2025年8月13日、岩上安身によるエコノミスト・田代秀敏氏インタビュー、「安全保障を餌にして不平等貿易をゴリ押し!?『トランプ関税』の衝撃波が世界を襲う!」第3弾の前編を初配信した。
田代氏は、ドバイから帰国したばかり。ドバイで新たな会社を設立された。
田代氏「アフリカのビジネスをする企業をマネジメントするんですけども。大体そういう会社は、日本企業も、あるいは(海外)企業もドバイに拠点を置くわけですよね。
近いし、インドの会社もそうですけど、インドやアフリカで拠点を置いた時に、例えば駐在員の安全は確保できますかというような、わかりやすい問題ですよね」
田代氏は、「警官は見かけないけれども、治安は東京よりもいいですよ」と述べた。
田代氏「ドバイの古い町並みのところの金の宝飾品店が割と多い。行ってみると、本当にガラスのショーケースに、山と、もう金の宝飾品が置いてあるわけです。
これ、日本だったら、闇バイトのギャング団に、たちまち襲われて持っていかれますよね。なのに、警官もいないし、警備員も歩いてないんですよ」
田代氏は、治安の良い理由について、街全体が「かつての日本みたいに、豊かさのオーラで包まれている」と説明した。
田代氏「だからお店に入っても、むき身で、ずらっと、八百屋さんで野菜が並んでいるように、金の宝飾品がずらっと並んでいるんですよ」
田代氏は、店側も盗まれるなどと考えてもいなくて、店内にも警備員もいない、と付け加えた。
岩上安身が、今は、欧州とか米国の治安が悪くなっている、先進国だから治安がいいという状況ではない、と指摘すると、田代氏は日本でも、警察の指導で質屋がショーケースに商品を展示するのをやめている、と述べた。
田代氏「人口約400万弱と言われてるんだけど、その中で人口の8割から9割が外国人ですよね。ドバイって。(中略)
90年代の半ばぐらいまでの日本っぽい雰囲気ですよね。だから、ビジネスの拠点になるのはよくわかるし、あと、ドバイ空港からは全世界に直行便が飛んでますよ。エミレーツ・エアラインが飛ばしていて。あそこってもう、世界最強の航空会社ですよ。利益率とか、めっちゃいいわけですよ。
ドバイに会社を作って、アフリカの資源開発事業の、もちろん自分ではできないから、そのプロジェクトをマネジメントするという会社を作ったんです。実際にアフリカへ行って掘ったり、道路整備するのは、中国の土木会社で。
(田代氏が)中国のことを少し知っていると、あとイスラムのことも少し知ってると。そういうことで頼まれたので。なかなか得難い経験だと思っていたらですね、あっさり圧倒されてきました」
田代氏は、ドバイから帰国した時、「夜風って、こんなに涼しいんだと思った」と述べ、ドバイではヘアドライヤーの熱風を浴びているような暑さだったと振り返った。
インタビュー本編では、岩上安身が冒頭、「トランプ関税が妥結したとか、合意に至った、『メデタシ、メデタシ』などという政府のお偉いさんのお話」をマスメディアが垂れ流しているが、「25%と言っていたのが15%になったという、そのどこがめでたいのか?」と問題提起した。
トランプ関税政策は「不平等貿易のごり押し」であるといった批判や、トランプ関税がもたらす日本の自動車産業などへの影響、米国の「ドル特権」と貿易赤字の関係、中国との貿易摩擦、日本政府の弱腰対応などについて議論が交わされた。
- 日時 2025年8月5日(火)15:00~17:00
- 場所 IWJ事務所(東京都港区)
トランプ関税政策への批判
岩上安身は、トランプ関税合意について、日本政府はこんなにやすやすと、ぼったくりの不平等関税を受け入れてしまって、どうするんだ、と問題提起した。
岩上「その裏側には何があったかというと、関税率15%で合意をしたけれども、5500億ドル、約86兆円ですよ。86兆円を特別会計から金をかき集めてきて、米国市場に投資しろ、と。
そして、投資したその利益、――普通は投資して利益が上がったら、等分で、そのリターンをもらえるのが当たり前じゃないですか。ところが、(利益の)9割は米国政府のものであると。
これを、堂々とトランプ大統領は、トゥルース・ソーシャルというSNSに自分で書き込んで。『このディールは、我々の勝利だ』と大喜びで。
しかもそれを各国のディールというよりは、恐喝ですね。これはボッタクリであり、恐喝であり、カツアゲだと思うのですけれども。こういう犯罪的な貿易ゴリ押し、不平等貿易のごり押しの事例を作ってしまったということに対して、これはどうしてくれるんだと。本当にこれだけ、何の抵抗もなく、こんなことをするようであると…。
