「『ガザ』は、欧米世界にとって不都合なもの、役に立たないものを、『テロリスト』『不穏分子』などとレッテルを貼って、振り分けて処分する、非常に先鋭的なモデルだ」!! 欧米諸国政府の対中東政策を批判的に論じる思想家ハミッド・ダバシの新著『イスラエル=アメリカの新植民地主義:ガザ〈10.7〉以後の世界』を読む! 岩上安身によるインタビュー第1202回ゲスト 東京経済大学教授 早尾貴紀氏 第1回(後編) 2025.8.1

記事公開日:2025.8.7取材地: テキスト動画独自
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(文・IWJ編集部)

特集 中東

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 2025年8月7日、「欧米諸国政府の対中東政策を批判的に論じる思想家ハミッド・ダバシの新著『イスラエル=アメリカの新植民地主義:ガザ〈10.7〉以後の世界』を読む! 岩上安身によるインタビュー第1202回ゲスト 東京経済大学教授 早尾貴紀氏 第1回(後編)」を初配信した。

 インタビューの後編では、イラン生まれのハミッド・ダバシ米コロンビア大学教授が、英国の中東専門メディア『ミドル・イースト・アイ』に掲載したエッセーを、早尾教授が抜粋し、翻訳した『イスラエル=アメリカの新植民地主義~ガザ〈10.7〉以後の世界』(地平社、2025年6月)の内容に入っていった。

 ダバシ氏は、日本の読者に向けて書き下ろしたメッセージの中で、「加害者の傲慢さではなく、被害者の視点からこそ、蛮行を見る必要がある」と述べている。

 このメッセージについて、早尾教授は、以下のように解説した。

 「去年、2024年に、(鈴木史朗)長崎市長が、イスラエル大使を(8月9日の)平和祈念式典に招かないということを言ったところ、アメリカ、カナダ、ドイツ、フランス、イタリア、イギリス(の大使)もみんな、ボイコットするということがありました。

 この時に、明らかに、欧米世界とイスラエルの共犯関係というものが露呈したと。

 ダバシさんは、映画研究者でもあって、(中略)たくさんの映画を見ていて、エッセーでも、映画の話にたくさん触れています。

 ちょうど『オッペンハイマー』(2023年、英クリストファー・ノーラン監督)という、『原爆の父』の伝記映画が、非常に話題になったので、それで、こういう文章を書いているわけです。

 ダバシさんは、『私は1本のエッセーを書き、この映画の試みは、まったく見当違いであり、代わりに私達は皆、今村昌平監督の1989年の傑作「黒い雨」(井伏鱒二の1966年の同名小説が原作)を観るべきだ、としてエッセーを結んだ』と。

 そして、『私達は、加害者の傲慢さではなく、被害者の視点からこそ、蛮行を見る必要がある』ということを言っているわけです。

 この文章の後には、こう続きます。

 『確かに日本は、アジア地域で植民地帝国、植民地支配者として、欧米列強と並んで犯罪行為を行った。

 そして、広島・長崎では、強制労働で動員されていた多くの朝鮮人が、原爆の犠牲者にもなっている。

 だからこそ、長崎市長が「イスラエル大使を招かない」と言ったことが、イスラエルのガザ地区でのジェノサイドが、いったいどういう歴史的な文脈を持つのかということを明らかにするようなきっかけになった』と。

 そして、『アメリカの先住民虐殺から、ヨーロッパのユダヤ人ホロコースト、そして、ヨーロッパの植民地権力によるアフリカでのジェノサイド、そして原爆ジェノサイドに至るまで、大量虐殺の犠牲者達が、ヨーロッパの新しい蛮行を、つまり、今行われているガザの蛮行を目撃した時に、重要な道徳的な責任を持つのだ』と。

 ダバシさんが言おうとしているのは、我々(日本人)はジェノサイドの犠牲者でもあるけれども、植民地主義戦争においては、加害者でもあるわけで、そういう日本の持っているポジションというのは、植民地主義全体が持っている複雑さと根の深さというものを、本当は、誰よりも知ってなきゃいけない。

 その時に、ガザのことを見ないで、単純に、また欧米列強になびいていくというようなことでは、こういう歴史的な責任を果たさないことになるんですね。

 だからこそ、『パレスチナをきちんと見ろ、ガザのことをきちんと見ろ』と、『見る責任がある』ということを言って、日本の読者を鼓舞しようとしてるんだな、というふうに思います」。

 この『イスラエル=アメリカの新植民地主義~ガザ〈10.7〉以後の世界』に掲載された、2023年10月7日以降のダバシ氏のエッセーには、2024年の米大統領選期間中のものも含まれている。

 早尾教授によると、ダバシ氏は、共和党のトランプと民主党のハリス(当初はバイデン)の、「どちらが、よりましか」ということではなく、「どちらもだめ」であり、「間違った二者択一だ」と、繰り返し、はっきりと主張しているとのこと。

 その上でダバシ氏は、民主党の主流派ではない、「スクワッド」と呼ばれる、ラディカルなグループの中に、「オルタナティブがある」と訴えている。

 「スクワッド」と呼ばれているのは、民主党のいずれも女性議員で、急進派として有名なアレクサンドリア・オカシオ=コルテス、ソマリア難民だったイルハン・オマル、アフリカ系のアヤナ・プレスリー、パレスチナ系のラシダ・トレイブ(タリーブ)の4人。

