2月22日、岩上安身は東京新聞社会部記者・望月衣塑子氏にインタビューを行った。
インタビューの冒頭、岩上安身は「安倍政権というものも、広い目でよく見たら、旧森派こと清和会支配の20年の中にあったもの」、「そういう視点で見てみると、清和会支配の中で、ものすごい格差が広がったり、コロナ禍がそれを拡大していたり、弱い人はさらに苦しい目にあったり、差別が固定化されたり。そういう清和会支配の実態が見えてきた」と、今回、望月氏にお話をうかがうにあたって重要となる「前提」について説明した。
2017年6月の官房長官会見で菅氏への鋭い追及で広く知られるようになった望月氏だが、現在は、東京新聞社会部・調査報道キャップを務めているとのこと。
望月氏は、「記者クラブでの戦いも面白かったけど、離れてみるとマーティン・ファクラーさんが指摘するように、エサに食いつこうとする鯉みたいな感じで、池の周りからどう見えるかに迫ってなかった」と、より広い視野でジャーナリズムに関わる現状について、その気持ちを語った。
五輪関連の新人事の顔ぶれについて話が進むと、望月氏は「今回、橋本さん、丸川さんで、なんかテレビも新聞も『おめでたい』みたいな感じになっちゃって」と違和感を口にする。
これに、岩上安身は「おめでたいのはおまえらだよ、と言いたい。清和会支配だということを指摘するメディアがない」と厳しく記者クラブメデイアを批判した。
五輪組織委会長について、望月氏は「一般の財界系とか、三屋裕子さん(日本バスケットボール協会会長)とか、いわゆる実力者で政治色のない人っていうのが、あるべき姿なんですけど、森さんが組織委会長をやっていたこともそもそもおかしい流れだと思うんです」としたうえで、「今年選挙があるから、なるべく自民党の売りになるようなものにしたいと。橋本さんはマストだったんでしょうね。官邸からすると。政局を考えれば」と選挙を念頭にした人事である可能性を指摘した。
望月氏はさらに、「三屋さんとかを(会長に)持ってきて、政治色のない中で女性をトップにして力を発揮してもらうのが本来的にはやるべきだと思ったんですけど、これを巧みに利用しましたよね」との見解を述べた。
インタビュー後半は、改めて望月氏と官房長官当時の菅総理の因縁の対決を振り返った。望月氏が初めて菅官房長官(当時)の会見に出席したのは4年近く前の2017年6月6日のこと。
望月氏は「森友の土地の大幅な値引きで、政治の私物化が始まってるなと。その後、加計疑惑が出てきて、(伊藤)詩織さん事件が3点セットで。結局安倍さんに行かないと真相解明できないと。
『安倍さんにお前が聞けることはあり得ない』と政治部で言われて、2番手として菅さんに行こうと。
詩織さんや前川(喜平)さんの告発会見を聞いて、遠目に見ている傍観者のようにふるまってはいけないんだなと。さすがにおかしいことがここまで続いて、自分の中の怒りとか悶々とした思いを直接まず安倍さんに伝えようと乗り込んだ」と当時の想いを振り返った。
望月氏は翌々日、2017年6月8日の菅官房長官会見にも参加。まともに回答しない菅氏に対して質問を繰り返し、結果、23回もの質問を行った。この望月氏の質問を、岩上安身は「報道史上に残る質疑」と絶賛している。
望月氏本人は「いつもの(社会部の)望月衣塑子っぽい質問をしているつもりなんだけど、政治部ではありえないと。2つ3つ訊いて拒否しているんだから、もう終わりだろう。場をわきまえろ、みたいな感じだったんですけど。私の社会部的な経験では『否定すればするほど怪しいな~』とか、ここはほかの言い方してもういっぺん同じこと聞いてみようと(考えた)」と、当時を振り返る。
