ロシア・ラブロフ外相インタビュー(第2回)国営テレビで「第三次世界大戦」「核戦争」危機発言! バイデン政権との戦略兵器削減条約延長交渉を米国側が放棄したと述べ、米国の単独覇権主義と「例外国家」観を批判!! 2022.8.19

記事公開日:2022.8.19 テキスト
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(文・IWJ編集部 文責・岩上安身 2022年8月18日時点で加筆・アップ)

 2022年4月25日にロシア国営テレビ『チャンネル・ワン』の番組『ビッグゲーム』で放送されたセルゲイ・ラブロフ外相へのインタビューを、ロシア外務省が、テキストにしてホームページに掲載した。

 このインタビューの中で、ラブロフ外相は、「第三次世界大戦」「核戦争」の危機について、バイデン政権との間で行われてきた戦略兵器削減条約の延長に関する話し合いを、米国側が放棄したと述べ、米国の単独覇権主義と、米国だけは自分達の「ルール」のもと、「何をしても許される」という「例外的な国家」観をもっていることを批判している。

 さらに、国連安保理常任理事国5か国からロシアを排除しようとする動きに対し、ロシア側の反論と批判を展開し、ウクライナとの和平交渉の場での、ウクライナ側の不誠実な対応を明らかにしている。

 ラブロフ外相の、こうした主張は、西側では、当然ロシア側のプロパガンダと受けとめられ、耳を傾けようともしないことが容易に予想できるが、その主張には、歴史的な奥行きと視野の広さがあり、新たな知見も得られる。耳を傾ける「価値」も「意味」も十分にある。

 ロシアを「敵方」とみなすならばなおのこと、そのロジックを知らなくてはならない。

 「彼を知り、己を知れば、百戦危うからず」とは、「孫子・謀攻編」に出てくる有名な格言である。「敵(ロシア・中国他)について何も知らず、味方(米国・ウクライナ・NATO他)についても「幻想」しか知らず、己(日本)についてはもっと知らず」では、戦争をするとかしないとか、勝ち負け以前に、生き残ることすらできない。

 日本のマスメディアが、そろいもそろってウクライナ寄り、反ロシアの方向に「情報操作」を行っているということは、皆さまご存じの通りだが、誰を騙しているかといえば、いうまでもなく、彼らは自分自身と我々日本国民を騙しているのである。

 自国のメディアに目隠しをされていては、戦うことも逃げることも生き残ることもできない。

 また、なぜ日本のマスメディアは、米国の戦略や国益のために横並びで動くのか、そこも不可解過ぎる。

 IWJは、「敵」を知り、「味方」と「己」を知るためにも、ロシアの「知将」ともいうべきベテランの外相、ラブロフ氏のインタビューテキストを、独自に仮訳し、4回に分けて、お届けしている。今回はその第2回である。

 第1回は、下記で御覧いただける。会員の方はアーカイブにて御覧いただきたい。会員登録がまだの方は、急ぎ会員登録をお願いしたい。

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https://iwj.co.jp/ec/entry/kiyaku.php

 この第2回では、ラブロフ外相が米国やNATOに対して大きな不信感を抱いていることが伝わってくる。

 ラブロフ外相は、NATOがウクライナに武器を提供し「火に油を注ぐ」ことで「紛争を長引かせ、ロシアがますます苦しむように、ウクライナ人に最後の一兵までロシアと戦うことを強要しようとしている」と批判している。

 興味深いことだが、これは、レーガン政権の外交アドバイザリーを務めた保守の論客・ダグ・バンドゥ氏の論文「ワシントンはウクライナ人が最後の1人となるまでロシアと戦う」というタイトルと同じ言葉づかいの批判である。IWJは、このダグ・バンドゥ氏の論文を仮訳しているので、ぜひ御覧いただきたい。

 西側がウクライナに武器を送り込んでいるのは、紛争以前からだ。ラブロフ外相は、ロシア嫌いの米欧が、ドンバス地域での紛争のためにウクライナに武器を送り込み、ウクライナをNATOに加盟させようとしていることが、ロシアにとって直接の脅威であり、「争点」だと指摘している。

 侵攻前、ロシアは「政治的・軍事的なブロックを拡大することなく、すべての国の安全保障を一括して提供する方法」として、条約案を提案したが、米国とNATOはこれを拒否した。

 ラブロフ外相は、NATO拡大の目的を「米国の指揮下にある領土を搾取」し、「一極集中の世界を強化し、永続させようとすること」だと批判している。

 そして、自国の利益が脅かされていると判断すると、国際法や国連憲章を考慮することなく、自分達に都合の良い独善的なルールで民間人を爆撃する米国の「例外的な国家」観こそが問題だと非難しているのである。

 詳しくは、記事本編を御覧いただきたい。

 また、米国の持つ「例外主義」について、岩上安身は2022年4月4日、ジャーナリストの大野和基氏へのインタビューの中で説明している。ぜひ、こちらも御覧いただきたい。

 また、ラブロフ外相が語っているウクライナ侵攻前の情勢については、理解を深めるために、ぜひ岩上安身による孫崎享氏インタビューもあわせて御覧いただきたい。

記事目次

▲インタビューに答えるセルゲイ・ラブロフ外相(ロシア外務省のホームページから

米欧はウクライナに武器を渡し、最後の一兵までロシアと戦うことを強要する!

