2024年9月10日午後2時30分頃より、東京都千代田区の外務省にて、上川陽子外務大臣の定例記者会見が行われた。
冒頭、上川大臣から、この定例会見の直前、午後2時から30分間行われた「日・ウクライナ外相電話会談」について、報告があった。
- 日・ウクライナ外相電話会談(外務省、2024年9月10日)
続いて、上川大臣との質疑応答が行われた。
各社記者からは、「在沖縄米兵による事件(国内情報共有体制)」、「在沖縄米兵による事件(リバティー制度(※))」、「自民党総裁選」などについての質問があった。
(※)リバティー制度:在日米軍が兵士の公務時間外の行動を規制する制度。一定階級以下の軍人(主に若年兵)に対して特定の色目のカードが発行され、そのカード保持者は深夜の時間帯の外出が制限される。
今年7月12日、相次ぐアメリカ兵による性的暴行事件を受けて、エマニュエル駐日大使と在沖アメリカ軍のトップターナー4軍調整官が、リバティー制度を全部隊で統一すると、共同声明を発表した。
・米軍が共同声明 リバティー制度を全部隊で統一(沖縄テレビ)2024/7/12(OTV沖縄テレビ、YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=OCe6rdd3CGY
IWJ記者は、岸田政権の対露外交について、以下の通り、質問した。
IWJ記者「岸田政権の対露外交についてうかがいます。
自民党は、初代総裁総理の鳩山一郎氏による日ソ共同宣言の調印と、ソ連との国交回復に始まり、近年では、安倍晋三元総理による北方領土問題を含めた、日露関係改善と平和条約締結に向けた尽力により、日露関係を、敵対関係とは言えないところにまで近づけました。
ところが、岸田政権となって以降、ロシアのウクライナ侵攻を、『いわれなき侵略』と一方的に非難し、ウクライナ政府が行ってきたロシア系住民に対する民族浄化とも言うべき組織的な人権侵害に対し、しびれを切らしたロシアが、軍事介入に至った経緯をまったく無視し、日本はロシアから敵対視されるまでに至り、自民党がこれまで積み上げてきた外交努力が無に帰された感があります。
極東において、中国、北朝鮮だけでなく、ロシアとも軍事的緊張が高まり、対露外交を悪化させた岸田・上川外交を、大臣御自身はどのように総括されるでしょうか?」
上川大臣「日露関係でありますが、厳しい状況にありますが、現下の情勢は、ロシアによりますウクライナ侵略によりまして発生しているものでありまして、今、ご指摘いただきましたけれども、まったく当たらないと考えております。
ロシアによるウクライナ侵略でありますが、これは国際秩序の根幹を揺るがす暴挙であると考えております。引き続き、我が国は、1日も早く、ウクライナに公正かつ永続的な平和を実現するべく、G7を始めとする国際社会と連携し、厳しい対露制裁を講じるとともに、強力なウクライナ支援にしっかりと取り組んできておりますし、これからもその方針でございます。
同時に、例えば漁業などの経済活動でありますが、また海洋におけます安全に係る問題、こういった分野につきましては、日露が隣国として対処する必要のある事項でございまして、我が国外交の全体におきましては、何が我が国の国益に資するかという観点から、適切に対応してまいるところであります。
その上で、北方領土問題に関しましては、領土問題を解決して、そして平和条約を締結するという方針、これは堅持してまいります」
ロシア・ウクライナ紛争に関する上川大臣の答弁は、何度、質問の仕方を変えても、まったく同じだ。「力による現状変更は許さない」という言葉をマントラの如く繰り返し、ロシアの軍事介入の原因となった、8年も続いたウクライナ政府によるロシア系住民に対する差別、迫害、殺戮、そしてロシア系住民の集住する東部ドンバス地方への無差別攻撃と内戦などの事実を、まったくなかったことにし、ロシアに対する一方的な敵対視の姿勢を改めようとしない。
「ウクライナ=善、ロシア=悪」という、単純化された二元論のプロパガンダを根拠に、日本や西側諸国がウクライナを支援し続けても、戦況がウクライナに有利になることはなく、対露制裁によるロシアの弱体化も失敗に終わっている。ロシアは3%を超える経済成長をし、対露制裁に加わらなかったグローバルサウスの国々も、ロシアの格安の石油や天然ガスを得て、成長の力にかえている。
逆に、日本や欧州は、この対露制裁によって自らを縛り、自ら景気後退を招いている。
隣国への敵視は、自国の安全保障にかかわる。ロシアに対して停戦を求めることなく、第3次世界大戦へと突き進むNATO諸国と足並みを揃え、「ロシアの侵略は許されない」「西側諸国と協調してロシアを制裁する」と、毎回繰り返していれば、最終的には日本自らもロシアと戦うことになるのは必然だ。
ロシア敵視を表明しておきながら、「漁業などの経済活動や、海洋における安全に係る問題については、適切に対応」する、「北方領土問題に関しては、領土問題を解決して、平和条約を締結するという方針を堅持する」など、ロシア側から見れば、虫が良すぎることは明らかだ。
岸田政権での日本の外交姿勢は、主体性も判断力も欠く、米国のいいなりに戦争へと突き進むものであり、上川大臣の答弁は、主権を持つ独立国家の外務大臣の発言とは思えない。
「いわれなき」という言葉は、「明々白々にいわれのある」と訂正すべきであり、この件と北方領土問題や平和条約の締結は無関係に推進できる、などと発言する無責任さは、およそ政治を、あるいは外交を、なめた態度であると言わずにはいられない。
「いらぬ敵を作らないこと」は、外交・安全保障の要諦だ。テンプレを繰り返すのみで、自分の目で見て、自分の頭で考えることのできない人間に政治家はつとまらない。
自民党総裁選に出馬しようという姿勢を見せたのだから、面の皮が厚すぎる、というものだ。極東で戦争となったとき、ロシア軍を敵に回さなければならなくなったら、それは岸田・上川外交の責任は決して小さくはない、と言っておきたい。
会見の詳細については、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。