岩上が「しつこいのは社会部的な質問といっても、相手は犯人みたいなやつを相手にしてるときの聞き方でしょ」と訊ねると、望月氏は「(犯人に限らず)検察官の発表とか、幹部の発表って、もやもやっとした言い方をするんですよ。検察官は裁判で戦いたいから、あまり内々の事情を出したくないし、逃げたい。でも書く方からすればよりディテールを知りたい。そういうやりとりの中で(鍛えられた質問力)、それを政治部の官房長官会見に持ち込んだ」と、強い質問の背景を明かした。
さらに、23回もの質問を繰り返したことについて望月氏は、「ふざけんなよ」という気持ちだったことを明かす。
当時、内閣記者会の中で番記者に呼び出され、「俺たちはうまく回したいんだよね~」と言われたことに対し「キレた」望月氏は「回したいって何ですか、本来これだけの疑惑が重なっているときに私だってここに来たくて来てんじゃない」と言い放ち、さらに「もっと追及して、菅さんに近い番記者さんたちにこそ、おかしいことはおかしいと言ってほしいし、逃げてるような答弁してるけどあれで済ませないでほしいんです」と反発したという。
とはいえ、望月氏は、政治部の女性記者に「本当はこれおかしいなと思う政治家の問題はいっぱいあるんだけど、自分が番(記者)になっていると『どうしてこんなことになってるんですか!』とは訊けない。すごく奥歯にものがつまった感じでしか訊けなかったりして、その独特感はキツイんですけど、でもこれでやっていくしかないんですよ」と言われたことを説明し、『政治部の苦しさ』についても理解を示した。
望月氏は「だからこそ、社会部の(政治部と関係ない)文化にいる私が言っちゃった方がいいのかなと思うんだけど、そこは縄張りもあるから。他社、NHKもあれだけスクープ連発したけど、絶対社会部を(会見に)入れませんでしたから。『入れられない』って言いましたね、政治部がキレちゃうから」と、当時の記者たちが抱えていた事情を明らかにした。
岩上安身が「NHKの政治部と政治の癒着っていうのかな、その固さすごいよね」と述べると、望月氏も「尋常じゃないですね」と応じ、「それでも、最近NHKの関係者に聞くと、『安倍さんよりは批判しやすくなった』って」と裏事情を語った。
これに対し、岩上安身は「菅さんというのは、構造的に言ったら、個人として実権を握っていないんで、派閥の上に乗っからせてもらった『雇われマダム』でしょ。派閥などに気に入ってもらうように動かなきゃいけないんで、自分の気持ちでやれるほど器量がないんじゃないか」と分析する。
望月氏は、安倍前総理については「見た目明るいけど裏でやってることがかなり陰湿」と批判。他方、菅総理については「わりとリベラル的に言われてる記者を取り込んでるというのはよく聞くんですね、うち(東京新聞)でもそうだし、朝日でも『菅さん好き』みたいな人が多いと。
菅さんはあらゆるメディアに出る。本来は会見やればいいのに会見に出るとボロが出るのか、ある意味メディアに対しては公平。記者からするとパンケーキ懇は58人全員とやるのが当初案で、(記者クラブ加盟社の記者らの)心をくすぐる面もある」と、意外な評価を口にした。
これに対して岩上安身は「菅さんは望月さんに鍛えられたんだと思う。鉄面皮ではねのければいいと学習したかもしれないけど、首相になったら国民にわかるかたちでメッセージを出していかなければならないし、それに対して『知りません』『ご指摘に当たりません』とかやってたら何やってるのかという話」と指摘。望月氏の鋭い追及から逃げるために「鉄面皮」が強化されたことで、菅氏は総理になった今になって、ツケを払うことになったのかもしれない。
インタビューはその後、菅氏が安倍前総理に後継指名され、自民党を牛耳る最大・最強の派閥「清和会」+αに担がれたことに焦点を合わせ、2000年の森政権以降、小泉政権、第一次安倍政権、福田政権と連続し、民主党への政権交代後も第二次安倍政権、菅政権と続く「自民党・清和会」による日本の支配について望月氏にお話をうかがった。