「すでに、日本は198種類の遺伝子組み換えトウモロコシの輸入を認可した。アメリカでは、枯れ葉剤で枯れない遺伝子組み換え大豆やトウモロコシの商業栽培は認められていない。しかし、日本では、商業栽培をやっていいことになった」──。岩月浩二氏は、知らぬ間に食の安全が脅かされていることを指摘した。
また、特定秘密保護法について、「特定秘密を国民に教えずに、適合事業者には教える。適合事業者とは、グローバル企業ではないのか。情報を握る者が政策決定ができるのだから、グローバル企業が日本の政策を決定し、日本を乗っ取っていくのではないか」と警告した。
2014年1月26日、岐阜市のワークプラザ岐阜において、講師に弁護士の岩月浩二氏(TPPに反対する弁護士ネットワーク共同代表)を迎えて、「改めて基礎から知るTPP勉強会 in ぎふ」が行われた。岩月氏は「日本では、すでに食の安全の防波堤は決壊している」と述べて、NAFTA、米韓FTA、WTOの実態を解説し、TPPの危険性を語った。また、「特定秘密保護法も、TPPでやって来るグローバル企業のためのものだ」とし、その根拠を説明した。
- 共催 岐阜青年司法書士会、コープぎふ、協同ネットワークぎふ
遺伝子組み換えトウモロコシや大豆の輸入を認可している日本
共催者のあいさつに続いて、岩月氏が登壇。はじめに、遺伝子組み換え大豆を使った粉ミルクに関する、アメリカのショートムービーを上映した。そして、厚生労働省が発表した「安全性審査の手続を経た旨の公表がなされた遺伝子組換え食品及び添加物の数」の2001年以降の推移グラフを示し、「2010年、当時の菅首相が『平成の開国、TPP』と口にした頃から急に認可数が増加し、2013年は100件にもなった。政府は遺伝子組み換え食品をどんどん許可して、すでに、198種類の遺伝子組み換えトウモロコシの輸入を認可した」述べた。
「また、アメリカでは市民の反対により、モンサント社の枯れ葉剤でも枯れない大豆やトウモロコシの、商業栽培までは認めていない。しかし、日本では、商業栽培をやっていいことになってしまった」。
さらに、「TPPの日米交渉の過程で、オーガニック食品の基準を、アメリカでオーガニックと認められたものは、日本でも認めることに合意した。このように、事前に日本の食品安全行政のあり方を変えているのだが、11月23日の朝日新聞は『日米で、食品の安全基準は今のままでいい、と合意』と報じた。一見、安全性を守っているように装う。これが、TPP交渉の実情だ」と批判した。
日本国民とグローバル企業との命をかけた戦争
岩月氏は、「WTO(世界貿易機関・159ヵ国参加)の上に、より厳しくしたTPPがある。しかし、アメリカと日本は、日米FTA(二国間協議)で充分なのだ。自由貿易協定の狙いは関税ではない。関税以外の貿易の障壁になる、非関税障壁をなくすのが目的。慣習、判決など、あらゆる不自由さの撤廃。条約という形で、国の法制度を変えるグローバル企業の企みがTPPだ」と言明。
米韓FTAを例に挙げた上で、「日本政府は(アメリカ車の販売に不利となる)軽自動車優遇税制をすでに撤廃した。国家戦略特区などでカモフラージュして、医療保険制度の混合診療を自由化しようとする企みもある。グローバル企業が自由に利益を上げることができるように、国のかたちの作り変えが行われているのだ。報道では、TPPを、農業や関税の問題にすり替えているが、これは、日本国民とグローバル企業との命をかけた戦争だ」と断じた。
さらに、「日本は貿易立国だ、というマスコミの刷り込みがあるが、それは間違い。2010年に世界銀行が発表したデータで、GDPに占める貿易額の割合は、日本は184ヵ国中179番目。アメリカは、もっと貿易依存度が低い。国内が豊かなところは、無理な貿易をしなくてもいいのだ。また、オバマ大統領には貿易交渉の権限はない。アメリカの憲法では、貿易交渉の権限は議会にあるからだ。つまり、アメリカ以外のTPP参加国は、無権代理人であるオバマ政権と交渉をしているのである。そういうことを、きちんと報道していない。そして、昨年11月には、アメリカの与党議員4分の3が、TPPに反対した」と述べ、早期妥結を煽る日本のマスコミの偏向報道を批判した。
WHOの商法、WTOのごり押し
続けて、テーマは食品の安全性に移った。「遺伝子組み換え食材の安全性は証明されていない。しかし、有害でも、科学的根拠を示さなければ拒否できない。自由貿易の障壁になるからだ。それで、グレーな部分を国際基準でチェックするが、その安全基準を決めるのはWHO(世界保健機関)。NGOもオブザーバーも参加しているが、ほとんどが企業側のステークホルダー(利益授受者)たちだ」。
「2009年、新型インフルエンザが流行した時、日本はワクチンが足りないと、3500万人分を緊急輸入した。流行はすぐに止んだが、それらはキャンセルできず、買い取らされた。厚労省は1300人分を医療機関に配布しただけで、1000億円を税金で賄った。これも、WHOの金儲けの一端だ」。
次に、成長ホルモン投与牛の問題を語った。「EUは1989年、成長ホルモンを投与した牛の飼育と輸入を禁止にした。それに対し、WTOは、牛への成長ホルモンの使用を多数決で安全だと決め、アメリカ、カナダはWTOを通してEUを訴えた。EUは敗訴したが抵抗し、その後も成長ホルモン牛の輸入はしていない」。岩月氏は「このように、食べるものの安全性を、政治的に決めていいのか」と疑問を投げかけた。
