「イラク派兵差し止め訴訟で認められた『平和的生存権』を掲げて、TPP交渉合意後の日本に不安を抱く各分野の人々が原告団を作り、自分たちの精神的苦痛を裁判に訴えることができる」──。
2014年5月28日、東京都千代田区の連合会館で行われた、TPP阻止国民会議の勉強会で、講師に招かれた立教大学大学院特任教授で「自衛隊イラク派兵差し止め訴訟の会」元代表の池住義憲氏は、「2008年4月に名古屋高裁で出された、イラクでの自衛隊の活動を違憲とする判決を、国民の大きな財産として、大いに活用していくべきだ」と力説した。
その活用先は、安倍政権が進めている環太平洋経済連携協定(TPP)交渉。集会の冒頭、主催者であるTPP阻止国民会議事務局の首藤信彦氏(前衆院議員)があいさつに立ち、「TPPに盛り込まれている(多国籍企業が進出先国の市場の閉鎖性などについて訴訟ができる)ISD条項は、どう考えても日本国憲法に抵触する。今日はその観点から、日本政府のTPP交渉を阻止するにはどうすればいいか、考えてみたい」と宣言した。
TPP交渉では、最大の難関である日米交渉の行方に注目が集まっている。米国では、この秋に中間選挙が迫っているだけに、米政府や議会は業界団体からの圧力を無視するわけにはいかず、それゆえ交渉が難航し、早期の交渉妥結はあり得ないとの見方がある。しかし、前週のシンガポール閣僚会合に合わせて現地で情報収集をした、TPP阻止国民会議副代表世話人の山田正彦氏(元農林水産大臣)は、そうした見方を覆す報告を行った。TPP交渉阻止は、悠長に構えていてはタイミングを逃してしまう、というものである。
- 講師 池住義憲氏(立教大学大学院キリスト教学研究科特任教授、元自衛隊イラク派兵差止訴訟の会代表))
- 日時 2014年5月28日(水) 18:30~
- 場所 連合会館(東京都千代田区)
- 主催 国民会議(原中勝征代表(前日本医師会長))
池住氏の講演に先立ち、山田氏から、5月19日から20日にかけて、シンガポールで行われたTPP交渉閣僚会合に関する報告があった。山田氏は同会合の開催中に現地入りして、各方面からの情報を収集、分析している。
山田氏は、安倍首相とオバマ米大統領による日米首脳会談の翌日、4月25日の読売新聞夕刊が「日米TPP交渉は実質合意」と報じたことについて、「あの時は、TPP交渉に行き詰まり感が漂っていたこともあり、『合意はあり得ない。実質先送りという、巷間聞かれる見方が正しい』と、私も強く思っていた。だから、今月のシンガポール会合も、さほど前進しないだろうと睨んでいた」と明かした。
しかし、その認識は甘かった、とした山田氏は、「シンガポールで実際に会合が始まり、TPP交渉の行方を追って、私と同様に現地入りした米パブリックシチズンなど、国際NGOのスタッフたちと情報交換をしたところ、彼らは各国の交渉官から得た情報をもとに『日米間の関税交渉は、ほぼ合意しているのではないか』と、異口同音に指摘してきた」と述べた。
砂糖は聖域にあらず
現地時間の19日夕方には、渋谷和久審議官が、同行した日本のステークホルダー(利害関係者)に対し、交渉の経緯を説明する会を開いている。山田氏はその時の様子を、「JA全中の万歳章会長をはじめとする、さまざまな農畜産団体の代表者らで埋まった会場は、ピリピリした空気が張りつめていたが、渋谷氏の話はきわめて曖昧で、『富士山の登山で言えば8合目まで来ており、ここから先が大変』というニュアンスだった」と伝えた。
そして、山田氏が渋谷氏に対し、「日米合意は、ほぼ達成したのではないか。ぜひ、本当のことを言ってほしい」と迫ったことに言及し、「私の質問への答えも『話し合いは進んでいる』という曖昧なものだったが、それが逆に、日米間の関税交渉はかなり進んだことを示唆している、と私は確信した」と語った。
山田氏は「閣僚会合はベールに包まれており、確かなことは不明」としつつも、「シンガポール交渉では、米通商代表部(USTR)のフロマン通商代表が、砂糖に関する関税の議論を蒸し返し、税率の大幅引き下げを求めてきたらしい」と述べ、「米国の農畜産団体が、米政府に強い圧力をかけることを私もよく知っている。日本は、砂糖のみならず、米や麦といった、それ以外の品目も危ないように思えてならない」と警告した。
シンガポール会合については、ベトナム、カナダといった4ヵ国が不参加だったことを理由に、日本のメディアは「合意は先送りに」といった調子で報じたが、山田氏の見方は「実際は合意に向けて、それも日本が不利な格好で、だいぶ前進した」というものだった。
イラク派兵差し止め訴訟とは
山田氏の報告が終わり、池住氏の講演となった。「2008年4月17日、名古屋高裁でイラクでの自衛隊の活動を違憲とする判決が下され、われわれ原告団は勝利した。その時と同様のやり方で、市民が日本政府のTPP交渉を阻止することが十分可能だと思う」と力強く発言し、自衛隊イラク派兵差し止め訴訟の説明に移った。
「2003年8月に、時限立法でイラク復興支援特別措置法が施行された時点で、私は(憲法違反であることを理由に)裁判を起こそうと考えたが、日本には憲法裁判所がない。つまり、その法が実行に移されて、国民の権利が侵害されるか、国民が精神的苦痛を強いられるようにならない限り、裁判所に訴えることはできなかったのだ」。
池住氏は、日本政府がイラク特措法に則り、陸上自衛隊をイラク南部に派遣する2003年12月を待つことになったが、同時期に、全国10ヵ所の地裁で集団訴訟が起こされた。池住氏らの呼びかけに応じた市民らで作られた原告団の規模は、最盛期には合計で6000人に迫る勢い見せたという。
しかし、大阪、京都、東京、名古屋、仙台などの9つの地裁は、いずれも憲法の観点からの判断を避け、「民事上の請求権はない」などと原告敗訴の判決を下した。その後、5つの高裁で控訴審が続くことになり、2008年4月17日、名古屋高裁でイラクでの自衛隊の活動を「違憲」とする判決が下されることとなった。
損害賠償請求という一手
このTPP交渉やモザンビークへの日本政府の進出、ODA活動も含まれるのかもしれませんが、
すでに批准している国際法に則っているのかという点は疑問に思います。
藤田早苗さんが”日本の方は国際法に弱い。あまりご存知ないのではないか。”と特定秘密保護法について話されていたのを隣席でお伺いしました。
TPPは、例えばCOP10・ABS「名古屋議定書」や生物多様性条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書に違反するのではないかと思います。(米国が批准しているのかはよくわかりません。)