「日本の国家主権が根底から覆される」TPP交渉差し止め・違憲訴訟準備会が発足 ~山田正彦元農相ら、呼びかけ人は約30人に 2014.9.24

記事公開日:2014.9.30取材地: テキスト動画
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(藤澤要、佐々木隼也)

特集 TPP問題

 日本を売り渡す歴史的な譲歩が、密室で行われてようとしている。11月に開催されるAPECでTPP交渉の「大筋合意」を狙う日米両政府は、9月23、24両日、甘利明TPP担当相と米通商代表部のフロマン代表との間で会合を行った。結果は「物別れ」に終わったものの、日本側は相当の譲歩案を用意していたとの観測もある。

 問題は、日本側がどこまで譲歩を行うつもりなのか、現段階でどの程度両者のあいだで折り合いがついているのか、その一切が国民に開示されない「秘密交渉」である点だ。日本が歴史的な譲歩をしていても、それを国民は知ることができない。

 9月24日、このTPPの非公開性や、国民の生存権や知る権利などを脅かすその中身が「違憲である」として、TPP交渉の差し止めを求める「TPP交渉差し止め・違憲訴訟の会」の準備会が発足した。

 準備会は今後、「TPP交渉の差し止め」「TPP交渉ないしTPPの違憲確認」「国家賠償請求」の3つを柱に、訴訟を行っていく。訴訟団の共同代表である岩月浩二弁護士は、「日本の国家主権が侵害され、国民の生命、健康、自由、財産、幸福追究に対する権利が、根底から覆される」と語り、TPPの違憲性を強調した。

 同会の幹事長で、訴訟準備を中心となって進める山田正彦元農水相は、「11月に米国の中間選挙が終われば、一気呵成にTPP基本合意を取り付けるのが、日米の腹なのだと思える」と発言。差し止め訴訟を目指す理由について、「もしそうなれば、私たちの生存権、知る権利が侵害されることになる」と危機感をあらわにした

 11月の「大筋合意」を念頭に山田氏らは、情報公開法に基づいたTPP交渉過程や内部文書の公開を求める手続きに入っているという。山田氏は、「おそらく黒塗りのものが出てくるか、却下の決定が下りる。こういう事例をもとに国民の知る権利が侵害されていると訴える」と訴訟の見通しを語った。

 同会によると、呼びかけ人にはジャーナリストの堤未果さん、音楽家の三宅洋平さん、歌手の加藤登紀子さんや経済学者の宇沢弘文東大名誉教授に加え、元外務省国際情報局長の孫崎享さん、IWJ代表の岩上安身ら約30人が名を連ねている。

■ハイライト

■全編動画

経済大国主導で協定を結べば、日本も「加害者」になる

 立教大教授の池住義憲氏は、イラクへの自衛隊派遣に対し差止訴訟を起こし、違憲判決を勝ち取った経験をもつ。その意義を、「実際に戦争や武力行使がある可能性があり、そのことで苦痛を感じることが予想されるならば、司法府に訴える道が拓けた」と語る。

 TPPに関しても同様のことが言えると池住氏は指摘。貿易協定の実施がまだであるものの、交渉は着々と進む。その中で、多くの人が食の安全、医療制度の存続、農業や漁業のありようの変化など、様々な不安を抱え、不利益をこうむっている。「名古屋高裁の判決を参考にし、不利益の原因であるTPP交渉をストップさせる道はある」と池住氏は訴える。

 また池住氏は、日本が「加害者」でもあるという視点の重要性を指摘。経済規模の大きい日米間の交渉によりTPPが主導されることにより、結果として途上国の人々の権利が侵害され、とくに「農山村、漁村、都市スラムの人たち」の生活が危機にさらされると危惧の念を明かした。

 IWJ では、イラク派兵差止訴訟の成果と、TPP交渉差止訴訟へのその応用についての池住氏の考えを取材。以下のアーカイブで視聴が可能です。

TPP違憲を訴える訴状の骨格

 訴訟団の共同代表の岩月浩二弁護士は、「訴状の骨格」を紹介。訴訟は、「TPP交渉の差し止め。TPP交渉ないしTPPの違憲確認。国家賠償請求」という3つの柱により構成されると解説した。

 「日本の国家主権が侵害され、国民の生命、健康、自由、財産、幸福追究に対する権利が、根底から覆される」。岩月氏によれば、TPPはさまざまな意味で違憲性をはらんだものだ。

 とくに日本国憲法三原則のうち、「国民主権」と「基本的人権の尊重」への影響を大きいと岩月氏はみる。「国民主権は、資本家主権、金融資本主権、グローバル資本主権に書き換える」。グローバル企業の立場を優位なものとするため、法制度、慣行などがすべて密室の中で組み換えられる。「このための法律的なしくみがTPPです」。

 「経済活動が第一」というTPPを貫くに思想は、「国民の暮らしも破壊するし、労働者の権利も破壊するし、食の安全も侵害していく」。おなじ思想の下、医療も経済活動としてみなされ、国民皆保険制度の存続も危ぶまれる。「貧しい国民は非常に乏しい医療しか受けられないようになる」。

