2022年7月5日(火)、萩生田光一経済産業大臣の定例会見が経済産業省にて午前9時40分頃から開催され、IWJが生中継した。
IWJ記者は以下の質問を行った。
「対ロシア制裁についておうかがいします。
3日のNHK『日曜討論』で、岸田総理は制裁の効果について『今ロシア国内で、物価が高騰している。また、金融インフラ企業の撤退が相次いでいる。制裁のメッセージは、ロシアに届いている』という意味のことをおっしゃいました。
ところが、事実は、ロシアのインフレ率は下がり続け、ルーブルの金融危機も回避、エネルギー価格高騰で石油輸出収入は制裁前より増え、さらにロシアは実質GDPでG7を上回る『新G8』を提唱しています。
政府は『国際社会と足並みをそろえる』と言っていますが、G7サミットの裏で開かれたサンクトペテルブルク国際経済フォーラムには、ボイコットの呼びかけにも関わらず、127カ国が参加しています。政府のいう国際社会とは、米国と米国に追随する欧州と日本などの同盟国だけのことで、国連加盟国の3分の1程度です。
『サハリン2』接収の大統領令でも明らかなように、3分の1程度の制裁は効果がないばかりか、反欧米の結束を高め、日本の国益をも侵害しています。
日本は例えば『中立』を掲げてインドのように、まずは国益を最優先し、エネルギーや食糧を安定的に確保するため、効果のない対露制裁をやめるべきではないでしょうか?
萩生田大臣のお考えをお聞かせください」。
これに対して、萩生田大臣は、以下のように回答した。
「はい、まずプーチン大統領が、日本企業も出資するサハリンエナジー社のすべての権利と義務を、新たに設立するロシア法人に譲渡することなどを求める大統領令に署名したことは、承知をしております。
我が国の資源にかかる権益が損なわれるようなことは、一般論としてはあってはならないと考えていますが、今回の大統領令に見る『サハリン2』における日本企業の権益の扱いや、『サハリン2』からの日本へのLNG輸入への影響は、現在精査中です。
今ご指摘のように、制裁が効果を知らしめてないんではないかという、そういう意見も、それは世の中にはきっとあるんだと思いますけれど、他方、これ、プロパガンダもあると思います。
どう考えてもですね、これだけの先進国が足並みを揃えてこういう行動を取って、びくともしないっていうんだったら、これはすごいことでございまして。そうではなくて、足らざるところを供給する国があるということに、大きな問題があるんじゃないかと思ってますので。
我々としてはやっぱり価値観を同じくする同志国、有志国と足並みを揃えていくっていうことが大切なことだと思います。
他方、エネルギーの安全保障っていうのは、この事件が始まった時から申し上げているように、各国事情が異なりますので、そういった意味では、どちらかと言えば、アジアの皆さんと足並みを揃えてる、ということになるんだと思います。
引き続き、我が国としては、エネルギーの安定供給、これをしっかり守りながらですね、G7の各国とも連携しながら、取り組みを進めてまいりたいと思いますし、アジアの中の日本ですから、そういう立ち位置というのも忘れずに。
アジアの皆さん、あの、言いたくても言えない国々がたくさんあるっていうのは、国際会議の現場で、私も肌で感じております。ですから、ほんとうは思ってるんだけれども、なかなか行動がとれない国の代弁っていうのも、アジアの代表として、やっていかなくちゃならない役割が、日本にはあるんじゃないかと思ってますので。
その辺はしっかりバランスを見ながら、外交ですから、対応していきたいと思います」。
日本はいつ、アジアの国々から、「アジアの代表」という信託を受けたのか? 経済力がアジアの中で抜きん出ていた時代は、とっくの昔に終わった。
また、萩生田大臣が回答の中で、制裁がロシアに対して思ったほどダメージを与えてという「事実」について「プロパガンダもあるのではないか」と発言された点については、それはありえないと釘を刺しておきたい。IWJはロシアのプロパガンダの代弁者ではない。そこははっきりさせておきたい。
制裁によって、ロシアに決定的なダメージを与えることができていない、という現実を否認するための「現実逃避」ではないかと思えてならない。
しかし、続く発言で「どう考えてもですね、これだけの先進国が足並みそろえて、こういう制裁を行って、びくともしないっていうのだったらすごいこと」「足らざるところを供給する国があるということに、大きな問題がある」と、中国やインドなどが制裁に加わらないだけでなく、格安の値段で石油をロシアから輸入し、利益を得ていることを、国名こそ出さないものの「問題」であると発言している。
萩生田大臣は、何が起きているのか理解されている節がある。「これだけの先進国」が「足並みそろえて」も、中国やインドやその他の成長著しい国々を抑え込むことはできないのである。それが21世紀の現実だ。20世紀後半の米国が単独覇権を握っていた時代ではないのである。
萩生田大臣に限らず、日本政府と与党は、現実を見て国益を優先した政治を行ってほしい。
大臣の冒頭発言では、GX(グリーントランスフォーメーション)実行対策本部の立ち上げ、クアッド(日米豪印)エネルギー大臣会合およびシドニー・エネルギーフォーラムへの出席のための豪州出張について報告があった。
他社からは、サハリン2の大統領令への対応、火力発電所の火災等トラブル対応、KDDIの通信障害の産業界への影響、経済版「2+2」とIPEFの詳細、クアッドの出張とエネルギー安保、米豪の天然ガス産出国との連携について質疑があった。
会見について、詳しくはぜひ全編動画を御覧いただきたい。