「米国主導の協定なのに、なぜ日本が参加したがるのかわからない」 ――29日、参議院議員会館でTPPに関するシンポジウムが開かれ、ニュージーランドとアメリカの反TPP派の識者が見解を述べ、韓国の金弁護士がTPPの先行モデルである韓米FTAの実態を説明した。また、「アメリカ主導の協定であるのに、なぜ、日本がTPPに参加したがるのか、わからない」と、参加者たちは述べた。
(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)
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特集 TPP問題
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「米国主導の協定なのに、なぜ日本が参加したがるのかわからない」 ――29日、参議院議員会館でTPPに関するシンポジウムが開かれ、ニュージーランドとアメリカの反TPP派の識者が見解を述べ、韓国の金弁護士がTPPの先行モデルである韓米FTAの実態を説明した。また、「アメリカ主導の協定であるのに、なぜ、日本がTPPに参加したがるのか、わからない」と、参加者たちは述べた。
■ハイライト
冒頭、TPPを考える国民会議の原中勝征氏が、「4月に渡米し、米側担当者と会談した。前のシンガポール会議で、新しい参入国には、新しい提案や要求は一切、認めないと決議されている。われわれは『お金だけで人間の価値が決まっていいのか』と、アメリカでの記者会見で話した。ワシントンポストは、それを4段抜きで報じた。日本のマスコミも大勢、その場にいたが、日本では1行も掲載されなかった。自民党は、総選挙前までは、TPP絶対反対と表明していた。TPPを考える国民会議にも、二百数十人の自民党政治家がいたが、安倍政権になったら、すぐに脱会した」などと語った。
司会の相原しの氏(前衆議員議員)が「4月22日から25日まで、原中氏、山田正彦氏、首藤信彦氏らがアメリカに調査にいった。安倍総理は、例外品目を勝ち取れると言うが、アメリカでは『日本が譲歩し、すり寄ってきた』と報道されている」と話し、講演に移った。
ジェーン・ケルシー氏が登壇し、「TPPは相互の国家にとっても、国民にもよくない。安倍首相は『今、参加すれば指導的立場に立てる』というが、TPPはアメリカ企業のメリットのためにある。次回はマレーシアで、7月15日~25日の間で行われる。目的は、交渉を10月に妥結させること。日本は、最後の2日間に参加できることになっている。日本は、その期日を変えて交渉できるように要求したが、答えはNOだった」と話した。
続けてケルシー氏は、「18回目から交渉に参加するというのは、それまでの交渉経過を見ないで入るということだ。すでに決まった交渉を知らずに、また合意が成立したものは無条件で受け入れて、再交渉はできない、ということ。一体どうなっているのか? 日本政府が合意したことには、異例の譲歩が見られる。たとえば、車では排ガス規制を緩和し、かなりの台数のアメリカ車の輸入の合意がされたといわれている。アメリカは車の関税をはずすというが、それはTPP合意の後、最後の最後にするという条件になっている。
アメリカとオーストラリアの合意を見てみると、18年間というものもあるが、例えば砂糖関係の製品については(米国が)決して関税を除去することはないといっているものもある。ということで、日本がいま「約束を実施する」といっても、米国は18年経っても、あるいはもう決して約束を果たすことはない可能性すらあるんです」とTPPの不平等さを説明した。
さらに、「日本にしかない技術的な優越性にも、介入できるようになっている。そのほかに流通、小売り、JA、農産物、その流通、公共事業、運送、共済などは、日本とアメリカの2国間だけで、交渉される。アメリカは、すべてこれらの交渉が妥結しない限り、アメリカが満足するまでは、日本にはTPPを実行させない、と言っている。自民党が主張する6項目の聖域は、アメリカの公表するものには含まれていない。ニュージーランド貿易担当大臣、オーストラリアの担当者も、聖域6品は認めないと言っている」と述べた。
「ISD条項については、オーストラリアだけがNOと言った唯一の国、とリークされた。さらにアメリカは、金融危機への規制、最低賃金や労働者の基準、原子力発電の撤廃、気候変動の対策、民営化の逆行など、まったく貿易と関係ないことへも横やりを入れて、合意後の再協議はしないと言う。郵貯は言わずもがな、政府の地方事業への補助金も狙う。郵貯、かんぽ、農林中金、共済など、すべてに関わる問題だ。円安誘導への規制の要求、金融サービスでは透明性のみならず、グローバルな金融危機への規制も押しつけようと目論んでいる」と話し、ケルシー氏は講演を終えた。
