国務長官は、4日、ウクライナに到着し、ヤツェニュク新首相と会談を行った。

プーチン大統領の見解

▲ロシア大統領のウェブサイトより

▲ロシア大統領のウェブサイトより

 3月4日、世界から去就が注目されるロシアのプーチン大統領は記者会見を開き、メディアからの質問に答えた。

 プーチン大統領は、ウクライナで起こったことを「憲法上の手続きに反した政権交代」であり、「武力による権力掌握」だと評した。そして、2月21日の合意に従うべきであるとし、ヤヌコビッチ氏がウクライナの正当な大統領であることを強調した。

(…会員ページにつづく)

アーカイブの全編は、下記会員ページよりご覧になれます。

一般・サポート 新規会員登録

関連記事

「【IWJブログ】「クーデター」か「高潔な革命」なのか~ウクライナ政変にロシアの軍事介入が及ぼす影響」への1件のフィードバック

  1. とさか より:

     ウクライナの政変は、どう見ても暴力革命だ。
     大統領選の前倒しという妥協を無視して力尽くで大統領を追い出して「高潔だ」なんて片腹痛い。ネオナチ勢力を抱える新政権のどこが高潔なのか。
     2009年、民主党とその支持者が選挙を待たずに暴力で自公政権を打倒していたら、アメリカはそれを承認したか?
     2012年、スカタンな民主党政権に業を煮やした日本の国民が鳩山・管・野田を力尽くで追い出し、自民党を政権へ返り咲かせたら、世界はそれを認めたか?
     それと同じ事。
     ヤヌコビッチ氏は独裁的ではあったが独裁者ではない。何しろ、その選挙結果を欧州が「違反は認められない」と認めていたのだから。フセインやアサドとは違うのだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です