インドは、ものすごく抵抗しているんですけれども。こういう抵抗のために、2度脅されもしているんですけれどもね。
だけれども、抵抗しなかったら主権も何もなくなりますよ。だって、お金は、もう無尽蔵にあるわけじゃないですから。『あそこは甘ちゃんだから、いくらでも収奪していけるわ』。
馬鹿じゃないかなと思うんですけれども、そういうところを切り口にしていきまして、今や中国もインドもロシアも、それからNATO、欧州も引っ掻き回されている、この動きなどというものを総覧していくことをお願いしたいと思っておりまして。
となると、幅広く語れるというのは、また田代さんしかないというところで。
田代さん、海外出張から帰ってきたばかりなんですけれども、ぜひともよろしくお願いいたします」
トランプ関税政策の影響
6月2日、『人民日報』が、トランプ関税についての田代秀敏氏のコメントを単独で掲載する、という出来事があった。『人民日報』の海外版ではなく、国内向け本紙で、外国人の単独コメントが掲載されることは大変珍しいとのことである。
田代氏は「私も驚いたし、中国のジャーナリストの人達もびっくりだと、初めて見た、と」言っていると述べた。
田代氏は中国の語学教育の水準の高さ、そして世界中のどこにいっても、日本人の100倍、1000倍の規模で中国人が居住していることなどをあげ、「中国は帝国化する」と話した。
『人民日報』は、何万字かの田代氏の論考を正確に要約したものだということである。
米国による関税賦課の対象や基準は、ころころ変わる可能性があり、関税政策は予測不可能である、という話があった。
田代氏「まず、関税をどうかけるか。対象や基準が、もうランダム。コロコロ変わると。まったく予測不可能。
それは、トランプに限らず、皆そうだと。トランプという人が、それを楽しんでいるところがあるので、目立つだけで」
外国企業にとっても、米国の地元企業にとっても、事業活動のための合理的な取り決めを行うことが難しくなり、世界経済はより大きな不確実性に直面することになるという見通しも語った。
田代氏「外国企業にとっても、何よりも、アメリカの地元企業にとっても、そう。合理的な取り決めをすることが、すごく難しいんですよね。
だって、明日いくらになるか、わからないんだから」
岩上「部品を納入してもらうと、それがとんでもない値段になっちゃう」
田代氏「注文した時と、届く時に、関税がさあ2倍になりましたと言われて。もう、まったく不確実性の世界に入ってるわけですよ」
国際社会は一般的に、米国による無差別な関税適用によってすべての当事国の経済に損害を与え、最終的には米国にその結果をもたらすという見方をしている。
田代氏「国際社会は一般的に言って、アメリカによる関税適用は、すべての当事国の経済に損害を与えると。
で、最終的に、『でも、それって、アメリカにも同じことになるでしょう』ということは、誰もが思ってます、と。それが世界的な見方ですよね」
フーバー大統領の歴史的な関税政策失敗の教訓
1930年代には、貿易保護主義が蔓延、国際貿易の相互制限は当時の経済恐慌の重要な原因となった。
田代氏「少し歴史をたどりましょう。
1930年代にはですね、貿易保護主義が蔓延したと」
岩上「これは、きな臭くなってくる、第2次大戦前の時代ですよね」
田代氏「うん。国際貿易の相互制限というのがですね、経済恐慌が広がっていく重要な原因だったわけです。
1929年のニューヨークの大暴落だけで大恐慌が起きたわけじゃないんですね。その対処を間違ったと。アメリカが、そこで高関税政策をとったわけですね。
フーバー(ハーバート・フーバー)が大統領だったんですけど、もう、特にアメリカの財界人、経済学者はもう大反対したわけですね。『あんたは、アメリカを滅ぼすのか』と。
なんと、モルガンの中興の祖であるラモント(モルガン商会、T.W.ラモント)なんてね、ホワイトハウスに行って、跪かんばかりに懇願したんです。『こんな高関税政策はやめてくれ』って。
だけど、フーバーは、政治的配慮で高関税政策をやって。
案の定、アメリカの大暴落で始まった景気後退は、全世界に波及して大恐慌に至るわけですね」
岩上「長く語れば長くなっちゃうかもしませんが、できるだけコンパクトに教えていただきたいんですけれども。
フーバーの頭の中にあるロジックとしては、――(結局)非常に不況になったわけですよね。それを高関税にすれば、どういう循環によって良くなると思い込んだんですか?」