ラルフ・ネーダー氏主宰の消費者保護団体パブリックシチズンの弁護士、ロリ・ワラック氏は「TPPのベースになったNAFTA(北米貿易協定)に対して、アメリカ人は、とても批判する。アメリカ国民もTPPには反対だ。TPPには、アメリカから、2つの環境団体、労働組合16人、企業600社が交渉人にアドバイスをする。アメリカ通商代表部のマイケル・フロマン氏はCITI銀行の元役員、IP(知的財産権)担当交渉人は製薬会社の人間だ。つまり、貿易交渉、協定を、アメリカの大企業が、新自由資本主義の目的をもって交渉する。貿易協定の冠をかざした、大企業の侵略だ」と語った。
ワラック氏は続けて「(NAFTAで)アメリカ人も痛い教訓を受けてきた。500万人の労働者がいた製造業が、19年間で消滅し、4万2000の工場が閉鎖された。最低賃金も下がり、格差が広がり、大卒の仕事がオフショア(国外市場)に移ってしまっている。今、ブーメラン現象という言葉があり、大学進学で家を出た子どもたちが、大学を卒業すると就職できずに実家に戻ってくることを言う。また、食品の安全も、NAFTA締結後、輸入が65%増え、食の安全基準の問題が頻発している。そして、小規模農業従事者が20万人も失職した」とTPPの危険性を指摘した。
「この20年間、NAFTAで4億5000万ドル相当の訴訟が起きている。水、ゾーニング、木材、ライセンスなど、あらゆるもので裁判になっている。アメリカ50州の議会、主に共和党で、ISD条項に反対するというが、オバマ大統領は批准するだろう。また、アメリカは『われわれが中国に対して一致団結するにはTPPしかない』と誘う。その一方、中国にも声をかけているダブルスタンダードだ。私たちが、歌舞伎ダンス声明と呼んでいる日米首脳会談だが、安倍バージョンとオバマバージョンがあって、アメリカ議会は、オバマバージョンしか知らない」。
ワラック氏は「安倍首相のいう聖域6項目の要求を知らないアメリカ議会は、日本が、すべてを譲歩して参加するのだと思っている。アメリカ議会には、(そんなに参加したい)日本は他の小国と同じに扱われたいのだな、と思われている」と述べた。その上で、「悪い流れだが、これは止めることができる。TPPを魚にたとえると、陸に放置した魚はだんだんと臭いにおいを放ち始める。これはドラキュラ戦略。TPPを太陽にかざして、人の目に触れさせることだ。国民に訴えかけ、一致団結して戦うことができると、私は確信している」と締めくくった。
次に金鐘佑氏が登壇し、韓米FTAについて現状を話した。「米韓FTAが締結して1年がたった。締結前、懸念する声がとても強く、反対があった。中でも、BSEとISD条項が大きな争点だった。コメに関しては開放しないことになっていたが、いつまで続くかは不明。1年間で、米韓FTAが、韓国にどれだけの成果をもたらしたかというと、輸出が大きく増え、輸入は予想ほど伸びなかったという結果だ。日本がTPPに入ると、日本の輸出輸入が増える可能性は大いにあるが、農産物の輸入を防ぐことは難しい」と話した。
金氏は続けて、「また、ISD条項は予測不可能だった。公共的紛争を、国外の裁定に預けるわけだが、これらを裁く専門家は15名で白人のみ。アジア人はひとりもいない。韓国は1960年代に、ISD条項に似たエクシード条約を結んだが、一度も紛争を起こされたことがなかった。それを(政府は)米韓FTAの締結でも、力説してきた。ところが、昨年、ISD訴訟を起こされた。現在、アメリカ、イギリス、フランスから1名ずつ入って、裁判部が構成され、ニューヨークでISD裁判が行われる。専門家は韓国が負けると言うが、韓国政府は120%勝つと言っている。もし、韓国が負けたら、ロンスターに天文学的賠償をしなければならない。それは、国民が負担することになる」。
「TPPは、公共政策をまったく変えてしまう。米韓FTAが締結した当時、韓国国会で、批准同意案が議論された。その際、議会内で催涙弾を投げた議員がいた。『米韓FTAで、国民がこれから流す涙を、その責任がある国会議員が先に流すべきだ』という理由だった。日本は、そういう変化に対応できますか」と問いかけた。
休憩後、元衆議院議員の山田正彦氏がスピーチをした。「原中団長、舟山やすえ参議院議員らと渡米し、カトラー通商代表と会談した。その席で、日本では農産物などの聖域は認められる、と言っているが、本当に6項目の聖域が認められるのか、と確認した。すると、長期ステージで関税ゼロにする、とはっきり言われた」と話した。
