「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を一言で言うと何ですか?」
2014年7月6日(日)14時より、福岡市民会館で行われた山田正彦・元農林水産大臣の講演で、参加者から山田氏に対し「TPPとはなにか」を問う質問が飛んだ。
長年TPPに反対の立場を示してきた山田氏は、「日本の制度を全部アメリカの制度に変えてしまうもの」と答え、自民党の総選挙時の公約を堂々と破り、TPP交渉妥結に向け邁進する安倍政権の姿勢に警鐘を鳴らした。
山田氏は、早稲田大卒業後、故郷の五島列島に戻り、1972年に10ヘクタールの牧場を設立するが、第一次オイルショックにより経営に大打撃を受けた。その後、長崎市に自身の法律事務所を開設し、弁護士業を営む一方、牧場の再建にも取り組んだ。1993年に新生党公認で衆議院議員に初当選し、以来当選5回、2009年の民主党鳩山内閣では農林水産副大臣、2010年の菅内閣では農林水産大臣まで務めた。しかし、民主党内では、TPP交渉に反対の立場をとって2012年に離党し、総選挙では長崎3区から「日本未来の党」より出馬するも落選した。
- 主催あいさつ 中園公浩氏(キママクラブ)
- 講演 山田正彦氏(元農林水産大臣、前衆議院議員)
TPP締結の為の布石 福岡市雇用特別区
山田氏は、講演の冒頭、安倍政権が推進する雇用特別区(国家戦略特区)について触れた。
「今までの特区というのは、地方自治体がこれをやりたいと、国に働きかけて実現していくものだった。しかし、現在、福岡市で進められようとしている雇用特区は、安倍政権と竹中平蔵氏の主導であり、これまでの特区とは明らかに違う」と山田氏は指摘する。
山田氏によれば、「日本はTPP締結までにアメリカ政府からの要望を実現すること」をTPPの交渉参加の条件にされたという。これと同様のことは、TPPの前例といわれる韓国FTAでも行われており、韓国政府はFTAの締結2年前に医療特区を創設している。
安倍政権が示した福岡市雇用特別区の目標には、「雇用条件の明確化などの雇用改革等を通じ国内外から人と企業を呼び込み、起業や新規事業の創出等を促進することにより、社会経済情勢の変化に対応した産業の新陳代謝を促し、産業の国際競争力の強化を図るとともに、更なる雇用の拡大を図る。」と記されている。
山田氏によれば、「福岡市で雇用特区が認められれば、2か月分の賃金を払えば、正社員であっても、いつでも解雇できるようになる」という。
各国でも反対続出のTPP
大手メディアの世論調査によると、日本では国民の半分以上がTPPに賛成だとされている。しかしアメリカをはじめ、TPP交渉参加国の世論は違うという。TPPの主導権を握るアメリカの世論調査では、70%の国民がTPP(自由貿易協定)に反対している。同様に、ニュージーランドでは70%。オーストラリア55%の国民が反対しているという調査結果が出ている。マレーシアに至っては、与党のマハティール元首相が反対を表明している。
「これらの国々の国民が反対する一番の理由は、TPP交渉の中身が国民に全く公開されていない秘密協定だからである」と山田氏は解説する。
TPP交渉参加国は、TPP協定締結後でさえも守秘義務契約を結び、交渉終了後4年間は交渉内容を公開しないよう求められている。
アメリカでさえ下院議員202名がTPP反対
現在、アメリカ下院議員は民主党・共和党合わせて202名(※下院議員435名の46%にあたる)の下院議員がTPPに反対している。
これらの議員が反対している理由は、1番目が「雇用の問題」、2番目は「食の安全」であるという。
アメリカでは、NAFTA(北米自由貿易協定)締結後、安い労働力としてメキシコからの移民がアメリカ国内に渡り、アメリカ人の雇用を奪った。TPPを締結すれば、アジアからの低賃金の労働者がさらにアメリカ人の雇用を奪うのではないかと危惧されている。
また、米国内でも、遺伝子組み換え食品や、家畜に投与するホルモン成長剤のエストロゲンの危険性が指摘されている。農業のグローバル化に伴い、蔑ろにされつつある「食の安全」を守る動きはアメリカでも存在する。
TPA法案が議会で可決されないと、アメリカもTPPを批准できない
アメリカ合衆国憲法では、大統領ではなく、連邦議会に外国交渉権がある。よって大統領に経済外交権を一任するためには、議会がTPA法案を可決させなければならない。この法案が可決されなければ、現在TPPを主導しているアメリカでさえTPPを批准できないのである。
日本とは違い、アメリカでは現在、全ての連邦議会議員がTPPの草案文面にアクセスできるようになっている。民主・共和党どちらの議員も選挙区の事情により反対・賛成に分かれている状況であり、2014年11月4日に予定されている中間選挙まで、TPA法案の成立はほとんど不可能な状況にある。
山田氏によると、TPPを食い止める正念場は、「2014年11月の中間選挙と、大統領選挙が1年を切る2015年夏まで」であるという。「ここまで反対を貫ければ、次第にTPP秘密協定の実態が明らかになるにつれて、ドーハラウンドのように行き詰って必ず頓挫すると考えている」と山田氏は訴えた。
「TPP交渉差し止め違憲訴訟」を集団提訴する予定
弁護士でもある山田氏は、今後の動きとして、「TPPのISD条項(投資家対国家間の紛争解決条項)は、最高裁判決をも覆すことができ、違憲である」として、近々、TPP交渉差し止めを求める集団訴訟を計画中であると明かした。原告の目標数は、最低5000人程度で、一人2000円程度の費用で誰でも原告になれるようにするという。
山田氏は、「TPPの主役は、アメリカの大企業であり、日本をはじめ国民にとっては全くメリットのないもの」と断言し、講演の最後を締めくくった。
日本の未来を憂いTPPに反対を続ける元農相山田さん。IWJで見たのらくら作戦のお若い官僚をお父さん的に一喝した姿が忘れられない。TPP加盟後の世界今聞いとこ!