 非白人女性で、年齢も比較的若い(オカシオ=コルテスは30代、オマルとトレイブは40代、プレスリーは51歳)このグループは、共和党にも民主党にも強い影響力を持つイスラエル・ロビーに対しても、断固としてシオニズムへの「ノー」を主張している。

 さらに、6月に行われた、民主党のニューヨーク市長選予備選挙では、ウガンダ出身でインド系のイスラム教徒であるゾーラン・マムダニ氏(33歳)が、本命視されていたアンドルー・クオモ前州知事を破る大番狂わせが起きた。

 早尾教授によると、ダバシ氏の息子は、マムダニ氏の選挙運動員をやっていたとのことで、「非白人、反シオニズムの労働者階級で、社会主義的な再分配を重視する、次の世代の政治家が出てきている。こういうところに、変革の契機を見るべきだ、というのが、ダバシさんの主張」だと述べた。

 その一方で、早尾教授は、ガザに象徴される欧米のレイシズムについて、次のように説明した。

 「ガザには、いろんな試金石が埋め込まれています。

 (早尾教授の対談集)『いつの日かガザが私たちを打ち負かすだろう』(青土社、2025年6月)という本のタイトルは、サラ・ロイさん(ハーバード大学中東研究センターの政治経済学者)の言葉から取ったんですね。

 サラ・ロイさんの言葉で、この『ガザ』というのは、実はガザ地区を指してるのではなく、ガザの人々でもなく、複数形の『ガザズ』なんですね。

 そして複数形の『ガザズ』というのは、『ガザ的なもの』で、その意味は何かというと、つまり、ガザという場所が、欧米世界にとって不都合なものを振り分けて処分する、そういうある種の収容所であると。

 そしてその『ガザ的なもの』は、例えばイタリアのレスボスだとか、いろいろなヨーロッパの、アフリカや中東から来た人達を一時的に収容する施設、これもまた小さな『ガザ』であり、いろいろなところに『ガザ』がある。

 そして、そこには爆弾が降っていないだけであって、欧米社会にとって役に立つか立たないかで、不都合な人間を振り分けている。

 従順で役に立つ限りは使うけど、不要になったら送り返す。あるいは、閉鎖的な入管行政を持っている我々のところ(日本)もそうです。

 なぜ、欧米社会が、ガザで行われていることをここまで容認するのかと言えば、それは、そこに利益があるからであって、そしてガザで行われているようなこと、つまり、『テロリスト』だとか、『不穏分子』だとか、『非国民』だとか、いろんなレッテルを貼って、よそ者扱いしたり、邪魔者とする人達の処分の仕方みたいなものの、非常に先鋭的なモデルだというふうに見ています」。

 他方で早尾教授は、フランス、英国、カナダが、パレスチナの国家承認を行うと表明したことに対し、次のように冷静で厳しい見方を示した。

 「パレスチナの国家承認と言うことに関しては、市民運動の中からも署名集めなんかもあったりして、今の状況下において、それはアメリカ、イスラエルに対する抵抗の一つとして、意味はあるとは思います。

 その一方で、本当に注意をしなきゃいけないのは、例えばイギリス、フランス、カナダが『国家承認』と言っている時の、『国家承認の、その国家の主体は何だ?』といった時に、やはり今の、あの傀儡化している(パレスチナ)自治政府で、選挙的正当性もない(2006年のパレスチナ立法評議会選挙で第1党となったハマスを、欧米・イスラエルが承認せず、2007年にファタハとアッバス議長がパレスチナ自治政府から排除した)ですよね。

 ですので、結局それはもう『手懐ける』ということです。

 (1993年の)オスロ体制(合意)には、『二国家』ということは、入ってないんですね。『イスラエル国家を承認する』(ということだけ)、認められたのは、イスラエル国家なんですよ。そして、パレスチナには、『暫定自治を与える』。

 暫定自治を経た後、どうするかを、『暫定自治期間中に話しあう』。

 それしか書いてないのをいいことに、イスラエルは、『(パレスチナ)自治政府は、イスラエルを承認した。敵対しない』と(ハマスは、イスラエルを国家承認していない)。

 だけれども、(パレスチナを)独立国家にしてやるなんてことは、(オスロ合意には)一言も書いてないのをいいことに、入植をバンバン進め、どんどん無力化を進めていったわけです。

 そのことに対する、反省とか、問題の指摘がない限り、ハマスを除いた傀儡化したPLOを、独立国家として承認しますよ、なんていうのは、要するに、PLOを手懐けますよ、ということになる。

 ここに対する批判が、どうしても必要である。

 『二国家』という以前に、本当に、根本的に、まずしなきゃいけないのは、イスラエルに対する批判、イスラエルの占領をやめさせる、そして入植地を撤去させる。これをやらない限り、国家の形なんていうものはあり得ないわけです。

 下手すると、これはもう、アリバイ作りですね。自分達は、イスラエルに対して一定の批判を持っているし、平和を望んでいるんだ、という、今後に向けた、アリバイ作りで終わりかねない」。

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■ハイライト・後編

■全編動画・後編

  • 日時 2025年8月1日(水)15:00~
  • 場所 IWJ事務所

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