多国籍企業がやりたい放題できる、ISD条項
そして、「多国籍企業の使い勝手をよくするのが、ISD条項。これは、非公開で3人の判事が仲裁判断をするだけの、非常にいい加減な仕組み。さらに、この裁判は拒否できず、『公正かつ公平な待遇、ならびに充分な法、補償を与える』という、その仲裁ルールは曖昧すぎる」と岩月氏は指摘する。
「ISD条項は、NAFTAにおいて、カナダ、メキシコ、アメリカ間で行使されている。アメリカ勝訴7件、和解3件。アメリカが負けた例はなく、カナダ、メキシコの勝訴は1件もない」と実例を話した。
さらに、米韓FTA締結時の、韓国法務省の検討資料を取り上げて、次のように述べた。「ISD条項では、非関税障壁とされる、租税、安保、保険、秩序、制度、慣行など、すべてが訴えの対象となる。『超憲法的状況発生の危険』と韓国法務省は指摘している。要するに、法律を作る時は、常にISD条項に触れないように検討しなければいけない、ということ」。
また、「ドイツが2011年、脱原発を決めたら、国内企業とスウェーデン企業が、ドイツ政府をISD条項で訴えている。また、フィリップモリスが、オーストラリアをタバコ規制で訴えている」と述べ、ISD条項に警鐘を鳴らした。
秘密保護法で、外国企業が日本を乗っ取る?
岩月氏は「国連憲章では『内政干渉は禁止』と決めているが、TPPは、それを侵害している。なぜなら、憲法と条約以外に、投資家国際法廷の2本立てになり、国会は、投資家国際法廷の下になるからだ」。
さらに、「生存権も脅かされる」と言い、「憲法25条1項は、すべて国民は外国投資家の利益を害しない範囲で、健康的で文化的な最低限度の生活を営む、となる」と、その不条理な内容を憲法に引き寄せて語ると、会場の参加者からは失笑がもれた。
「TPP交渉の内容も、特定秘密に指定してくるだろう。表現の自由、集会、結社の自由など、すべて外国投資家の利益を害さない範囲で、これを許可する、ということになる」。
「適合事業者」とは誰か
そして岩月氏は、あきらかにおかしい問題、と前置きして、「秘密保護法では『適合事業者には、特定秘密を提供できる』となっている。国家の重要な秘密を託す相手である適合事業者の要件は、実は何も決まっていない。国籍規定もない。かつ、適合事業者への罰則は何も書いていない。適合事業者とは、誰か。グローバル企業ではないのか」と指摘した。
「官公庁で決めた特定秘密を、適合事業者(グローバル企業)に教えることになれば、情報を握る者が政策決定ができるのだから、日本の政策をグローバル企業が決定し、日本政府を乗っ取っていく可能性がある。これは、国会ではまったく議論されていない」。
さらに、「適合事業者の特定秘密の保持・管理を脅かす行為には、罰則がある。つまり、グローバル企業への抗議行動などが、できなくなる恐れもある。秘密保護法は、軍事治安法であるのと同時に、グローバル企業への抜け道を用意したものであることは明らかだ」と力を込めた。
ISD条項で訴えられても「憲法違反だ」と開き直れ
岩月氏は「ISD条項で訴えられたら、憲法違反だと突っぱねればいい。条約も、最後には憲法に劣る。憲法違反の意味は大きい。現在の安倍政権では無理だが、まともな政府になったら、抗うことは可能だ」と述べて、講演を終えた。
質疑応答では、「TPPに参加すると、外国企業が地方自治体の入札に参入してくることが予想されるが、どうなるのか」という質問があった。若月氏は「入札のオープン化、英語の公用語化が始まる。最大の非関税障壁は日本語。TPPは、公共事業の入札のありかたを歪めるだろう」と答えた。
日本の憲法改正はグローバル企業に好都合
また、アメリカ国内のTPP反対の動きについて問われると、「アメリカの反TPP勢力は、NAFTAの結果で判断している。NAFTAで失業したメキシコの農民が、アメリカに不法移民として大量に流入した結果、アメリカの労働者の失業や賃金低下を招いた。そして、自由貿易協定へのアレルギーもある。全米50州の州政府もISD条項に反対している。アメリカも、政府と議会、議会と国民、グローバル企業とで利害がぶつかっている。だが、日本人はまったくわかっていない」と述べた。
そして、TPPと憲法改正との絡みを尋ねられると、岩月氏は「民主主義とは、非効率的な制度だ。軍事でも、経済でも、非効率は嫌われる。その意味で、軍国主義的な色彩を深めて、民主主義を制限していく方向の改憲は、グローバル企業にとって好都合だ。特定秘密保護法も、軍事目的だけではないだろう」と懸念を表明した。
「日本国民とグローバル企業、命がけの戦争だ」 〜改めて基礎から知るTPP勉強会 ─講師 岩月浩二弁護士 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/122851 … @iwakamiyasumi
外交の失敗が戦争だというなら、今日本が直面してる状況は、大袈裟でなく銃器を使わない戦争です。必見!
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