今や支持率が4割台に低迷するオバマ米大統領が、今年11月に控える中間選挙までに放てる起死回生の最大の矢は、環太平洋経済連携(TPP)の「早期妥結」だと言われている。
それだけに、4月23日からのオバマ氏訪日で、TPPが大きな焦点になるのは確実な情勢で、オバマ氏来日に先立つ格好で、日本がオーストラリアと経済連携協定(EPA)で合意したことが、米国の対日姿勢を緩和させるとの論調も、日本のメディアには目立っている。
だが、4月21日に衆議院第一議員会館で開かれた集会「オバマ大統領来日直前!TPPに反対する国際運動に何ができるか」では、TPPの事情通として有名なニュージーランド・オークランド大のジェーン・ケルシー教授と、米NGOパブリック・シチズンのロリ・ワラック代表は、「オバマ大統領来日はTPP交渉の節目にはならない」と言明。東京で行われる甘利明内閣府特命担当大臣(経済財政政策)と米通商代表部(USTR)のフロマン氏の協議が「着地」を見る可能性は低い、との認識を示した。ケルシー氏は「TPP交渉での米国の対日圧力は、安倍首相が米国の要求をすべてのむまで弱まらない」と述べた。
- 1部 TPPに関する参加各国における動向、および反対運動の状況を共有、今後の取り組み方向についての意見交換
- 2部 報道関係者による質疑応答
- 場所 衆議院第一議員会館(東京都千代田区)
- 主催 主婦連合会、STOP TPP!! 市民アクション、TPP参加交渉からの即時撤退を求める大学教員の会、TPPに反対する弁護士ネットワーク
ワラック氏は冒頭で、「23日には、オバマ米大統領が日本にやってくるが、彼にはTPP交渉での通商権限は付与されていない」と強調。合衆国憲法では、貿易や国際協定に関する権限は議会にあるとされている、と解説した。「来日したオバマ大統領が、安倍首相に対し、TPPに関する何らかの具体的な約束をしたとしても、それは、米議会からの承認を受けない限り意味を持たない」。
米国には、大統領に強い通商権限を与える「大統領貿易促進権限(TPA)」なるものが存在するが、オバマ大統領はそのTPAを獲得していない。ワラック氏は、11月に実施される米大統領中間選挙を、オバマ氏が乗り切ったとしても、議会はオバマ氏にTPAを与えないだろうと占う。その理由については、「TPPのような極めて複雑な通商交渉では、大統領に交渉をすべて任せるのは危険という判断が、米議会側にあるため」と述べた。
ワラック氏は、今回の来日でオバマ大統領が担う役割は、TPPの主導役を自認する日米の交渉の進展度合いを、他のTPP交渉参加国にアピールすることにある、と指摘する。昨年末と今年2月のシンガポール閣僚会合で、続けて合意に失敗したTPP交渉には、すでに「漂流感」が漂い始めているだけに、オバマ氏はTPP交渉をもう一度、勢いづかせたいと考えている、との見立てだ。
米国は「合意」を優先しない
一方のケルシー氏は、オバマ大統領が26日から訪問するマレーシアが、TPP交渉に難色を示していることを指摘。米国から、国営企業への改革を求められることを、マレーシアが嫌っているためで、同国のムスタパ通商産業大臣は「オバマ大統領の26日の来日が、TPP調印を促す圧力にはならない」と発言している。
オバマ大統領にとり、今回のアジア歴訪のベストシナリオは、まず東京で「大筋合意」を得て、それを弾みにしつつ、マレーシア訪問に臨む展開だ。しかし、だからといって米国が日本への交渉態度を軟化させることは、「絶対あり得ない」とケルシー、ワラックの両氏は釘を刺す。
「TPP交渉での米国の対日圧力は、安倍首相が米国の要求をすべてのむまで弱まらない」――。今回の東京での日米協議で、大筋合意に至る可能性は低いとみるケルシー氏は、こう断言し、「少なくとも、5月17~18日に、中国で行われるAPECの貿易大臣会合までは、米国は対日圧力をどんどん強めていくだろう」とした。ワラック氏は「米国議会の後ろについている農業系の団体にとり、牛肉や豚肉での日本への関税ゼロ要求は、絶対に譲れないもの」と強調した。
「日豪EPA」合意はTPP交渉の露払いにならない
4月7日の「日豪経済連携協定(EPA)」の大筋合意に言及したのは、ケルシー氏だった。
日本はオーストラリアに対し、冷凍牛肉は現行の関税率38.5%から、協定発効後18年目に19.5%にまで下げること、冷蔵牛肉は15年目に23.5%まで引き下げることを約束した。オーストラリアは、日本への牛肉輸出で米国と競合しているだけに、この結果を受けて米国は、TPP交渉での日本への要求水準を引き下げるだろうとの見方が、日本国内には少なからず存在する。しかし、ケルシー氏は「それは甘い」と一蹴する。