史上稀に見る大接戦が報じられ、当選者の確定までに時間がかかるとも見られていた2024年の米大統領選は、11月5日の投開票日の翌日の朝を迎えるよりも早く、米国東部時間の6日未明には、共和党のドナルド・トランプ前大統領の当選が確実となった。
- はじめに~トランプ氏が勝利宣言!「これは本当にアメリカの黄金時代になるだろう。これは、アメリカを再び偉大にする助けにもなる見事な勝利だ」! まずは、トランプ氏の公約通りに、就任前にウクライナ紛争を終結できるかどうか注目! その一方で、「イランの核兵器を攻撃すべき!」とイスラエルをたきつけたトランプ氏に、呼応してネタニヤフ首相はさっそく動き出す!!(日刊IWJガイド、2024年11月7日)
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米国での投開票日の直前となる11月5日、米大統領選をテーマに、岩上安身による評論家で元日経新聞・朝日新聞記者の塩原俊彦氏へのインタビューの第5回を、初配信した。
ウクライナ問題に詳しい評論家の塩原俊彦氏は、6月17日に、最新刊『帝国主義アメリカの野望~リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』(社会評論社)を上梓した。
このインタビューは、7月11日に配信した第1回目のインタビュー、9月2日に配信した第2回目のインタビュー、10月21日に配信した第3回目のインタビュー、10月24日に配信した第4回目のインタビューの続編である。
第4回インタビューの後半では、トランプ氏が大統領に当選した場合の懸念について、経済界との癒着による「腐敗」と、「貿易・関税」問題について考察した。
第5回インタビューでは、その続きとして、「不法就労者国外追放」問題と、「EV」について考察した。
トランプ氏は大統領選で、不法移民の国外追放を公約として掲げた。
10月18日付の米『フォーリン・アフェアーズ』の記事「The True Dangers of Trump’s Economic Plans(トランプ大統領の経済計画の本当の危険性)」は、トランプ氏の公約が実施されれば、「米国経済で働いている人々、その大半である少なくとも130万人が国外追放されることになる」として、以下のように論じている。
「トランプの国外追放計画が経済に与える影響は深刻である。
数十万人の就労者を国外追放すれば、特定の産業や地域で労働力が不足し、供給量が減少することで物価が全体的に上昇するだろう。
ピーターソン国際経済研究所の最近の研究では、労働供給の大幅な減少は経済全体にスタグフレーションをもたらし、3年以内にインフレ率を1.5%上昇させ、GDPを3%以上減少させることがわかっている」。
- The True Dangers of Trump’s Economic Plans(FOREIGN AFFAIRS、2024年10月18日)
この『フォーリン・アフェアーズ』の指摘について、塩原氏は、以下のように語った。
「そうなるかもしれませんが、上院と下院の構成がどうなるかによって、法律改正を伴うようなものであれば、そう簡単に実現することはできない。
実は私、今日『アメリカ・ファースト・ポリシー・インスティテュート』っていうところが出した報告書、これは、トランプ陣営の『プロジェクト2025』という、極端なトランプ政策のシンクタンクというか、政策集団が出したものではなくて、もう少し抑えた、マイルドなシンクタンクの報告書なんですが、これはピラー1からピラー10まであるんですけど、それを読んでいたんです。
それを読むと、こんなこと(『フォーリン・アフェアーズ』の指摘)にはならないと思いますね。
もっとずっと穏やかで、それはもちろん、(不法移民の)一部を返すとか、いろいろあるのかもしれませんけれども、トランプが口で言っているほど、厳しいことを『アメリカ・ファースト・ポリシー・インスティテュート』の提言は、書いていない」。
- THE AMERICA FIRST AGENDA PILLARS(AMERICA FIRST POLICY INSTITUTE)
その上で塩原氏は、「アメリカの主要マスメディアは、『トランプ憎し』でみんな、トランプの政策を批判して、トランプを大統領にさせないように、極めてゆがめた報道や、ディス・インフォメーションを流し続けていて、その一環として、何を言っても悪い方向で解釈し、ゆがんだ報道をしているので、現実とは違う」と述べ、「実際に(『アメリカ・ファースト・ポリシー・インスティテュート』の提言を)読んでみれば、別に大したことは書いていない」と、明らかにした。
トランプ氏の「EV」への考えについて、7月23日付『ニューヨーク・タイムズ』は、「長年、『電気自動車は遠くまで走らない、高すぎる、中国製だ』と揶揄していたトランプ氏だが、ここ数ヶ月、依然として電気自動車を批判する一方で、同時に『EVが好きだ』ということを群衆に語っている」と報じた。
- Between Attacks on Electric Cars, Trump Says They’re ‘Incredible’(The New York Times、2024年7月23日)
これについて塩原氏は、「ここで言いたいのは、トランプのEVに対する政策が、実は(EVメーカー・テスラのCEOである)イーロン・マスク氏との関係によって、変化してきている」と述べ、次のように語った。
「巷間言われているのは、今年の4月に、イーロン・マスクがトランプに対して、テキストメッセージで、『期日前投票をやめろとか、不愉快だとか、そういう発言をするな』と。『むしろ、そういうものがないと、スイング・ステートで勝てない』という内容をトランプに送ったところ、その日の夜に、彼のソーシャルメディアである『トゥルース・ソーシャル』に、『期日前投票もいいことだ』みたいなことを、トランプがアップロードしたんですね。