 以下、インタビュー全文仮訳第1回からの続きである。

ラブロフ外相「誰もが、どんなことがあっても第三次世界大戦は許されないと『呪文』を唱えている。この文脈において、ウクライナのゼレンスキー大統領らの絶え間ない挑発行為を考えるべきだろう。彼らは、ウクライナ政府を護るためにNATO軍の投入を要求している。しかし、誰もがキエフに(NATOの直接参戦ではなく)武器を渡すと言っている。これもまた、『火に油を注ぐ』ことになる。彼らは、この紛争を長引かせ、ロシアがますます苦しむように、ウクライナ人に最後の一兵までロシアと戦うことを強要しようとしているのだ。

▲ウォロディミル・ゼレンスキー ウクライナ大統領(Wikipedia、President Of Ukraine from Україна

 武器供給の努力をすることで、ポーランドを除くすべての指導者は、NATO軍を派遣する問題は除外されていると述べている。ワルシャワはモラヴィエツキ首相の口を通して、ウクライナでの一種の『平和維持活動』を提案し、明らかに平和維持軍の旗を掲げて軍隊を派遣することに関心を示している。そして、かつての領土であるウクライナ西部にいるポーランド人の歴史的な回想(※訳注)がどのように現れるのか、想像することができる」

▲マテウシュ・モラヴィエツキ ポーランド首相(Wikipedia、Kancelaria Premiera

(※訳注)かつての領土であるウクライナ西部にいるポーランド人の歴史的な回想:
 第1次世界大戦後のソビエト赤軍とロシア帝政派白軍を中心とした戦争の結果、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国がウクライナ西部を除いた全土を支配した。
 一方、西ウクライナでは、1918年にリヴィウを首都とする西ウクライナ人民共和国が独立。しかし同年、ポーランドが侵入し、1919年に全土を支配。その後、西ウクライナはポーランド、ルーマニア、チェコスロバキアによって分割支配された。
 3国による西ウクライナの分割支配は、第2次世界大戦でのソ連によるポーランド侵攻まで続いた。
 ソ連赤軍が東進してきたナチス・ドイツ軍を破り、ベルリンまで進撃してゆく過程で、西ウクライナの領土は、ポーランド等から奪還され、ソ連へと編入された。ラブロフ外相の言葉には、ポーランドがウクライナ西部への野心をもっているのではないかという疑いが色濃くにじんでいる。

▲1939年のポーランド侵攻のため進軍するソビエト連邦の赤軍(Wikipedia、Published by TASS

▲「1939年9月17日に親愛なる西ウクライナと西ベラルーシの人民は解放された」と記されたソビエト連邦の戦時中の郵便切手(1940年)(Wikipedia、Post of USSR

ロシアは最後の試みとして、西欧からロシアまで全国家の安全保障条約を提案した!

ラブロフ外相「結局、どう振舞えばいいのか? これはキューバ危機と比較できるのか? 当時は、両リーダーが信頼するコミュニケーション・チャンネルがあった。今はそのようなチャンネルはない。誰も作ろうとはしていない。初期の段階では臆病な試みもあったが、たいした結果は得られなかった。(ロシアは)何年もずっとNATOに声を届かせようと必死だった。

▲キューバ危機(1962年10月)前年の1961年6月に握手を交わすニキータ・フルシチョフ ソ連共産党中央委員会第一書記(左)とジョン F.ケネディ米大統領。(Wikipedia、work of the United States Federal Government

 (米欧は)我々の約束(ミンスク合意)に反して、我々の警告に反して、ウクライナに武器を送り込み、ポロシェンコの下で確立し、ゼレンスキーの下で強化された体制によって、あらゆる方法でそのロシア嫌いな体質を助長していた。

▲ペトロ・ポロシェンコ第5代ウクライナ大統領。2019年の大統領選でゼレンスキー氏に敗れる。(Wikipedia、http://www.president.gov.ua/

 私たちはウクライナをNATOに引きずり込むことに警告を発した。最後の試み、あるいは親善のジェスチャーとして、私たちは米国とNATOに、ウクライナを含むユーロアトランティック(西ヨーロッパからロシアまで)のすべての国家の安全を保障する関連安全保障条約を締結することを提案した。ウクライナは、よりグローバルな問題を切り開く『争点』であり、こうしたプロセスの引き金となったことに、誰もが気づいていたのだ。米国やNATOと条約を結び、政治的・軍事的なブロックを拡大することなく、すべての国の安全保障を一括して提供する方法を提案した」

西側は、NATO拡張の制限はできないと言った! その目的は米国主導の一極集中強化!

ラブロフ外相「(西側は)丁寧に話を聞いてくれた。しかし、NATOの拡張を制限することはできないと言われた。『門戸開放』の原則に反するという。

 NATOの憲章を検証した。第10条には、『門戸開放』ではなく、NATOは(民主的統制の)基準を満たせば、そして最も重要なことは、新規加盟国がNATO加盟国の安全保障の強化に貢献すれば、合意によって新規加盟国を招待することができると書かれているのだ。これは『門戸開放』の問題ではない。

 モンテネグロ、北マケドニア、アルバニアは歓迎されている。それが『防御』であるならば、彼らはどのようにNATOの安全を強化することができるのか?(モンテネグロ等の小国では、NATO全体の安全保障の強化に役立たない、ということ)

▲2009年以降、ラブロフ外相が言及するモンテネグロ、北マケドニア、アルバニア等がNATOに加盟。(「北大西洋条約機構(NATO)について」外務省欧州局政策課2022年7月

 このことは、NATOの拡大が、その法定目的の達成とは何の関係もないことを示している。それは、まさに一極集中の世界を強化し、永続させようとする過程で、米国の指揮下にある領土を搾取することである」

※本記事は「note」でも御覧いただけます。単品購入も可能です。
https://note.com/iwjnote/n/n4c54bd606cab

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