 裁判で訴えるべき「TPPによる被害」を岩月氏は次のようにまとめる。「人権秩序も変わり、国民が国の政治のあり方を決めていくこともできなくなる。自分の暮らしのしくみを決めていく権利も奪われる」。

宇沢弘文氏からの最期のメッセージ

 この訴訟の呼びかけ人には、18日に亡くなった、経済学者の宇沢弘文氏(1928-2014)も名を連ねている。山田氏は、宇沢氏から葉書が届いていることを次のように紹介した。

 「宇沢先生は今ご病気で、奥様の代筆ですが、『自分は体を壊して行けないけれど、自分の名前も使って、ぜひTPP差止違憲訴訟をやって欲しい』との葉書がきています」。

 宇沢氏は1951年に東京大学理学部数学科を卒業後、56年に渡米。スタンフォード大学とカリフォルニア大学バークレー校での教育研究活動を経て、64年にシカゴ大学経済学部教授に就任。米国時代には、市場の調整機能を重視した成長理論を発表。高い評価を受ける。

 日本に戻った68年からは、公害や環境問題にも積極的に発言。経済効率優先の社会に疑問の声をとなえ、市場原理主義的な経済理論に対し批判的な立場をとるようになる。シカゴ大学では、「新自由主義」の代表格ミルトン・フリードマンと同僚だったが、宇沢氏はフリードマンを厳しく批判していたことで知られる。

 晩年の宇沢氏は、TPPに反対し、積極的に活動・発言していた。IWJでは、「TPPを慎重に考える会」などで講演をおこなう宇沢氏の姿を中継している。

TPP参加で従属国化、主権を喪失する日本

 質疑応答で岩上安身は「この違憲訴訟への壁がある」と切り出し、TPPを巡る「統治行為論」「憲法98条の解釈」「ISDによる司法主権の喪失」の3つの「壁」を指摘した。

 「政治が大きな判断を示すときに、違憲かどうかを問わない、ということが続いています。とりわけ日米関係において横たわる、『統治行為論』の問題です。

 日米同盟、対米従属の深化ともいうべきTPPです。これ以上の従属は国家としての主権を脅かすということです。これを『統治行為論』という言葉で、司法は判断しないということが続いていいのか。司法の死ではないのか。これを訴える必要があるのではないか。

 それから、憲法98条に関して、条約が憲法に優位するという解釈が横行していますが、それでいいのかと議論する必要があると思います。

 またISDに関しては、司法の空洞化を招くわけです。最高裁より上の上級審が海の向こうに生まれてしまうわけですから、司法それ自体が否定されてしまうことです。司法主権が失われること。これを司法自らに問いかけることが大事だと考えます。

 総じて言えば、主権国家でなくなってしまう。本当に従属国だなと。それでいいのかということを、司法の場で正面で問うことができないのか。その裁判を通じて世論を形成できないものか」。

 岩上は「中核となる議論がなければ、世論も形成されない」と続け、発言を終えた。

 これにまず応答した篠原孝衆議院議員(民主党)は、ISD条項は憲法76条違反だと指摘。「憲法76条には、日本のもめごとは日本の裁判所でやると書いてある。それを(TPPでは)外国の一審だけでやろうとする」と続けた。

 続いて答えた岩月氏は、「統治行為論というのは国会が正常に機能することが大前提。だから司法は高度に政治的な判断をしないということだと思います」と発言。その上で「今の国会や言論の状況を前提にすれば、統治行為論に逃げ込むことは、主権侵害に当たる」との見方を示した。

 さらに岩月氏は、「このような立論で裁判所の判断を迫っていく、というご指摘は貴重なものです。今後の訴訟もこれを視野に入れていこうと考えます」と付けくわえた。

 ここで岩上は、「憲法98条の問題に関してはどうお考えか」と岩月氏に問いかける。岩月氏は「私ども法律家の感覚では、憲法が条約の下になる、という考えはまったくない」と応答。憲法学界でも、条約が憲法に優越するという主張は稀であると指摘した。

 岩月氏は「実態がそうでないということは、非常に恐ろしいこと」と語り、「安保条約があり、日本国憲法があるような、この国の状態」という岩上の見解に同意。「この上に、すべての生活基盤を米国が主権者としてふるまう形になれば、まさにTPPが日本を支配するということになります。(違憲訴訟運動では)そういう論点も考えたいと思います」との見解を示した。

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「「日本の国家主権が根底から覆される」TPP交渉差し止め・違憲訴訟準備会が発足 ~山田正彦元農相ら、呼びかけ人は約30人に」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    「日本の国家主権が根底から覆される」TPP交渉差し止め・違憲訴訟準備会が発足~山田正彦元農相ら、呼びかけ人は約30人に http://iwj.co.jp/wj/open/archives/170627 … @iwakamiyasumi
    誰にとっても無関係でいられないTPP。10月3日まで動画公開中です、この機会に是非。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/517074509019361280

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