2022年2月4日から20日にかけて、中国では北京五輪(第24回冬季オリンピック北京2022)が開催された。その華やかな「平和の祭典」と同時進行で「世界大戦」の不穏な空気がひしひしと迫ってくる……。そんな分裂した感覚に世界が覆われた2月。これは歴史のターニングポイントになるのだろうか?
2021年末から、ウクライナとロシアの間で緊張が高まっていると伝えられ、年が明けて1月19日、バイデン米大統領は「彼(プーチン大統領)はウクライナに侵攻するだろう」と発言。米軍8500人に派遣準備命令が出されるなど、急速に軍事的緊張が高まった。
岩上安身は2022年1月27日、東京都内で元外務省国際情報局長の孫崎享氏にインタビューを行い、今回のウクライナ危機の背景、ロシアを挑発するようなアメリカの狙い、NATO加盟国の対応、中国とロシアの接近、バイデン大統領の息子や米政府高官とウクライナの密接な関係など、複雑に絡んだ糸をほぐすように確認していった。
英国のMI6で学び、ロシア、イラク、イラン、ウズベキスタンなどに駐留した経験をお持ちの孫崎氏ならではの視点で、「ウクライナ・クライシス」の本質に迫っていく部分を抜粋してお届けする。
今日に至る経緯として、ウクライナでは2014年、首都キエフにおいて「ユーロマイダン」という反政府デモが起こり、親露政権が倒れ、親欧米政権が成立する。その中で、ネオナチ的な民族主義集団による暴行が放置され、ロシア系住民が虐殺された「オデッサの虐殺」も起きているが、西側のほとんどの大手メディアはこうした一連の惨劇を伝えていない。
そして、親欧米政権成立後はロシア語禁止など、ロシア語話者への抑圧が始まる。孫崎氏は、ウクライナにおけるウクライナ語話者とロシア語話者の比率を州ごとに比較し、住民の9割がロシア語話者であるクリミア(2014年住民投票で「独立」)と、同じくロシア語話者が7割を占めるドネツク州、ルガンスク州をどうするかが重要なポイントだと指摘した。
米国は1月19日のバイデン大統領の発言をきっかけに、「ロシアによるウクライナ侵攻が近い」という情報を大量に出し続けた。一時は「Xデーは2月16日」と決め打ちまでしたが、何も起きず、それについての釈明もなかった。
孫崎氏は、インタビュー内でバイデン大統領の支持率が40%台まで下がっていることを指摘し、『(プーチンは)何かをしなければならなくなるはずだ』と言うけれど、何かしなければならないのは自分(バイデン)の方なんですよ」と喝破した。バイデン政権の支持率が、インフレのために急落し、不支持率の方が上回っていることを指摘した。
そして、北京五輪の閉会を待っていたかのように、クレムリン(ロシア大統領府)は2月21日午後10時40分、ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認したと発表。現地ではロシア系住民とウクライナの民族主義グループの間で衝突が起きており、ロシアは国境に軍を派兵。そして2月24日午前6時、ついにロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した。
バイデン大統領は2月23日、ロシアへの制裁を開始したが、その中には米国が絶対に稼働を阻止したかった天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム2」事業者への制裁も含まれている。これを止められたらロシアがどう出るかということも、このインタビューの中で語られているので、ぜひ、確認していただきたい。
- 米、ノルドストリーム2事業会社に制裁へ バイデン氏が指示(ロイター、2022年2月24日)