そのことをきっかけにして、今年の4月以降に、イーロン・マスクとトランプの関係が、非常に近づくようになった。イーロン・マスクが『アメリカPAC』というもの(政治資金管理団体)を作って、1億2000万ドル(約185億円)と言われるような寄付を(トランプ陣営に)したり、選挙登録をした人(トランプ支持者)に、抽選で100万ドル(約1億5000万円)をプレゼントする、みたいなことをやってみたり。
急速に、トランプとイーロン・マスクとの関係が近づいているんです。そういう流れの一環として、中国で非常に大きな(投資をして)生産をしているテスラについて、トランプがよく認識して、何とかしてあげなくちゃいけないこと」。
さらに塩原氏は、こう続けた。
「こではテスラの話、EVの話しかしていませんけれど、1番大きいのは、(イーロン・マスク氏が創業者の航空宇宙会社)スペースX社。アメリカの国防総省と、非常に大きな取引関係を持っていて、しかも今後、さらにこの関係が拡大するということが予想されている。
確か10月の集会で、2035年だったかに、火星に(人工)衛星を送るんだと(トランプが言った)。その時に、イーロン・マスクがその会場にいたので、(トランプが)『イーロン、何とかしろ』と言ったんですね(※イーロン・マスクは、火星入植計画を主張して、宇宙船『スターシップ』の発射実験を繰り返し行なっている)。
つまり、まだ衛星を火星に運ぶためのNASAとの契約なんてありませんけれども、そういうものについても、イーロン・マスクのスペースX社が獲得する可能性は、大いにある。
そういう非常に大きな取引というのを、スペースX社は抱えているので、マスクからすると、本当にトランプに大統領になって欲しいんですね。
もう一つは、『デパートメント・オブ・ガバメント・エフィシェンシー』といって、『政府効率化省』とか、『(同)委員会』とかいうようなものを、トランプは大統領になったら作りたいと言っていて、その長に、イーロン・マスクを置くという話になっている。
そうすると、マスクは、自分にとって不都合な行政機関に対して、脅しをかけることができる。
例えば、スペースXについて、打ち上げる、どこの州だったかな、その州(※テキサス州)で、汚染規制があって、『何とかしろ』と言われてるのを(マスクは)『うるさい』と思ってるんですけど、そういうのを、『ガタガタ言ったら、お前の所、予算を減らすぞ』みたいな事ができるとか、そういうようなやり方で、自分が政府に入れば、いろんなことができると思っているわけです」。
- 現実味をおびる2028年有人火星探査と、マスクがトランプを支持する理由(Forbs Japan、2024年10月28日)
また、10月17日付『エコノミスト』は、バイデン政権が米国製EVの普及の時間稼ぎのために、トランプ政権が中国製のEVに課した25%の関税を、100%に引き上げたことを指摘する一方で、トランプ氏が「メキシコの工場で製造された中国製EVに、最大1000%の関税を課すよう求めている。10月15日には、中国製EVに2000%の関税を課すと脅しを強めた」と報じた。
- One big thing Donald Trump and Elon Musk have in common(Economist、2024年10月17日)
これについて塩原氏は、以下のように指摘した。
「私がこれを何で紹介したかったかというと、要するにバイデンも、関税引き上げをして、露骨な中国車対策をしているにもかかわらず、アメリカのメディアも、日本のメディアも、きちんと報道しないから、こういうことを多くの人達が知らない。
その一方で、『トランプが大統領になったら、関税を引き上げて大変だ』って騒ぐ。
バイデンもやってるじゃないかということを、何で言わないのか」。
その上で塩原氏は、トランプ氏が中国製EVに1000%、2000%の関税を課すと発言したことについて、「こんなことはやらない」と述べ、「100%の関税を200%にすることはあるかもしれませんが、岩盤支持層に威勢のいいことを言って、支持を強固にしているだけ」だとの見方を示した。
また、「教科書のような経済の話と、実態の経済は必ず違う。必ずブラック・マーケットが生まれ、密輸が生じる。現実の経済でこんな2000%の関税をつけたら、第3国経由で入ってくるに決まっています」と答えた。
インタビューではさらに、カマラ・ハリス氏がジョージア州で苦戦していることや、イスラエルのガザへの武力行使をバイデン政権が支持していることによって、民主党への支持から離れたイスラム教徒票を、トランプ氏が取り込もうとしている、といった話を紹介した。
インタビュー後半では、警察とは別に、郡で選出された保安官の中に、「自分達はその郡の市民を守るために存在し、自分達が応える唯一の権力はその市民と憲法であり、したがって連邦政府も州政府も自分達に何をすべきか指示することはできず、自分達の支配領域(郡)に対する最終的な権力は自分達にある」と信じる、「憲法の保安官」について、話をうかがった。
こうした「憲法の保安官」達は、刑務所での人種差別や、連邦政府によるマスク着用やワクチン接種義務化への反対運動を主導し、極右の民兵組織や白人至上主義者、さらにトランプ氏からも支持を受け、全米ライフル協会(NRA)とも協力関係にあるとのことである。
有色人種で女性の候補のカマラ・ハリス氏への支持を訴える歌手のビヨンセ、歌姫と言われるテイラー・スウィフトらのセレブが、男性、ライフル支持者、白人至上主義者らと意気投合するわけがない。
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