次に、首藤氏がコーディネーターを務めるシンポジウムが始まった。最初に衆議院議員の篠原孝氏が発言した。「ワラックさんに。交渉参加までに、90日間の手続きというが、その間に審議や採決があるのか。猶予期間は、なぜあるのか。次に金弁護士に。韓国の状況は3、4年後に判断すればいいというが、ISDの再交渉はどうなっているのか。ケルシー氏には、アメリカが例外除外で、先走って適当なことを言っていることに、ニュージーランド、オーストラリアはどう思っているのか、聞きたい」。
まず、ワラック氏が「90日間ルールは形式的なことで、オバマ政権では、かつて決まっていたかのように言い、審議も採決もない。日本にとっては、侮蔑的なことだ。つまり、時間稼ぎ。日本が参加してくる前に、いろいろな交渉を済ませておきたいからだ」と答えた。
金氏は「韓国の最高裁判所において、ISD条項は、韓国国内での司法主権を侵す恐れがあるため、再交渉の必要性が言われ始めた。現在、別にタスクフォースを作り審議しようとする動きがある。だが、そのタスクフォースのメンバーには反対派が入っていないので、ちゃんと審議されるか、はなはだ疑問だ」と話した。
ケルシー氏は「ニュージーランド貿易相は、農産物、乳製品に関して、充分なアクセスがなければ交渉の席を立つ、と言っている。ニュージーランドの乳製品に関する市場アクセスに関して、アメリカは、すでに3年間の交渉を経ても、いまだ認めていない。過去の交渉の経緯を見ても、アメリカが、乳製品の市場開放をすることはあり得ない。それなので、貿易相には、撤退しようと勧めているが、躊躇している。また、オーストラリアの生産関連団体でさえ、米豪FTAは最悪の協定だと言っている」などと答えた。
原中氏は「NAFTAで、アメリカ南部では、メキシコから時給200円の600万人の単純労働者が入り、自国民の雇用が失われた。ある会社は、アメリカ人労働者に半分の給料で働いてくれと言ったらOKされず、メキシコに会社を移した。TPPに加盟したらILO、WHOの条約、さらに司法までも、TPP条項が上にたつ。そして、国民の生活が崩れる」と語った。
孫崎享氏が「ISD条項が採用されると、国家の主権が侵される。ワラック氏に訊きたい。アメリカはISD条項が、適応されないようになっているから、米議会議員が反対しないのではないか。ところが、EUとの交渉でISD条項が組み込まれると、話は変わるのではないか」と尋ねると、ワラック氏は「ISD条項は、アメリカにも例外なく適応される。州単位で争われた経緯もある。議会で、まだ問題になっていないのは、アメリカでは、まだ大きな支払いが生じていないからだ」と応じた。
榊原氏は「TPPになぜ参加するのか、わけがわからない。関税撤廃、農業問題だけではなく、21分野の交渉だ。そんなものが10月までに妥結するわけがない。となれば、決まったことを押しつけてくることになる。これは交渉ではない。アメリカやオーストラリアがTPP推進なのは、東アジアの成長メリットを得たいからだ。東アジアの統合は進んでいる。日本は韓国、中国などの域内貿易比率が60%を越えている。この日本のメリットを、アメリカやオーストラリアが欲しがっているのだ」と述べた。
さまざまな意見交換のあと、篠原氏が「TPPはいかがわしい。日本の制度を根底から変えてしまう」と訴え、閉会となった。
(…会員ページにつづく)
これらの議論を聞いていると、日本人の対話や弁論への訓練が足りていないのが分かる。海外の3人、失礼だが韓国の金氏の話しも要点が纏まっており、質疑もポイントを明確、簡明に押さえて受け答えしている。顧みて特に国会議員の方の発言はイントロは明確にするが、聞きたいポイントの言葉を声に出すべきタイミングで、必ず話題を他に振っていて、話す(結論する)のをしない。聞き手にはじれったいだけ、その内にポイントがズレた話しに移行してしまう。時間がないと良いながら壊れたレコードの様に同じフレーズを無意味に繰り返して、聞きたいポイント、結論に当たる言葉は結局発言発声していない。それ故に何を聞きたいのか全体として理解に苦しむ。「90日ルールでこの期間アメリカは具体的に何処が何をして誰が結論を出すのか?アメリカの制度はどうなっているのか?」と篠原孝氏は聞きたいのだろうが、余計な追加発言が多すぎて意味不明な内容になり、印象では無能にしか感じられない。原中勝征氏も首藤信彦氏も弁論が「あれそれ」で主語(自分なのか、他の誰なのか)、述語(何を言った、何をした)、結論のポイント(何を言いたい主張したい)が曖昧で省略するので、話しの筋が全く見えない。ただし、これらの方の政治家としての行動には敬意を持っているので、この点が残念である。NPOなどに参加している若い人々はこれらを改善する努力をして欲しい。
この動画の品質はよい。特に音声の質がよく英語も良く聞き取れる。他の動画は風呂場かプールで録音している感じで音は聞こえるが言葉として聞き取れないものが多い。この程度の音声品質を保つ様にお願いしたい。